魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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13章 魔法少女と異世界紛争

412話 自然に愛された者

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 のっそりと、被せられたローブを退けながら立ち上がった。すると、頭に手を当てよろめいた。眼前の木に手を置くことでバランスをとり、目を開いた。その目には光はなく、代わりに右目にのみ紋様のようなものが刻まれていた。

「…………!…………、………………」
呻きのような掠れた声、いや音しか出せないそれは、自然そのもの。

 本人の知らぬ間に、解放された力。精神と体が完全に限界を迎えたからこそ身についた自然を操る力、その一端。
 カラに、芽生えた。芽生えてしまった。

 本当に恐ろしい。創滅神の悪戯にしてはタチが悪すぎる。本当に、世界を滅亡させてしまいなねない、悪魔の子になりかねない力だった。

「……………………」
しかし、自然が己を破壊するはずもない。今こうしてカラの体を借り立ち上がったのは、自然を破壊し尽くした張本人であるカルテット含む全員を殺すため。

 全員の目的が、これでひとつになった。

「……………?……………………っ………!」
何か慌てた様子で走り出した。壊された自然の痛みを噛み締めて堪えながら、よろよろと。

 荒れ果てた地面を踏み締め、慣れない体を動かす。

 カラの、右目が下を向く。まるで立った状態で気絶でもしたのかという倒れ方をした少女が、魔法少女とそのステッキが、そこにあった。

「………!…………………………」
自然を身を挺して守った(そんなつもりは毛頭ないはずだが)魔法少女に、報いたいという気持ちを持つ彼女。性別などないが、見た目的にということだ。

 小さな嵐を生み出し、魔法少女を浮かべた。器として、常人より幾らか多いカラの魔力を使用し高濃度の魔力を含む回復効果のある蜜を持つ花を咲かせると、それを口に含んだ。

「……………」
「…………っ、っ……?」
カラはそのまま口付けをする。口移しというやつだ。自然が直接体内に運ぶため、効果は絶大だ。魔法少女は意識ないまま身を捩っていたが。

 外傷は一切ない。が、内側はボロボロだ。誰が見ても分かるくらいに。

 擬似神格は、自身の器の限界値を超えた言わば限界突破。
 覚醒が器を無理矢理拡張しているイメージならば、これは器を壊して放出させるイメージだ。そのために見た目に変化が起こる。

 龍化も原因の1つだ。魔力を内で暴走させる。体内の魔力機関がバグるに決まっている。
 何気なく使う思考分離だが、これも使うのは1つであり、考え方を分つだけだ。それを5つ同時にフル活用していれば……言うには及ばぬだろう。

 落としてしまった陶器を直すように、1つひとつ、治していく。ほつれた糸を丁寧に縫うように、緻密な作業だ。

 いくら経っただろう。見るに堪えなかった少女の身体は、完璧に元に戻っていた。いや、それ以上になっていた。

「………………!………っ!」
カラは満足げに息を吐くと、得意げに胸を張る。

 自然が初めて人の体を介して人を助けたのだ。さぞかし嬉しかろう。が、人の体で勝手にそれはそれはディープで濃厚(重複)なキスをさせたのは問題だろう。
 見る人によれば(どこぞの軍服少女)よだれでも垂らす美味しい展開だ。ここに、百合百合しさマックスを示唆する人間などいやしない。サックスでも吹かしたムーディーな雰囲気と共に(脳内)美少女2人が……。あだるちぃーなことこの上ない。

 おっと、失礼した。

 カラは魔法少女を、カラにしたようにローブを被せて寝かせた。そして、先ほどから魔物と共に殺意をむんむんと漂わせる存在へ向くため踵を返す。

「寝てた小娘じゃないっスか。アンタ、使えたんスか?まぁ、どっちみち半殺しには違いないっス。」
鞭というには素材は布のようで、リボンにしては硬質すぎる。武器とすらも分からないそれを握りながら、カラを睥睨する。

「ソロさんの言う通りだったっスが、これだけは予想外っス。けど、この程度で障害になると思ったら大間違いっス。」
その布鞭を振るうと、残像が形を持ったように魔物が増える。

 魂を持つ「存在」に認識されることによって解除されるこの能力は、「概念」である今のカラではどうにもならなかった。

「っス?アンタ、本当に人間?」
当然カルテットも疑問に思う。

 この力を振るった理由は、もうここらの魔物は使役し尽くし分裂させすぎたことにある。今更バレても戦力ダウンにはなり得ないと、そう考えてのことだった。
 殺して仕舞えば、知るものはいないため能力も再使用可能だ。

 知られた場合のペナルティは少し痛いが、我慢すればいいと思っていた。

 予想外の展開に瞠目するが、すぐに笑みを貼り付けた。

「なぶり放題ってことかぁ……いいっス!」
顔に喜色を浮かべ、縄鞭を縮めると2mはあるんじゃなかろうかというほどの細剣のようになり、鞭よりの竹刀のように変化した。

 カラは魔物の波状攻撃を見回しつつ、後列で揚々と鞭竹刀を構えるカルテットを最後に視界に収める。

「……………」
腕をバッと前に降り出すと、カラを目にして台風が巻き起こる。弱体化された魔物に小規模であるものの威力は変わらぬ強風と豪雨に当てられ消滅する。

「小賢しいっス!」
ブンと一閃、風を散らしカラの腕にそれを叩きつける。バシッと音を鳴らし、腕に痕をつける。

「………………」
カラは首を傾げる。そのまま流れで前で着地したカルテットを見やると、伸ばされた手からそのまま雷雲と雷を発生させた。

「ちょ、怯みもしないんス?攻撃されたことを理解してないんッスかね……」
「……………………」
雷を撃ち続けられ、カルテットは軽く舌打ちする。

 このまま肉体がカラに返されれば、痛みやダメージはその分カラが喰らうことになるが、自然ちゃんは少しお転婆痛みに屈しず戦うため、起きた後のカラを思うと、自重しろと思ってしまう。

 しかし、まだまだ序の口。最強の攻撃技をまだ隠し持っている。

 牽制の雷を止めることなく発射するカラに痺れを切らしたのか、鞭竹刀を伸ばすと新体操のリボンを操るように回し、雷を跳ね除ける。

「こっちだって弱いわけじゃないんっス!」
カラの懐に潜り込んだと思いきや、いつの間にか背後に移動していたカルテットの鞭竹刀がカラの足を払い、腕を掴まれ顔面を殴られる。

「……………………っ」
吹き飛ばされたカラは立ち上がり様に蔦を生やし、に応戦するが、臨機応変に形を変えられる鞭竹刀の機敏性には勝てず、接近を許してしまう。

「これでしまいっス!」
大きく振りかぶられた腕が、首を狙った。次の瞬間、普通なら頭と体がお別れする頃だろう。

「……………………………」
しかし、そこには体を焼いたカルテットが悲痛をあげていた。

「あ、あつ、いっ、ス……いた、……っ」
カラの体から、マグマが噴き出していた。飛び散ったマグマの影響を受け、カラも幾らか皮膚を溶かしているが、感じないので考慮に入れない。

「なんなん、ス……?」
本来なら全域に操作できるはずだが小規模に抑えられたこれらの能力、恐ろしい他言い表せない。

 そして、カルテットは間も無く息を引き取った。自然の摂理に従い魂を含む全てが自然に還元される。

 この能力の本質は、世界を補完すること。

 カラはその場で手を組み膝をつき、祈った。蔓がカラを大きく覆うと、触手を伸ばすように地を這って伸ばされていく。

 今までの戦闘で破壊された自然が、全て元通り、それ以上に戻っていく。

「……………………」
仕事を果たしたカラは、満足げに微笑むと目を閉じた。

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 カラ、起きたら大変なことになるでしょうね。
 体のあちこちが焼け爛れ、顔と腕を殴られたんですから。
 自然ちゃんも、カラを治してから帰ってくれてもよかったと思います。
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