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14章 魔法少女と農業の街
440話 魔法少女は捕縛する
しおりを挟む「これでよしっと。」
手の土埃をパンパンと払い、目の前に転がる縄に縛られた魯鈍達を見下げる。あの後、ツララが凍らせて勝ったのだ。
「……俺は何をすればいい。」
「白状して罪を認める。それ以外はない。」
一瞥もせずにそう答えると、グッジョブと後ろの3人に親指を立てる。意図を正確に汲み取った百合乃とツララが、ニヤリと笑みを浮かべてサムズアップを返した。
「……皆さん、何を……?」
「クミルは知らなくていい世界。入っちゃダメ。」
「……?」
反応に困ったように眉をハの字に歪めた。
「しかし……何故わざわざここまで遠くにきたのでしょう。ここは、もうドリスに寄った方が良いほどの距離ですが。」
「何かあるんじゃない?もしかして他国のスパイかもよ~。」
「あの馬鹿に限ってそんなことあります?」
「馬鹿は上手く使えば上手い具合に行く。馬鹿は使い道ある。」
それぞれがコソコソと感想を言い合う。魯鈍さん達に聞かれたら大変だからね。
ほんっと、あの魯鈍は馬鹿なくせに分からないところが多い。いつどこでどうやって、なんでとか。5W1HのうちWho以外何も分かってないとか言う絶望的な状況。
もう自白を引き出すしかないかなぁ。
自白剤でも作ってみようかと思案し、まぁまた今度とこれからどうするか考える。ちょっと時間かかりそうなので、硬いパンと干し肉を3人の口にぶち込み、水で流し込んでやった。捕虜に飯を与えるとか私は優しい。
「……確か、この辺りでダンジョンというものが発生してるらしいんですけど、何か関係あったりしますかね?」
「出た、発生原理意味不明存在。」
なんか中国語みたいな羅列になってるのは気にしない。
「ダンジョンは一般的に、大量の魔物の死体や核石が集まってできる、いわば魔力生命体です。冒険者の狩場によくなるのですが……」
「だからどうしたって話だよね……というか、何故に百合乃は知ってるの。」
「ギルドでこの間聞きました。」
「え、そんな通ってるのギルド。」
「ほら見てください。Dランクです!」
ブイブイと、ピースサインを向けてくる百合乃。いちいち行動が鬱陶し……これ以上は黙っておこう。
私が知らない間に正規の方法でランクを上げてる……百合乃って真面目なんだなぁ。もっとこう、弾けた感じかと。
頭の中で、血を滴らせた生首引っ掴んで「魔王斬り飛ばしてきました!」とでも言ってそうな顔で掲げている姿が浮かんだ。なんだこれ。
「なんかノリでここまで来ちゃったけど、私達まだ昼ごはん食べてなくない?」
「確かに、お腹空きましたね。何か作りましょうか?」
「ユリノ、料理は上手い。」
「料理も上手いの間違いですよ~。」
「並の飲食店より美味しいかと思いますよ。」
「料理人冥利に尽きますねぇ。じゃんじゃん食べてってください!」
私が収納から道具を取り出してる間、謎のパフォーマンスを繰り広げる百合乃。料理人はどこへ。
「百合乃~、何作る?材料出さなきゃだから。」
「やっぱり、簡単なのがいいです?時間も時間ですし。」
「だね。」
話し合いの結果、適当にピザトーストでも焼くことにした。具材も種類出して変えられるようにしてるし、パンならあるからいける。
でも、やっぱり……あー!お米欲しい。ご飯がないとなんか食べた気がしないんだよ……料理の幅がガクッと下がってくるんだよ……!
「あれ?農業の街なら米あるんじゃない?」
「ドリスは冷涼な気候ですよ?品種改良もないこの世界じゃ適応しませんって。」
「あ、稲って熱帯のほうか。」
義務教育は大事なんだなー、としみじみ感じた。
「……こんな具材いるの?」
「飽きるじゃないです?」
何故か疑問系。
まぁいいや。このくらいなら私も手伝えるし、具材乗っけてこう。
無駄に作りすぎても収納すればいいし。
この後、食べ盛りのツララがほぼ食べ切るという事件が発生した。
「はぁ~、食べた食べた。」
「魔法少女様々です~。」
木陰で食休みする私達。ツララは食後の運動とか言って魔物と戯れていた。どうルビを振るかはご想像にお任せする。
「さて、これからどうする?あんな大荷物ドリスに運び込むわけだけど、説明怠そう。顔も割れてるし。」
「普通に運べばいいんじゃないです?」
「普通って言ったってねぇ……」
縄で結ばれた三人衆をチラッと見て、これを入れてくれる門番がいるとも思えないなと頭を抱える。
「圧。」
「え?」
「主の圧、ゴリ押す。」
「恐喝しろと!?」
ツララの顔はマジだ。でもそれ以外方法もなさそうだし、無理矢理通ろう。そうしよう。
「よっし、じゃあ行こうか。そろそろ。おいそこの魯鈍、迷惑かけないでね。」
「縄解いてよ~!」
「冤罪、ダメ。ゼッタイ。」
「どこで覚えたそんなセリフ!」
日本人的な言葉を吐いたイズナって子に思わずツッコミ、うちのツララと同じ雰囲気を感じた。魯鈍は考え込むように無言だ。
「それでは、いきましょうか。」
私は縄で縛ったまま3人を立たせ、歩かせることにした。こんな荷物、持ちたくないし。
—————————
梶原慶介21歳大学生。彼の育ての親は、祖父母だった。
幼い頃、まだ物心がつくかつかないかという頃。両親の用事により祖父母に預けられた慶介。その日に両親は追突事故に遭い、間も無く死亡した。
父の死因は頭の著しく損害したこと。母を守るようにして死んでいたらしい。
母の死因は首の骨折。衝撃を受け流せず、首が折れたまま車と父に埋もれた。そのまま死亡した。
祖父母はそんな慶介を我が子のように可愛がり、時には厳しく接した。
学校ではいじめとはいかずとも、両親がいないことをからかわれたりもした。
両親が交通事故で死亡したことを知ったのもこの頃だ。
何故自分には親がいないのか。そう聞いた。祖父母は顔を少し暗くし、そろそろ知っておくべきか、と呟いて語ってくれた。
大切なものを見つけることができたなら、お前はそれを全力で守れ。
最後にそう言って終わらせた。意味は分からなかったけど、なんとなく大事なことなんだと伝わってきた。
しかしそれでは満足できないのが子供心。子供特有の勘により、何か隠していることに気づいた慶介。
今の時代検索すればなんでも出てくる世の中だ。慶介はスマホを使い、当時の事件映像やら事故写真を探して回った。
そこで見つけたのが祖父の言っていた母らしき遺体に覆い被さる父らしき遺体。体の損傷が明らかに父の方が大きい。
子供の慶介には刺激の強すぎる姿だ。肉親が死んでいる姿を見て、逆に平気な奴の方がおかしい。
特殊な防衛本能というものだろうか。脳が認識したくないものを限りなく現実に近い形で曲解する。ご都合解釈というやつだ。
両親が死んだ事実は変わらない。理由が欲しかった。母と父が死んだ正当な理由が。
だから都合よく解釈する。祖父は言ったじゃないか。大切なものを見つけて守れと。だから父は母を庇ったのだ。その大切なことを自分に教えるために死んでいったのだと。
慶介はこれからも自分の都合のいい方向に解釈をし、過ごしていく。不都合から目を背けて。
———————————————————————
なんか短いと思ったそこのあなた。
大正解ですすみません。
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