魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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15章 魔法少女と帝国活動記

464話 魔法少女は元通り

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 剣と魔法の世界。とは言い切れない現状ではあるけど、魔力がないわけではないこの世界。軽い不自由はありながら、なんとか暮らしていっている。

 私は美水空。魔法少女である。

「エアリスリップ!エアリスリップ!エアリスリーップ!」
そんな私の仕事は水撒きだった。上空に、威力を落とし水量を増やしたエアリスリップを連続で放ち、水を振り撒いていた。

 なんで私、農地に水撒いてるんだろう。

 と、その元凶である男性が歩いてきた。レイモンドさん。クルミルさんのお父さんだ。

「すまないな、こんなことさせてしまって。」
「いえ別に……住まわせてもらってる身なんで。」
はははと薄く乾いた笑いを吐いておいた。

 なんでこんなことになってるんでしょうね。あの日フィリオとパズールに帰る予定だったんだけどね。

『前回までのあらすじいる?』

 説明するからいい。

 心でそう言い切り、自分で区切りをつけるために説明を開始した。

 あの話し合いの後、娘との時間をもう少し欲しいと言われた。だから私はフィリオと帰ろうかと支度を返ししよう……と言うところで、「ソラはここにいろ」とのお達し。
 なんでやねんとツッコミせざる得ない。(理由に関しては、街の人を安心させる意味での配慮らしい。英雄は街にいろとのことだ)

 英雄使いが荒いよまったく。
 働き方改革待ったなし!もっと働き手のことを考えろ!

『唐突なデモ』
『説明に戻ろうか』

 だから、ちょうどいいしクルミルさんの旅立ち(仮)に合わせようというわけ。
 その流れで私は雑用をさせられている。

「魔力のこもった水はいい肥料代わりにもなるんだ。魔法使いなんて御伽話だと思っていたんだけど、世界は広いものだ。」
うんうんと頷く。要するに、魔力を込めてくれる人がいないからできる私にやってくれということ。

 頼られるのは嫌いじゃないけどさ……もう労働は嫌だ。寝てたい。1日18時間くらい寝てたい。
 頭が痛くなるくらい寝て、寝て寝て寝て疲れるくらい寝て、また思いっきりはしゃぎたい。

 重い体を酷使して、魔力だけ有り余る体から抽出して発動していく。魔力じゃなくて体力を回復させて欲しい。
 そんなスキルはないけど。

「明日には、出発するんだろう?」
不意に、声をかけられた。魔法を発動しながら、器用に首を捻って返事を返した。

「はい。安心してくださいね、クルミルさんはしっかり守りますんで。」
「それは心配していないよ。」
「クルミルさんのしたいようにしてあげればいいんじゃないですか?17の小娘からの愚案ですけど。」
そんなことはないと首を振ると、小さく苦笑した。

「いつまでも子離れできない父親でね。心の準備がやはり必要なんだ。お見通しかな。」
「親御心とかは分からないもので。両親が両親なので。」
「優しいご両親じゃなかったのかい?てっきり、いい親に育てられたが故の君かと思っていた。」
「いやいや全然。反面教師もいいとこでした。」
これ以上は言う気にはなれない。私に親はいないし、代わりもいない。私は私だ。

 さてと。水撒きも終わったところで家で眠ろうかn

「おぅい!こっちのも手伝ってくれぇ!」
「わたしのところもぉ!」
「オレのところにも頼めるかあ!」

「休ませてええええぇぇぇぇ!」
頭を抱え、天に向かって嘆くのだった。


 変わらない……変わらない?日々が過ぎ去って、ようやくパズールへ帰れる日が訪れた。1夜開けてちゅんちゅんなんて朝チュン逃げはしない。

 最近色々ありすぎて何もない日々が新鮮だったようなそうじゃないような。
 ともかく、家が恋しくなってきた頃合いだ。

「しっかり栄養は摂るんだぞ。」
「分かってますよ。」
「怪我には気をつけてね。」
「ですから分かってますって。」
親心が炸裂。クルミルさんは少し笑って返事をする。それでも2人は心配そうだ。

 私にも親心は分かる。よーく分かる、ツララが娘のように感じるから、もし私がその立場でもそうなることが目に見えてる。

「お父様やお母様が気になされる必要はございません!このトートルーナが必ずやクルミル様のお身を全力を持ってして守らせていただく所存です!」
「そんなに張り切りすぎて後でバテてもしれませんよ。」
「大丈夫です!愛の力は、無限大!」
手を広げて目をキラッキラクリックリさせて、ニッコニコだ。ニコニコ。擬音が多い。

 トートルーナさん、百合乃と相性良さそうだなあ。ちょっと同情してきた。クルミルさんに。

「そろそろフィリオの用意した馬車出発させるから、挨拶済ませちゃって。」
御者さんとの場繋ぎをやってる私からすると、今すぐにでも乗り込んで発進したい。私にそこまでコミュ力はない。

「すみません!では、ソラさんも呼んでますし。」
「また帰ってくるんだぞ。」
「気が向いた時にでも戻りますから。」
「しっかり働くんだよ。」
「お給料をもらっている身なんですから当然です。」
両親からの言葉の嵐にも負けず、向こうへ手を振ってこっちへやってくる。

「お疲れ。じゃあいこうか。」
外車で彼女を送り届けるイケメンのような風貌で声をかけ、他人の馬車にエスコート。

『ただのヤバい奴に成り下がってるよ?』
『私は元からヤバい奴でしょ』
『ヤバい~』
それブーメランだよと言っても聞きそうにないので、無視するに限る。私達は8割がた無視でいい。

 これから長い旅路だというのに、自分から罵られるとか気分悪いよ。
 私も罵ってやろうか?

『別にいいけど、それ傷つくの自分だよ』
『私達は全く気にしいひんけどなぁ』
『やめないとそろそろヤるよ』
『なにを!?』
『いっちょんわからんな』
『さーん、にー、いーち……』
本当に騒がしい。よく私はこんな騒音をいつも聴いてられるなと、自分で自分を褒めたい。

 私も、諦めればいいのに。
 何言っても聞かないよ多分。私が言うんだから間違いない。

「うんしょ。ソラさんもっと寄ってくださいよ。」
「無理だって。狭い。」
「じゃあクルミル様とくっつくので大丈夫です。」
「変態も休み休み言わないと見限られちゃうよ。」
薄く笑ったクルミルさんは、ギューっと腕を抱きしめられるのを見る。なんだかんだで楽しそうではある。

 これが夏だったら暑苦しくてたまったもんじゃないけど、今は冬近くだし文句も言いずらいんだよ。目の前でイチャコラされて、私の気持ちも考えて欲しいよ。

「ソラさんにも好きな人ができたら分かるんじゃないですか?」
「それはライクの好きではなく?」
「ラブです!」
「いっちょんわからん。」
右手の平を天井に向け、はあっとため息にも似た息を吐き出した。

『影響されるんじゃない』

 はいはい分かった分かった。

 生返事をしつつ、馬車の揺れに身を任せる。クッションももちろん引く。

 元通りの生活に戻っていることに、嬉しさと一抹の寂しさのようなものを感じてるのは、私が異世界に染まったからだろう。そうに違いないきっとそうだ。

 私は元からそうだった。流されやすい、浸透しやすい。つまりそういうことだ。
 だからどうということもないけど、こういう答えのないどうでもいいことを考えるのも一興かもしれない。

『何言ってんの』
『いっちょんわからんね』
『なんだ私。関西弁はやめたのか?』
『可愛いけど疲れるし。対して博多弁は響きが可愛い』
『んじゃそれ。同じ脳なのに感性が別物ってなんか笑える』

 いやなんの話?

 横でもガヤガヤ、頭もガヤガヤ。この騒音になんか平和を感じる?

「というよりお腹空いたな……」
「なんの話ですか?」
「いや、朝ごはん食べてないし。」
「朝イチでしたもんね。」
「家帰ったら百合乃飯にありつこうかな。私にしては働きすぎた。時間外労働反対!」
ふざけた会話で時間を潰しながら、長い馬車旅を始めた。

———————————————————————

 謎に方言がで始めた時点で終着点は「いっちょんわからん」でした。昔からどこかで入れたいなと思ってはいたんですけど、決心がついたためここにぶち込みました。

 何に影響されたかは言いませんが、来月の23日、映画ですね。
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