魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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13章 魔法少女と異世界紛争

420話 あっけない終わり

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「主、もう……終わっておる。」
ドゴッ、ドゴッ、と。魔法少女は怒りのままに殴り続ける。同じところばかり殴る者だから、そこだけいやに凹んでいる。骨なんかバキバキだ。

 魔法少女は、泣いていた。もちろん、悲しみなんかじゃない。全ての感情が怒りに変換され、怒りを流すしかできない自分に、激怒していた。怒りに打ち震え、泣いていた。

「まだ、まだ終わってない!私の怒りは、まだッ!?」
ペシンッ!と、とてもいい音が鳴った。それは龍神、ルーアの平手打ちによるものだった。

 ルーアも同じく、泣いていた。

「もうこれ以上、やる必要はないのじゃ。もうこれ以上、主に人として道を踏む外してほしくないのじゃ。これ以上、もうこれ以上は……やめにしないかの?」
童顔が涙で潤い、魔法少女は強く拳を握る。プルプルと震えている。

 今まではなんとなく、上手くいっていた。何が起こっても、結果的にはどうにかなっていた。
 しかし今回はどうだろう。この、ハッピーエンドのハの字もない、誰も救われない終わりは。

 こんな不協和音に、fineの記号を打ってしまっていいのか。いや、打つしかないのだ。打たなければ、最後まで高潔に戦った恵理にも、命を賭してでもナギアを守ろうとしたソロにも、何に対しても無礼に値する。

「…………ファイ、ボルト。」
最後の呟きにより、黒より黒い禍々しい渦がナギアを焼いた。地獄の業火が温く見えるほど。そして、ともに怒りも燃焼する。その度にガスでも投入したかの如く燃え上がる。

「こんなの、こんなのってないよ……」
この世の理不尽に、魔法少女は床を叩いた。

 人もこんな事件も、終わりは呆気ない。そう、魔法少女の力も。
 全ての怒りを消費した彼女は、覚醒の終わりとともに意識を失った。

 ルーアはただ1人残され、意識を失うことすら許されずに涙した。

 神ながら思う。
 世界はなんて理不尽なんだと。こんな世界が許されていていいのかと。嘆きたい。

 元龍神が世界を、過去に戻ってでも変えようとした理由が分かった。わざわざ龍を滅ぼさせないためなどと理由づけをした意味を知った。(実際に含まれているだろうが)

「我は、この世を変えたい。こんな理不尽な世界、塗り替えてやる!」
今ここに、革命の宣言はなされた。

—————————

 目が覚めると、寝室にいた。ベットから起き上がったということは、ここはお義母さんやお義父さんの家ではない。
 あのクズどものゴミ溜めということだ。

「今回は……記憶ある。感情…………ある?普通に喜怒哀楽。いや、記憶の奥底ってこと、かな?分からない……」
両手を頭に置き、うーむと軽く蹲り考えてみるも何も浮かばない。分からないものは分からなかった。

 現実に戻ってきたら、スキルの代償か憤怒に支配されてる状態だよねやっぱり。
 とりあえずは、ここを出れなきゃ意味ない。

 向こうでの記憶はあって、こっちでの記憶は……どうだろう。戻ったら無くなるのかな?精神的な試練的な。ま、龍神じゃあるまいしないかな。

 なんて思いながら、適当に周りを漁ってみる。可愛らしいおもちゃや人形、姿見や手鏡、本棚には絵本が並んでいた。ラノベも漫画も薄い本も、一冊も見当たらず、つまりは幼稚園から小学校1年あたりの私のゴールデン時代、黒歴史時代だ。この頃は調子乗ってるクソガキだと自分でも思ってる。

 子供ながらの目新しさ、幼すぎるが故の純粋さのおかげで私はすくすく育っていきましたとも。
 おい、なにが天から舞い降りたエンジェルだよ。私ゃどっかのラブコメ世界のヒロインか。神の子ってなに?え?自分が産んだ子供をいつの間に神の子供にしてるの?

 いけないいけない。うっかりゴミ歴史を思い返してしまったばかりにイラついてしまった。

 せっかく怒りから解放されたのに、と言い、頬をピシャリと叩く。叱咤と鼓舞の意味を込めて。

 今度こそ真面目に、私は探索を開始した。とりあえず部屋には何もない。外に出ようと戸を引くと、幼女がてけてけやってきた。

 過去の私だ。
 あれぇ?私誰からも見えてない?

 そして見切れる両親。ふと思った。見られてないなら何してもいいんじゃないかって。

 両親が部屋に戻ってくる際、中指を立てる。

「死んじまえ。f○ck!」
やたらといい発音が出た。なんか楽しくなる。綺麗にピンと立てられた中指と、笑顔。気分爽快、気持ちい。

 部屋に入ったのを見届けると、次は少し成長していじめ発生期になっていた。
 ひゅ~、目が死んでるぅ。

 もう少し待ってみると、今度は母親がやってきた。この時期は、少しだけ引きこもりになった時期。経営も傾き始めた時期。

 振り返れば、少し成長した私がそこに。髪を引っ張りながら、それでも切る覚悟なんてなくて、ウジウジして、そろそろ両親も険悪な頃かな?

 すれ違い様に中指を立て、小声で「fu○k」と口にする。

 階段を降りて玄関に向かうと、そこには案の定父親が。私が行動を起こすたびに時間が進むなら、これはちょうど……

 解雇通知書を握り締めてぐちゃぐちゃにし、床に投げ捨てていた。

 そして、外に繰り出していく。着いて行こうかと思ったけど、いくら最低なクズ親だからといって血の繋がった親の痴態は見たくない。

 リビングに戻れば、机に突っ伏し啜り泣いている母親が。

「なに?私の伝記でも書くつもり?映画が決定しましたー的な?」
人生を振り返っていると、そんな感想が出てくる。

 まぁこんなクソみたいな映画、十中八九赤字決定でしょ。

 なんて思いながら、部屋に戻る。何をしたらゴールかも分からないから、とりあえずは。
 今は魔法も何も使えない。姿だけの私が、謎の世界に彷徨う。

 部屋の中の私は、体中、あざだらけだった。この頃は暴力が酷かった頃だ。これを乗り越えれば、やる気の全て抜けた人形と化し、最終的には飛び降りる。

「ほんと、考えれば考えるほどクズいね。こんな2人の間に生まれた私って、実は相当クズだったり?」
考えた瞬間身の毛がよだち、あんな奴らよりマシでしょと気を持ち直す。

 あれと血繋がってるとか今世紀最大の恥だよ。

 あとは予想通りだった。
 母親と私を行ったり来たりしているうちに、『全部あなたのせい』と汚く書き記された手紙だけが置いてあった。

 私はそれに触れると、「ファイボルト」と唱えた。何も起こらない、けれども気が楽になる気がした。

 家が崩壊していき、何もない世界で振り返る先には両親2人の姿が。
 ようやくお義母さんとお義父さんが出てくると思った矢先にこれだ。舌打ちくらい打ってもいいと思う。

「な———」
文句の一、二言言ってやろうと思った瞬間、強烈な轟音が耳元で鳴り響く。ファァァー!と。そして、強風が顔を撫でる。

「……え?」
横断歩道、青信号に突っ込んできたトラックは、なんとかハンドルを切れて私を通過した。私は、意味が分からず力が抜け、腰をストンとコンクリートに落とした。

「…………え?」
青信号の音が鳴り、かっこーかっこーと鳴るその音に腑抜ける。周りの、同じく登校していたであろう女子高生や通りがかりの大人が駆け寄り、怪我はないかと詰め寄る。私が腰を抜かしたとでも思っているのか、支えられる。

「……………………えぇぇぇぇぇ!?」
驚愕を露わにする私は、この時こうも思った。

 トラックのクラクションってそんな音だったんだ。

———————————————————————

 三人称と一人称。空がご乱心なもので切り替えが激しくて申し訳ありません。
 ということで、また過去(日本)に戻りましたね。でも今回は趣旨が違います。前回は、いい夢を見せるという意味での精神訓練的なやつ。あれ結構重要だったりするんですけどね。
 今回のは弱った心への追撃って感じです。いくら中身の空が強かろうと、体が弱れば戻ってこられなくなりますし。

 簡単に言えば、殺意があるかないか、ということです。
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