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14章 魔法少女と農業の街
453話 魔法少女は発見する
しおりを挟む私は、まるで忍者のような足取りで森を駆け抜けていく。まるで魔法職には見えない超人的な動きで、魔物を横切りながら走る。
目的地はもう見えてるよ!あとは突っ切るだけ!
『ぱっと見魯鈍はまだ来てないっぽいね』
『隠れてればいいんだよ、そんなの』
『バレたら待ち損でしょ』
『でもでも、それってこのローブで防げるよね?』
頭の中で侃侃諤諤しているうちに、勝手に目的地に行ってしまう。結局いかなきゃ始まらないことなんだし、セーフセーフ~。
『おいこら私、私ら抜きで勝手にしてんじゃないよ』
い、いや私が本体なわけですし?本体が体をどう動かそうとそれは私の自由というか……
『こいつ乗っ取ってやらない?』
『楽しそー』
『今やることじゃないって』
『私は見届け人にでもなろう』
私への反逆が開始されそうになる。4対1とか負ける未来が容易に……
って自然なノリで自滅しようとしないで?今から本気の仕事するんだから。
頭の中で、分かってる分かってるとまるで宿題やった?と言われる子供のような空返事がやってきた。
なんだかんだしていると、もう見えてきた。洞窟かと思ったけど、少し違う。あたりに生い茂るような木ではなく、超巨大な大木に穴が掘られていた。いや、マンションかなって感じの荘厳さ。この世界にこのくらい高い建物なんてそうそうない。
「いや、建物じゃないか。」
セルフツッコミ、加えて潜入。
クルミルさんがここに……
一部屋一部屋探し回る。どうせ、これどうしようとかいう感じで大雑把にされているだろうから、心配だ。
『反応的にこっちかな』
『天国か地獄か』
何か不穏な雰囲気を出す私。またなんか遊んでるなと思いながらも、一目散に残された扉を開いた。
「クルミルさん、無事!?」
その瞬間、頬が何かを掠めた。
「避けられた。一生の不覚。」
よく見ると、壁に石弾がめり込んでいた。そして彼女はクルミルさんの服を着ていた。
「あなたは危険。ケイスはあなたを始末すると言った。だから、あなたはここで死ぬ。」
「イズナ、だっけ?」
「人の名前を勝手に呼ばないで。」
「じゃあ許可してよ。」
「嫌だ。汚れる。」
私は汚物か何かか、とツッコみたかったけど、どうせうんとか言われそうだからやめておいた。無駄なことを言って時間を散らすほど愚かじゃない。
嵌められた……?まぁその可能性を考慮してなかったと言えば嘘になるけど、マジで?そこまで頭回るのあの魯鈍。
もう罵倒しかしてない気もするけど、それくらいやばい奴だから仕方ない。でも、ここまでやるとなると単なる魯鈍じゃなくて少しすごい魯鈍に格上げしてやってもいいかもしれない。
「ケイスは言った。朕は国家なり!」
「だからどうしたルイ14世!ベルサイユ宮殿爆発するぞゴラ!」
「何言ってるか分からない。」
こっちのセリフだと拳を震わせて思う。しかし耐えた。私は大人なのだ。成人なのだ(来年)。
「ちなみに、ワタシは21歳。拳で語り合う年齢。」
一歩前に進み、自分の手のひらに拳を当てた。ほんとこの人はどれだけ日本のネタを知ってるんだろうか。
「つまり、この世界はじきにケイスのもの。」
「いや不可能でしょ。」
「ぷっちーん。ワタシ怒った。」
「そう言う怒り方するタイプなの?擬音口で出すタイプの怒り方初めて見たんだけど!?」
魔法使いのはずのイズナは、なぜか指の骨をポキポキと鳴らして接近してくる。マジで怖いんだけど。
「魯鈍はどこ?あなたを倒したら次は魯鈍の番なんだから、教えてくれない?」
「教えるわけない。けど、もうすぐ来ることは言っておく。ワタシは死なないし、ケイスはあなたを殺す。万々歳。」
「クルミルさんは?」
「言うと思う?」
煽るような目つきで言い放ってきた。が、その辺で私はぷっちーん(口ではもちろん言っていない)と何かが切れる音がしたのを感じ取った。こういうときは、急に冷静になるものだ。
「言葉は選んで発言しろ、魯鈍の腰巾着が。私はあなたに興味なんて微塵もない。教えること教えて、さっさと失せろ。」
観察眼を開く。少しでも不気味さをアピールし、龍の威を活用して脅す。
いい加減、立場を分からせておいた方がいい。私は追われる立場じゃない。追う立場だ。魯鈍を殺す、追い立てる、そっち側の人間だ。
「……っ、あの人は、レリアが運んでる。ご飯も、食べてる。はず。」
「あ?」
「…………」
急に黙りこくっちゃったイズナを放っておき、今は魯鈍達がくるのを待つことにした。怪しい動きをしないか観察しつつ、今度は私が罠に嵌める番だと不敵に笑う。
「この人、怖い……」
震えるウサギのような目で、そんなことを言うのだった。
「そっちの方がよっぽど怖いよ。人を呪殺しようとするとか、ホラーじゃないんだから。」
「もしかして、死んでない?」
「治したけど。」
「こいつ、化け物……」
遠い目をし、仲間の助けを待望するようにその場にしゃがみ込みのの字を描いた。
—————————
ツララは奮闘していた。
魔法少女とはまた違う戦いを繰り広げていた。
「氷槍!」
ギロリと、宝石のような真っ赤な瞳が睨みを利かせ、空を飛んで避けていく。一方で継続的な滞空手段のないツララは、防戦を強いられていた。
ワイバーンは、さすがファンタジーと言ったように火を吹き魔弾のようなものを射出し、超音波らしきものまで出す。さらに巨大な体躯、機動力やスピードもまた十分に備わっている。
立体機動による一時的な滞空はできる。回避や防御は必然として、遊撃に近い立ち回りになりなんとか勝ち目を探る。
「せめて、動きを……氷結界!っ、鈍らない……」
あと1歩と言うところで、威力が劣る。何かが足りず、それさえ埋められれば埋め合わせられるというのに。
悔しい思いを胸いっぱいに、未熟さを痛感してダンジョンを駆け回った。
「決定打が、ない……何か……」
ワイバーンはくわっと口を開くと、渦巻く炎を勢いよく吐き出した。
それを壁を蹴って跳ねることによって回避し、立体機動でワイバーンの元へ行くとその体に氷爆を喰らわせた。
「……足りない。」
ギリっと歯噛みする。どうすればこの相手に攻撃が通用するのか。必死に頭を回してみる。
すると、ふと百合乃と魔法少女の言葉を思い出した。
昔、こんなことを言っていた記憶がある。
『サーベル使うようになってから気づいたんですけど、相手の攻撃時が1番の攻撃チャンスなんですよ』
『物語だと、魔物の体内って大概弱点だよね。口の中に炎ぶっこむとか』
ツララに衝撃が走った。これだと、これを使えば勝てると!
ワイバーンは突進を開始し、ぶん殴っていなす。
再び炎を吐く瞬間を狙い、それまで待つ。いや、そんな暇はない。こちらから攻めて炎を吐かせるのだ。
「雪原展開、業冷!いつでも来い!」
ダンジョン内は物理的に凍りついた。氷華を空飛ぶ巨体に放ち、炎を出さざる得ないほどのツララの空間を作り出した。
ワイバーンは厄介そうに唸り、口を開いた。
「氷瀑!」
立体機動で飛び上がった。氷の滝がワイバーンの頭に伸びて強制的に閉口させた。生まれた炎は行き場を失い、体内で爆発する。
怯んだ。この瞬間を見逃さない。
ワイバーンの頭上まで上がると、踵落としを喰らわせる。虚を突かれたのか、口をあんぐりと開けてしまう。それが運の尽き。
「氷槍、雪礫、氷爪、氷爆、氷結、業冷、氷結界、氷操作!」
出せる限りの魔法を連発し、連発し、それを繰り返し……それは全て、体内に収まった。
その体は、外傷を負うことなく地にに倒れ伏した。
「たお、した……倒した!」
歓喜一色に染まり、ツララはその場を飛び回った。
———————————————————————
前回に引き継いでツララのお話との二本仕立てでお送りしました。そして遅筆が混沌を極め、とうとうストックがなくなりました。ごべんなざい。
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