468 / 681
14章 魔法少女と農業の街
442話 魔法少女は見届ける
しおりを挟むあの襲撃以来何もなく、安心安全な移動となった。夕暮れまでには街に着くことができそうで、一安心だ。
あー、アスラデウス?まぁ、核石はあるし?その報告すればね。なんとか?うん。なんとか。
「結構並んでますね、検問でもやってるんです?」
「いえ、この街は交易が盛んなので。ほとんど商人ですね。冒険者はほとんど立ち寄りません。商人からは生活必需品、こちらからは野菜を売買しております。」
「へぇ。」
「淡白な反応ですね~。」
後ろの方で呻いている3人の存在は完全に記憶から抹消し、談笑に興じた。
「いい加減解いてくれてもいいだろ。抵抗はしない。」
「体痛い~!」
「虐待嫌い。」
口を窄めて訴えてくるイズナ。やっぱりこの子ネタ担当だ。うちのツララと百合乃を合わせた感じのやつだ。
「もうすぐで街なんだから我慢しなよ。」
「むーりー!」
「それでもSランク冒険者?忍耐力つけようよ。」
「空って何気に煽り性能高いです?」
「さぁ、知らない。」
手の平を空の方に向けて知らないふりをする。
『ちなみに私の体の71%は煽りと水分でできてるよ』
そりゃそうでしょ。人体の6、7割は水分なんだから。逆に煽りは何%?
『5%』
『ふっ、反応しずらい数字だな』
そこ、厨二にならなくてよろしい。
「皆さん次ですよ。用意しておいてください。」
「「「は~い。」」」
各々変な方向を向いている私達は一斉に正面を向き、後ろの3人はやっとかみたいや顔でこっちを見てきた。
「次の方。」
「はいは~い!」
百合乃が元気よくギルドカードを取り出し、私も合わせて出す。ちなみに、ギルカには奴隷の有無も記述可能らしい。まぁ私はしてないからツララ分の通行量を払う。クミルさんはクルミルさんとしてカードを出した。
あ、魯鈍3人のギルドカードは勝手に拝借して提出したよ。泥棒とか言わないでね。
ツララの言う通り龍の威で脅しといたよ☆
『笑って言うな~、犯罪1歩手前だよ』
うるさいなぁ、仕方ないじゃん。この世界は窃盗殺人その他諸々の目に見えて犯罪なやつくらいしかいちいち止められないし、このくらいグレーゾーンだよ。
「………………と、通っていいぞ。……報告しておけ。こいつら絶対やばい。」
カードを返され門を通った。後ろで何やらコソコソと話されてるけど……まぁ概ね想定通り。
「主、うまくいった。」
「いった……のかな?」
後ろを振り返り、元の作業に戻っている門番を見て思わず苦笑いが出る。
「通れたんだからいいってことですよ。早くいきましょう早く。」
「クミルさんの家に泊まらせてもらうんだっけ?止まれなかったら宿でも探すけど。」
「私からも頼んでみます。もしダメでしたら……申し訳ないですが、そのように。」
人の目を惹きながら歩いていく。なんでだろうね。
『魯鈍のせい~』
「貴族の家は大抵、広大な土地を保有しているので街の外側にあることが多いです。そのためそこそこの領土ですから、迷わないよう。」
「迷ったら死にそうだよね。農地なんて目印もないわけだし。」
「慣れればどこが誰の農地なのかは分かります。」
「それはプロの領域です……」
ツララは物珍しそうに首を傾げながら、キョロキョロとする。確かに、パーズルにはない珍しいものは多い。
あ、竹ある。
まぁ竹林の村からそこそこ近いからね。その次にパズールって感じ。
竹って見た目の割に美味しいんだよね。あ、あそこの竹に限ってね?普通の竹食べちゃダメだよ。
『言われなくても分かるよ』
「ツララー、見るのはいいけど離れないでよ。」
「分かってる。」
「空もすっかり保護者が板についてきましたね。」
「うるさい。そもそも百合乃もまだ保護される側なんだけど。もっというと私も保護される側なんだけど。私だけ何故に保護なし?」
「されてるじゃないですか。神に。」
「私は無神論者なんだ。」
神を中にも外にもベッタベタに貼り付けたような私がそうほざく。
でも神を信仰するかしないかで言ったら後者だから。
だからと言って感謝してないというわけじゃないのはなんか解せない。
両脇にいる百合乃も、ツララも、この世界にいなければ友達にも家族にもなれなかった。
「どうしました?」
「ソラさん、何かあったのですか?」
「いや、何にも。」
ツララは変わらず可愛い顔で目を忙しなく動かす。
「もう直ぐ着きます。そこの魯鈍さん方は、お父様とお母様に先に話を聞いてもらい、ダメージを軽減させようと考えております。」
「だから口を閉じさせろってことね。オッケー。」
「いえ、そこまでは……あっ……」
何か憐れむような視線で魯鈍を見た。
『手で塞がれるのなら可愛いのにね』
遠い目をして言う。何おかしなことを言ってんだろうと思う。
そんなの汚いじゃん。こいつには使わなくなった布切れを丸めて突っ込むくらいがちょうどいい。
猿轡をかまされるが如く、刀で鬼を滅するアレのようにムームーとしか言えなくなる。どうでもいいけどあかりんって可愛いよね。
『そんなこと言ってると大きな存在に消されるよ』
『強大な闇……深き深淵に眠りし漆黒の王の傀儡による殺戮劇と言ったところかっ』
『Dー、翻訳』
『えーっと……分かんない』
『私は誰にも理解されぬ孤高な1匹狼なのだ』
とうとう厨二ワード翻訳家であるDですら何言ってるか分からないほどの文章。同じ脳のはずの私でも、1ミリたりとも理解に及ばない。
「見えました。この辺りから、バーストン家の敷地です。」
空に数滴紺を混ぜたような色になった頃、そう言って指差した。そこには、到底農業なんてできなさそうな穴や枯れた土地があり、広がっているようにも見える。
「できないことはないけど……でかく1カ所他の方がマシだねこれ。中規模たくさんとか鬼畜がすぎる。」
「この魯鈍、1発くらい殴ってもいいんじゃないです?いや、殴らせてください。」
「うん。ユリノの言う通り。凍らせたい。そして割る。」
とんでもない殺人鬼がうちの家族に紛れていた。ツララのほっぺをむにゅむにゅしてやった。
「あうじぃ~……」
「今のうちに行ってきたら?私はゆっくり追いかけるから。久しぶりの再会なんて、他人がいたら邪魔でしかないでしょ?」
「いえ、決してそんなことは……」
「いいから行った行った。」
クミルさん、今からはクルミルさんと呼ぼう。私が事件を解決させるんだから、仮名なんて必要ない。
「空がこう言ったら聞きませんよ?とことん甘えましょう!」
「……感謝します。」
クルミルさんは少しだけ辺りを見回すと、一気に駆け出していった。特に後ろの3人と鉢合わせるわけにはいかないので、歩調を緩めることにした。
「そこの。人の心が残ってたら無闇に動かないで。そもそも、魯鈍達のせいでこうなってるんだからね?反省してる?」
「……んんむむん、むむんむんむむむっんんん。」
「何言ってるか分かんない。」
「んむむんんんむむむん!」
モゴモゴと布に阻まれて、まともに聞き取れない。
こんなやつのことはどうでもいいや。クルミルさんを最後まで見届けよう。
クルミルさんは必死になって走る。一心不乱に駆け抜けていく。長い道を駆け抜けて、そこそこの屋敷にだどりついて、突進するようにどんどんと扉を叩く。片膝に手をやりながら。
間も無くして、扉がゆっくり開くのが見えた。
———————————————————————
えー、先日は本当に申し訳ありませんでした。その気持ちを込め、私coverさんはおまけを書くことにいたしました。
近況ノートには書きましたが、アルファポリスのほうでは5月の25、26日、カクヨムのほうでは24、25、26日の投稿を休ませていただきます。東京の方に用事がありまして、帰り次第執筆を再開しようと考えておりますので、その時にはどうぞよろしくお願いいたします。
ふぅ、真面目なこと言うと肌が痒くなりますね。では、おまけへどうぞ。
ちなみに本編中の「両脇にいる~なれなかった」あたりの空の心情です。
おまけ
「魔法少女の胸の内」
この時間は本当に奇跡だ。
百合乃やツララのことを考えてるとそう思うことが多い。
なんたって、神の気まぐれだ。
でも、それで色々な経験が詰めている。
そう考えれば、この世界に転生したのは良かったのかもしれない。なあなあで就いた冒険者の職も、別に気に食わないわけではない。
成功もあれば失敗もあった。
初めて作ったカフェは、実際には失敗も多かった。
金額調整の話で私の提案に「安すぎる」と何度も叱られたり、「新人教育が……」と苦悩するテレスさんの助けをしたり、食材は私しか出せないから練習の機会も少ないしetc……私自身、悶々とした日の連続だった。でも、それは日本じゃ100%起きるはずのなかった出来事。起こせなかったこと。
日本にいればいじめとか家庭環境を引きずって、適当な仕事を適当にこなして適当な毎日を過ごしてたこと請け合いだ。
私が保証する。なんならハンコでも押そうか?
そう思ってみれば私にとって日本はハードな世界線なのかもしれない。まだ、魔物を狩る方が身にあってる。
この世界で私は確実に成長してる。
守りたいものができると人は強くなれる。そうどこかで聞いた。私のは確実にそれだ。
ロアと会って守りたくなって、冒険者になってお金を稼いで、カフェだって作った。その中でたくさんのいい人の出会って、その人達がいなければ今の私達の生活はない。
カフェも、私1人じゃ不可能だった。テレスさんというレストラン経験者がいたからこそ成し遂げられた。
この世界に来て1番変えられたのは、私なのかもしれない。
私の影響で人生が変わったであろう人達を回し見て、そう思った。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる