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14章 魔法少女と農業の街
444話 魔法少女は奔走する
しおりを挟む余っている部屋に1人ずつ自室を構え、個室のベッドに私は腰を落ち着けた。
「話し合いはなんとか終了と……あとは、私が頑張るだけ。いやめんどいな。」
ばふっと布団に背中を倒すと、低く唸り声を上げた。
「農地の再生?しかもこの街の全部?殺す気……?自分で提案したことなんだけど!」
独り言をぶつぶつと唱え、文句が積もっていく。
自分で大前提みたいな感じで話しちゃったし、しないとクルミルさんが困るし、やらないわけにはいかないんだよね。
億劫だ。そんなことよりお腹空いた。もふりたい。
思考が停止し欲望が堰き止められることなく溢れ出す。濁流のように流れ出る欲を口に出し続けることとかいう表現使うほど時間は経ってないけど、がちゃん!と勢いよく扉が開けられた。
「主!」「空!」
肩がビクッとした。
「呼んだ?」「呼びました?」
「読んでないから静かに開けようね。」
ツララを手で招くと、ちょこちょこと私のお腹の上に乗る。案外軽い。
おー、もふもふ天国。ひんやり冷たくて心地いい。さすが氷狼族、可愛くて実用的なんてとてつもない逸材だ。
可愛さに顔を蕩けさせながら、毛並みを撫で続けた。ツララもツララで気持ちよさそうに目を細めているので一石二鳥だ。
「百合乃は帰っていいよ。私はツララのもふもふが欲しかったから。」
「ユリノ、大人しく帰る。ここはアタシに任せた。」
「むむむ……そっ、空!わたしなら、どんな役にでもなってみせます!チャンスをください!」
少し泣きそうな目で訴えてきた。そこまで言われちゃ、さすがに無視するともいかないので、熟考すること2分と15秒。
メイド?は、似合いそうなだけで面白みに欠ける。私のハートを穿つ存在は、妹系?百合乃はまぁ妹な感じだし、私は姉系の人はあんまりだからやるとしたら……
「主人に仕える妹系なメイド、やや積極性に欠けるものの主体性をもち主人をサポートする。いつもはクールな年下系だけど、たまにドジをする可愛さもある。ご主人様ラブな子、とか?」
「これまたすごいマニアックな注文ですね。的確に自分の性癖突こうとしてません?」
「これを機に百合乃を私好みにと。」
「それで構ってもらえるなら、わたしはいくらでもしますけど?」
「いや、やっぱいいや。」
なんか思い返すと自分でもキモく見えてきたから、訂正する。本音を言えば百合乃のほうがキモかった。
『ちゃっかり細かい指示出すあたり、オタクさが垣間見えてるよ』
『妹系メイドはマニアックなんかじゃないよ!』
『Bよ、私もそっち側の人間か?』
『私達は全員オタクのはずでしょ!分からないとは言わせないよ』
メガネをすちゃっと、中指で押し上げる。語りを始める合図だ。
「それと、ご飯らしいので降りてきてください。」
「よーしツララぁ、行こうか。」
「うん、主好き。」
何か会話が成り立っていない気もするけど、可愛いは全てを覆す。分からないふりをし、部屋を後にした。
ちゅんちゅん。スズメ(そんなのこの世界にいるわけないけど)の声で目が覚める。あの後何したか全然記憶にない。
ふと、柔らかい感触で顔を上げると、そこには薄着のツララが私の腹に頭を押しつけて寝ていた。
「これが……朝チュン?」
逃げと称されるその出来事。実際起こると不思議だ。
「ある、じ?」
「あぁ……そうだ。昨日は一緒に寝たんだった。寝ると記憶混濁するなぁ。」
目を擦って布団を退かす。ツララの丸まった背中をトントンと叩いて声をかけるも、丸まったままだるまになる。なんか転がっていきそう。
「先に私降りてるからね。またね。」
最後に一撫でし、部屋から出ようと手をかけると何故か開いた。クルミルさんかな。
「空様、朝食のお時間ですよ?ご一緒に向かいましょうか?」
「あ~間違えました。」
がちゃん。扉を閉めて、歯の間から息を吐く。そして回転しながら思考を働かせる。頭を動かしたからと言って何かアイデアが浮かぶわけでもない。
さっきの、百合乃だったよね。
『百合乃だったよ』
『百合乃だね』
『ふっ、間違いないな』
『百合乃~』
やっぱり百合乃だったらしい。
……っていうか、なんでメイド?
この目に映った百合乃の格好を思い出す。ゴシックメイド服だった。ロングで清楚系でなんか可愛かった。
「なんで私、百合乃のメイド姿を見て可愛いなんて?」
ふとそう思った。その瞬間また扉が開かれた。
「空様?いかがしました?もしかして、体調でも悪いのですかっ?すぐに安静に……っぉわ……っ!」
「っと、危なっかしいなぁ……ほら、ちゃんと立って。丈長いんだからゆっくり歩かないと。」
スカートを踏んで転びかけた百合乃の肩を抱く。
「空様ぁ……」
「可愛い……とはならないよ?」
「てへっ☆」
百合乃が戻ってきた。私は興醒めして肩から手を離し、小さく息を吐く。
「お腹空いたからどいて。」
「空腹よりも優先度が下っ!?」
「そりゃ人間の三大欲求のうちの1つなんだから、百合乃よりはね。」
「濁す言い方なんか気になります。」
不満げに頬を膨らませる。頬を突いてぷっと音を鳴らせる。
「はいはい。というかその衣装どっから持ってきた?トートルーナさんの服じゃないよね?バスト的に。」
「えっちなこと聞きますね。」
「どこが?」
え?どこが?と再度の頭の中で確認をとる。何も変なこと言ってない。確認すると、百合乃を睨んだ。
「さっさと答え言って。」
「仕方ないですね。簡単です、祈ったら変わりました。変幻自在らしいです。やりました!」
「神の力ってスゴーイ。」
そのままおろされて食べられそうなくらい大根なセリフを吐くと、百合乃を手でどかして外に出る。百合乃はメイド服を軍服に戻すと、そのまま後ろをついてきた。
「ほらほら~わたしのメイド服の感想どうです?昨日の空の意見をバッチリ取り入れた最高のメイドでしたよね?会心の一撃、渾身の策です!」
背中をツンツン突いてくる。
「はいはい可愛い愛で愛でしたいなー。」
「本心で言ってください!」
ブーブーうるさい。これじゃあツララが起きちゃう。
そもそも、今日は疲れる予定なのに朝っぱらからこんな疲れてたら今日の夜にはお墓に入ってるじゃないの?
どっかの魯鈍の尻拭いに奔走しなきゃなんて……
がっくしと肩を下げ、ダイニングに向かう。
「ソラさん、ユリノさん、よく眠れましたか?」
「バッチリです!」
「そこそこかな。」
トートルーナさんにもすれ違い、会釈して席につく。もう支度ができている。
「レイモンドさんとスフリングさんも、おはようございます。」
「おはようございます!」
敬礼した。軍服にはよく似合う。
「あぁ、おはよう。」
「ご飯までいただいちゃって、すいません。こんな時に。」
「いやいや、こんな時だからこそだ。まだ我々も、他人に気遣う余裕があるのだと再確認できたのはいいことだ。」
少し色の薄いスープを掬い、それを見つめて言った。
「こちらこそ、良かったのかい?わざわざ農地を回復させるなんて。お国の魔導具でもないとできないと思っていたのだけど。」
「私には魔力と魔法があるから。」
「魔法…………」
少し眉を顰めて、2人は私を見る。元から怪しい格好なのにさらに魔法使いとか言われてもって話だ。
この世界の魔法の認識、どうにかならないかな。私の活動圏内は狭いし、さらに権力者の知り合いのおかげで厄介なことにはあんまりならないんだけど……別の街に行った途端ね。
ぶっちゃけるとめんどい。
「人って魔力が基本的に少ないんですよ。魔力が少ないと魔法は強固に練れないし、規模も微妙。だから普通人に適すのは補助魔法くらい。というかどれも適さない。でも私は魔力量がとんでもないので。」
神の力という3文字で片付く話を嘘を交えて話す。神の話でもしようものなら、どこかの神の使いが私の首を狙う気がする。
「これ食べ終わったら出かけるので、ツララの世話は頼みましたよ。」
「それは私がやります。トートルーナも手伝ってくださいよ?」
クルミルさんの言質もいただいたので、これで心置きなく疲労を蓄積できる。
それにしても私。
最近働きすぎな気がする。
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最近の私には可愛さというものが足りません。尊みと言ってもいいでしょう。オタクの大切な栄養素のうちの一つ、可愛さと尊みを摂取できていないのです。
これは大問題です……深刻な問題です……
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