444 / 681
13章 魔法少女と異世界紛争
418話 魔法少女と憤怒の杖
しおりを挟む「次から次へと、プライドというものはないのか?」
「生憎魔法少女のプライドは液状だからね。」
受け答えになってない返しをして濁す私は、ステッキを指でくるくると回す。
恵理、死んじゃったね。
自信たっぷりの姿勢で瞑目する私は、心でそう呟く。その呟きは流れず、私がしっかり受け止めた。
『なら、やるしかない。やれるだけのことはしよう』
『初めから、本気でいこう』
『言われずとも』
『りょうかい』
いつもなら茶化してくる私達も、えらく真剣な面持ちでそう語る。
よし行こう。と、私は神速で急接近する。抉られた腹部に、ステッキの先端を突き刺した。
「怒ってんだよ、クソ野郎。」
普段の喋り方から一転、ナギアの耳元にグイッと口を近づけると、そう口にする。意識はしてないけど、私の目は完全に冷め切っていた。
今の私はビーストモード。弱体化付き以外は、全て使ってる。身体激化?そんなもの、痛みを我慢すればどうとでもなるし、ヒーリングポーションを飲んどきゃどうにでもなるよ。
私の大切なものを脅かそうとして、というか脅かしたよね?そっちがやるってんなら、こっちもやるのが私の主義ぃ!
せっかく真面目にやったのに最後の一言によりバカみが増した。だけど、私はそれでいいんだ。力みすぎても空回るだけだし。
「脇役は退場願うよ。」
ステッキを引く。その隙を見てレーザーが私にぶつかるけど、圧力操作で無視できる。そっちに2人つけた甲斐があった。右足を脇腹にぶつけると、面白いように吹っ飛んでいった。
「ファイボルト。トール。土槍。」
高火力の魔法を連発する。何発かしか当たらないけど、この波状攻撃には麻痺ったようだった。
でも、さすがはあそこまでの組織の長。私の本気でも抵抗してくるとか、やばすぎ。
肩を竦めていると、強風を吹かせながら飛んでくるナギアの姿が。血まみれでも、特攻はしてくるらしい。
「へぇ、そんな強くても回復手段はないわけね。」
「甘く見るなよ?まだ、本気とは程遠い。」
「そうなんだ。ま、私もだけど。」
漆黒の剣がブンブン振り回される。その細さのどこからそんな威力出てるの?とつい聞きたくなる攻撃をステッキでいなしつつ、適度に躱す。
別に、全て受けなきゃいけない義理はないし。かっこ悪くなっていいよ。勝てればそれで~、全然オーケ~。
一定の距離を保ちつつ、攻防を続ける。
私は魔法を撃ち、それをナギアが払うと接近した私がステッキを薙ぐ。その頃にナギアのレーザーやら、多分絶対領域とか持ってそうな箱とか飛んできて、対処してるうちに離れられる。
これを繰り返す。
「攻撃変更。」
よっと、と口にしながら後ろに大きく跳び退くと、ステッキと銃を入れ替え、少ししてから撃つ。
「はいっと、残弾数はさっきのと合わせて6かぁ。まぁ、どうとでもなるでしょ。」
弾かれるも、それは当然のことのように無視して銃口を向ける。
第3ラウンドで決着をつける。これは第2。
第3からが本番なんだから、少しでもダメージと刷り込みを。
ナギアは、突然のチェンジに困惑を示すように眉を動かす。でも、対応は変わらず、この冷静に佇む。
「そういうことか。」
ニヤリと笑みを浮かべたナギアは、予想通り滑るような動きで私は急接近してくる。
もうこの動き読んだんだよね~。
これって動きに意識誘導ついてるよね多分。勝手に頭が間違った攻撃予想して意表をつかれるって感じ?知らないけど。
攻略法は意識する。じゃなくて逆に無視すること。直前になって攻撃を避けるのが1番。
「対応もできなくなったか。」
ナギアの剣が私の首筋に狙いを定めた時、始めて攻撃を認識する。チラッと地面がむき出しになった床を見て、魔力を通す。
「え、ちょえっ!?」
ラノスの背中で剣を受け、当惑げに声を漏らす。私の足元は沈んで剣筋から離れたはずなのに、なぜか剣が。
え?避けたよね?あそこまで啖呵(心の中だけど)切っといて、負けるってクッソ恥ずいぃ!
顔を両手で塞ぎたくなるのを我慢し、代わりに睨んでおく。
意識誘導は突破したつもりなのに……
「ただの身体能力の違いだぞ?我とは、格が違うんだ。降参でもするか?」
なんだかバツが悪くなり、膂力で剣を吹き飛ばして距離を取る。
ナギアってまさか……相当強い?
いや、それは分かってたんだけど。まさか超強化状態の私でもステ越せないとか?
そんなの聞いてないんですけどぉ?
『かっこ悪い』
『ダッサ』
『あんなカッコつけといて~?』
う、うるさいやい!
結局私はネタに転がる運命なんだ、と。とほほとする。
「ま、いいや。刷り込めたし。」
聞こえないように呟く。
今勝てなくても、後勝てればそれで十分だ。
牽制にラノスを数発おみまいし、ついでにプローターもプレゼント。キャンペーンでお得だね。
「混合弾。」
わざと遠く離すように、ナギアの地面に向けて撃ち続ける。納得がいったように、ナギアは乗って後ろに下がる。
ここまで離れると牽制もまともにできないんだよね。空間伸縮の射程がね……
それでも引き金を引き、マガジンを交換しつつ間合いをとる。
数分、そんなことが変わらず起きていた。しかしそれを変えたのは、ナギアだった。
「もう茶番は終わりだ。徹底的に、潰しておこう。」
そんなことを、悠々と言い退けた。
「神格。」
空気が変わった。纏う覇気が、人神やら龍神やらを想像させる力強いものに変化する。その瞬間、感覚的にこれはやばいと理解する。そして、覚悟も決めた。
どんな効果があるのか、いまだに分からないけど。
思いつつ、覚醒を使用した。服装が変化するのにも慣れ、思考を続ける。
今使わないでいつ使うって話だよね。そろそろ本気の本気、魔法少女の内なる力を解放する時だ。
憤怒の杖。
口にすることなく発動させる。可愛らしい色で溢れるステッキが、ドス黒くなり鈍い赤なども混ざっておどろおどろしいことになる。その色は魔力に乗り、瑠璃色のはずの私の魔力は、汚く染まっていく。
哀しげに見つめ、握りしめた。
———怒りの限りに殺し尽くせ———
その瞬間、言いようもない怒りに全てを飲み込まれた。全ての思考が冷静になり、しゃんとし、ただ怒りを感じた。
最後に見えたナギアの顔を、魂に刻み込んで殺すと誓う。蹂躙の始まりだ。
—————————
始めて彼女が魔法少女と相対した時、その場のノリで生きてる軽い人間かと思っていた。
龍神ルーアには、そう見えた。
神を討ち破った魔法少女は、本来ならルーアではなく彼女が継ぐはずだった。それをノリで渡され、今こうしている。
なんの目的もなくただフラフラしているだけの人間だと思っていた。ただ、面白いことには変わりはない。見ていて飽きないなとは思っていたが、それだけだ。
しかし、見ていれば分かった。
一貫しているのだ。
言動に一貫性は薄いが、それこそが彼女であり一貫してキャラを突き通していた。作っているわけでもなく、真っ直ぐに楽しそうにことにあたる。
面倒なことは面倒と言い、それでも見捨てられないのが魔法少女クオリティ。
神向きではない性格をしている。
神に必要なのは無常さ。常に変わり続ける必要がある。世界に合わせて変わることが求められる。
しかし魔法少女は違う。一貫して自分があり、合わせるというより合わせられるほうだ。なんとなく、引っ張っていく存在に見えた。
本人に聞けば必ず否定するだろう。
「え?なにそのご都合主人公みたいなキャラ」
とかなんとか言って笑うだろうが、ルーアはなんとなくそんな風に見えたのだ。
だから驚いた。
魔法少女があそこまで本気で面に怒りを出した姿に。本気で殺意を高め、殺そうとしている姿に。
永眠した恵理を抱え、そう感じた。
———————————————————————
今話、腹に焼きそばを詰めた状態で執筆しております。定職はなくても焼きそばいっぱい、胸いっぱ~い♪
え、清らかなごちうさを汚い私が汚すなって?
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い
竹桜
ファンタジー
主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。
追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。
その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。
料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。
それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。
これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる