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14章 魔法少女と農業の街

448話 魔法少女は打ち破る

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「さてさて、うっわぁ……数増えてない?もう増えてないみたいだからいいけど、1000は確実にいるなこれ。」
若干引き気味で言うのはもちろん私。木の上から観察し舌を出す。

 この量が蠢くのは流石の私でも吐き気を催す。ちょっと気持ち悪い。
 でもやらなきゃいけないんだよねぇ。冒険者も楽じゃないよ。

「この辺の道はツララに任せてっと。私は私で遊撃ってきますか~。」
日本にいた頃じゃ考えもつかない超人パルクールで木々を渡り、そうもらした。

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 氷狼族の少女は、ふんすと鼻を鳴らして意気込んでいた。
 それもそのはず。主である魔法少女からメインを譲ってもらったのだ。活躍の場である。そして撫で撫でしてもらうのだ。

 俄然やる気が出てきた。主から貰ったら小手を装着して感触を確かめる。魔力付与が施されており、主を感じる。これにはたまらずにっこり笑顔。そして傍には死神さん。鎌を持った殺人鬼だ。
 こいつは魔力が尽きるまで永遠に核石の反応を感知して切りつける変態的な執着心を持つ魔導具だ。

「魔物、来た。」
簡易獣化と身体氷化を掛け合わせ、鉄をも超える硬度となる。目の前に迫る魔物の群れに対抗するため、緩んだ心を顔と共に引き締める。

 これは遊びじゃない。エンタメでもない。街をかけた防衛戦。

「絶対勝つ。アタシはやれる。」
死神を浮かべながら鼓舞し、駆け出していった。

 まずは敵の確認だ。行列ができている。奥が見えない。しかし好都合。ここまで奥が見えなければ、手前の魔物が盾になって奥は無視して良くなるのだ。

「ゴミはゴミ箱。あるべきところへ帰れ。」
これでは帰れというか還れになるが、氷礫が炸裂する。空中で破裂し四方に飛び散る遠距離技だ。ダメージはその分少ない。

 お次は氷爆。触れた相手を爆発させるだけの技。爆発後に氷柱が飛び出るのが特徴。それはだけとは言わない。

 それを邪魔しない程度に押してくる死神さん腹その鎌でザックザックと採掘でもするように斬り刻んでいく。立派な殺人鬼だ。

「邪魔!邪魔!邪魔!」
倒せども倒せども消えない魔物達。死屍累々は踏まれ躪られ蹴り飛ばされ、地面の凍になっていく。核石がバキバキと割れる音もする。

「資金源……!」
ツララ目を見張る。そして睨む。

 獣圧による睨みは相当な威力だ。警戒するように、魔物達が下がっていく。背後の魔物は当然の如く効かず、雪崩れ込んでくるため幾らかは圧死する。
 時々仲間割れも起こるようで、見ているだけでも醜い。顔を顰めて、魔法を撃つ。

「氷槍!氷槍!氷槍!氷華!氷華!氷華!」
氷が煌めく。魔物が死ぬ。血が飛び散って固まって、地獄絵図と検索したら引っかかりそうな景色となる。

「氷爪!」
凍てつく魔法に魔物は沈み、雪原が展開されると足場が固まり動きは鈍くなる。

「業冷。」
一体の空気は南極を思わせるほどの寒さに包まれ、残さず凍らせていく。その異様な光景に魔物ですら怯え、道を逸れいく。

「いい戦いぶりだよ。」
魔法少女の声がふと聞こえた。逃げ始めた魔物は、はたと焦げて消えていた。

「主……もっと頑張る!褒めてもらう!」
魔力を漲らせ、魔力光が森を埋め尽くす。百合乃に出番なんか与えんと身を削る思いで魔法を放った。

 こんなことをしていると当然空気は物理的に凍りつく。風に雪に氷。あとは言うまでもない。

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 正面ツララ、遊撃の魔法少女。仕事は少ないかと思われたが……

「空からの魔物の数が尋常じゃないんですけどぉ!?空あぁぁ!助けてくださいよ!」
縮地を駆使しながら、やってきた鳥型や竜型の魔物をぶった斬っていく。

「ユリノさん!炎吐いてきています!」
「向こうからは風刃が!」
「てんてこ舞いですぅ!壁にぶつけといてくださいよそんなものぉ!」
悲しくも全て百合乃へと迫る攻撃たち。涙を振り撒きながら魔断で斬り散らしていく。

「衝波っ!縮地っ、そして斬る!」
斬っては跳ね斬っては跳ね、空中を歩けるかのようにぴょんぴょん飛んでいく。しかしまぁ、意地と脅威の成長力による強引な技だが。

 それでも着実に数は減っていく。魔法少女ももちろん遊撃を開始しているため、こちら側に入ってくる地上の魔物は皆無に等しく、空中の魔物も強力なものは間引きされている。

「縮地ぃ!」
ファンタジーの大定番が連発される日が来るとは思わなかったろう。しかし縮地を使わないとすぐに地面に落下してしまう。意地でも使わなければならない。

「頑張ってくださーい。」
「クルミル様は任せて好きにやっちゃってください!」
ファインディングポーズを取るトートルーナに、苦し紛れの笑顔を向ける。そもそも彼女の実力も分からずそんな役につかせるわけにはいかない。

「もう全部吹き飛ばしちゃいます!」
巨大なカラスの背に乗ると、絶禍で飲み込む。そして地面にふわっと着地すると、サーベルを後ろに引いて腰を落とす。

 剣姫の腕の見せ所だ。全ての上級剣術をマスターしている百合乃が放つ、剣技の真価。サーベルは空気に含まれる魔力を吸収し、光を生む。

「烈風王刃!」
目にも止まらぬ薙ぎ。その先には、夥しい数の薄く発光する刃が飛散していた。空中の魔物は風の雨の中避ける術もなくズタズタにされ、血の雨を降らせた。

「ふぅ……本当、厄介な仕事引き受けちゃいましたよ。こんなものをわたしたちだけでどうにかするなんて馬鹿げてます!」
でも、そんなところが好きと魔法少女への愛を募らせ、さらに強力になる。

「どんとこいや!です!」
サーベルを再び両手で握ると、誰もいない森に叫びを上げた。

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 私は絶賛森の中にいる。そして死体を積み上げている。プローターを手に、駆け回っている。

「ツララのおかげでだいぶ楽ではあるけど……」
道の脇やツララに怯えて逃げてきた魔物を横道で待ち構え、プローターを投げつける。爆発の隙を狙って混合弾を撃ちつけてトドメを刺し、そのまま姿を消す。

 魔力消費が激しいこと激しいこと。もう2000近く使ったような気がする。

 それもそのはず。神速の多用が原因だ。
 神速はぶっ通しで使うとエグいくらい魔力を使う。仕方なくオンオフ切り分けて使ってるけど、左右の移動では使わざる得ない。

「もうちょっと殲滅用の魔導具作ればよかった。」
空を蹴り飛ばして言った。ちなみにさっきまで私のいたところには、豚か猪かよく分からない魔物の吐いた酸があった。

 危険すぎない?こんな魔物がダンジョンにいるの?バカなの?攻略させる気ゼロなんだけど?

 トールを放って背後から消し炭にすると、ふと冷気を感じた。ツララが近いのか。

 少し手伝っておこうと神速を交え、姿を確認する。授業参観に行きたい親の気持ちってこんな感じなんだろうか。

 すっご。

 出た感想はそれだった。
 魔法少女服越しに感じる冷たさと、地面から生えた氷。いや突き刺さったの間違いか。

「いい戦いぶりだよ。」
トールで邪魔な魔物を一掃すると、そうだけ言って逆側に入っていく。

 魔物はまだいる。気を引き締めていこう。
 百合乃の幻聴を聞きながら、軽く頬を叩く。遠慮なくプローターも投げる。爆発する。血も飛ぶ。

「これが異世界、これが現実ね……まるで夢でも見てるみたい。」
風のように走ってる現状を見て、そう思った。

 でもこれは嫌なくらい現実で、解決しないとヤバめなやつだ。これが現実とかいきなりハードすぎる。

 神様難易度調整ミスってる。

 だからって諦められないから、私はトールを振り撒きながら魔物の群れを一掃していく。

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 何度目か忘れましたけどまた遅筆の話しましょうか。あ、ダメですかそうですか。その暇があったら執筆しろと?あ、はい。そっすね。
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