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13章 魔法少女と異世界紛争
419話 怒りの化身
しおりを挟む戦いは圧倒的だった。
それはそうだ。憤怒の杖の真骨頂は、重ねがけによるバフの側面が強い。もちろん『憤怒』という部分にもとてつもない力があるが、目に見える強さと言えばそこだ。
これは足し算ではなく掛け算。魔法少女は『覚醒』1つしか使わなかったが、他にも使っていたら。目も当てられないことになるだろう。
少なくとも、単純計算で4×5で20倍。少なく見積もってこれだ。頭がおかしいという他ない。
終始、魔法少女優勢の戦闘だった。
全てに憤怒という属性がついた事により自身の思考さえ怒りに染まり、結果的に理性を失ったように見えるが、その能力にはなんの変わりはない。
憤怒の杖は、軍服少女のような不完全な愛念や狂天下などとは違い、判断能力の欠如や意識混濁はなくただ単純に『憤怒』という感情に染まっただけ。
正しく怒り、その怒りを正しく発散する。それがこのスキルの厄介なところ。
では、見届けよう。
1人の少女の虚しき怒りの殺人を。
神格となり、禍々しい魔力光を纏うたナギアと、瑠璃色から一転、地獄の底もかくやというほど天をも汚しうる色をした光を持つ魔法少女。相対するには、少し異様なコンビ。
悪魔と悪魔が対峙したように見えるその光景だが、うちを見れば分かる。片一方の悪魔など可愛く見える。チワワとアイリッシュ・ウルフハウンドだ。
「…………堕ちるところまで、堕ちたか?」
「残念、私はただ怒ってるだけだから。」
抑揚なく告げる。まるで死の宣告をするように淡々と。
「私は嬉しいよ。全ての怒りを今、なすりつけられるんだから。」
魔法少女の姿が消えた。10万を超えるステータスに、ついていける人間はいない。
単純に殴られる。圧倒的なまでの暴力に屈するしかない。ナギアは、小細工をすることすらできず、先ほどのように意表をつくこともできず、圧倒された。
捉えることのできないスピードでその頬を拳が打ち抜き、勢いを殺せず吹き飛ぶナギアを2撃目を喰らわせる。その速さ、と言うよりも物理攻撃に困惑しながらボコボコにされていく。
先ほどの刷り込みはこの時のため。わざわざラノスで遠距離戦に持ち込んだのは、近距離は苦手だと勘違いさせるため。
もしものための布石でもあったが、しかしここまで圧倒的だと意味もない。が、あって悪い布石などない。十分効果的だ。
咄嗟に剣を振るうも、ナギアの手元を見て軌道を予測する冷静さを持つ魔法少女に、勝ち目はない。潜り込まれ、強い踏み込みによる静止により紙一重で躱され、手を押されて軌道を曲げられる。
「私の怒りは、こんなんじゃ治らないよ。」
疑問符を打ったかも分からないほどの冷酷さ。鋭いナイフのように突き刺し、現実でもその腹に1発、トールを喰らわせた。電撃は黒い稲妻のようになりナギアを駆け巡り、血管を浮かせた。
苦悶の表情が目に見えるほど疲弊し始めたナギア。厨二キャラを押し通せるほどの気力も体力も、もはやない。
「どうしたの?もっと喚いてよ。もっと苦しんで。」
動く隙を与えないように、細かく強く、殴る。右左、左右と。往復ビンタのようにして殴り続ける。
「……叫んで。痛がれ。黙るな。……こんなんじゃ、ただの人形遊びだよ……」
魔法少女は虚しさを胸に感じ、怒りを放ち続ける。
ナギアもその怒りに当てられ、眉間に皺が寄るが関係ない。なんとか痛みを怒りで堪えながら攻撃に講じても、その時には姿消え失せ腹部をくの字に曲がるほどの蹴りを喰らわされる。
これは、側で見ている龍神もドン引きだ。
1人の臨終した少女を傍に、瞑目し現実から目を背けていた。
この状態の魔法少女は、人神ともなんとか……いや、互角に戦えるだろう。
「お前として………では、なかったの、か?」
「そんなものハッタリに決まってる。恵理の分まで、私は、殴る。」
ふらふらと、喋るのも限界といった様子のナギアに、無慈悲なストレート。人間からなってはいけなさそうな、バギィっという音もつけて。
確実に肋骨が折れた。その肋骨が刺されば、肺に穴が開く。そうなれば、この世界の医療技術では魔法以外にどうともできない。
神格により、なんとか生命を繋ぐことはできているが、それでも痛いのに変わりはあるまい。
「恵理はもっと痛かった。カラはもっと怖かった。世界はもっと苦しんだ。なら、その全ては帰結するべき。」
魔法少女は刻々と、ナギアの身を削った。一撃一撃に、戦意喪失効果でもついているかのように、怒りすらも吹き飛ばす勢いで殴った。
それでも抵抗し、痛みに啼かないナギアに魔法少女は怒る。激怒し、憤怒し、また殴る。それしかできないのだ。
そんな自分に怒りが湧き、しかし同じことの繰り返し。
魔法少女は殴ることしか、できない。想いのままに殴ることしか。
強く衝撃を与えるたび、自分から激情が流れ出てゆく。激情という名のドーパミンのおかげで、途切れず戦えてきていた。だのに、戦うたびに失われる。
何者にも怒ることしかできない今に、それを叩きつけることしかできない現実に、どうしろというのだろう。
憤怒の杖には目立った代償はない。しかし、そんなことよりももっと辛い、現実が待っている。精神をぐちゃぐちゃにかき乱し、最後に待つのは虚無。なにも残らない、喪失感。
魔法少女は、虚無に向かって殴りを続ける。
声さえ潰れたナギアを、まるでゲーセンのサンドバッグのように殴る。最高記録を塗り替える勢いで殴る。
次々と流れる想いに怒り、その怒りも力に変え、また殴る。この繰り返し。
無音の中、そんな音だけが響き渡る。
世界は、非常だ。
———————————————————————
空さんのステータスは357話にありましたが、百合乃はいつやったかまったくもって記憶にないので、ここら辺でステータス更新しておきます。
話の内容的に文字数が少なくなるからとかじゃないですよ?決して文字数稼ぎではありませんからね?
ステータス
『称号』
世界を変える者
名前 美水 空
年齢 17歳
職業 魔法少女&精霊術師
レベル 265
攻撃8170+1 防御7830+1 素早さ7910+1
魔法力9720+2 魔力10120+2(+神影)
原素 1500(固定)
装備 魔法少女服 魔法少女ステッキ
精霊服 異世界式自動拳銃(ラノス)
魔法 アクアソーサーⅩ 魔導書Ⅵ(-8)
神速Ⅹ×1&Ⅲ ファイボルトⅩ+1 万属剣Ⅹ+1
投擲Ⅷ+1 鑑定眼Ⅷ+1 食材生成Ⅴ+1
魔導法Ⅹ+1 トールⅩ 物質変化Ⅷ+1
空中歩行Ⅹ+1 アースアイスⅩ
エアリスリップⅩ 魔力喰らいⅩ+1 混合弾Ⅹ
暗黒弓Ⅹ 流星光槍Ⅹ 各種地龍魔法Ⅴ×3&Ⅹ
一級建築魔法Ⅲ 農業者Ⅱ 気配察知Ⅹ
記憶念写 裁縫者Ⅰ アイスシールド
サンダーサークルⅩ ファイアサークルⅩ
アクアサークルⅩ ウィンドサークルⅩ
脈探知Ⅹ 金属加工Ⅷ 空間伸縮Ⅹ
重力操作Ⅹ(+圧力操作 重力変換 重力世界)
補正操作Ⅹ 強行理論Ⅹ
スキル 魔法生成 魔力超化 魔力付与
万能感知 魔法記憶 詠唱破棄 覚醒
魔法分解 振れ幅調整 身体激化
水竜之加護 調教 基本能力上昇
人神魔力 運命 能力値上昇
地龍之加護 各種地龍能力
ステータス画面共有 奴隷能力補正
奴隷成長共有 友好 叛逆境 空力
思考分離 重力魔法 龍神之御業 適応
原素吸収自動化 霊神之祈 神霊召喚
血盟強化 再生創々 憤怒の杖
SP 79500
ステータス
『称号』
神に愛されし者
名前 青柳 百合乃
年齢 16歳
職業 軍人(仮)
レベル 79
攻撃4620 防御3210 素早さ2990
魔法力1500 魔力0
装備 軍服セット 対魔のサーベル
スキル 剣姫 魔力感知 仮定未来眼 魔断
衝撃断 断絶 吸魔 衝波 天震 俊敏向上
瞬刃 烈波 愛念 絶禍 狂天下 超成長
俊撃 助長 狂酔
剣姫の技能 魔刃 木葉舞 修羅双樹
流天星華 山紫水明 灯柳 穿殺し
うーむ、百合乃の成長著しい。
魔法が使えない分、スキルでの隙のない攻撃法と確実性、能力上昇がついてますのでチートです。特にチートなのは愛念と狂天下と狂酔。
ちなみに仮定未来眼は、『仮定』という無限大に存在する未来のうち1つ、こうしたらどうなるというのを見るだけなので処理能力が桁外れでないと無理ですね。
魔断と衝撃断は言わずもがなと。
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