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13章 魔法少女と異世界紛争
413話 龍神少女は薙ぎ払う
しおりを挟む龍神ルーアは走っていた。道も分からぬまま全速力で駆けていく。
「本当に、我が未熟なばかりに迷惑をかけてしまうの。これが、人神様や霊神様ならば……」
癖が抜けず、同僚に様をつけるあたりまだまだ未熟なようだ。そんなルーアは深刻な面持ちで、座標把握を開始する。
結界を張り替えたことで、反発や効力に多少の歪みが生まれた。今ならば、座標転移もわけないだろう。
「亜空間?ここはフェイクであったか……さすがの我も、他人の領域が幾重にも張り巡らされた場所で、別空間の座標を探し当てるなどできるわけがなかったというわけかの。」
精進が足りないなと思いつつも、今はそんな無駄話を口にしている暇などないと転移をしようとする。
走り出した。その瞬間もつれて転けた。この我が、転けた?と、ショックを受けるルーアであったが、どうやらそういうことではないらしい。
体が動かないのだ。完全に押さえつけられ、びくともしない。時間が止まったような感覚に陥った。
「これは……ソラかの。」
小さく呟くルーアは、人生初舐めの辛酸に顔を顰めつつ、地面に這いつくばったまま耐える。数秒の後、体がふわっと軽くなるのを確認すると、戦闘が終わったのだと理解し立ち上がる。
もはや人間業ではない魔法少女の力に驚愕も感嘆もすることすらなくなり、集中モードに移行する。
「今度こそ、転移じゃ!」
大小様々な四角形がバグのように空中に広がる。無理矢理こじ開けたというのが見るだけで分かる。
「全て、終わらせるとするかの。」
転移した先は、洋風の要塞のような場所だった。廊下というのか、通路というのか、無人なことに変わりはなく、雰囲気を醸し出す謎の灯火や甲冑が仕掛けられていた。
全て、核石が埋め込まれていたためチョチョイと指先からレーザーを飛ばしておいた。
「なかなかなお出迎えをしてくれるではないか。さて、我は少々怒っておる。龍を操ったことだけに飽き足らず、ここまで好きなようにしてもらっては……」
語るように、独りごちる。側から見れば、それは奇怪の目で見るべき姿だが、その「側から見る」者がいる時は違う。
「気づいているなら、言えば良い。」
3本の刀を提げた男が壁から生えてきた。トリオだ。短くまとめられた髪の毛を露わにしながら、ゆっくり現れる。
「本当にいたとはの。」
「……気づいていなかったのか?」
「嘘じゃ、嘘。その程度のはったり、気づかなければやっていけぬぞ?魔神は手強いからの。」
薄く笑ってやると、気分を害したように目を細める。
「ボスが敗れると言いたいのか?」
「そう聞こえなかったかの?」
煽るように口元を歪めると、その場からトリオが消える。
「おぅおぅ、怖いのぅ。」
肩を竦め、自身の体に突き立ちびくともしない3本の刀に目を向けた。
「神を舐めるでないぞ?」
ブワッと湧き出るオーラと思しき力。トリオは心臓を掴まれるような錯覚をし、咄嗟に飛び退く。
「神だからと、ちとセーブしていたのだが……ここからは本気じゃ。手心など、期待するでないぞ?」
「………もとより、覚悟の上。」
「牙を向けたのなら、最後まで噛みついてみせよ。我は正面から受けてたとう。」
龍眼が開かれると、本人の幼さを覆い隠すが如く炎が舞う。翼が広がり、威圧を感じさせた。
「光栄なことだが、ボスの元で働く以上の喜びは、この世にないだろう。」
「そうか、ならば死をくれてやろうかのぅ。」
姿をまた消した。どういう能力か、予想をつけながらひとつひとつ潰すことにする。
四神は神であって神ではない。全能ではないのだ。だから堅実に、一歩一歩成長していくのだ。
ルーアは、その代表たるに相応しい努力家であり、龍の神である。
「神などという驕りの塊に、ボスが負けるはずがない!」
「…………そのようなことをほざいているうちは、どうやったとて我に勝てぬ。」
引き締められた目から本気さが窺える。その言葉を放った時、トリオに向けて予備動作すらなく龍の息吹を吹き付けられた。
「ルミナス。」
爆炎に包まれたトリオに目掛け、生死を確認することすらなく魔法を向ける。薄く発光する電撃の塊だ。雷が渦巻き、ホーミング機能でもついているかのように弧を描く。
「ほぅ、生きておるか。」
煙が晴れた先、刀を防壁のようにして防ぐトリオがいた。しかし、ところどころに焼け爛れた皮膚が見られる。
「1秒でも、足止めをするのが仕事だ。」
「痛みに対する耐性があるか。これは骨の折れる相手じゃ。」
心のこもらない声で吐き捨てると、正面に直径1m半はある円を描き、中心に向け弦のようなものがいくつも集まる。それを弓を引き絞るようにする。
「アリア。」
進行方向に龍法陣が浮かび上がると、指を離す。空気を切り裂きながら、光速でトリオを穿つ。
「っ!」
1本、刀を砕く。余波がトリオの頬を裂き、血を流す。
「もはや何も言うまい。その心意気だけは褒めてやろうぞ。また、どこかで会えるとよいの。」
ルーアの手元に現れる新たな龍法陣。手を突っ込むと、そこからは赤を基調とした1本の両手剣が。それを片手に持つと、ただ真横に振るう。
元龍神から受け継いだこの剣は、どこにいたとて対象を斬る。
座標を超えて斬ることができる。
そこには血溜まりと2つに分かれた人体が残された。
「……次に行くかの。」
ルーアは死体の処理をすることなく、先を急いだ。1秒でも、遅れは遅れだ。取り戻すことはできない。
いくら神であっても、時間遡行など到底無理だ。元龍神のように、相応の力と場所、準備が必要になる。無駄にできる時間など、ない。
「ナギアと言ったか。世界の秩序を乱す異分子め、四神を代表してこの我が、初仕事といこうかの。」
—————————
「トリオ。……悪いな。俺の力不足で。」
普段頭を下げることなどありえないはずのソロが、瞑目し謝辞を述べた。
その相手は死体。一通り謝り終わると、ソロは髪をかきあげ天井を仰ぐ。
「本当に俺たちは、ボスについて行けるのだろうか?ただの、人間風情に遅れをとりながら。」
懐疑的な思考に陥り、己のボスであるナギアすらも疑ってしまった。ソロはかぶりを振り、違うだろうと一言。
実際問題、これが本当の戦闘ならば全滅状態だ。魔物も、今集っている幹部も、ほとんどが死んでしまった。戦力補充と危機殲滅が目的だったはずが、知らぬ間に、全滅とは。
情けないな、とポツリこぼし、床にナイフを突き立てた。
非情にも、戦いは終わらない。どちらか一方が完全に消滅するまでは。
これは移動用魔導具。事前に設定された場所であれば、影を繋いで好きに移動できる。好都合だとは思うが、多少魔力消費が激しいのが難点だ。ナギア自身も改良を重ねているところだ。
そうして転移したソロは、果たして少女と再会する。険のある表情をした龍神、ルーア。
「……あの時の転移かの?」
「こうなったら、俺もお前の足止めをするしかないようだな。」
体に隠し持ったダガーを2本掴み、回転させる。
ソロもまた、覚悟を決めた。
———————————————————————
えー、本編関係ないですが(いつもでしょうが)一言いいですか?
お金欲しい時間欲しいコミュ力欲しい。
そんな叶うはずのない妄言を吐き散らした私は、そっと布団に潜り込み、現実逃避を始めた。
やったね、人気者だよ!
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