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14章 魔法少女と農業の街

434話 魔法少女は追悼する

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 コツコツと、石の床を歩いていく。ここは刑務所。恵理がいたあそこだ。

 あの後、泣き止んで頼んだんだよ。

 話に聞いたイレイア、あの人も恵理の火葬に付き合ってもらいたい。私のエゴだけど。やらないよりかはマシだと思ってる。

 Xの左下の真ん中ぐらいのところに案内された。ここに例の子がいるらしい。

「あー、イレイア?この部屋であってる?」
鉄扉越しに声をかける。全然反応がない。私の目は少し腫れてるから自分から入るのはなんか嫌だ。正面見なきゃいけないし。

「……開けるよ。」
横を向き、貰った鍵を鍵穴に刺して開錠する。逃げられないよう、注意ははらう。

「……なに。」
まるで人間に裏切られた狼みたいな目をするイレイアが、私を見つめて睨む。長めの鎖で腕を繋がれたまま。

「今日は報告と誘いに来たんだけど。」
「…………施しは受けない。」
「恵理のことでも?」
「ッ……!」
ガシャンッと、鎖を繋ぐ鉄柱を破壊する勢いでガンガンと引っ張る。手首から血が滲むのも気にせずに。

「《女王》が、なんだって……!」
「死んだ。」
「コロス!」
手首が無くなるんじゃないかというほど強く食い込む。鉄柱がメリメリいってる。コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス、と連呼してる。

 めっちゃ怖いんだけど何この人。涙引っ込んじゃったよ。いやいやほんとに。

 遠慮気味に足を伸ばすと、歯をギリギリと鳴らせて威嚇してくる。

「そういうんじゃないから!私は殺してない。見殺しにしたと言えばした。でも恵理がそれを望んだんだよ!私がそれに口出す権利もないし、恵理が、稲神恵理という1人の少女として死にに行ったんだ!だから、その死を責める理由も責められる言われもない!」
さっき泣いたおかげで、前の方で突っかかってくる自制心がなくなった。つまり激情のままに叫んだ。

「……塩の匂い。」
「ゔっ。」
こいつ、勘がいい。

「貴様……何が言いたい?」
「恵理を火葬したい。だから一緒に来て欲しい。この世界で恵理のことを1番理解して、真実を知ってるイレイアには来てほしい。」
「……行く。」
「ありがとう。」
その返事を聞くと、もう1つの鍵で手錠を開けた。その瞬間に龍の威を発動する。実験はしたからセーフだ。

 さぁて、効き目はどうかな?

 イレイアを見てみる。瞳孔がめっちゃ開き、ピクピク痙攣してる。冷や汗とも脂汗とも言える汗が額から吹き出し……

 めっちゃ効いとるやないかい。

 エセ関西弁が出た。

「私はいつでもイレイアを殺せる。分かった?」
「…………」
不快げに首を縦に振る。警備の人に渡された札をイレイアの背中に貼ると、「出て」と引っ張り出す。

 無理矢理にでもやらないと歩いてくれないな……もういっちょいっとく?

『それだとあの子失神すると思う』
『漏らすかもね』
『ふっ、本当の力とはいざという時になって解放することこそがいいのではないか!』
『へ~』
興味なさげなD。Cは悲しそうだ。

 漏らされても困るんだけど。布とか持ってないし。ローブで拭けとか言われても、そんなの喜ぶの性癖持ちくらいだよ。

 真横でポニテが左右に振れる。警備の人から敬礼を何度もされつつ、いやそんなことしなくても……と内心思う。

 でも、領主やら国王が目にかけてる相手に雑な扱いしてチクられでもしたらクビが飛ぶとか思ってるのかな。そんなことしないけど。場合によっては。

 場合によってそれ以上のことになるかもしれないけど、それは才能があったということで。私をキレさせる。

「よし、こっからちょっと走るよ。」
「え、なっ!……貴様っ!」
「ん?」
「ぃ………」
神の力の無駄遣い。そう言われたって私はこう使う。使い方は人それぞれだ。個人の自由だ!イレイアを抱えてそんなことを心で喚く。

『勝手に渡した能力を変な風に使われようと、渡したのはルーアだ。責任はルーアにある』
『『『そうだそうだ』』』
拳を何度も突き出し、無実を証明しようとする私達。こういう時の団結力は凄まじい。

 あれか。共通の敵が現れると敵同士でも急に手を取り合って相性抜群を見せてくるライバル同士的な。

「街の外でやるのも躊躇われるし、パズールの外も外側。ギリギリの森林でやろう。あ、喋ると口噛むよ。」
私のスーパー脚力ステータスにより爆速で駆け抜ける。もう家のひとつも建ってない。そもそもフィリオん家の周りに家なんてないけど。

 なんでも、郊外に家を置けば安く広い土地が使えるし家を仕事場にもできる。中心に近くて需要のある、金になる土地を空けておきたかったとか。
 つまり街のためと。

 数分も経たずもうどこか分からないところまでやってきていた。腕の中のイレイアは「どこまでいくつもりなの……」と涙目で言っていた。

「この辺にしようか。降りて?」
まるで生まれたての子鹿のような震えた足で立ち上がる。私の肩に両手を乗せた。

「…………」
「別にいいからね?」
「……敵に、情けを…………」
ギリっと歯を噛んだ。どんだけ悔しいの。仕方なくイレイアが落ち着くまで棒立ちで待ち、1分程度で持ち直してくれた。

 その頃にはバッと手を離し、バツが悪そうに下を向く。

「……《女王》は?」
「こちらに。」
魔法のようなスピードで腕に恵理を乗せる。

 まぁただ収納から出しただけだけどね。

「大層な葬式にはならないけど、恵理を知ってる私達が手を合わせられれば……いや私はいいか。イレイアが手を合わせてあげるだけで喜ぶんじゃないの?」
「…………分かってる。」
小さく返事をする。その間に私は地龍魔法で穴を開け、恵理を寝かせる。そしてファイボルトのファイを残した部分を凝縮した魔力球を手に持つ。

「タイミングはイレイアの好きにして。あと、燃やすまで私は何も見えてないし聞こえてない。はいこれ。」
「あ、……ありが、とう……」
魔力球を渡すと、私は少しだけ離れる。イレイアの声を聞くつもりもないし、聞いたところでどうこうしようとも思わない。

『私のくせに気が効くね』

 しれっと人を貶すんじゃない。

『自分が泣いたこと隠そうとしてない?このままだと感動で涙が……』

 勝手に言ってれば。

 冷たく返事をする。その隙に万能感知を発動させ、動きだけを見ておく。

 そもそも私は恵理のことで泣いちゃったんだから、今更もう泣かないよ。泣きが伝染する可能性もないことはないけど。

 イレイアが泣くこと前提で話してることについてはノーコメントだ。

 ……暇だ。へい私、話し相手になって。

『私達はS○riじゃない』
『身の程を弁えろ私』
『いいよ~』
純粋なDしかいい子はいないようだ。涙が出そうだ。

『え、泣くの?なら記憶念写で撮っておくからちょっと待って』
『用意できてるよ』
『よし、泣いていいよ』

 私達は鬼か!人間の心ってものがないの!?

 自分に向かって言っているため、ダメージはもちろん自分にある。なんか腹立たしい。

 と、万能感知に動きがあった。ファイのほうの魔力が映った。

「終わった?」
「……っ………………」
小さく頷く。私のように目を腫らすことはなくとも、なんか泣いたんだなっていう雰囲気は感じ取れる。燃えている最中の恵理に、私は両手を合わせた。

 今、恵理はどこにいるんだろう。案外日本に帰ってたりして。まぁそんなわけないか。

 そこでふと気づき、収納からもうひとつ物を取り出す。それと一緒に、追悼する。

「それは……?」
「恵理の大切な物。イレイアなら知ってるでしょ?恵理のこと。これは、もし私が日本に帰ることがあったらその時にでも埋めてくよ。」
「…………ぁ」
「あー……恵理の何か形に残るものが欲しい系?なら、これ。」
口を開きかけたイレイアに、鉄の塊を。というより鉄扇を。

「武器にしないんならあげるけど。」
「貰う。」
私の手に収められたそれを奪い取るようにし、胸に抱く。それを微笑みで見つめ……ようやくひと段落ついたんだと思えた。

 骨以外が燃え尽きた後も、それは続いた。

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 以上、小さなお葬式もびっくりな超小規模(燃やすだけ)の極小お葬式でした。
 この後イレイアは無事刑務所に送還されたのはいうまでもありませんね。
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