魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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14章 魔法少女と農業の街

445話 魔法少女は逃す

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 汗が滴る秋の昼。もう草も枯れ始めてきているこの頃、私の体からは薄く汗と疲労が滲んでいる。
 冷気に包み込まれそうになっている青空を、まだ我が物顔で占領する太陽。燦々と照りつけて、私の皮膚をジリジリと焼いていく。フードが役に立つ。

「づがれだ……もうやだ死ぬぅ……」
ローブが汚れるのにも執着せず、膨大な畑の上に寝っ転がる。これで何軒目だ。もう分からない。昔見た北海道の畑レベルの農地規模だ。こりゃ農業の街だなとしみじみと考え浸る……余裕なんてものは当然ない。

 もうヤダイヤイヤやりたくない!死ぬ!私死ぬんじゃうからね!

『魔力もまだまだあるし、そもそも再生創々って魔力使わないし。まだ頑張れる』
『ファイト~いっぱーつ!』
エナドリが心の机に置かれた。これを飲めと。

 分かる?私が頭の中でわけわかんないまともな表現する時は大抵死にそうな時だって!

『それはそれでどうかと思うけど?』

 うるさいやい!

 うだうだ騒いでるうちに、もう時間が迫ってくる。お昼もまだなのに。

 お腹がギュルギュルと警鐘を鳴らしている。が、世界は無慈悲にも待ってはくれない。お昼ご飯、食べられない。アイキャントイートランチ。

『おーい、百合乃うつってるよ』
『百合乃感染病、M325』
『その325はどこから?』
『五十音順』
私は謎の会話に花を咲かせてくる。仕方なく、本体の私が真面目に働くことにする。

「あ、こんにちは。そろそろここの土地も直せるので、待っててくださいね。」
ここの土地の主、の孫娘の人に会釈をするとフードを取る。いくら魔法少女服で温度調節ができているからといって、上から服を着てるんじゃ意味はない。

「本当、助かってますよこちらこそ。おじいちゃん、いつもこの畑を見てため息をついて、腰も一層悪くしちゃって……それもこれも、魯鈍とかいう人のせいですよ!」
「あはは、そうですね。」
「バーストン家も不憫ですよね、なすりつけられて。」
同情の眼差しで、クルミルさんの家のある方向を向く。

「大丈夫ですよ。そこも、手は打ってあるんで。」
「何者なんですか?ソラさんって。」
「ただの冒険者だよ。国王と知り合いの。」
「それはただの冒険者って言うんですか……?」
「1つ言うとするなら、私は敵に回さないほうがいいよ。社会的にも物理的にも抹消されるから。」
孫娘ちゃんのルーファは、はははと笑う。目が1ミリも笑ってないのは気のせいかな。

 権力と暴力、2つも持ったら世界征服できちゃうんじゃない?
 世界なんていらないけど。両手に抱え切れる分で精一杯なのに、そこまで面倒見れない。

「あっ、そうそう!これ、昼食の差し入れですよ。うちの畑で採れた野菜を使ったスープとパンです。」
木のカップとパンの入った袋を渡してきた。中身を嗅ぐと、野菜のいい匂いが広がる。

「うちはまだ被害が少ない方なので、栽培はできてるんですけど……おじいちゃん曰く、土地が死に始めてるらしくて。」
「昼食分は働きますよ。」
湯気がもくもくと漂うそのスープに息を吹きかけ、ずずずと火傷をしないように空気を含ませて飲む。

 ん、美味しい……野菜の甘みとちょうどいい塩味が効いてる。何か薬草系も一緒に煮込んでるのかな?独特な香りがある。

 うん、美味しいけどお腹に溜まらない!

 にっこり笑顔でそう心で叫んだ。

 結局、夕方になるまでぶっ通しで働いたのに、まだ街の5分の1も終わってないという。どれだけぶっ壊したら気が済むんだろうあの魯鈍デストロイヤー


「ソラさんお疲れみたいですね。」
「まぁね。私の体力は無尽蔵じゃないし、そもそも私は元から疲れっぽいんだよ。」
くたくたの体に鞭を打ち、玄関の扉を開けた先でクルミルさんと少し話す。

「百合乃達は?」
「上で遊んでますよ。ソラさんが家でよくやっている暇つぶしの。」
「オセロがトランプか……将棋は百合乃しかできないから無理だとして、チェス?オタク脳的に知ってるけど。」
「トランプタワーですね。」
「何やってんの百合乃。」
とうとう絵柄でなくトランプ自体を使って何やら芸を身につけようとしてきた。

 トランプタワー最高10段の私に勝てるかな?

『ふふっ、トランプタワーとはすなわち、トランプの心理を真に理解する究極の遊戯!』
『は~い、厨二病患者はこちらへどうぞ』
『やめろっ!こっちは来るな!やめっ、左眼の邪眼が解き放たれる!眼帯に触れるなっ!私の右腕には封印されし魔炎が、解き放たれれば世界は滅亡の一途を、あぁぁぁぁぁ!』
耳を塞いでもこれが聞こえてくるものだから、もうやめてほしい。そのせいで、色々勘が鈍くなる。その証拠に……

『私私、万能感知して~』
私の声が聞こえてくる。これはDだ。1番まともな気がする。

「…………気配が少ない?百合乃とツララは一緒として……っ!」
すぐさま振り返り、外へ逆戻りした。中にいる人間の数は、私含めて8人。3人、足りない。

「逃げられたっ!?いつ?私がいない間……今日中全部!」
心当たりがありすぎて顔を歪めた。

 魯鈍がいない!いや、その取り巻きも!どこに逃げた?そもそもなんで逃げるの?金払えないとか?他国お抱えの冒険者がそんなことある?ないね。

 脳内に大量に埋め尽くされた疑問符は、発散する場所もなく叫び出したくなる。

「ソラさんどうしたのですか!?」
「魯鈍が逃げた!このままじゃ賠償金どころの騒ぎじゃない、バーストン家も終わりだ!」
疲労に加えて気苦労そして危惧。さらに胸騒ぎ。

 嫌な予感が拭えない……

「ん?街が騒がしい……」
「こんな時間なのに、へん、です、ね……」
ようやく追いついたクルミルさんは、両膝に手を置いて荒い息を吐く。

「あの!そこの!」
ダッシュで街に降りると、そこにいた街人さんに声をかける。

「この騒ぎって、何か分かりますか?」
「あ、あぁこの騒ぎのことか?少し遠くにダンジョンがあるのは知ってるよな?」
「うん、聞いたことある。」
「そのダンジョンがぶち壊されて魔物の大群が近隣の街、つまりドリスに向かって進行してるんだ。」
効いた途端、目が飛び出そうになった。ついでに卒倒しかけた。

 このダブルパンチは効くよ……絶対魯鈍だよね。

 あんのムカつく顔を思い出し、ぶち転がしたくなった。

「農作物もこの間の魯鈍とかいう冒険者のせいで不作とはいかずとも例年より下がったし、そのせいで資金も少ない。出兵できるほどの騎士団もなければ、冒険者も武器もない。」
「それってだいぶまずいんじゃ?」
「ペースは遅いらしいからな。今から逃げるんだ。この街も、もう幕の締めどころってことかね。」
悲しそうな顔で苦笑し、用意があると足早に去っていった。私はその場に取り残され、「そんなにっ、走らない、で、くだっ、ぁぃ……」と、よろよろ駆け寄ってくるクルミルさんにすら追いつかれた。

 ダンジョンが破壊……それなりの力がないと不可能だし、できるとすれば同じ転生者くらい。
 もし、あの時力を隠してれば?できないことはないし、私でもできる。

 ありすぎる力を抑えるにはまず力を使わない。魯鈍がちゃんと戦ってるのをみたのは1回だけ。瞬刃を1回みたきり。

「ここまでしたんだから、相応の罪を償ってもらわないと……半額?安い。全額払っても足りないくらいだ。」
「そ、ソラさん?」
「一旦戻るよ。作戦会議をする。」
「え?逃げなくてよろしいんですか?」
「うん。魔物なら私達が片付けるよ。」
目に闘志を燃やし、駆け降りてきた道を再度踏み締めた。

———————————————————————

 ぶっちゃけトランプタワー何段がすごいとか分からないcoverさんです。
 しかしcoverさん、個人最高記録は14段です。接着剤もテープも無しの腕とトランプ(一部UNOを含む)だけのトランプタワーです。写真もあるので事実ですよ。

 ちなみに、トランプタワーは作るに適したトランプとそうでないトランプがあります。プラスチック的なツルツルしたやつはダメです。紙のトランプがちょうどいいです。
 あとUNOとトランプの高さは違うのでバランスは崩れます。やる際はトランプのみかUNOのみを使いましょう。
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