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14章 魔法少女と農業の街
451話 魔法少女は本気になる
しおりを挟む「くそッ!」
地団駄を踏む私は、本当に誰もいなくなってしまったこの街に残された。手がかりひとつなく。
「主!クルミルが、消えたっ!」
「クルミルさんが!?」
追い討ちに更に強く拳や歯を噛み締めた。今すぐぶん殴りたい気持ちを抑えつつも、はたと気づく。
……多分、あの魯鈍だよね。そうと以外考えられないし。だとしたら、これは好機じゃ?
希望が見えてきた。私の怒りの発散どころが生まれたの間違いか。
「私はクルミルさんに発信機をつけた。あの時。逃げた時に分かるようにするためにつけたのが功を奏したね。」
過去の魯鈍を思い出して弄した策が的中し、内心ガッツポーズ全開だ。
『あの魯鈍の野郎、腐った頭してるくせに中々に完璧で卑劣な作戦立ててきてるけど、ようやく穴を見つけた!』
『これでバーストン家も私も、なんとかなるかな』
『一旦逃げた街の人を戻すのが先決だと思うが?』
作戦会議が勃発し、各々の意見が交差する。
戻すのはまだじゃない?街の混乱をなんとかしないとだし、あの領主……再生創々じゃ無理だよね。
ここは、やっぱり首謀者のせいってことで。実際そうだし。
まず、魯鈍をぶちのめす。私の持つ全ての証拠をそこで開示する。今のところ、魔力痕やら逃走やらと証拠としては弱いから、クルミルさんが戻ってきたら一気に片をつけよう。
「緊急だけど、一旦帰ろう。」
「帰る?」
「百合乃も連れてきて。向こうにはもう転移石はあるし、こっちにも置いて行けばいい。」
「主……?」
怯えたような表情でツララは視線を向けた。ふと、自分の顔を揉んでみる。眉間に皺が寄っていた。
……保護者失格かな。
嘆息を吐いて、深呼吸をする。どこかで聞いたリラックス効果のある深呼吸を試してみて、目を開く。視界がクリアになった。
「パズールの家に戻ろう。色々したいことができた。もちろん、あのクソ野郎をぶちのめすための。」
「……うん、分かった。」
ツララはダッシュで百合乃を引き摺りに戻ると、私は空を見上げた。
「絶対ぶっ潰す。」
鋭く尖らせた目で宣言する。
もしも他国も同じように私に手を出すなら、一緒に潰してあげよう。法律のことならフィリオに聞けばいい。今はどう証拠を集めて、どう捕まえて、どう裁くかだ。
長い道のりに気乗りしないなんて言っていられず、私も転移石の設置のためにクルミルさん宅へ戻った。
「百合乃は?」
「大丈夫、息はある。」
ツララは大事なものを見せるように、慎重な手つきで引き渡した。脈を測ると、正常。呪毒に侵されているわけでもなさそうだ。
良かった。ひとまず安心かな。
小さく息を吐いていると、奥の方からおずおずとトートルーナさんが。
「わた、し……わたしが、わたしが………………」
情緒不安定な様子で、真っ青だ。半分意識が混濁してる感じがある。わなわなと震え上がる手を、ツララは握った。
「トートルーナのせい、違う。全て魯鈍が原因。」
「でも、わたしのせいでユリノさんまで……巻き添えになって、何もできなくって、何も……!」
瞳孔が開かれ、バッとしゃがみ込んだ。血の気が薄い。
主人が連れてかれて、無関係の客人も自分のせいで刺されたってなったら、そりゃそうなるか。
私みたいな異世界慣れしちゃった人間とは違うんだから。
「こんなトートルーナさんを1人にするのもアレだし、4人で帰ろう。」
「うん。」
こくこくと頷いたツララの手を握り、ツララは慰めたままその手を肩に置いた。私の片足を百合乃の腕に当て、転移石に魔力を込めた。
「到着っと。みんないる?」
「いる。2人とも無事。」
私自身もその無事を確認し、ぶはーと風船から空気を抜くように萎れてソファにぐったりする。
「百合乃は運ぶから、空いてる部屋にトートルーナさんよろしく……」
「了解。」
「これからフィリオんとこ行ってくるから、留守番もお願いできる?」
「うん。」
「それ終わったら、証拠集めてくるから料理もお願い。」
「……主、働きすぎ。」
ツンツンと突かれた。
「でもそのくらいしなきゃ……」
「主、休むべき。少しは頼って?」
「じゃあ…………ダンジョンで証拠取ってきたりできる?転移石あげるからさ。」
「うん!」
「あと、魯鈍の残存魔力で練った魔力結晶。一応、逃げられる前に採取したやつだから確実だと思う。これと似たやつ、回収できる?」
尻尾をフリフリして、吸魔石と共に受け取った。今すぐ飛び出していきそうな勢いだったのですぐに静止し、明日にしてと釘を刺した。
流石に今日行かれても私が不安になるだけだし。これ以上精神的な負担を増やされると……ねぇ。
とりあえずダンジョンに魔力の痕跡を見つけられたら相当な収穫なんだけどな。
もし見つかったら、あの2つを王都の学園の設備借りて魔力照合でもやろう。
やっぱり頼るべきは人脈なんだなと感じる。
私は百合乃を放置していることにも気づかずに、ドーンと立ち上がると外へ出た。フィリオのところへレッツゴーだ。
「ん、ユリノかわいそう。」
哀れみの視線を、意識のないまま受け取ってしまった百合乃であった。
「どうしてお前はそんな頭のおかしい報告しかしない?俺の胃を壊す気か?」
フィリオがクマのついた目でコーヒーを啜り、もの凄いため息を吐いた。
「いやいや、そんなつもりはないよ。」
「ならその光のない瞳はなんだ。」
「ただ、私の大切をぶち壊そうとしたゴミを焼却処分してやりたいだけだよ。」
「それがその魯鈍と?」
ドリスで起こった出来事を全て話すと、フィリオはそんなことを言った。
「ここまで来ると、その魯鈍とやらの独断ではなさそうだな。他国お抱えのSランク冒険者だと言ったな?」
「うん。戦闘の一部は見たけどそんなふうには見えなかった。でも力を隠してたら私でも分かんない。」
フィリオが唸った。
「ソラが魯鈍を捕縛するのは一向に構わんが、法律も何も知らずやれば、逆にお前自身が捕まることにもなり得るぞ。」
「何それ怖っ。」
「そこのあたりは俺に任せろ。もし本当のことなら、終身刑でもつけてやる。」
何やら紙に文字のようなものをつらつら書いていくフィリオ。覗き込むと、「フェロール宛だ」と一言。
「領土拡大か、単なる私怨か。どちらにせよ対応しなければならない事案なことには変わりない。が、ここから先はフェロールの管轄だ。」
要は調査願いのようなものらしい。
「でだ、証拠もなしに糾弾はできないぞ。」
「証拠ならあるよ。私の記憶というね。」
記憶念写で写し取った証拠や映像を、私はその机に並べた。この紙は、映像まで投影できるらしい。便利な品だ。
「これが明確な証拠ってものだよ。……こっから増やすつもり。」
虚勢を張るつもりが最後の一文で締まらなくなった。
「あ、それと犯行に使われた武器。街の人たちの証言で農地の話はどうにでもなるし、あとは吐かせればいいだけ。」
「結局は物理的か。それでどうにかなるなら構わないが、あまり力を過信するなよ。なかには、力には屈しない人間もいるんだ。」
「魯鈍は当てはまらないね。」
言い切ったよこいつみたいな目でため息をまた吐かれた。婚期が遠くなるって言おうとしたけど、普通に結婚してた。
「証拠と現物を持ってきたら裁判でも開始しよう。ドリスの領主殺害、農地の破壊、更には民の傷害に加えてダンジョンの破壊による侵略行為の疑いで終身刑だ。」
「つまり証拠がなければ裁いてくれないと?」
「もちろんそうだ。」
頑張って捕えろと無茶振りをぶん投げられ、そのまま回れ右させられた。
やることは何も変わってないかぁ。
クルミルさんを助けて裁く。そもそもドリスの人間じゃないから、こっちで裁いても問題は無しだ。
無理矢理士気を高め、一旦うちに帰った。
———————————————————————
あとはとっ捕まえて牢屋にぶち込むだけですね。 ついでに、いい加減この遅筆をなんとかしてほしいです。いや、これも魯鈍のせいなので魯鈍が消えれば無事に改善されるはず……
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