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14章 魔法少女と農業の街

438話 魔法少女と魯鈍のケイス

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「解体は任せて。」
女性のうち1人がナイフを持って、解体を始めた。綺麗に皮が剥がれていくけど……

 気持ち悪い、うん気持ち悪い、気持ち悪い。
 いや、血単品ならなんとかなる。どっかのセプテットの時は気にしてる暇もなかったし。
 しかし、しかしねぇ……

 内臓引き摺り出されるのは気持ち悪いんだよ!

「主?大丈夫?」
「うん……やっぱりまだこの世界には染まれてないのか……」
目を逸らしながら、でも逸らせないという事実に愕然とする。

「空、代わりに見ておきますよ?」
「ありが、とう。」
ザザッと音を立てながら後ろを向いた。

『音を立てながら?』

「ケーくん、向こうから音しなかったぁ?」
「そうだな……魔物では無いようだが、俺のファンか?今なら怒らないから出てきておいで。」

「なんか爽やかそーな笑顔を振り撒くいてますねー。ぶっちゃけキモいです。クラスに1人はいそうなイケメン気取ってる変人です。厨二病患者乙ってやつです?」
「凄い喋るね百合乃。」
「どうも、実況の青柳さんです。」
こっちもこっちで漫才が始まった。もうええわ。

『開始数秒で終わる漫才がどこにあるの』
『ここー』
『これじゃお金は取れなさそうだね』

 おーい、何呑気に思案してるの。結構大事局面だよ?あいつ捕まえないと、潔白を証明できないんだから。

「でも、あの雰囲気で押し付けるなんて不思議ですねー。押し付けられそうな顔してるのに。」
「百合乃サン?それは普通に酷いと思うヨ?」
急に毒舌キャラになり始めた百合乃。顔は怖くて見えない。

「4人かな?どうしたんだい、そんなところで。」

「気持ち悪いので吐いていいです?わたしを口説いてきた臭い口が何か喚いてます。」
「いつもの百合乃を返して!何?あの魯鈍野郎は人の性格を捻じ曲げる能力でも持ってるの?」
もう隠す気すらない会話に、ツララとクルミルさんのため息のようなものが聞こえてくる。

 これ、どう出たものか。あのご都合解釈アンド変態趣味(想像)の野郎に何言っても無駄だろうし……

「レリア、ケイス、何かあったの?」
「ケーくんのファンだって。アタシ達からケーくんを奪おうって言うなら、受けてた」
たつよ、そう言おうとした瞬間、茂みがザワザワっと揺れる。誰かが立ち上がった音だ。

「ぶっ殺しますよ?誰がそこの魯鈍のファンだって言ったんです?訂正しないとそのおしゃべりな口を永久封印しますよ?」
「えあやっ、わっ、そっその……」
思わず振り返ると、目が完全に死んでる百合乃がサーベルを突きつけて恐喝していた。

「ちょっ!もっとこう、刃傷沙汰にならない方法で!」
「わたしは空のファンです!今すぐ訂正してください!」
「そこはどうでもいい!」
ベシィンッと小気味の良い音を響かせ、「ひゃん」とドMを発揮する。レリアと呼ばれた女の子に、「ごめん、うちのバカ百合乃が」と頭を小さく下げる。

 謝る時は謝る、魔法少女の基本だ。
 今の見た感じ、戦闘スタイル的には魯鈍に罪はあっても2人にはなさそうだ。
 うざいことには変わりないけど。

「……お前、前のギルドの……!」
目を見開いて、私と百合乃を見る。

「仲間に入れてやらないぞ。俺に恥をかかせた罪を後悔するといい。」
「いやだから、別にそういうのいいから。トッテモツヨイ(笑)魯鈍さんにはそこのお2人がいるじゃないっすか。」
嘲笑をつけてそう言ってやった。皮肉が通じない相手は手強い。これで反応はお察しだろう。

「主、なんかキモい。」
私に言われたかと思いとてつもない勢いで首を振ると、魯鈍を指すツララがいた。

 ああ、なんだいつも通りか。

「ツララ~、この人がキモいのはいつものことだから金輪際関わらないようにしようね~。」
「分かった。主の言う通りする。」
ふんすっ、とやる気を表明し、ついでに尻尾フリフリ。何この子かわいい。買ってよかった。

 不人気商品とか嘘みたい。いや、商品とか言っちゃ悪いね。
 大金貨を何枚積まれてもうちのツララはあげないよ。元値1万円とか、見る目なさすぎる。奴隷用品一緒に買ったからってあまりにも安い。

 おっと、ツララ愛がカンストしてたみたいだ。

 一通りツララを撫で終わると、トロンとした目をする。そこもまたかわいいポイントだ。
 そして仕方なく、天国から地獄に目を向ける。と。

「…………おい、そこの獣人の女の子。俺と一緒に行かないか?絶対、こんな傍若無人な女と一緒より……」
「「あ゛?」」
一瞬にして、かわいいかわいい顔が瞳孔ガン開きのヤンキーのような風貌へ。なんか百合乃も混じってる。

 この人、人の地雷踏み抜くなぁ。

「主、馬鹿にした。お前許さない。」
「空はあなたみたいな馬鹿でも自信過剰でも変人でもないです。優しくて人のために行動できるいい人です。一緒にしないでもらえます?」
「口説くセンスなってない。死んだほうがいい。」
「ですです。はい死~ね、死~ね。」
「死~ね。死~ね。」
「言葉遣い荒いよー。やめてー、そんな品のない子に育っちゃいけませんよ。」
突然の死ね死ねコール。デスコール。しかし魯鈍、やっぱり魯鈍だった。

「なら仕切り直そう。お前は綺麗だ。俺の仲間になれ。」
「ケーくん」「ケイス」「「かっこいい!」」
目をハートにさせた女の子達。何これ、エロ漫画の催眠アプリかなんか?

 念のため龍の威軽く纏わせといて。神の加護受けまくってる私ならなんとかなるだろうけど。

『まぁ慢心は大きなスキだからね。やっとく』
『任せておけ。完璧にしておく』
仕事は任せられる私達。いつもこんなふうに頼もしければいいのに。

「無理。」
プイッと完全にそっぽを向かれた。ちょっと笑いそうになった。そしてやっぱり文句をつける女の子2人。気を遣ったのが馬鹿みたいだ。

「一体いつ本題に……」
クルミルさんも私達のバカさ加減をよく知ったのか、もう遠慮なしにそんなことを呟いた。

「お前もか……」
「黙れ。」
私はアッパーをかます。

「そもそも、あんたら捕まえるために来てんの。その必要があること、分かるよね?」
「俺たちは人助けをしているいわばヒーロー。何か捕縛される理由などないが?」
「へー。そんな高圧的な態度取れる立場にあると思ってるんだー。」
ラノスを見せびらかし、持ちながらゆらゆら揺らす。露骨に引き攣った顔をする。

 お、この反応日本人かな?

「ねぇ。これで撃たれるか連れて行かれるか、どっちがいい?」
「お前……」
「農業の街ドリスだったっけ?」
「はい、そうです。」
「そこで、好き放題して更には罪までなすりつける……流石魯鈍さん、やることが違う。」
皮肉を飛ばしてやる。ここまであからさまなら分からないはずがな……

「何まんざらでもなさそうな顔してるの?え?皮肉っていう日本語ご存知でない?君何年生?小学生でもこれくらいの皮肉わかるよ?」
「空、何言ってるんです?」
魯鈍さんが魯鈍すぎてちょっとやけになっちゃった。でもまぁ、うん。仕方ない。

「あれは完璧な仕事だったと思うんだ。全ての魔物を討伐し、他にも問題があったらしいから解決しやすいようにしておいた。立つ鳥跡を濁さずとはこのことだろう?」
「ケーくんは凄いの!」
「そう。完璧。」

「なんだろう。実力はあるのに盲目すぎるこの2人。可哀想。」
「魯鈍さーん、立つ鳥跡を濁さずっていう言葉ご存知です?今の時代ググれば一瞬ですよ?」
「ツララさん、お2人は何をおっしゃってるのでしょう。」
「気にしない。文字通り、2人の世界。」
2人が何かコソコソ話してる。けれと魯鈍が魯鈍なのだ。

『この人嫌ーい』
『生理的に受け付けんな』
『自分を美化しすぎなんだよ』
『明らかに不利益に目を瞑ってるね』
私も満場一致の罵倒。いっぺん死んでみてもいいかもしれない。

「罪の意識がないって、怖いね。」
真顔でそう言って、ラノスを突きつけた。

「無理矢理にでも連れてくから。私の大事な人の1人の人生を、こんな魯鈍になんて曲げさせない。」
「そっちがその気なら実力行使と行こうか?」
「元からそのつもりっつってんだよ魯鈍。」
いつもより目に力を込めて言い放つ。威圧もマシマシだ。しかしそこは魯鈍。馬鹿だから気づかない。

「主。」
魯鈍と銃の間。ツララがゆっくり歩いてやってくる。

「あたしに、やらせて。」
「ツララ……」
片腕を広げて銃口を隠す。その目は何かしらの覚悟的なものが宿ってるような気もしないでもない。

『そこは言い切ろうよ』

「俺を庇ってくれるのか?やっぱりお前は俺の……」
「……れ。」
「ん?」
「黙れって、言ってる。」
鋭い視線を突き刺して、全身に力を込めた。

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 うーん、魯鈍さんがいると色々狂いますね。全てを都合よく解釈アンドそれを許容する女の子2人。そんな中口説いても怒られず……人生謳歌してそうですね。嫌なことから目を背ける才能が天元突破してますもん。
 でも、キャラがキャラなせいで私の嫌いなキャラのようにはできませんでした。
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