431 / 681
13章 魔法少女と異世界紛争
405話 暗殺少女は護り切る 3
しおりを挟む荊棘に包まれた恵理は、その膂力にて全ての茨を引きちぎり空を蹴った。
万華唄によるステータス上昇が効いたようだ。しかし、その髪はまるで色素が抜け落ちたかのような真っ白だった。
「嫌ね、これ。自分から日本人要素が全てなくなるような気がして。」
ゆっくりこちらに向かってくるカラを引き止めるべく下降し、一言謝り首をトンと手刀で叩く。
通常人間が漫画のように首を叩いただけで気絶するはずないのだが、そもそも精神的にも肉体的にも大きく疲労している状態だ。そんなカラの首に刺激を与えることで脳をキャパオーバーさせたのだ。
漫画のように手刀1発で気絶なんてあり得るはずがない。精々「いだっ!」となりよろけるくらいだろう。
ただし例外はある。例えばムキムキの筋肉だるまや、どういう状況だとツッコみたくなるが、高速回転する手の模型があった場合など。
しかしまぁ、それは永眠を意味するが。
「貴方に死なれては目覚めが悪いの。せめて、このくらいは人としてしたい。」
少し離れた位置にカラを移動させようと地を蹴ると、足元に剣が刺さる。
「行かせると、思ってるのです?」
「行かせてもらうけれど、文句はないかしら?」
少し気分が乗ってきて、《女王》が戻ってきた。が、人はいないので少しくらい遊んでもいいだろう。
口角を少しだけあげ、恵理は一呼吸する。
「春嵐。」
春風の威力が格段に上がったもの、といえば分かりやすいか。セクステットを中心に風が蠢き、風に包まれるだけでなく、圧縮される。
「そこで大人しくしていなさい。」
「…………!………い、の……す……!」
嵐による豪風で音が掻き消される。恵理は気にしたようもなく軽快な足取りである程度離れると、衝撃緩和のためカラにも風を纏わせ、投げる。
仕方ない。走ったところで、短時間で行ける距離には限りがある。
投げたほうが早い。その結論に行き着くのにそう時間はかからなかった。
これが《女王》の考え方だ。
「これを使うのは何回目かしら。あの子に1度、見せたかしら。…………今は、貴方を葬るために、全力を尽くす。」
鉄扇を強く握った。体から力を抜きジャンプすると、予想以上に跳べた。嵐を前にして、目を閉じた。
「果てを悟らせ、魅せ堕とせ。アルカナの底へ沈むなら、我が両手で掬いて取らん。万華唄始節『万華無尽』」
一言一言語気を強め、はっきりと死を宣告するように言葉を放つ。
そしてすぐさま振るわれる死の鉄扇。目にも止まらぬ速さでクロスさせると、そのまま縦横無尽に鉄扇を振るっていく。まるで微塵切りでもするか如く、散り散りに。
「極惑の散華。」
耳に届くか届かないかの境目の、小さな呟きを恵理の耳はキャッチした。嵐は晴れ、その先には確かに血だらけで片目を閉じたセクステットが。
「あと、1枚…………極惑の祓剣。」
最後の1枚の札を対価に、手には全長160センチほどの両手剣が姿を現した。
「斬り飛ばす……のです!」
「させない。」
それより早く加速し、懐へ潜り込む。剣の間合から外れると、鳩尾あたりを鉄扇で刺す。そのまま90度右に捻ると吐瀉し吹き飛ぶ。
そして、最後の仕上げ。
手の甲の紋様が、強く強く光る。集まった魔力を全て凝縮するように両手を前に突き出し、鉄扇を開いた状態で重ね合わせる。
「——————、——————。————————————、—————————。万華唄終節『万華終月』」
それは日本語ともこの世界の言葉とも似つかない全く別の言葉であり、何ひとつとして聞き取れない。が、それはまさしく終わりに相応しい美しさと、恐怖。
セクステットの極惑の祓剣は使われることもなく不恰好に上に振り上げられ、無防備なその小さな体を、飲み込むようにしてそれは撃たれた。
鉄扇の中心から放出されたレーザーのような極太な砲撃を喰らい、まともな生命活動を保てるわけもない。
極惑の祓剣も、領域も、何もかもを巻き込み全てを破壊し尽くした。
「終わったのね……」
まだ万華唄状態が継続されている恵理は、息を吐いた。
辺りはすでに細長い廊下。倒れたカラと2人。
「早く、合流しないと……危険よね。」
現状を鑑みて、そう分析すると膝を叩いて己を鼓舞する。
これが切れて仕舞えば、木偶の坊の方がまだマシなほどの置物と化してしまう。しかも、意思がある分厄介だ。まだ意識を失ったほうがいい。
まだ分からぬ時間制限まで、一抹の不安を抱えてカラを背負った。なぜか重みを感じなかったが、感覚が麻痺してるのだろうか。
が、今はどうでもいい。
空でも、ルーアでも、今すぐ合流したかった。
—————————
大量の紅蒼の光球を躱しながらほんの少しずつ前進していく。
策は練っている。あとは、待つだけ。
何かを隔てる壁もないため、光球はそのままあたりに広がる森林を破壊し尽くしていった。
「環境破壊は気持ちいいかの?」
「煽ってきてるよ、お姉ちゃん。」
「立場をわきまえてない。」
勢いは止まらず光球が流れ続ける。
確かに、デュエットというのはそこまで強いわけではないらしい。
攻撃パターンはワンパターン。ただ火力で押し切るタイプの敵だ。しかし、厄介すぎる。
ルーアが予想するに、これは弱者と強者の入れ替え。事実、ほとんど正解ではあるが、当てられたとてどうにもできない。
この能力から推察するに、どうあっても今すぐに勝てる相手ではない。
あとどの程度待てば良いか。
「早く死んじゃえ。」
「死んでしまえばいい。」
激しさを増す光球は、前進を始めたルーアを押し留めるのには十分な威力だった。
「圧倒的じゃの……我が神でなかったら今頃肉片にジョブチェンジしている頃じゃ。」
リアル弾幕ゲームをしながらも軽口を叩けるあたりはさすが神と言ったところだが、しかしそれも強がりと変わらない。
だが、この状況の打開策は1つある。
この領域を破壊すること。魔法少女が死の世界を破壊したように。
とは言うものの、この領域の中でそんな攻撃などできるわけもなく………なら、外部からなら?
「……我の勝ちじゃ。」
ルーアは視線を下にした。そこには、未だセプテットとやり合っている魔法少女がいた。重力世界を展開した魔法少女が。
その領域はあの部屋にとどまらず、ここ拠点一帯に広がった。ほんの一瞬のことだったが、それで十分。領域が張り直される前に動けば勝ち。
「目に見えない領域は無くなったとて、気づきにくいからの。必ず初動が遅れる!」
龍法陣がデュエットを囲んだ。
「力が……お姉ちゃん?」
「戻ってる……?」
「燃え尽きるといい。龍神からの裁きじゃ。」
囲まれた龍法陣から溢れ出た龍の炎が、デュエットを焼いた。
「……お姉ちゃん。」
「……………一緒に。」
2人手を繋ぎ、目を閉じる。神の炎に包まれながら心中しようとしているように見えた。
「……なにか、物足りない感じがするのぅ。あっけないというかなんというか……」
いつのまにか重力世界も消えており、ただの森林が広がっていた。
ただというには破壊され尽くしているが、そこは目を瞑ろう。
首を回すと、都合よく龍がやってきていた。
「気が乗らないが、やるしかないかの。」
そういうと、ルーアは神の威厳たっぷりとそこに浮かぶと、我が元へ集まれ、龍よ、と一言。
仕事はまだまだ山積みだ。
———————————————————————
色々ガバい気がしますが、まぁそこは大目に見てもらえれば。
次回から視点が戻るので、いつも通りの空さんです。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる