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14章 魔法少女と農業の街
459話 魔法少女は証拠を提示する
しおりを挟むお昼時。ご飯もまだだというのに、私はフィリオのお家へ凸していた。それも私1人ではなく、今回はクルミルさんもご一緒だ。
証人兼挨拶らしい。これから、復興支援も頼みに行くんだからそのくらいはと、病み上がりなのに言っていた。
これぞ貴族の鑑……この世の悪徳貴族はこれを見習って生活してほしい。
「おっはようフィリオ!今日も活きのいいニュースを持ってきたよ!」
「お前はティランの漁師か。」
扉を開け放った途端にツッコまれた。私のボケは片手間でどうにかできてしまうのか。
「何故にティラン限定。」
「あそこの漁師はいやにテンションが高い。おだてれば魚を分けるくらい軽い。」
「例えが分からない。」
しかしツッコミの採点もしっかりする。ボケはできないくせに審査は厳しいのだ。
『点数つけるならもっと極めてからにしたほうがええと思うで』
『方言使うならもっと極めてからにしてきたら?』
『仕方ないなぁ。ちょっとだけやめてあげる』
Bは困った困ったというように腕を組んだ。なんだろう、うざい。私のはずなのに。
「それで、今度は一体どこの魯鈍がやらかしたんだ?…………ところでソラ、後ろにいるのは誰だ?」
もう答えを言っているフィリオは、目を細めてクルミルさんの姿を見た。首を傾げた。
「クルミルさんだよ。ドリスの。」
「……あのバーストン家か。」
「違います!いえっ、……そうですけど、あの噂は魯鈍の作り出した虚構で、いいえ、なすりつけられて……」
「安心しろ、糾弾するつもりもなければ真相はそこのヘンテコ魔法使いから聞いている。」
「誰がヘンテコだ誰が。」
「昼間っからローブを着込んでフードをかぶる人間を誰が常人だと思う?」
領主にあるまじきセリフだ。多様性を批判したセリフだ。
仮にも私はパズールに家を置くパズール市民。そのくせ私を詰るなんて……
人としても領主としても酷い!
「そもそもだが、俺はお前のように1人で魔物を切った張ったする魔法使いは知らない。御伽話にもいない。異質がすぎる。」
そこまで言い終えて、自分でも少し言いすぎたと自覚したのか閉口する。そして、再度用件を問うた。
「フィリオのせいで脱線したもんね。」
「いいから始めてくれ。仕事がまだあるんだ。」
言いつつも、ペンを動かす手を止めてくれる。
話す内容なんてもう決まってる。
新しい証拠と魔力痕。私の仮説にプラス被害者の言葉。
魔力痕に至っては、そもそも魯鈍が魯鈍でない可能性を示唆する鍵ともなる。
私が採取した魔力をよく観察してみた結果、薄く、もう1つの魔力反応があることを確認できた。それに、ダンジョンに残ってたものも。
私じゃないとできない芸当だね!
キラキラと脳内で自分に照明を当てる。拍手が、3回、パラパラと。
「……………………………………はぁ。」
「何その人生の不幸を全て溜め込んだみたいなため息。」
「実際そうだろう。これは、戦争がチラついてくるぞ。」
「「え?」」
私とクルミルさんの声が重なり、驚き二重奏が奏でられた。
『なにそれ』
「魯鈍は別人に乗っ取られている可能性がある、と言ったな。」
「うん。」
「魯鈍を連れ去ったという人物の情報を、どんな些細なことでもいいから教えてくれ。」
ペンを完全に置いた。本当に何かを焦っているような、ガチな目が私を射抜く。これが本当を領主フィリオなのかと思わされた。
覇気が違う。蛇に睨まれた蛙ってやつだ。睨まれたら動けなくなりそう。
「中肉中背の男で、低い声をしてて……技名か知らないけど、瓦解とか崩壊とか言ってたかな。」
「何か起こったのか?」
「最後になんちゃら狂花って言って、私の作った檻が花びらになって散ってった。」
手でハラハラと落ちる花びらを表現する。
「それと……玉座に十字架と冠が設られたエンブレムみたいなのがみえたかな。」
「確定、か。」
死んだ目をして、はははと笑った。そうして、のろのろとペンを動かす。
え、何が?私また何かやっちゃいました?
『そのネタ、擦りすぎると可哀想な人になるよ』
「それは帝国軍の紋章だ。」
「帝国?なにそれ。」
「この国から1番近い国のことだ。ソラは地理も何も知らないようだから、1から説明してやる。」
そういうと、突然帝国について話し始めた。
どうやらヘルベリスタ帝国というらしい。その帝国は、近隣国の神国というところと共謀して何やら企んでいるらしい。
「あの腐れ皇帝……とうとう進行を開始したか。元から予兆はあったが、まさかこのタイミングとはな。」
「皇帝?知ってるの?」
「そりゃそうだろう。領主連中なら大抵は一度くらい顔を見たことはある。高慢傲慢自由奔放、やりたい放題し放題の女帝だ。本人に武力があるのが更に厄介だ。」
頭をガシガシとかきむしる。顔を顰めて、話を再開した。
「魯鈍を捕縛しようとしてとんでもない闇を釣り上げてしまったな。逮捕は諦めてくれ。」
「いや、でもクルミルさんが……」
「俺が諦めろと言ったのは逮捕だ。無罪証明くらいしてやる。どっちみちドリスへの支援は不可避なんだからな。」
そう言い終えた頃、先ほどまで書いていた紙を封筒に入れ蝋で閉じた。
「それは?」
「フェロールへの手紙だ。外交専門だからな、このことを伝える。お前の脳の証拠も見させてもらったから、間違いはないはずだろう。それと、証拠の複製を頼めるか?」
「別にいいけど……」
もう一度印刷し直す。魔力で色をつけてるので、水で濡れても塗料が剥がれたりはしない。
「助かる。」
一言だけ言うと、それを封に入れて机の端に置く。そして、やはりまた複雑そうな顔をした。
「一体この世界はどうなっていくんだろうな。一寸どころか一間先も闇だな。」
「そもそも神国っていうのは、なんで帝国と共謀してるの?」
「それが分かれば苦労はしない。が、憶測で語るなら、これもただの布教活動なのかもしれないな。」
「裏ボス的な?」
フィリオは眉を曲げる。この例えはこの世界に通用しないみたいだ。
私怨から始まった魯鈍捕縛作戦がまさか……こんなでっかい闇に括られたものだなんてね。
え?ちょっと待って私これに巻き込まれる系の枠なんじゃないの!?
戦争とかもうやだ!人魔戦争での思い出があぁぁぁ!
脳を駆け巡る嫌な記憶。知らず知らず封印されたその記憶は、巡り巡って私の脳髄を貫通し、全てを思い出させ……
「私、世界の果てに逃げていい?」
「ダメに決まっているが?」
「いーやーだー!こんな問題に首突っ込むなんて死ねって言ってるようなものだよ!」
「お前が持ってきた話だ。最後まで責任を持て!」
「私がいなくてもいずれ起こってたよ!」
「あの、喧嘩は……」
言い合いに挟まれたクルミルさんが苦笑で応じ、この場でやることじゃないかと気を持ち直して居住まいを正す。
「仕方ない。その話は一旦フェロールに預ける。だから、まずは目先の問題に着手しよう。」
「ということは?」
「旅支度をしろ。明日、ドリスの人々の滞在する村々へ騎士団を連れて向かう。ソラ、クルミル、その従者も許可する。それでいいか?」
「私はいいけど……クルミルさんは?」
振り向いて表情を確認した。とはいっても、私に顔から気持ちを読み取るような力はない。
「もちろんです。してくださるだけでありがたいというのに、そのような迅速な対応まで……」
「帝国が攻めてきているというのに、穴を作っていてはいけない。できるだけ堅めておかないと後に響いてくるからな。」
「よっ、打算まみれの領主!」
「打算なくして国家は成り立たない、それが道理だ。悪徳かどうかは、そこに私欲が混ざるか否かの違いだ。」
疲れを隠せないほど疲労が溜まっている。日に日になんか顔色が悪くなってる気がするけど、これは気のせいだろうか。
なんか可哀想になってきた。
万復っとこうかな。
とりあえず労いの品をいくつか送ることに決めた。
「その点でいくとフィリオが神に見えてくる。」
「安い神もいたものだな。」
「はい、コーヒー豆とクーポン券。」
「なんだこれ。」
「メインサイドデザートドリンクひとつずつ無料クーポン。暇だから作ってみたけど却下された。」
「却下されたものを出すんじゃない。」
眉間をほぐし、上を見上げた。椅子もなんか少し硬そうだ。
Y○giboでもあればあげるんだけどね。あいにく私には異世界の商品を買う能力は持ち合わせてないんだよ。
「明朝、門の前で待ち合わせだ。日の出と同時に出発するから、遅れるんじゃないぞ。」
「大丈夫大丈夫。」
「不安しかないな。」
フィリオは、最後にクルミルさんに一瞥をくれて頼んだと言わんばかりに頷いた。クルミルさんも頷き返していた。
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この話を執筆時がGWでよかったです。遅筆が酷すぎてとんでもなかったです(語彙喪失)
それともう一つ。次回は短いので覚悟していてください。いや、ほんとすみません。
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