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13章 魔法少女と異世界紛争
414話 暗殺少女と死戦 1
しおりを挟む体の節々から血を垂らしては修復されの繰り返しをする。この輪の光があり続けるのならば、それは繰り返され続ける。開始より、僅かに薄くなったそれを確認する術も今はなく、少女は息を吐く。
暗殺少女、恵理はナギアと戦っていた。
「神格に勝利を収めたと言うのに、よもやただの黒炎に敗しはしないだろうな?」
漆黒の剣をスタイリッシュに振りかざすと、不規則に揺らめく黒炎が舞い散る。恵理はキッと目を細めると、地を飛ぶように駆け抜ける。
黒炎は恵理を避けるように飛んで行き、細かなステップで右へ左へ、緩急を大きくつけたその動きで撹乱する。当のナギアは、首一つ動かすそぶりなく闇に顔を閉ざしたままだ。
これは好機か、はたまた……
しかし、やらぬことにはどうともならない。「っく、あぁぁぁぁああ!」と叫び、神扇が勢いよく斜め下から振り抜かれた。
「魂よ、乖離し祖として我を崇めよ。」
ガァアン、とまるで鉄でも叩いたかのような音が鳴る。そこには、ふわふわと蒼白い塊が浮いていた。音とは似つかわしくない物質だ。
「魂啓といってな、神が我に与えたもうた能力だ。が、その神々も今や我の手中。これほど面白いこともないだろう。」
くくくっ、と闇の中で怪々と笑う。
「ふざけるな!」
いつの間にか荒々しくなった口調で魂啓を叩き続けるが、手が痛くなるだけで何も起こりはしない。
「1度強固に繋がれた魂は、攻撃で離れるわけがない。」
「黙れ、黙れっ!———ッ!」
万華唄を宿したそれはまるで低気圧に風が吹き込まれるようにして力が宿り、両扇を振るわせる。
と、魂を削るようにして食らい始めた。
紋様が光る。背中から腕のようなものが伸び、ナギアに振るわれた。
「我の手は空いているというのに……」
愚かしい者を見るように、ナギアは呟きをもらす。が、恵理もそこまで馬鹿ではない。
ナギアはどこか達観しており、外から何かを眺めている態度をとる。自らガツガツいくタイプではない。
本気の状態から囲むのが不可能でも、この状態で……本気を出す暇もなく制圧して仕舞えば?
「万華!」
鉄扇がまるで片手剣のように、長くなる。開くと当然巨大な扇になり、扱いにくいことこの上ない……はずだった。
恵理の周囲に花が咲く。回転すると、全てはナギアへ。
「万華よ、咲き狂え。」
腕を交差させ、扇の持ち手をくっつけるようにする。リボンのような形状になると、吸った魂と同レベルの強度に成長した万華が開花し、神にも及ぶ砲撃となる。
「なんだっていい、今はなんだって!だから、誰でもいいから!私に、力を……たとえ死んだとしても、力を!」
声が、聞こえた気がした。『よかろう』と、一言。脳内に直接。
その瞬間のこと、輪と全く同じ光量の翼が生える。瞳が金色になる。誰がどう見ても天使の子になり、移りゆく我が身に少し哀しくなる。が、今はいい。
頭に濁流のように流れ込んでくる、知らない知識。知らない魔法を、発動した。
「トロイメライ!」
煌めく霧を発生させる。見惚れてしまうほどの美麗さに、吐息をも漏れ出させる。
この中にいる限り、精神攻撃の嵐が吹き荒れる。花地獄も夢地獄、起きても寝ても死。地獄の園へご招待した。
本来、神でもなければこれで死ぬはずだった。
「自分の命を引き換えたか。つまらん。」
煌めきが漆黒に、万華が闇に、引き摺り込まれた。たった数閃にして、全力を消された。
「効いて、ない?嘘……?」
「効いたぞ?ここを見よ。」
トントンと、頬を指さした。闇がそこだけ消えると、ほの薄く、血が滲むのが見えた。
「少し頬を擦ったようで、ジクジクと痛むな。どんな効果だ?」
触れるだけで神経麻痺を引き起こさせる万華を、その身に受けていながら笑う。
ハッタリか?強がりか?考えるが足が竦む。手に入れられる力は全て手にした。
神の気まぐれにも、答えられず朽ちるのか。
「それだけは嫌だ。私は、稲神恵理は、ここで……」
「この世界に勇者はいらない。我が収める全てが、この世の理であり真理なのだから。」
神扇を蹴り飛ばした。カラン、と元の大きさに戻りながらそちらをのろのろと見つめ、隙だらけの胸部に殴りが入る。胸を黒炎が焼きながら、呪われるようにして爛れていく。
そんな苦痛にもがくことすらも許されないようで、恵理は立ち上がるしかできなかった。爛れるごとに戻っていく皮膚。痛みと安らぎの往来に、ついに感覚が壊れて何も感じなくなる。
「まだ戦うのか?」
哀れみの目を、向けているような気がした。闇で見えない瞳が、濁った瞳が。
「私は、ただ目標が欲しかった。何も目指すべき場所がないのに、ただただ死を待つのが、嫌だった!最後の最後で、諦めるなんてしない!」
恵理は遮二無二走った。中学3年生に遡行したかのように見えた。あの頃の、常に死と隣り合わせの、毎日の死闘が巡る。
「でぁぁぁぁああっ!」
まるで地を滑るように移動する自然な動きを読み、光の速さで肉薄する細剣の軌道すら避け、ただ思うがまま拳を握る。
「はぁ」と、嘆息するナギア。早く殺してやるのが情けかとでも言わんばかりに黒炎を灯す。
「今日限りの演奏を聴かせよう。」
勢いのました炎に尻込みせず、振るう拳。
「魂滅。」
先程の縒り集まった魂が叫びを上げるように燃え盛る。愚直に合わせられた愚直な剣。流れるそれに対処するでもなく振りかぶった拳は、突如として真下に向く。
恵理は、転がるように足元に潜り込んでいた。
「……なに?っ!」
足を掬われる。その瞬間、神の光の宿った一撃が。《女王》としての義務感はもうない。日本中学生「稲神恵理」としての、光の一撃が。
その瞬間、ペンダントのチェーンが切れて床に落ちる。色褪せた、家族の写真が。優しい父と、母と、妹と。恵理。
恵理の拳は闇を祓い、ナギアを吹き飛す。恵理は顎を打ちつけ、半気絶状態。
壁にめり込んだナギアは、軽く呻くと共に瓦礫を払いのけその顔を晒した。
そこには、純日本人らしき黄色みがかった肌色の皮膚が。黒い瞳、黒い髪を持つ鋭い眼光をする青年が1人。
「闇を剥ぐとは……予想外だ。」
雲散霧消した闇から現れたその口が、初めて露わになる。感情が揺れているのは事実だ。
「静かな夜は終わりだ。今宵、鎮魂歌を奏よう。」
靴が床をタンタンと踏みリズムを刻む。その音ごとに結合した魂は紐解かれ、消滅していく。エネルギー体だけが集結し、凝固していく。
「何もかもを成仏させよう。」
ホームランでも予告する選手のように、漆黒の剣をピンと天井に向ける。
ここで明かそう、ナギアの能力の一端を。
虚空記臆録。制限はあるものの、3つ、過去現在未来に存在する能力を得られる。
これは未来の魔法。
凝固しきったエネルギーの塊を鷲掴みにすると、高速で何かが展開されていく。大小、形も不規則ながら、どこか龍法陣にも似ている。
空間そのものに刻み込むことは不可能だ。そのために魔法陣という枠組みの中で(格だけでは)龍法陣が最も上だ。脈から力を放ち具現化する。
が、これは違う。理論は不明だが、空間そのものに刻まれていく。物体判定のはずの魔法陣が、痕となって広がっていく。
世界の優先度に合わせられたその魔法を、止められるほど強力な力を現代では持ち合わせていない。
「闇に飲み込まれろ。」
完成した魔法陣から放たれる極太のレーザーが、恵理を捉え……
「待つのじゃ!」
闖入者によって、せめぎ合いが始まった。
———————————————————————
先日本を買いに久々の外へ繰り出したのですが、いや………ちょっと店員さんと話すのむずいっすね。私コミュ症が限界突破して、職員室とか魔境にしか見えなかった学生なんですよ。
ラノベ、文庫本1冊大抵700前後たまに8、900円くらいですけど、数字的に千円札を出すわけですよ。でも、748円だと「お釣りめんどくさくならないかな?」「嫌な顔されたら私死んじゃう」って感じの脳内になって……
つまり、セルフレジ最高!
あと、ゆ○キャン△の真横に18禁コーナーを見つけた話……どうでもいいですね、はい。
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