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14章 魔法少女と農業の街
458話 魔法少女は介抱する
しおりを挟む現在、昼頃。
クルミルさんを連れ戻し、介抱と私の休憩のためにも今日は1日休むことにした。
フィリオへの報告も必要だけど、早くしろと急かされてるわけでもない。別にいいでしょう。
と、いうわけでキッチンに立っている。
「滋養のいいもの……百合乃~、栄養ある食材とか料理ってない?」
「ビタミンとか鉄分とか辛味とかですかね?わたしもまだお休みちゅーなので愛情たっぷりのご飯待ってますよぉ。」
ソファに背を埋め、下半身ほとんどを外に投げ出すようなぐーたらな姿勢で手をゆらゆら振った。そんな元気があるなら手伝えやと思う。
滋養がいいものねぇ。すっぽん?うなぎ?そんなものこの世界で見たことないし……地元の鰻重美味しかった記憶はある。だからどうしたって話か。
「卵?はある。食材なら……芋とかにんにくとか?いや、卵と野菜色々使ってカレー作ろうかな。辛い物だし。」
材料を取り出しつつ、そう呟く。構想しながら創作活動をするのが楽しいことを、この世界に来てから身に染みて感じている。
お店の感じとは違う風がいいな。
カフェで出してるカレーでは私の知りうる限りのカレースパイスを出して、テレスさんと相談しながら配合した独自ブレンドだ。
「百合乃ー、正しいスパイスの潰し方とか知らない?」
「手取り足取り密着24時でオッケーならいいでs」
「あ、やっぱいい。」
「嘘です教えさせてくださいよー!」
てけてけと焦ったように向かってきた。
「あ、そういえば……ツララってどこにいる?」
「部屋で寝てますけど。」
「ありがと。あ、潰す道具はこっちね。」
「必要なスパイスはメモっておいたので生成お願いしてもいいです?」
「おっけ。」
「お2人とも、ご結婚されていたり?」
この階に降りてきたトートルーナさんが、割って入ってそう言った。
「してないし一生したくない。」
「分かっちゃいます?」
声が重なった。私と百合乃はヤンキーの喧嘩のモノマネみたいにガンを飛ばし合い、目元に大きなクマを作るトートルーナさんが、苦笑する。
「はいはい、そんなことはいいから料理するよ。私は卵茹でとくから、百合乃はスパイスよろしく。あ、トートルーナさんはそこで休んでて。」
「でも…….」
「クルミルさんのこと、全部任せっきりにしちゃってるんで大丈夫ですよ。お給料出したいくらい。」
ニコッと笑いかけて、責任感を和らげようと努めた。
こればっかりはほんとなんだよね。そもそも私1人で百合乃とツララを養って家を管理するのはなかなかに大変。
加えて、ツララは目を離すと危なっかしいし百合乃は今安全にしたほうがいい状況。クルミルさんまで手が届かない。
「でも、今は家建つくらいのお金しかないから、衣食住の提供で勘弁してね。」
「それってだいぶ大金持ちじゃあ……」
「ん?」
鍋に水を注ぐ音で何も聞こえなかった。聞き返すと、「いえ別に」と返ってきたので、不思議に思いながらも調理を再開する。
といっても、カレーは手順を覚えちゃえば簡単だから説明の必要はない。
人数は5人。食べ盛りなツララもいるから、6人前くらい作ろう。甘いというか、あっさりめにしようと思う。
クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、シナモン。この辺りが基本らしい。コリアンダーは甘みがあるそうで、多めに入れることにした。
あとは野菜達を切り刻み、食べやすいように細切れだ。
ミルクやらなんやらをまろやかさを出すためにぶち込む。
そして完成したのがこちらになります。
「これ独特な匂いですね、クルミル様……」
「カレーだからね。」
「カレーですからね。」
「カレー、おいしい。」
席に5人が集った。パジャマを着たクルミルさんが少し顔を顰めてカレーを見る。
いや、カレーを見て顰めたんじゃなくて顰めた顔でカレーを見てるんだよ!?
カレーが嫌いな人はいないとは言い切れないけど限りなく少数派であるだろうことは確実かと思われ……
『文体が訳分からないことになってる』
『そうだ、それを個性にしようよ!エセ関西弁とかいいと思うんやけど』
『早速使うなB!定着してないのに使われても厄介だ』
『Aん言うとおりだ。そげんことしたら、判別が難しゅうなるに決まっとーやろう』
『ならCも使ってんじゃねぇよ!』
私Aがご乱心だ。でもエセ方言ってなんか面白そうと本体の私が思ってしまっているためか、何故だかAを除いて乗り気だ。
わ、私は標準語で頑張るよ?
『本体……不本意ながら仲間になろう。本体だけが心の……』
やっぱやめようかと思った。しかしAが真面目な顔を脳内に映し出したため、仕方なく同盟を組む。
「どうかしました?」
「いや、なんでも。それよりカレーはどう?」
「わたしの監修が活きましたね!とっても美味しいカレーです。」
「あっさりしていますね。ソラさんのカフェにお邪魔した時の味とは、少々違うようですが。」
「スパイスの調合とか変えてるしね。」
頬を緩めたクルミルさんにそう教えた。美味しそうに食べてもらえるのは、料理人冥利に尽きる。
『このカレーほんまうまいなぁ。スパイスの量やらメモしいひん?』
確かにこれは脳がバグる……
私Bが京都弁を駆使し始めてから数分、私もそろそろギブアップ気味だ。
脳内で知らない言語が荒れ狂ってるのこれなに?私、京都弁とか知らないんだけど!?
『ノリと勘に決まってるやん』
いやまぁはぁ、そっすか。
ツッコむのも面倒になり、手元のカレーに舌鼓を打つ。
「クルミルさんも、体調大丈夫?明日から本格的に動くことになるけど……」
「大丈夫ですよ。街のためにも、家のためにも、早いほうがいいでしょう。」
「クルミル様の体調が第1ですが……」
「ですから大丈夫ですよ。」
不安そうに顔を歪めるトートルーナさんと、苦笑で宥めるクルミルさん。この姿を見ると、どっちが休むべきか分からなくなる。
個人的にはトートルーナさんの介抱をしたい気持ちがあるんだけど……
百合乃に頼む?まぁそれが妥当?でも忙しくなるしなぁ……百合乃は貴重な戦力だし。
「とりあえず今日は2人とも休んで。明日から死ぬ気で働いてもらう代わりに、今日は安穏な生活を保証するよ。」
カレーを食べ終えた私は、そう言い終えて食器をシンクに持って行った。
「最近色々ありすぎて空とのお話時間がなかった気がします!」
2人を部屋まで送り、ようやく一息とソファに腰をかけた途端のこと。
「はぁ?ちょっと何言ってるか分からないんだけど。」
「話がしたいんですぅ!女子トークがやりたいんです!」
「女子らしい話題なんてないよ?この世界に化粧品なんてものはないし、恋なんてもってのほか。」
「女性冒険者らしい話題とか?」
「私が女性冒険者らしい、ねぇ。」
今までの依頼を思い返し、遠い目をする。
「そんなことどうでもいんですよ、なんでもいいんです!」
「ま、いろいろ振り返ってみるのもいいかもね。何か役に立つかもしれないし。」
百合乃もソファに飛び乗った。ツララは外で元気にはしゃいでるが、怪我をすることは多分ない。多分、ぶつかったほうが壊れる。
「最近わたし、依頼頑張ってるんですよ。」
「ふーん、いいじゃん。」
「Cランクに上がるために、今度高難度の依頼に挑戦したいわけです。」
「どんな?百合乃なら大概どうにかなる気もするけど。」
と、冒険者としての話は意外と弾む。
百合乃も案外、この世界に馴染んできてるよね。
出会ったのは結構最近な気がするのに、この世界に住んでると感覚が色々狂うね。
一旦明日については頭から外し、この時間を楽しんむことにした。
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今話は息抜き回。
京都弁がB、博多弁がC、Dは幼児語で変化なし。そんな感じです。また、たまに出ます。
たまにはお料理をしたっていいでしょう、と言いながらも私は「料理?何それ美味しいの?」と疑問符を浮かべるほどの料理下手です。ざっくりしたのが苦手で、きっちり決めて欲しいタイプなので、
沸騰したお湯を入れて3分待つという脳無し料理は最強です。
ちなみに私、どちらかというとカレーは好みじゃないタイプだったり。
応援ありがとうございます!
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