魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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13章 魔法少女と異世界紛争

429話 魔法少女は事情説明

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 泥のように眠りについた私は、起床後寮の1階でいつもの如く朝食を摂る。

「ソラ、隣いいか?」
「前でお願いします。」
「……そう返されるのは初めての経験だ。」
声だけで名前を聞かずとも分かる。低い声の女性といえば、アーネールさんしか思い浮かばない。

「昨日は助かった。感謝する。」
「いえいえ。あのままだと死にそうでしたし。ちゃんと水分塩分摂りました?」
「心配はいらない。そもそも、ソラは親でもあるまい。」
「同僚の心配くらいしますよ。」
いつもより香りと味がいいスープを口に含みながら、相槌を打っていく。

 アーネールさんは働きすぎだと思う。筋肉があるとはいえ、どちらかと言えば細身なアーネールさんがぶっ通しで、9月の残暑に耐えながらなんて厳しいに決まってる。

「何かあったか?」
「いや、まぁ……ないと言えば、嘘になりますね。」
小声で言った。

「昨日の頑張りように関係はあるか?」
「それなりには。」
もう1度、小声で言った。

 まぁ、まともな世界で1日いれば目が覚めるのも当然っちゃ当然だよね。
 寝耳に水、冷水ぶっかけられて頭が冷えた感覚。麻痺ってた身体にそのままの意味で血が通って、物事がはっきり浮かび上がってきた。

 忘れてたよね、恵理。

『シリアスムードぶっ壊しで笑える』

 笑うな笑うな。
 まぁこんなシリアスっぽい雰囲気出しときながら忘れてたのは恵理の死体って。
 それも十分重大なことだけどね?

「ソラ、あなたにお届け物です。」
私の隣にお盆が置かれた。それと一緒に封筒も。「え?」と隣を見ると、サファイア色が目に入る。

 学園長?

「学園長権限でお隣を失礼します。」
「アーネールさんの隣じゃダメなんですか?」
「……権限を行使してもダメでしたか。」
と言いつつちゃっかり椅子に座る学園長。まあ強情なこと。

「どうせ、私辞めることになるんで。この際言いたいこと言って帰ろうかと。」
「何か言いたいことでもおありで?」
「いや全然。」
お椀片手に、封筒の中身を見てみる。中には紙が。そして、飲みかけの汁を吹き出しそうになった。でかでかと、招待状と書かれていた。つまりは城に来いと。

「国王陛下からの直々だなんて一生に1度の経験を何度も得られるなんて羨ましい限りです。」
「そのような特別な立場になったところで、面倒が増すだけに思えるな。」
「実際その通りですね。」
封筒の中に紙をぶち込み、収納する。これも一緒に恵理と燃やしておこう。

「では私はこのあたりで。やることあるんで、早めに城に向かうとします。」
「気をつけて行くんだぞ。馬車には気をつけろ?」
「アーネールさんも、親じゃないんですから。」
しっかりお返ししながら食べ終わった食器を返却口に返す。どうせ説明をしろとかそんなんだから、頭で話す内容でも考えようかなとか思いつつ、寮を出る。

「……眩しい。」
朝一番にカーテンを開ける習慣なんてないため、目を細めながら空を見た。ちょっと曇ってる。

 なーんか早々に気分落ちる。
 こんな天気に葬式(笑)するの縁起悪いかな?また今度にしておこうかな。

 制服のまま外に出る。昨日のうちに手伝えることはやっておいてあるので、心置きなく葬式もできる。国王の手紙は無視するとして。

 そこそこ遠いからゆっくり加速していき、走っていく。魔法少女パワーで疲れることはないのはありがたい。

 途中、ホップステップジャンピングしたこともあったけど、これは時短のためだ。仕方ない。

「よっ、と。メッッチャ疲れた。病み上がり……ですらない身にはきっつい……」
弱音を漏らしながらも橋を渡る。なんで城の周りには川が通ってて橋がかかってるんだろう。

 お金もかかるしめんどいし。何故に。

『防衛も攻撃もしやすいからじゃない?侵入されたらきついけど』
『まずここまで来るのが難しいしいいんじゃない?』

 私達はなんか優秀だ。同じ頭のはずなのに羨ましい。
 見飽きた城を一眼も見ずに、中に入る。

「お待ちしておりました。本日は謁見の間ではございませんので、そう肩肘張らずに結構でございます。」
「あ、えーっと……あ!国王の隣にいるすごいメイド!」
「そうでございます。ご存知頂いて光栄です。」
そうとだけ言うと歩いていく。何故かいつの間にか歩いているように錯覚するメイドマジックに、恐々としながらついていく。いつもの部屋に向かっているようで安心だ。

 あのメイド……やっばいくらい美人だったなぁ……いや、まじまじ見るのとか初めてだし。超弩級のメイド、略してドMだ。
 この城のメイドは大抵ドMだけど、あのメイドは一層抜きん出てるドMだからね。すごいドM力だ。

『なんて言葉連呼してんの私。はしたない』

 えー、私はただ超弩級のメイドって言ってるだけなんですけどー。

「先ほどから何か怪しげなことを考えておりませんか?」
「やっべ、この人ほんまもんのドMやわ。」
「どえむ、と言うものを存じ上げませんが、何か貶されているような気がします。」
前後で顔が見えないはずなのに察知できる……いやそもそも心の会話を顔で読み取るとか不可能だ。

『ふっ、この程度できなくては一流にはなれ』
『確かに、これはドMだ……』
『私達まで乗らない!』
『ドM~!』
とうとう4対1に追いやられた私B。なすすべなく、おずおず引き下がるのが見て取れる。

「お連れいたしました。」
コンコン、扉をノックする音だ。ドMさんは返事を待たずして扉を開ける。きっちり3拍間を取ってたのはすごいところだ。

「よく来たな。」
国王の方を見ると、いつもの豪華な椅子に座している。上座というやつだろう。国王から見て正面にある向かい合わせのソファと間に置かれた机もいつも通り。そして隣にはもういないメイド。国王の隣で紅茶入れてる。マジメイド。

 もういいや。この世には私ですら計り知れないとんでも存在がいるんだよ。
 多分あのメイド、スカートの中にナイフ仕込んでいざとなったら時でも止めて投げるんでしょ。知ってる。

 変な妄想を膨らませながら、ソファに座る。布が赤くて縁が金とか、もうバリバリの金持ちって感じ。

「オリーヴ。ソラにも紅茶を。」
と、言われた瞬間私の隣で紅茶を注いでいる。なんだこの人。

 ってか名前も秘書っぽい名前?究極のドMやないかい。

 エセ関西弁が出た。

「で、事情は話してもらえるんだろうな?」
「そのために来たんだしね。」
ため息を吐きながら、紅茶を啜りながら、小さく呟いた。優先度は喉の渇きを潤すこと。走ってきたから喉乾く。

 あ、美味しい。ドM力が振り切れてるよ。

 カップとソーサーを置き、国王の方に目を向ける。国王の真横で目を伏せ佇むドMさんはいつも通りだ。

「まず言いたいのは、魔力活性化は止まった……というか解決した。」
「ほう。」
「学園の放火魔も魔力活性化引き起こしてたやつも同じ組織でそいつをちょっとぶち転がしてたというかなんというか……」
細部は転生者関連含むから話せないけど、なんとか身振り手振りで誤魔化す。

「どのような組織だ?」
「えーっと…………あ、そうそう!なんか神から力もらったとか言って、世界征服するとか言ってる連中。強さは、幹部連中で騎士が束になっても不可能なレベル。」
「それはまた、恐ろしい組織だな。攻められては勝ち目はないというわけか。それを倒したような口ぶりなのは置いとくとして、裏付ける証拠があればなお良いのだが。」

 そう言われましても……

 悩み詰めていると、国王が先に口を開いた。

「そういう考えもある、ということで進めよう。待っていても、真相を語る様子もなさそうである。迷惑をかけたな。」
「えっ?今のでいいの?」
我ながら真相の半分以上をひた隠しにしたあの説明で納得され、内心驚愕する。まぁ表にも出てるけど。

「どうせ早く帰りたいとでも思っているのだろう?報酬はパズールの領主に1度送る。そこから受け取れ。」
「え?いやえっ?報酬?」
「諸々払っていなかったろう?もしも、魔力活性化の件が嘘であったら、相応の罰が降るだろうがな。」
がははと笑い、いや笑い事じゃないでしょうよという思いを紅茶で流し込む。というか、さっき飲み干したのにいつの間に注がれてたの。

 今日の収穫は、ドMが凄かったということくらいだった。

 そういえば……報酬ってどのくらいだろう。

———————————————————————

 本当に今章も終わり気味。遅筆は混沌を極め、更にはこの作品の終わりの目処は全く立っていませんが!アクセル全開で!なんとか、頑張っ、て……いき、ま、しょ…………う…………

 あ、もう燃料切れみたいです。
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