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13章 魔法少女と異世界紛争
425話 魔法少女は意を決する
しおりを挟む「うわぁぁぁああっ!」
そんな情けない声を出したのは、もちろん私ではなくカラだ。木々を見下ろしながら、重力を感じる。私くらいになると、こんなもの小指を角をぶつけた程度にしか思えない。私はいつも、もっと明確な死の予感を感じてるし。
『小指を角って……地味に痛いじゃんそれ』
『痛い~』
『地味に効く痛さだな』
なんて頷く私達。
いつも通りで安心したよ!
私は痛む体に本日何回目かの鞭を打ち、唇を噛みながら堪えた。すぐ近くにいるカラを右腕で抱え、身を捻りながら減速アンド着地を試みる。
「先生っ!助けてぇ!私こんなの知らないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「耳元で叫ばないで!耳キンキンする!」
私に抱かれるカラは、金切り声をあげて喚き出す。キャンキャン犬みたいに吠える。
ってかその表現まるで同人漫画の竿役じゃん。アイアムベリー健全魔法少女。
魔法少女ってマジックガール?直訳すぎるかなこれ。
『不健全だから低評価押しとく』
とのこと。訂正したいものだ。
あぁぁぁぁもう!私!私が死なないように重力操作!っていうか恵理の体まで転移されてる!?助けて!
『はいはい』
やる気なさげな返事に、普段周りの人はこんな気持ちなのかなと、少し反省する。この状況でよくこんなことを思えたなと、同時に思う。
「なんとかしてくださいよぉっ!」
「暴れないで?暴れないで!?」
間もなく地面が目の前に。目をぐるぐると回すカラ。現実でこんなこと起こるんだ。その寸前、突然下方向から上方向への重力がかかる。ふわりと浮く感覚が身にまとわりつき、そのまま着地する。
ふぅ……危ない。
『そんな安堵の息みたいなの吐いてるけど、もし今重力世界使ったらほんとに死ぬからね?』
は?
『脳の神経、焼き切れるかもしれないの』
『もう脳の許容量と処理量が足りていない。ふっ、私もこれはお手上げだ』
…………っすか。
ちょっと肝が冷えた。
でも、考えればそうだ。あれは擬似的に世界そのものを編み出してるみたいなもの。あそこだけは、創滅神すら関与できない、私だけの私の理屈の世界。組み替え1つで、あのセプテットように床のシミになる。凶悪すぎる。
とはいったものの、着地はしっかりできた。命に別状はない。
「怪我ない?ないね。オッケー。」
「はっ、は、はは…………怖く、ないん、です、か?っ、せん、せいは……」
息絶え絶えでどさりと倒れこむ。両手を地面につけ、ぜぇぜぇ言ってる。重力操作でゆっくり落ちてくる恵理を抱え、収納する。死体を入れるとか憚られるけど、私の腕は1本だ。仕方ない。
「殺し合いを経験してる身から言えば、向かってこないだけマシ。」
「そんなこと、言うと犯罪者、みたいですよ?」
少し持ち直してきたようだ。でも、区切り方おかしくなってる。そんなカラを待っていると、ぐぅ~と音が鳴る。
「………………………………」
「………………………………」
沈黙が流れた。私じゃない。こんなボロボロのボロ雑巾の状態で、そんな無駄なエネルギー消費しない。つまりは。
「…………ご飯、食べる?」
「…………はい。」
顔を真っ赤にしたカラが、蹲った。この子めっちゃ蹲るじゃん。
「言っておくけど、今私キツイから。思ってる以上に。だから適当だけどいい?」
「大丈夫です…………捕まってから、食べてなくて。恐怖とか色々で忘れてたけど、緊張が解けて……」
苦笑した。でも、それだけ食べないと活力も湧かないだろうと、やっぱりちょっと張り切ることにした。
『私は休んでて。あとは私達でやっとくから』
『さすがに、働かせすぎたと思ってるよ?』
『私の絶賛料理を食うががいい!』
『食うがい~!』
後半のうざさが滲み出てた気もするけど、AとBはやってくれるみたいだ。
新手のツンデレだ。
ツン、ツンツンツンツンツンツン。のはずの私が?いや私はそんなんじゃない、はず。さすがに、こんな新種の虫の鳴き声みたいなツンツン加減は持ってない。
『デレ要素どこ~?』
ただの反抗期のそれに、Dがツッコミを1つ。
まぁ、ありがとう。私はここで見とくとするよ。
カラにも、「そこで座ってて」と声をかけた。百合乃なら確実に「空の手料理!」とか言ってる飛び込んでくるだろう。
『じゃ、面倒いし鍋でも作るか』
『元気が出るのがいいよね?血も抜けてるから、鉄分豊富なやつとか』
『そんなの知らない。まぁ、適当に肉ぶっ込めば多くなるんじゃない?』
『血が抜けると言えば、体が冷えるから辛いやつとか?』
『キムチ鍋を所望する』
『作る気ゼロだね』
なんか心配になってくる。会話が不穏だ。めっちゃ怖い。
準備が始められ、でかい鉄の鍋が現れる。適当な枝木を炎で燃やし、適当に台を作って乗っけた。水をざばーん。魔力球で補給しながら、この世界で言う昆布だし鰹出汁的なものを出すものをぶち込みつつ、濃い出汁をとる。キムチ鍋らしいので、そのくらいはやらないと。
とりあえず、何かの時のために取っといたティランの魚を取り出す。今使わないでいつ使うんだ!
水気を拭き取りそして、竹林の村の消臭効果のある竹の粉末を振り撒き、揉み込む。魔物肉を同じように。そして食べやすいサイズに切る。その他野菜もぶった斬り。
早く食べたいから軽く肉や魚を炒め、そこにキムチ(もどき)も混ぜる。
そして調味料を色々ぶっ込んだ煮汁に軽く火の通った奴らを投入。そして火の通りやすい奴は、今ここで。
食材の諸々は、料理大好き百合乃さんが「空の料理のためなら、空の作れないものも探してきますよっ!」と意気揚々で拾ってくる。そのおかげで、食材生成はどんどん成長していく。
「うん、なんか知らないけど上手くいった。」
『任せて損はないって、分かったよでしょ?』
……美味しそうだよ!
スープを一口飲んでみる。美味しい。
そしてカラを呼ぶ。適当な器とお玉を用意し……米が欲しいけど締めはパンでどうにかすることにした。
「美味しい……!先生、お店やったらどう?」
「やってるんたよねー、それが。」
口の中に肉を詰め込みながら、汁で流す。久々の辛味に、軽く汗がにじむ。
「辛いものって……あんまり食べないから新鮮です。」
「スパイスってあんまり売ってないしね。まぁ売ってるんだけど。」
はふはふしながら栄養補給。朝っぱらからなんてもん食べてるんだって自覚はあるけど、空腹には敵わない。
私の消費カロリーとんでもないと思うし、このくらいはね。
最後にチーズとパンをぶち込んで再度煮込む。ちゃんと美味しかったのは言うまでもない。
朝日がちょっとだけ顔を見せた頃、私達は移動を開始した。結構距離をとって飛ばされたため、多分歩きで昼頃か。殺す気かと突っ込みたくなる。
「処刑は嫌だなぁ……殺されたくないなぁ……でも、あんなことが起きて私に罪がなすりつけられてたら普段の生活も……」
「そっ、その時は私も反対します!」
「ありがと。あと、私達年齢変わらない……と言うか年上なんだから、敬語やめて?なんかむず痒い。」
「なんか癖で……気をつけます。」
「ます?」
「……気をつける。」
「そうそう。それでいい。」
そんな感じで、ゆっくりと歩いていく。話すこともないので、少し気まずい。
「…………王都に帰るの、やっぱやめようかな。」
「処刑されるのが嫌だから?」
「まぁそれもあるけど……いや、されそうになったら全力で抵抗するからどうでもいいとして、普通に気まずいよ。」
寮に引き篭もった1日の間(罵詈雑言の嵐)を思い出し、ゾッとする。
あんな人達の前にまた行くの?手の平くるっくる返してくる野郎どものところに?蛮人の巣窟に?
『罵詈雑言の嵐』
『人のこと言えないね』
やられたらやり返すって言うでしょ。あと、口に出さなきゃセーフ!
謎理論を展開する。
「でも、行ったほうがいいんじゃない?先生の名誉回復のためにも!」
「確かにね……ネルと爆弾抱えながら言うのも嫌だし。」
「ネル?」
「あー、フェルネール・ブリスレイだよ。パズールの領主の娘。色々あって知り合い。」
「遠い世界ですね……」
視線を遠くに飛ばしたカラは、立場の違いにため息を吐く。
「しかたない。王都くらい何度だって言ってやる!」
拳を握り、歩く足にさらに力が入る私だった。
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恵理……可哀想ですね。今度お葬式というか、軽く弔ってあげようかと思います。勿論、イレイアちゃんも呼んでです。フィリオに頼んで1日だけ貸してもらいます。
応援ありがとうございます!
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