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14章 魔法少女と農業の街

450話 魔法少女と魯鈍と対立

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 クルミルさんの家に直帰した私は、なかなかに強い疑念と怪しさを抱えて敷地に踏み込んだ。
 いきなり罠が発動とかいう初見殺しはなく、胸を撫でおろす。

 嫌な予感……私のそういうのは結構当たるんだよね。おっと、これ以上言うと有言実行になっちゃうな。

 もう遅いなとは思いながらも、口を噤む。いや喋ってないから噤んでない。

 ふと屋敷を見てみると、扉が開けっぱなしになっている。トートルーナさんもいるのに、何でだろうと思いながら自分の勘に若干恐怖を覚える。

 警戒を強めて。私D、異常は?

『人数に変化なし~』

 私のAとBは魔法の準備。連勤で悪いとは思うけど頑張って。

『分かってる。体は私の何だし、そのくらいはやるよ』
『やけに素直だね今回は』
『血が猛るな!』
相変わらずの厨二。しかし、気を取られてはいけない。絶対何かある。私の勘が警鐘を鳴らしている。

 誰かいると気づかれる恐れがあるので、あくまで能天気に。気づかないふりを貫く。

 冷や汗が滲み、それを隠すように小走りになって笑顔を取り繕う。そうしてまもなく屋敷の中に足を踏み込んだ。

「何もない……?」
本当に何もなく、嘘みたいにしんとしていた。逆にこれが怪しく見える。

 魯鈍はいない……?魔力反応はある?

『別の魔力が一二三……多分魯鈍~!』

 ナイス。これで証拠はゲット。痕跡回収も任せたよ。

『了解~』
Dに仕事を振り分けつつ、私はゾンビでもいる家を探索するかのようにゆっくり歩を進めた。

 百合乃~ツララ~!どこ~!

 心でみんなを呼ぶ。百合乃なら気づく可能性がなきにしもあらず。こういう時に役に立つんだね。

 と、微かに声が聞こえたような気がする。マジで以心伝心が実現したのかと目を見開くけど、何となく違うような気がした。それでも危険な予感が漂っている。

 急足で声の聞こえた方向に向かっていく。

—————————

「第1回!魯鈍をどうぶちのめすのか会議始動ですぅ!」
「どんどんぱふぱふ。盛り上がっていこう。」
ツララが口頭で効果音を鳴らすと、クルミルらは首を傾げる。しかし意図は汲み取れたようで、パチパチと拍手を送った。

「本日はどう魯鈍を転がすかを決める重大な会議です!重要な会議なので皆さんガンガン案を言ってください!」
「重要なのにソラさんはいらっしゃらないのですね。」
「トートルーナさん、口を噤んでください。」
「長くなりそうなので、紅茶を淹れてまいります。みなさま、ハーブティーでよろしいでしょうか?リラックスできますよ?」
クルミルは下の階に降りて行き、百合乃は「私が落ち着いてないみたいじゃないですか!」とプンスカ怒る。

「ソラさんが戻ってきてからでもいいんじゃないでしょうか?ソラさんもクルミル様も、皆様等しく魯鈍を憎んでますし。もちろんわたしも。」
にこやかに自分の顔も指した。

「……でも、空は忙しそうだし……」
「少しはアタシも、活躍したい。」
「昨日はすごい働きっぷりじゃなかったですか。私もあんな戦闘でクルミル様を華麗にお守りしたいです。」
自分の両手を握って空想しながらニヤニヤする。やっぱりちょっとおかしいメイドだ。

「……にしても、遅いですねぇ。クルミルさんっていつももっと早く淹れてませんでした?」
「そうですね……少し、様子を見てきますので……」
トートルーナが立ち上がり、不安そうな面持ちで背中を見送った。

 それから、少々時間を空けて、ツララが動いた。

「見てくるっ!」
「待ってください!ツララちゃんに何かあったら空が……っ!」
百合乃はその背を追いかけて階段を駆け降りた。その瞬間、「うっ」という鈍い声が。トートルーナのものだった。

「早く!」
「駄目ですよ!慎重に!」
止める間もなく滑り降りていく。さすが獣人、身体能力が化け物だ。

「クルミル!」
そこにいたのは、青い顔をしたクルミル。向こう側を見て、何やら震えている。

「トートルーナさんが……」
「ですぅ……?」
視線をあげてみる。そこには、倒れ伏したトートルーナが。血が地面に流れ、血溜まりを作る。

 ツララがダッシュで寄った。氷魔法で止血を施し、固めて接合した。無理やりであるが、ないよりはマシだ。魔法少女の手にかかれば死すら覆せる。それを理解しているツララは、手遅れになる前に治療をした。

 一方で、追いつくことが叶わなかった百合乃はクルミルの後ろで小さく息をついた。
 そして、ふと疑問が生まれた。

「……る、さ、ま…………?」
「…………ツララちゃんっ!早くそこから離れて!」
百合乃の勘が強く危険信号を鳴らした。叫ぶと同じか、早いか、百合乃は飛び出していた。縮地でツララの正面に現れ、通せんぼするように腕を広げて……

「ぐふっ……ゔっ…………!」
お腹の辺りが熱い。ズキズキと痛む。どくどくと熱くて冷たいものが流れ出る。きょとんと、自分がどうなっているか理解が追いつかないのかそんな顔をする。

「百合乃!」
「そ、ら……」
青色な視界の端に映り、瞑目した。

—————————

 クルミルさんが、百合乃の左横腹を包丁で突き刺した瞬間を見た。後ろに、ツララを庇うようにして立ちはだかる百合乃を。

「クルミルさん……?いや、違う?領主と同じ?いや死んでないし…….」
考えても埒が開かない。まずはこれ以上の危険を避けるため、神速で包丁を持つ手を捻って落とさせ、そのまま組み伏せた。

「クルミルさん!」
「………………………」
反応がない。まるで屍のようだ。

 でも生きてる。生きてはいる。
 催眠?操られてる?そんなことできるのはやっぱり……

「魯鈍……!」
歯をギリっと噛み締めた。苦虫を1000匹くらい噛みちぎったみたいな顔だ。

 トートルーナさんも……百合乃も、クルミルさんも。生き残った、ではないけど……ダメージがなかったのはツララだけ……

 軽く意識を奪っておいて、次に百合乃とトートルーナさんに足を向けた。

「大丈夫?百合乃!返事して、百合乃!」
「主、主……ユリノが、トートルーナも!」
明らかに狼狽した様子のツララが、私の裾を引っ張ってゆすってくる。

「待って、今回復する。」
統合された万復の方を当ててみる。治らない。再生創々を当ててみる。時が遡るようにして傷が消え、痛みに濡れた顔は元に戻る。

 回復魔法が効かない。何か魔法がかけられてる?使った包丁に呪いでも引っ付いてるのかな。

 奪った包丁に観察眼を向けた。

 呪毒の御刀
この国には存在しない製造法で作られた、呪毒を持つ小刀。この毒に己の血を触れさせると、それを媒体に呪いを発動させ体を蝕む。


 呪毒。この国にはない。明らかに魯鈍の仕業の可能性が高い。

 これって、私じゃないとどうにもできないやつじゃん。私が再生創々持ってなかったら即刻詰みな武器って……

 トートルーナさんにも再生を施し、呪毒の御刀とか言う呪物を封印と称してステッキにぶち込んだ。

「こんな時で悪いけど少しだけ報告させて。領主は死んで操られてた。多分だけどクルミルさんも操られてる。いざという時にこれ。」
クルミルさんの服に忍ばせた。

「なに、これ?」
「細かい話は後で。ここで見張ってて!」
私は思わず駆け出した。嫌な気配が消えないから、どこかにいるんだろうと万能感知を外へ向けた。

 1人いる。取り巻きはいないみたい。

「魯鈍!」
外に出て、そう叫んだ。その先には庭の柵に腰をかけた魯鈍がいた。

「全面戦争だ。私の家族に、大切な人達に手を出した罪、その身で贖え。」
かつてないほどの冷徹な瞳で、怒りに支配されるわけでもなく放った。その言葉に嘘偽りはなかった。

「…………………」
魯鈍は動かない。すると突然、閃光を生んで視界を奪われた。次の瞬間には魯鈍は消え失せており、私はただただ拳を握った。

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 他国ぐるみの話になってきましたね。そして空さんは本気のお怒りです。
 というか、百合乃が怪我をするって初めてな気がします。
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