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14章 魔法少女と農業の街
435話 魔法少女は引き留める
しおりを挟む「こんなことで良かったのか?」
お付きの人と一緒に刑務所の前まで来て、私にそう言った。
「まぁ……よかったんじゃない?」
「なぜそこで疑問形なんだ。」
「さぁね。何がしたかったか私自身もよく分からないし、よかったって思うしかないかなーって。」
「よく分からないな。」
フィリオの横を通り抜け、空にグッと腕を伸ばして肩をほぐす。なんか疲れた。
そもそも私はまだ17歳。働きすぎてる。未成年は法律で何時以降働いちゃダメとかあった気がするんだけど、法律どこ行ったの?
『ここは日本じゃないよ?』
『現実を、見よう』
静かに頷く私。事実は小説よりも奇なりとはまさにこのこと。
子供でも働かないといけないなんて……なんて世知辛い世の中なんだ!
そもそも普通の街人ってどういう風に就活してるんだろう。なんか気になる。
どんどん話題が逸れていってる気がするけど、問題ない。フィリオと分かれて、軽く散歩をしながら街へ向かう。家には直行せず、まずはカフェに行こう。
『魔法少女移動中』
変なナレーションつけんでいい。
程なくして、バカみたいな色彩のカフェに着き、ジト目で見つめる。何この陽キャ感。この世界スマホも写真(は知らないけど)も映えもないよ。そもそも映えない。
ピンクやら水色やら悪目立ちしたその色は、全くもってこの街にあっていない。ちょっとテレスさんの感覚を疑う。酒飲んでやったんじゃなかろうか。
さすがにそれは失礼か。
「いらっしゃいま……オーナー?」
「ん?」
「……ソラさん。お久しぶりですね。確か王都に行ってらっしゃったと聞いたんですけど、帰ったんですか?」
「まーね。」
手頃な席に座る。何にするかを聞かれたので、とりあえずクリームソーダとアイスにした。疲れた時は甘いものに限る。
ちなみに珍しいだけでアイスもあるらしい。ほんと、この世界の人達は食に強いんだと確認させられる。
某Web小説サイトとかで、よく日本の知識を使って料理革命起こしたりしてるけどさ……現実を見てみ?
確かに、日本の食文化の知識はこの世界とは違うものもあって独創的だ。でも、私達はその道のプロでもなく一般高校生。
(この世界の人類史がどのくらいかは知らないけど)今まで積み上げてきた先人の知恵と工夫が容易く覆されるなんてあり得ない。
ぶっちゃけ料理とか経験じゃん?どれだけ知識があっても、宮廷料理人と勝負したらボロ負けだね。テレスさんがいい例だ。齧っただけの私とは格が違う。ネットもないこの世界は練習あるのみ。
『これなんの話?』
『さー?』
『とりあえず話を戻して。謎の批判やめて?怒られる。各方面から』
私からのお怒りを受け、仕方なくまとめることにした。
つまり、地球でできるんだからこっちでできないわけないよね。ってことだ。
「はーいお待たせしました。」
「ありがと。」
テーブルにコトコトコップと皿が置かれる。手際がずいぶん良くなってる。
「あぁ、そういえばテレスさんとネトラーさんどうなった?」
「それが……」
一瞬目を窄めて、厨房の方を見た。私もそっちに目を向けると、テレスさんの指に光るものがついている。結婚指輪、ちゃんとついている。その隣には……
「リア充……」
「私たち従業員が見えてないんですかねぇ……」
2人とも、眩しい物を見るように目を細めた。
これはあれだ。結婚式開くパターンだ。
『誰が?』
私が。
『『『『やめた方がいい』』』』
知ってるよ!どうせ魔法少女カラーになるとか言うんでしょ!
『いやまず……経験が何ひとつない私がやったところで……ね?』
『ふっ、私の封印されし魔眼が解放されるのだ』
変なルビ変換された気がする。私のくせに私を罵るとかいい度胸だ。今更だけど。
「結婚式とか、もうやってるの?」
「いや……話は聞いてませんね。あのイチャラブぶりはレイン君もちょっとやりづらそうにしてますし……店長と応相談ですね。」
「頑張って。」
ストローを咥え、ズズズと口に流し込む。アイスにアイスとかいうバカな組み合わせだけど、久しぶりの甘味は身に沁みる。
あ~……炭酸は生き返る。
HPを回復させた私は、しっかり会計をして店を出る。ロアはいなかった。また今度でいいかなーと帰路を辿ることにした。わざわざ家に行くのも突然で申し訳ないし、別の機会にすることにした。
せっかくなんだしと歩いて帰ることにし、1ヶ月以上ぶりの街並みを眺める。帰ってきたって感じだ。第二の故郷とはこのことかと、17歳ながらにして思う。
日本より居心地がいいとさえも思った。
お義母さんにもお義父さんにも、感謝はしてる。でも所詮は他人。少しは遠慮する。
先は長くないと金銭的援助もなかなかにされてきたけど、それは家族とかではないように見えた。だから二次元に逃避したんだけど。
私は今幸せだ。ここは家族のように暖かい人も多くて、飽きない生活が送れる。命の危険があることを除けば楽しい限り。知らないこともいっぱいあるしね。
知らぬ間に家の前まで着いていたらしい。昼ごはんはまだだから、何か百合乃に作ってもらおうかと扉を開ける……
「……クミルさん?」
「ソラさん。少し、お話があります。」
三つ指をついた畏まった挨拶が、目の前にあった。
私の幸せは……?
立派なフラグだった。
「単刀直入に申します。」
テーブルに腰を落とし、4人は話し合いの体制になる。隣にツララ、左前に百合乃、正面がクミルさん。
「本日をもって、辞職させていただきたいのですが……よろしい、でしょうか?」
机にコインを置いた。鍵的なあれだ。私の場合は魔力の反応で勝手に開くようになってるため使う機会がないし、ツララは飛び越えてくる。百合乃はダイナミックに帰ることが多い。
あれ?うち誰も鍵使わない?
でも空き巣はゼロという。一体どこの誰のせいなんだろう。というか冒険者ギルドの真裏の丘とかいう見晴らしもよくて行きにくいところ、犯罪者は近寄らない。
「クミル、何かあった?」
「そうですよ。楽しそうにしてたのに……いきなりなんて何があったんです?」
百合乃も心配そうに眉をハの字に曲げる。ツララもだ。
「知っての通り、私達は普通じゃない冒険者。だから、何かあるなら依頼して?別にお金は取らないし。」
「…………お責めにはならないのですか?」
クミルさんは不安そうな顔で小さく手を挙げる。
「責める?なんでです?」
百合乃が代表して首を傾げる。
「別に、辞めたってこっちは責められないけど……ただ、個人的に辞めてほしくないってだけ。」
「クミルいい人。何かある。助ける。」
ツララが二の腕に手を置き、頑張るぞいと一言。どこで覚えてきたんだか。
百合乃?百合乃じゃないよね……?確かにあれは百合要素あることにはあるけど……
でも今はそんな雰囲気じゃない。思考を一旦保留する。
ツララがこっちに目をやり、私はそれに頷いた。
「ねぇ、何があったかよければ話してほしい。」
「いいんでしょうか……そこまで甘えてしまって。今までもよくしていただいたのに。」
「いいんですよ!クミルさんがいなくなったら寂しくなりますし……甘い野菜が食べれないのは嫌です。」
「本音紛れてるー。」
「てへっ。」
百合乃が舌を出す。ツララの氷アタックが炸裂。
「この頭百合畑の変態は置いといて、理由を話してほしいって思う。そのくらいの親密度はあるつもりだし。でも、もしこっちに不備があったら引き留めたりしない。こっちが悪いんだしね。」
「主、優しい。だから大丈夫。」
「…………………分かり、ました……」
小さく頷いて、息を吐いた。
「話しましょう。少し長くなるかもしれませんから、まずは紅茶でも淹れて参ります。」
作り笑いで席を立ち、私達は席に取り残される。
———————————————————————
ゴールを定めずに走り出した結果引くに引けなくなって無理矢理走り続けているこの作品、どこまで続くか本当に予想がつきません。
もうそろそろ終わらせてもいい気もしてきました。
それはそれで寂しいですけど。
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