491 / 681
15章 魔法少女と帝国活動記
465話 魔法少女は本業をする
しおりを挟む最近思うことがある。
私、本業全くやってないじゃん。
というかこの状況がおかしい。働いてないのに生活できてる現状がおかしいんだよ!
なんでこんなにお金あるの?私が変なところで働いてるからだよ!
「実は私、ニートだった……?」
帰りの馬車の中で、頭を抱える私。それに奇妙そうな視線を受けるトートルーナさん。危ない人に近づけさせない親のようにクルミルさんを抱き寄せると、「いきなりなんなんですか?」と鋭く視線がやってくる。
「今まで私、働きすぎだと思って文句言ってたけど……本業全然やってないから、もはや一種のニートなのではと。」
ははっと奇妙な笑みをこぼし、私に問いかける。
『就職ニート的な?』
『職はあるけど働いてない』
『確かにな。そう考えると、私もニートなのかもしれないな。』
ふっと鼻で笑うようにCが言った。まだ厨二博多野郎よりはマシだ。
『私は野郎じゃない。罵るなら女郎くらい覚えてこい私よ』
無駄に煽るんじゃない。そもそもなんで自分に向かって悪口言ってんだろう私達。
一生解決しなさそうな問題を発見した。
「さぁ……?それを言ったらトートルーナもニートになりますけど。」
「え?」
クルミルさんを掴む腕が緩んだ。カタカタと震え始め、これではドMではなくMではないかと内心笑む。
「ななななななななっ、ににっ、ニート?」
「バーストン家のメイドではなくなったので賃金は発生しませんし、私もあなたを養うほどの給料はありません。ニートです。」
「おぅ……っ!」
ガタンと馬車の壁に頭を打ちつけ、これは嘘だと現実逃避しようとする。あの世へ行こうとしてる。
現実に戻ってこーい。死んでもなんもならんよ。
心でそういうだけで、声には出ていないため打ち付けるのはやめない。
しかしこのままでは打撲じゃ済まなさそうなので、クルミルさんを肘でこづいてなんとかするよう頼む。しかしクルミルさん、首をブンブン振ってこっちに視線を向ける。私に何をして欲しいというのか。
「…………はぁ。雇うよ雇う!私がトートルーナさんを雇ってメイド業をしてもらうから!これでいいでしょ!」
「ほ、んと、う?」
「ほんと。」
「嘘、つかない?」
「つかないつかない。善良な魔法少女に嘘はなしだよ。」
傷心どころか焼尽のトートルーナさんに私のお財布事情を切り崩すことで対応する。これは本格的に本業をやらなくては、長くは持たなさそうだ。
百合乃も稼ぎ時かな。ツララはまだ無理として、私を大黒柱で百合乃を据える。収入もアップだ。
2人で同じ仕事をするとかいう非効率的すぎる方法を提案されそうだけど、ここは私も心を鬼にして働いてもらおう。
百合乃はそろそろうちに金銭的に貢献してもらわないと。
「……でも、ソラさんは大丈夫なんですか?」
「なにが?お金のこと?それなら心配いらないから、遠慮せず働いてね。」
「この人何者なんですかクルミル様。ニートは人を雇えませんよ。」
「ソラさんですよ。このくらい無視できるようにならないと、死んでしまいますよ?」
「何それ、怖い。」
今度は体を震わせ、再度雇用確認に移った。
条件はメイド業全般。頼まれごとを引き受ける。(雑務)ツララの世話。そのくらい。基本朝から夕方くらいまで。衣食住は保証するけど、他のところに住んでもいい。
給料は応相談。最低35枚から。
「破格!?圧倒的破格すぎてわたし困惑しています。こんな条件飲まない酔狂な方はおられるんでしょうか?」
「いるんじゃない?知らんけども。」
「ではでは、今後ともよろしくお願いしますご主人様。」
「トートルーナさんのご主人はクルミルさんでしょ。」
「クルミル様はクルミル様です。雇用主とは別ですから。」
「なにそれ」と笑っておく。トートルーナさんの価値観はなんかズレてる気がする。
これでまた私の家が騒がしくなるのかぁ……私に百合乃にツララに、たまにトートルーナさんとクルミルさん。
やっぱり異世界って何が起こるか分かんないね。日本の便利さは恋しいけども、こっちの方が楽しい。
「ねぇ、クルミルさんのところの雇用条件とかはなかったの?絶対貴族のクルミルさんのとこの方が給料いいでしょ。」
「それはそれですよ。使う暇のない業務でしたし、さらにお母さんに管理してもらってたので。」
「給料フルでもらえるからと言って無駄遣いしてのたれ死んだりしないでよ?」
「なんでしたら私が管理しましょうか?」
「管理してください!」
キラッキラと輝いた瞳でトートルーナさんを見つめ、あ、これ絶対違う意味だと勘ぐった。だって、トートルーナさんだもの。
『いっちょんわからんな』
『Cさ、それ口癖にしようとしてない?』
『私は私だ。深淵に沈みし我が身に一定はない』
『いっちょんわから~ん』
何故だか私に浸透しつつあるいっちょんわからん。昔なんかの本で見た気がするそのワードが、深層意識でハマってしまったらしい。
「詳しい話はまたおいおいッ……!」
突然馬車が加速し、ガクンと体が揺さぶられた。変な声が出た。
「……あの、ソラさん。これって……」
馬がヒヒーン、ガタガタと暴れ始め、御者さんの慌てた声。御者さんと繋がる小窓みたいなのを開いて外を見ると、片車輪突っ込んでいた。魔物の巣に。
なんだろう。いろんな見た目したずんぐりむっくりした竜。みたいなの。
1000×1000くらい。ちなみにmm換算。
「そこそこのサイズ感……」
こちらにゾロゾロと向かってくる。20匹は最低でもいそうだ。歯を尖らせてふわふわ浮いてくる。
「あの魔物……」
「トートルーナさん知ってるの?」
倒せると思うけど情報は欲しい。口を小さく開けて見ている彼女に目線を向け、次の言葉を待つと……
「かっ、可愛い……!」
「そっちかい!」
紛らわしすぎた。
「名前はよく知りませんが、たまに作物を食べに現れますよ。雑食で、今は冬眠のため食糧と思った瞬間美味しくいただかれるまで追いかけまわされます。」
「何その凶暴生物。」
話を聞き、これは危ないと扉を開いて出る。一応「出てこないで」と忠告し、御者さんに死神さんを放って護衛を任せた。
「馬車の護衛とか、めっちゃ冒険者っぽい!」
久しぶりの本業だとわくわくしつつ、ラノスを引き抜く。
数は30。多くない?
マガジンを3つ用意し、トリガーに指をかけて観察する。
そして、時が来た。
「死に晒せ!」
世紀末よろしく、ラノスの銃声がパァァンッ!と広がる。薬莢なんてものを作る技術も能力もないから、飛び出すのは魔力の圧力やらトールで加速させた弾丸だけ。
久しぶりのラノスが火を吹くよっ!最近はラノスじゃ相手どれない(物量的に)敵ばっかだった。けど!久々に私の愛銃が魔物を血の海に沈める!
1匹2匹3匹と、どんどん風船に穴が開くようにピシャッと血の噴水を……なんか気持ち悪くなってきた。血が肌の色と一緒とか聞いてない。
『私が交代してやろう!』
Cがめっちゃ楽しそうに眼帯に触れた。辺りにうっすら魔力が漏れ出し、あこれだめだと諦めざる得なくなる。
「私の時代が来た!」
ハハハと高笑いをあげる。脳内で「やめろおおおおおおおお!」と叫び出したいけど、他の私達の魔の手が迫る。6本の腕がにょきにょきと。
なんか嵐吹いてる?雷ばちばちいってるよ!?誰か止めて、ストップ!ストッピング!
「地獄の門へと誘ってやろう。我が空間で一片の塵も残すことはない!」
誘うなあああああ!!
「小麦粉大爆発ッ!」
ドガアァァァンッ!とものすごい轟音が鳴り響く。なんだろう、もういいやって、思えてきたな。
———————————————————————
さぁ、東京へ向かう日まで2週間弱。遅筆は治るのでしょうか。誘惑に負けずに執筆できるのでしょうか!?できない気がします!
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる