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14章 魔法少女と農業の街
446話 魔法少女と百鬼夜行
しおりを挟む「ダンジョンが壊れて魔物が雪崩れ込んできてる!?」
百合乃が声を荒げて叫んだ。驚きを隠そうともせず全身で表現してる。ここはバーストン家の大広間。全員を集めて状況を知らせている。
「壊された、だと思う。このタイミングで魯鈍が消えてるとなると、単なる偶然と思うのは無理な話だし。」
「また魯鈍です?ほんとあの人はどれだけ人に迷惑かけたら気が済むんでしょうかね。」
「そんなことより、人間がダンジョンを壊すなんて聞いたことないです。」
トートルーナが顎に指を添えて考え耽る。
「とりあえずは、戦える人は残してあとは逃げてもらおうと思うけど、大丈夫?といっても私達ぐらいだけど。」
「いえ、案内は必要だと思います。」
「なら、ここは老い先短い私たちが……」
「お母様、私は農業のことについてまだまだ学が足りません。この広大な土地を管理できる手腕を持つお父様とお母様は、逃げるべきです。」
クルミルさんが立ち上がって、強い眼差しで訴えかける。使用人が止めようとしているのも無視して、真っ直ぐ見据えた。
両親に危険な目は合わせたくないよね、やっぱり。せっかく再開したばっかなのに。
「プランとして確定してるのは、私と百合乃とツララは魔物の殲滅。協力してくれる?」
「もちろんです!」
「主の頼みならなんでも聞く。」
やる気満々の返事をいただき、つい微笑んでしまう。あとはクルミルさん達家族の話だ。一旦退席するのが筋ってものだ。
「一旦外に出よう。偵察としてと、夜風に当たりたいっていうのと。」
「アタシも。」
「待ってくださいよ~!」
まるで嵐のようだ。私が移動した途端私へ寄ってくる。自然さをアピールするため、アイコンタクトはゼロだ。
いっちょ敵情視察とでもいきますか。
ぐーっと伸ばした両腕を引き戻しながらそう考えた。
—————————
魔法少女が出ていった途端、嵐の後の静けさのようなものが訪れた。誰もが誰かの声を求め、しかし自分からは切り出さない。空気が鈍いのだ。
勢いのままに立ち上がったクルミルは素直に席に腰を落ち着け、用意されている紅茶を口に含んだ。やはりこの味。過去に、よく教えてもらっていた紅茶の淹れ方だ。
カーラはよく自分に様々なことを教えてくれた。料理や掃除のことも。
「せっかく私たちだけになったんですから、しっかり話し合いましょう。」
咳払いで濁しながらそう言った。仕切り直しだ。
「クルミル様が行かれるのでしたら、わたしも、お供させてください!」
「トートルーナ……」
少し嬉しそうに笑んだクルミルは、そのまま続ける。
「お父様とお母様はカーラとお逃げください。」
有無を言わせぬその気迫に、レイモンドは大きく頷いて答えた。
「自分で決めたことは、最後までやり通すんだぞ。」
「はい、もちろん。」
話が終わると、カーラは大急ぎで用意を済ませて2人を外に出した。魔物の大群はまだ遠いが、じきに迫ってくるであろう。
今はまだ、魔法少女らが帰ってくるのを待つだけ。このまま帰ってこなければ死ぬのはクルミルとトートルーナ。しかし、魔法少女が帰ってくると2人は信じている。
—————————
「結構距離ありますねぇ。でも、このペースなら明日の昼には着いちゃうんじゃないです?」
「そうだね。ちゃっちゃと片付けないと、街が大変なことになる。」
魑魅魍魎が闊歩する様子を遠目から眺めながら、そう呟いた。
これは事後処理大変そう……領主に話てパズールの方から冒険者派遣してもらわないと。
冒険者の方はどうにかなっても、この街が許可しないと後々問題になりそうだし。
「これぞ百鬼夜行って感じですね。こんなの見たら一般人なら卒倒しますよ。」
「こいつら、倒せる?」
「協力すればね。事後処理は他の冒険者とか街に任せよう。帰ったら話でもつけに行こうか。」
「ですです。」
気づかれないように慎重に会話し、魔物の列を確認していく。
ダンジョンが壊れてる様子は……見えないか。数は3桁は確実。パッと見た感じはCからいてAくらいの魔物。
なんとかならないことはないかな。
魯鈍にはあの刑務所にぶち込んでもらおう。そうしよう。
目標が1つ増えた。やることも増えた。
『捕まえる前に魯鈍を探す作業があるからね』
『私の封印されし邪眼にかかれば、人の子1人簡単に見つけられよう』
『へぇすごいなぁ』
それはおいおい考えるから黙ってて。今は目の前のこれでしょ。
無闇に手を出して準備もできてないのに襲われたらたまったもんじゃないよ。
街の防衛機能は人がいないからガバガバ。だから私が補強しなきゃだし、侵入ルートの確認とか、配置とか。その場のノリで攻撃して、逃しでもしたら状況は悪くなる一方。
「一旦帰ろうか。」
「うん。」
「ですね。これ以上見てもアレですし。」
気配を極限まで消しながら、帰路に着いた。
「皆様、おかえりないませ。」
出迎えはルートルーナだった。つまり、残ったのはクルミルさんということだ。
「決まったんだ。」
「クルミル様はこの街を愛していますから。」
短くそう返され、部屋を案内される。クルミルさんは冷静に紅茶を啜っており、「座ってください」と一言。
「どうでしたか、魔物の様子は。」
「だいぶ多いね。きついかも。魔力は保つだろうけど、いかんせん数が数だからね。」
「大丈夫。アタシが凍らせる。ユリノが斬る。おしまい。」
「わたしに斬れない魔物なんてありません!どんな魔物でも30分に1回なら100%両断できます!」
「それただの断絶。」
でも、みんな自信あり気だ。頼りになりそうだ。
「防衛の話とか細かいことは後でいい?とりあえず、念のためと後のことのために、パズールから人手を借りたい。だから、この街の領主と会って許可が欲しい。」
「案内、ですね。」
「領主ってまだいるかな。」
「領主は領民を守る義務がありますからね。私たちがいる限りはいるでしょう。」
まともな領主でしたら、と付け加えた。そういう言い方だとこの街の領主がまともじゃないように聞こえるけど、マシではあるそうだ。
「なら行こうよ。話を通さなきゃいけないし。」
「分かりました。トートルーナ、行きましょうか。」
「はい!」
人気のない寂しい街道を歩き、少しした。こぢんまりした店がずらりと並んでおり、この辺が都市なのかなと感じる。
貴族たちはこの街の中心ではなく、もっと広い敷地のある外側にあるらしい。
領主は、農業の街の長というだけあり広大な土地を保有し多くの作物を栽培しているという。金で魔導具を買い、気温を変化させ出荷時期を早めたり遅めたり、普通なら育たない作物を、それを使って専用の部屋で育てているそう。
技術もさることながら魔導具の力も合わさって、トップの生産高なんだとか。
「促成栽培、抑制栽培、施設園芸農業、中学の頃社会でやったなぁ。」
「核石があれば普通に冷房も暖房も作れますしね。」
「ですが、そんな量の核石は高額ですよね。加工技術も国が保有して受け継がれていくものらしいですし。」
「まぁ私はそのまま使ってるけど。」
ラノスの弾丸を思い浮かべる。小さくカットしただけであとはそのままだ。
「っと、皆様そろそろ目的地です。」
トートルーナの指の先を見ると、ひっろい畑が広がっていた。ついでに田んぼがあると嬉しいんだけど、さすがにない。
誰か稲を伝えてよ!米、私はそろそろ本当に米が食べたい。1日に絶対1回以上は米を食べる日本人が、半年も米を口にしないなんて……今はまぁいいや。
「とりあえず、行ってみようか。」
遠目からでも見える屋敷までの長い道のりを進み始め、思った。
なんで領主の家ってこんな遠いんだろう。
———————————————————————
最近、遅筆すぎて怖いです。
このままじゃいつの間にか失踪していたり……
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