魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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14章 魔法少女と農業の街

454話 魔法少女は足止めを喰らう

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「おっそいなぁ。ほんとに魯鈍は来るの?」
「来る、はず。来なかったらとっくに逃げてる。足の速さには自信がある。」
しゃがみ込んで床に指を押し付けていたイズナが、ドヤ顔をして振り返った。人間程度の速さで私を越せるとでも?

『謎のマウント取るな』

「ワタシだって早く来てほしい。この空気は気まずい。いつ殺されるか不安。」
「何かするか何かされてるかしない限り殺しはしないから安心して?」
「それは言外に殺し以外はするという暗示という解釈でオーケー?」
テンションが狂い始めてるイズナ。なんか、申し訳なさが勝ってしまう。

 向こうが悪いのは一目瞭然だよ?
 いや、これは適材適所……?魔法少女の優しさに漬け込んで隙を作るアレでは!?

 騙されまいと、もうちょっとくらい脅しておくのもいいかもしれない。

「んー、じわじわ爪剥がすくらいしとく?」
ワタシの村うちでは日常茶飯事。」
「村出身なの?」
「そこ?」
ネタにネタで返され微妙な顔でそう言われた。空気が、死んでいる。しばらく経ってから、イズナは「いてて」と言いながら足を摩って立ち上がる。

「まぁとりあえず…………時間は稼いだ。」
「え?……どういうこと?」
「愚問にも程がある。」
ガチャっと扉が開けられ、何かが投げ込まれた。

『とりあえず呼吸と目を閉じろ!これは閃光か毒ガスかがテンプレ!』
情景反射的に口を塞いで目を閉じた。最後のワンシーンは、イズナがガスマスクのようなものをつける姿だけど、私にそんなものはない。

 気配察知頼むよ!命綱なんだから、ミスったら私の命がなくなる。

 私に重大な仕事を押し付け、感覚を研ぎ澄ませる。気配察知のおかげで、今すぐイズナの首をかっ切れるようにはなってる。

 その程度で私に勝てると思ってたら大間違いだよ。何せ私は魔法少女…………あれ、呼吸が、できないから……壊す?ファイボルト……は、木だから燃えるし……
 
 ゆっくり血液中の酸素濃度が消失している気がする。その辺は、魔力じゃどうともできない。

 とにかく壊して!

 無理矢理捻出したのは地龍魔法。木をぶち抜いて、直径1メートルくらいの気持ちで破壊した。太陽の光が瞑る目越しに入ってきて、空中歩行でそっちに向かって飛び出した。

「このクソ魯鈍!殺す気かっ!」
薄く目を開け、そこには煙が。鑑定眼で見ると、やはり毒ガスだ。

 咄嗟の判断がなかったらもうお陀仏じゃん……半殺しで済ませようと思ってたのに、いっぺん死んでみないと分からないクソ野郎とか、めんどすぎる。

 そして、今度は間接ではなく直接。肉眼で魯鈍のことを見下げた。

「よくもやってくれたね、魯鈍。お縄につく準備は整ったってことでオッケー?」
「あいにく、捕まるようなことをした覚えは……」
「あっれ~土地破壊したの誰だっけ?ダンジョンと領主と、あとはクルミルさんの家も。」
「家は知らないぞ?」
「つまり他のは知ってるってことね。言質とったから。ちなみにクルミルさんの家は健在だよ。」
ヘラヘラと笑ってみせる。眉間に皺を寄せた魯鈍が、恨めしそうにこちらを睨む。

 おー、怖い怖い。

 いつの間にか魯鈍の背後に隠れていたイズナに視線をやり、その横にいるレリアにも一応目を向けた。
 クルミルさんが、謎の魔道具に乗せられて浮かんでる。担架の上位互換みたいな。

「ざっつぅ……今時捕虜でももうちょっとマシじゃない?」
なんてことを言っていると、コソコソと内緒話を始められた。

 ちょっとー、敵の目の前で作戦会議始めないで?空気が読めない人間だとその間にやっちゃうよ?

「その空気の読めない人間とは私のことだ!」
トールが炸裂した。3方向に分かれるタイプの雷を射出すると、煩わしそうに魯鈍が首をもたげ、虚空から巨剣を取り出した。

 あれがほんとの得物ってわけね。

 そう感想を抱いていると、ガシャン、ガン、という機械のような音が鳴り、トールがかき消えていた。剣身が伸びて、宝玉みたいなものが生えていた。

「吸収するやつね。よくあるやつ。」
冷静に判断し、次の一手まで待つことにする。無駄うちは手の内を明かすことになるだけの悪手だ。

「それじゃあ、レリア、イズナ。彼女をしっかり始末するんだよ。俺は、国に戻って報告を……」
「させると思ってる?」
ギルを展開し、発進させる。1人を操縦に回し、逃げ出した魯鈍を追いかける。

 あの魯鈍、やっぱりおかしい。初めて見た時の魯鈍はもっと自分に自信があって俺様な感じだった。あんな実は敵キャラ特有の物腰柔らかな雰囲気はなかった。

 これは一体……どれだけの陰謀が隠れてるの?

 なんて思考している間も無く、攻撃が始まった。そう思ったのは、体が唐突に重くなったから。
 魔導具を作っていたレリアだ。

「よっと。降りてきなよ。アタシらに敵うと思うならね!」
2人も木から降り、こっちを見上げて手をくいっとした。

「うわすっごい自信。」
「どぉ?怒ってる?大切な人殺されて怒っちゃってる?」
「ねぇねぇレリア、あの人たち、死んでないらしい。」
「はぁ!?そそそそっ、え?アタシの呪毒が効かないなんて……」
「効いてはいたよ?まぁ治したけど。」
ものすごい理不尽を見るような目で私を見てくる。呪毒を使うなんて普通にチートな気がする。

 魔導具生成、魔法、この組み合わせがどう出るか分からないけど……呪術まで使えるとなると用心は欠かせない、かな?
 力こそパワー的な思考で勝てたらいいんだけど……

「人間、限界がある。ワタシ、やりたくない。」
「そんなこと言ってられないって!アタシらはケーくんの……」
「でも……」
「でももなにもないよ!」
仲間割れ?が発生していた。なんか勝てそう。

「えーっと、ファイボルト。」
不意打ちするのは何か悪い気がして、声をかけながら魔法を放つ。

「ちょっとうるさいんですけど!」
魔導具が放られた。藁人形のようなそれにファイボルトが直撃すると、もちろん大炎上。しかしそれで終わる。

「身代わり人形……なにそのスキル欲しい。」
「魔法チートさんに言われたくないんだけどー!アタシもそんな魔法使いたい!」
「ほれほれ、ワタシから教わる?」
「いらない!詠唱長いじゃん!」
これから戦う、いや戦ってるはずなのに空気が完全にネタ。ネタすぎる空間だ。

 これ、図らずも足止めされちゃってる感じ?空気感的に攻撃しずらいから時間が過ぎちゃってる感じ?

「やるなら早くやってよ!」
「あて、気づかれちった。」
「うわー、ここまでぎこちないウインクは初めて見た。」
両目半とじ、ピクピクしながら折れ曲がったピース。

「これだからバーサーカーは嫌いなのよ。」
「いやそっちが攻めてきてるんだけどね?」
「状況的にはそうだけど、事実はあなたから。」
冷静に指を差されると、なんだか私も戦闘狂になっているような気がする。異世界に染まるって怖い。

 ダメだダメ……ものすごい時間稼がれてる。戦う気を削ぐことによって無理矢理時間を生み出してる……!なんという高等なテク!

「……もう行かせてもらうよ?」
「おっと、この先は行かせない。」
「じゃ、ちょっと用事あるから……」
と、進もうとした瞬間に結界のようなものが張られた。

「え……結局やるの?」
「今やらないでいつやる?ワタシはあなたを倒して褒められる。乗るしかない、このビッグウェーブに!」
「急にメジャーなの出してこないで!」
この子が日本にいれば某月曜夜にやってそうな番組に出演間違いなしだと思う。今そんなこと考えてる時じゃないのに、なんか狂わされる。

「ケイスへの想いを、魔法に!インティメイト!」
親密なってどういう意味やねん。そんなツッコミをする前に数多の棘が襲いかかり、かと思えばレリアの呪毒らしき刃物の投擲。

「普通に強いの、なんなのぉ!?」

———————————————————————

 勘の良くても悪くてもお気づきかと思いますが、イズナは街頭インタビューのセリフを愛用する異世界の人です。何故か街頭インタビューの迷台詞を知っているこの世界の人です。
 地味に気に入っていますけど、ちょうどいい街頭インタビューが見つからないんですよね。

 新総裁行きますか?キンピラやりますか?
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