490 / 681
15章 魔法少女と帝国活動記
464話 魔法少女は元通り
しおりを挟む剣と魔法の世界。とは言い切れない現状ではあるけど、魔力がないわけではないこの世界。軽い不自由はありながら、なんとか暮らしていっている。
私は美水空。魔法少女である。
「エアリスリップ!エアリスリップ!エアリスリーップ!」
そんな私の仕事は水撒きだった。上空に、威力を落とし水量を増やしたエアリスリップを連続で放ち、水を振り撒いていた。
なんで私、農地に水撒いてるんだろう。
と、その元凶である男性が歩いてきた。レイモンドさん。クルミルさんのお父さんだ。
「すまないな、こんなことさせてしまって。」
「いえ別に……住まわせてもらってる身なんで。」
はははと薄く乾いた笑いを吐いておいた。
なんでこんなことになってるんでしょうね。あの日フィリオとパズールに帰る予定だったんだけどね。
『前回までのあらすじいる?』
説明するからいい。
心でそう言い切り、自分で区切りをつけるために説明を開始した。
あの話し合いの後、娘との時間をもう少し欲しいと言われた。だから私はフィリオと帰ろうかと支度を返ししよう……と言うところで、「ソラはここにいろ」とのお達し。
なんでやねんとツッコミせざる得ない。(理由に関しては、街の人を安心させる意味での配慮らしい。英雄は街にいろとのことだ)
英雄使いが荒いよまったく。
働き方改革待ったなし!もっと働き手のことを考えろ!
『唐突なデモ』
『説明に戻ろうか』
だから、ちょうどいいしクルミルさんの旅立ち(仮)に合わせようというわけ。
その流れで私は雑用をさせられている。
「魔力のこもった水はいい肥料代わりにもなるんだ。魔法使いなんて御伽話だと思っていたんだけど、世界は広いものだ。」
うんうんと頷く。要するに、魔力を込めてくれる人がいないからできる私にやってくれということ。
頼られるのは嫌いじゃないけどさ……もう労働は嫌だ。寝てたい。1日18時間くらい寝てたい。
頭が痛くなるくらい寝て、寝て寝て寝て疲れるくらい寝て、また思いっきりはしゃぎたい。
重い体を酷使して、魔力だけ有り余る体から抽出して発動していく。魔力じゃなくて体力を回復させて欲しい。
そんなスキルはないけど。
「明日には、出発するんだろう?」
不意に、声をかけられた。魔法を発動しながら、器用に首を捻って返事を返した。
「はい。安心してくださいね、クルミルさんはしっかり守りますんで。」
「それは心配していないよ。」
「クルミルさんのしたいようにしてあげればいいんじゃないですか?17の小娘からの愚案ですけど。」
そんなことはないと首を振ると、小さく苦笑した。
「いつまでも子離れできない父親でね。心の準備がやはり必要なんだ。お見通しかな。」
「親御心とかは分からないもので。両親が両親なので。」
「優しいご両親じゃなかったのかい?てっきり、いい親に育てられたが故の君かと思っていた。」
「いやいや全然。反面教師もいいとこでした。」
これ以上は言う気にはなれない。私に親はいないし、代わりもいない。私は私だ。
さてと。水撒きも終わったところで家で眠ろうかn
「おぅい!こっちのも手伝ってくれぇ!」
「わたしのところもぉ!」
「オレのところにも頼めるかあ!」
「休ませてええええぇぇぇぇ!」
頭を抱え、天に向かって嘆くのだった。
変わらない……変わらない?日々が過ぎ去って、ようやくパズールへ帰れる日が訪れた。1夜開けてちゅんちゅんなんて朝チュンはしない。
最近色々ありすぎて何もない日々が新鮮だったようなそうじゃないような。
ともかく、家が恋しくなってきた頃合いだ。
「しっかり栄養は摂るんだぞ。」
「分かってますよ。」
「怪我には気をつけてね。」
「ですから分かってますって。」
親心が炸裂。クルミルさんは少し笑って返事をする。それでも2人は心配そうだ。
私にも親心は分かる。よーく分かる、ツララが娘のように感じるから、もし私がその立場でもそうなることが目に見えてる。
「お父様やお母様が気になされる必要はございません!このトートルーナが必ずやクルミル様のお身を全力を持ってして守らせていただく所存です!」
「そんなに張り切りすぎて後でバテてもしれませんよ。」
「大丈夫です!愛の力は、無限大!」
手を広げて目をキラッキラクリックリさせて、ニッコニコだ。ニコニコ。擬音が多い。
トートルーナさん、百合乃と相性良さそうだなあ。ちょっと同情してきた。クルミルさんに。
「そろそろフィリオの用意した馬車出発させるから、挨拶済ませちゃって。」
御者さんとの場繋ぎをやってる私からすると、今すぐにでも乗り込んで発進したい。私にそこまでコミュ力はない。
「すみません!では、ソラさんも呼んでますし。」
「また帰ってくるんだぞ。」
「気が向いた時にでも戻りますから。」
「しっかり働くんだよ。」
「お給料をもらっている身なんですから当然です。」
両親からの言葉の嵐にも負けず、向こうへ手を振ってこっちへやってくる。
「お疲れ。じゃあいこうか。」
外車で彼女を送り届けるイケメンのような風貌で声をかけ、他人の馬車にエスコート。
『ただのヤバい奴に成り下がってるよ?』
『私は元からヤバい奴でしょ』
『ヤバい~』
それブーメランだよと言っても聞きそうにないので、無視するに限る。私達は8割がた無視でいい。
これから長い旅路だというのに、自分から罵られるとか気分悪いよ。
私も罵ってやろうか?
『別にいいけど、それ傷つくの自分だよ』
『私達は全く気にしいひんけどなぁ』
『やめないとそろそろヤるよ』
『なにを!?』
『いっちょんわからんな』
『さーん、にー、いーち……』
本当に騒がしい。よく私はこんな騒音をいつも聴いてられるなと、自分で自分を褒めたい。
私も、諦めればいいのに。
何言っても聞かないよ多分。私が言うんだから間違いない。
「うんしょ。ソラさんもっと寄ってくださいよ。」
「無理だって。狭い。」
「じゃあクルミル様とくっつくので大丈夫です。」
「変態も休み休み言わないと見限られちゃうよ。」
薄く笑ったクルミルさんは、ギューっと腕を抱きしめられるのを見る。なんだかんだで楽しそうではある。
これが夏だったら暑苦しくてたまったもんじゃないけど、今は冬近くだし文句も言いずらいんだよ。目の前でイチャコラされて、私の気持ちも考えて欲しいよ。
「ソラさんにも好きな人ができたら分かるんじゃないですか?」
「それはライクの好きではなく?」
「ラブです!」
「いっちょんわからん。」
右手の平を天井に向け、はあっとため息にも似た息を吐き出した。
『影響されるんじゃない』
はいはい分かった分かった。
生返事をしつつ、馬車の揺れに身を任せる。クッションももちろん引く。
元通りの生活に戻っていることに、嬉しさと一抹の寂しさのようなものを感じてるのは、私が異世界に染まったからだろう。そうに違いないきっとそうだ。
私は元からそうだった。流されやすい、浸透しやすい。つまりそういうことだ。
だからどうということもないけど、こういう答えのないどうでもいいことを考えるのも一興かもしれない。
『何言ってんの』
『いっちょんわからんね』
『なんだ私。関西弁はやめたのか?』
『可愛いけど疲れるし。対して博多弁は響きが可愛い』
『んじゃそれ。同じ脳なのに感性が別物ってなんか笑える』
いやなんの話?
横でもガヤガヤ、頭もガヤガヤ。この騒音になんか平和を感じる?
「というよりお腹空いたな……」
「なんの話ですか?」
「いや、朝ごはん食べてないし。」
「朝イチでしたもんね。」
「家帰ったら百合乃飯にありつこうかな。私にしては働きすぎた。時間外労働反対!」
ふざけた会話で時間を潰しながら、長い馬車旅を始めた。
———————————————————————
謎に方言がで始めた時点で終着点は「いっちょんわからん」でした。昔からどこかで入れたいなと思ってはいたんですけど、決心がついたためここにぶち込みました。
何に影響されたかは言いませんが、来月の23日、映画ですね。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる