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13章 魔法少女と異世界紛争
430話 魔法少女は離任する
しおりを挟むあれから2週間が経ち、残暑もすっかりなくなった頃に学園は脅威のスピードで再開された。これもひとえに私のおかげということで、印象アップも図れて一石二鳥だ。
そんな再開初日で、私は学園室にいる。
何故かって?
「———というわけで、彼女は学園を離任することとなる。妙な邪推はしないよう。役目を全うし、解放されるだけです。国王陛下からこの間、直々に潔白が証明されたというのに疑う人間はもはやいないでしょうが、決して我が学園の風紀を乱すような……」
と、学園長は長々語っていく。
この流れ前に見たって?まぁそりゃそうだ。着任式も似たような感じだし。
「本日までは高等部B室に必ずいるので、もし最後に一言あれば、赴くことを許可します。それでは、最後に。」
学園長の視線が私に向けられた。また私に話せと。
ま、まぁね。私も成長したんだから、挑発的な挨拶はしない。うん多分!
恥ずかしい真似だけはしないようにしよう……
そう心に刻み込みながら、学園長から席を譲ってもらう。
「着任式ぶりの人が大半だと思うけど、高等部2年B室で仮教師、3年の補佐をしたソラです。離任式ということで、ちょっと真面目にいきたいと思います。」
そう前置きをしつつ、襟を正す。
「私が追求され続けた罪は結果論。しかも解決しようと動いたただの善人。けど、周りはそう思わない。私が納得いかないならいくらでも攻めればいい。受けて立つよ。でももしそれをするなら、似たような立場になった時絶対に全てを受け止めるって約束して。まぁ、その辺は直接。」
真面目な話をしすぎて体が強張る。ふぅーっと息を吐き出して気持ちを整えると、肩を落とす。
「パズールに行けば嫌でも私の噂はあるから、もし本当に困ってるんだったら力を貸さないでもない。じゃあ、元気で。」
そう締めくくると学園長にバトンタッチ。肩を回して筋肉をほぐしつつ、よくやったな私と、自分の筋肉と対話する。
『どこのマッチョ?』
『ぱわー!』
横でふざけるDに、興が醒めるように引き下がる。
『あんなこと言っていいの?頼られでもしたら厄介でしょ』
『うん。そもそも私は家を空けることも多いしこられても困るよ』
私の言い分はもっともだよ。でも、それは素直な相手に限る。今回はプライドの塊の学園生。前置きで軽く煽ってあるから、余程の強心臓の人間しか来ないでしょ。わざわざパズールに行く?普通。頼みに家に。権力は暴力を時には上回るんだよ。
私のパワーイズパワー(脳筋)思考からは驚きの言葉に、私達は驚愕のあまりに思考停止……
『してないよ?』
だそうなので私はこれにて退散することにした。
放送が切れたのを確認し、学園長に「今までお世話になりました」と頭を下げてから部屋を出る。間違えてもVtuberみたいに配信切り忘れるみたいなことはしない。
「B室も最後かぁ。まぁ授業なんてしないけど。めんどいし。」
授業内容を何ひとつ考えずにぶらぶら向かう私は、さすがに最後くらいピシッとしようと背筋だけは伸ばす。
「はーい、おはよー。」
いつもと同じように、最後の1日の始まりに軽いノリで教室に入った。これが地獄の始まりだった。
「ほら、祝い酒だ。」
授業が全て終わり、皆が帰路……大抵は寮生活なため寮に戻った頃、教員室の自分の席の片付けをしていた。
「……私未成年ですけど。」
「今日くらいは気にするな。今は私も何も見ていない。」
「お気持ちだけいただきます。」
私物なんてほとんどないその席の物をまとめ、ステッキからガラスコップとジュース瓶を取り出す。1.5リットルのパーティーサイズだ。
ぶどうに似たやつ。多分。色が薄い白色の透明色でなんか違和感あるけど、ぶどうだよ。味は完全に。日本みたいに粒じゃないけど。
こう、楕円形で齧りやすそうな形。
そのジュースをトクトクと注いでいく。
「アイスシールド。」
小型のアイスシールドを氷がわりに投入。キンキンに冷えたジュースがさらに締まる。
「今日は1日、大変だったな。」
「まさか別学年からもくるとは予想外だった……」
と、昼間のことを回想しながらジュースを口に含んだ。甘さがスッと喉を通る。
見た目に似合わず豪胆な言葉とか天使の慈悲とか頭のおかしい人らとかガチで私を疑う陰謀論者とか、普通にカラ達とか。
ちょっとやかましい1日でご飯もまともに食べられてない。
さすがに傷はだいぶ癒えてるけど、無理していいようなタイミングでもない。今日の夕食はちょっと多めにと思った。
「アーネールさん、今日寮の食事じゃなくて私の料理食べません?この前言ってた肉の話、考えますよ。」
「それはいいな!学園の食事はタンパク質が足りない。確か好きなものを買って来ればなんでも良いんだろうな?」
「落ち着いて、落ち着いてくださいよ。作りますから!」
肉の話になるとやたらとぐいぐいとくるアーネールさん、どーどーと暴れ牛を宥めるように手で制する。その辺りで、救いの手が伸びる。コンコンっと。
「失礼致します。」
「はーい何の用で?」
アーネールさんの包囲から抜け出すように返事をする。
「お久しぶりです、ソラさん。」
にっこりと微笑む白髪の少女。
「ネル!…………と?」
よく目を凝らすと後ろにもう1人、人がいた。めっちゃ凄いオーラ放ってる。
「お初にお目にかかります。私はセリアス。セリアス・アングランドと申せば分かりますか?」
綺麗な立ち居振る舞い。この目でスカートの端を掴んでお辞儀とか見るの何気に初めてな気がする。
「アングランド……………あ、あの王の。王?王女ぉ!?」
救いの手は罠だったみたいだ。私は数歩後ろに下がり、倒れるように机に手を付く。
「お話通り片腕がないのですね。不便でしょう?」
「魔法があるし身体能力もそこそこあるけど……不便といえば不便かな。」
視線をずらして回答する。ただでさえ国王と関係があるのに王女とまで関わったら私死んじゃう。
おかしいってほんと。私の周り権力者だらけすぎる。何これ誰かの陰謀?
『さっきの陰謀論者に感化された?』
心の私は悠々と安全圏から口出しする。
言っとくけどこの王女様何故かオーラむんむんに出してるからね!その辺の魔物より怖いよ。
「申し訳ありません。少々威圧しすぎたみたいです。お詫びと言ってはなんですが、わが国が誇る最高の義手を用意させましょうか?」
「いやぁ……まだもう少しこのままでいいかなって……」
「そうですか。では、お気が向いたらぜひ。」
途中アーネールさんを盾にした。この子のいるクラスの担任、可哀想すぎ。
「すみません、ソラさん。最後にどうしても顔合わせをしたいと頼まれまして。」
「ネルぅ……」
苦笑するネルに視線をぶつける。どうにかしてと懇願する。なんか情けない。
12歳相手に生まれたての子鹿みたいな私って……でも怖いものは怖い!暴力を超えた権力は私でも怖い!
「恐縮しないでくださいませんか?」
「いや、王女様……ほんとに12歳ですか?」
「敬語はいいですよ。お父様のお知り合いなのですから。」
「ネル、何この子いい子。」
「ははは……」
こんな茶番は置いといて、片付けられた席の椅子に座ると、あらためて用件を聞いた。
「ただの挨拶ですよ。もう6年会えないんですから。」
「大きい休みには行くよ?」
「嬉しいです。私からも手紙を出させていただくこともありますから、その時の返事は期待してますよ?」
にっこり貴族スマイル。これは男子に向けてはいけないものだ。
成長したなぁ……ほんと、しみじみ思う。帰ったらフィリオに教えてあげよう。
———————————————————————
はい、今話でこの章は終了でございます。次章は今まであまり出番のなかったあの方に中心になって動いてもらいます。
ちょいちょいしか出番ないの、可哀想ですし。
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