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14章 魔法少女と農業の街
452話 魔法少女は驀進する
しおりを挟む「主、行ってくる。」
「ツララもダンジョン探索頑張って。」
転移石で転移させ、グッと腕を伸ばす。ツララがいなくて、百合乃は昏睡、トートルーナさんは前後不覚。私は暇になる。
ということは、あのクソを早々にとっ捕まえるチャンスってことだね。
『都合がいいことにクルミルさんにつけた発信機が機能して隣国の洞窟か何かの中にいるから、さっさと潜入しよう』
『あからさますぎて罠を疑うけど』
『あの言葉の端々から感じるアホさ……もしも罠だとしたら、あれは相当な子役だったに違いない』
とかわけ分かんないことを頭でほざく私達は放っておき、準備運動に興じた。
「いっちにーさんしー。」
膝を伸ばして肩を伸ばして、ストレッチをする。こういうのは地味に大切だ。
今から未知数の相手と戦うんだから、万全をきっしておくのは基本中の基本。
ゲームだって、準備なしでボス討伐に出掛けて、その辺の雑魚キャラにMPやらなんやら使っちゃって負けることだってあるし。
あ、これは湯姫の話だった。
友人のミスを晒してしまったことに、テヘッと1ミリも反省の色が伺えない様子を見せる。この場に湯姫がいれば、温泉かかと落としが炸裂したことだろう。
ちなみに隣国はドリスからの方が近いよ☆
私は速攻手に持った転移石で転移し、ダンジョンとは逆方向の隣国の道を疾走した。それはもう、神の如く。
まそりゃ神速だしね。
———一方その頃、ツララの鼻は魔法少女の匂いを嗅ぎ取った。しかし空気を読み、追うのはやめた———
「ここまで来れば、さすがにらツララも追っては来れないよね……」
フラグが立ちそうなセリフを軽く息を切らせてもらした。神速は魔力を結構使うから、仕方ない。
でも便利だから使う機会多いんだよね。少しポンっと移動するのにはめちゃくちゃ便利だし。
「この辺からはローブにも魔力通して……」
国境付近。魔力の急激な減りと日の上がりを感じる。
ちょっとこれ以上は厳しいな。
私達~、何かいい案ない?
『そうやってすぐ頼るの、よくないと思う』
『ふっ、自分で考えるんだな』
『転移石~』
Dだけ答えてくれる。
転移石かぁ……遠くにぶん投げてそこに転移するとか?行けそうだ。
それにしても、私への当たり強い時と普通の時の違いってなんだろう。
『ふざける余裕のない時?』
ふざけてんのかよ。
屈託のないツッコミが炸裂してしまった。
「他国の話はフェロールさんがなんとかしてくれるらしいし、私はダイレクトに魯鈍を叩く。よし、行こう。」
やるべきことを再確認し頬をピシャリと叩いた。こうするとなんか力が出るような気がする。
『わ~ドMだ~』
ぶち転がすぞ☆
押し黙った私。怖いなら喋らなければいいのに。
「さんにーいちで投げるよ。」
心の中で数える。
『さん、にー』
『おらあぁぁぁぁぁぁっ!』
やっすいコントのようにタイミングをずらして投げてくる私。これは私じゃない。頭が勝手に動かした。
なんか言い訳みたいだけどほんとだからね!?
転移石はビュンビュン飛んでいく。それはそれは飛んでいく。どこまでもどこまでも飛んでいく。
「……いや、飛びすぎじゃない?」
万能感知を無理矢理広げ、もの凄いスピードで進む転移石を見つめ……
ってすぎてるすぎてる!これもう神速の意味なかったって!
失策を悔やむ暇なんてない。現状、転移するほかなく空中のまま発動させる。固定できない座標位置を特定して発動するのは至難の業だったけど、死ぬ気でやった。
こんなんが敵地のど真ん中に落ちようもんなら、私のせいで戦争勃発とかなりそうで怖いんだけど。ただでさえきな臭いのに、わざわざ点火するような真似はしたくない。
そう考えていると、いつの間にか上空。
あ、そういえば成功してるんだった。
なんとか飛ぶ転移石を回収し、落下する。こんなもの落ちたら死んじゃう。
普通だったら。
「おっと危ない。ぶつかってたら少し危なかったかも?知らないけど。」
華麗にスタッと着地して、軽々と言ってみせた。これが魔法少女の怖いところだ。通常の感覚が失われていく。
「ここは……?」
万能感知を開く。ここから北西側に大量の人間がいるから、街でもあるんだろう。
「寄ってみたい気持ちはあるけど今は魯鈍に集中しよう。」
いざ魯鈍の野郎へ驀進だ!と息巻いて、私は森に紛れて走っていった。
—————————
一方その頃ツララはというと、ダンジョン内を駆け回っていた。
内部の魔力は完全に抜け落ち、魔物が蔓延ることはないものの不気味な雰囲気はある。壊れていながらも、迷路のような機能は持っており、子供の冒険の場にでもなりそうだ。
実際ツララも楽しんでいた。
「いい魔鉱石、主にプレゼント。」
こっそり持ってきた巾着に石を詰め込んでいく。お得意の魔力識別眼で、強い魔力のものだけを選別し採取している。
もはや本題そっちのけである。いや、もう本題の方は終わらせてはいるのだが、だんだん興味深くなってしまって今に至る。
ダンジョン自体には魔力がないため、トラップが仕掛けられていることもなく、安全な探索が続く。
安全だと分かっていても、雰囲気で緊張感が生まれる。それもまた一興だ。
「ひょうけっつひょうけっつ!」
日本のどこぞの異世界にいる爆裂娘のように、スキップステップ大氷結。楽しそうにはしゃぐ様子がよく見えた。
らんらんとダンジョンを進む。
普段の生活にはなんの不満もない。奴隷の身分にしては良すぎる待遇に、恵まれた環境。過去の奴隷暮らしに比べたら何百倍もいいところだ。いや、比べるのも烏滸がましい。
そもそもマイナスにかけたらマイナスが増加するだけである。
しかし、平穏すぎるのもまたつまらない。
氷狼族とは、元来バーサーカーである。なぜなら、雪原地帯には獲物などそうそうなく、芋や小麦やで食い繋ぐしかなく、好戦的にでもならないと狩りなどできないからだ。
そんな種族の血を持つからには、ツララも相応にバーサーカーってるわけであるからして、死神さんと戯れたり魔物とお遊びをする理由はこれだ。
「くんくん、宝の匂い。」
頭の中に図式を浮かべながら探していく。
宝を取って主にあげる。あげれば換金され、そのお金は美味しいご飯となって回ってくる。ご飯を食べれば幸せ、主も幸せ。みんなハッピー。
風が吹けば桶屋が儲かるように、宝をとれば美味しいご飯が食べられるのだ。
魔鉱石だけではダメだ。他にも、魔核と呼ばれる核石になる前の魔力を溜め込みやすい鉱石や宝石etc……魔力による自然の産物を手に入れるのだ。
意気揚々とダンジョン内を闊歩する。
すると、何か音が聞こえてくる。魔物などいないはずなのに、誰か侵入者でもいるのだろうかと、侵入者のツララは思った。
音の聞こえる方にゆっくり足を運んだ。顔を覗き込ませてみれば、竜のような魔物が、寝ていた。
「魔物?なんで……」
不思議に思っていると、パチっとその目を開かせた。目が合った。
「…………お邪魔しました。」
ふんっと鼻息が吹きかけられた。完全に目をつけられている。
ダンジョンの魔力がなくなりモブモンスターはいなくなっても、ボスモンスターは健在のようだ。放っておいたら、魔力を求めて飛び立ってしまう。既に機能を失っているドリスが物理的にもぶっ壊れる瞬間を目の当たりにすることだろう。
「討伐、するっ!」
無駄に好戦的なツララの突進でのそりと体を起こすその魔物。よく見ればどちらかと言えば巨大なワイバーンのようだ。
魔力全開で飛び出していくツララを止めてくれる人などいるはずもなく、図らずもダンジョン攻略を開始してしまった。
———————————————————————
あれ、もうこんな時間ですか?もうすぐ私東京の用事があるんですけど!?ストックないんですけど!?遅筆すぎるんですけどぉ!?
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