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13章 魔法少女と異世界紛争

404話 龍神少女は無双する

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 一方、龍神ルーアは大暴れをしていた。

 外に飛び出し、状況を吟味していたのも束の間。大砲のような豪快さを以て地に降り立った。土埃を上げながら、衝撃をもろともせずに仁王立ちをして。

「さて、龍が2匹に竜が5匹。そこそこの数を集めておるが…………まぁ仕方ないかの。龍の神である我が見捨てることなどできん。」
外で見張りをしていたであろう意思ある魔物は、取り囲むように現れルーアの逃げ場を塞いでいった。竜が2匹空を飛び、空中への逃げ場も消したようだ。

 が、この程度痛くも痒くも何ともない。
 人間が蟻に囲まれたところでどうとでもなるように、ルーアにとって苦戦する余地すらない相手だ。

 しかし、簡単に爆破でもしようものなら龍たちの巻き添えは不可避だろう。だから、頭を使っていく。

 魔物はジリジリとにじり寄ってくる。こちらが手を出さないのをいいことに、攻め落とそうという腹づもりか。

「コイツ、強イ?母体、丁度イイ。」
「ソレ、オレノモノ。頂クッ!」
全方位から押し寄せてくる。意思はあっても、体はまだのようで……よほど母体を欲しているのか。

「この我に、歯向かおうと言うておるのかの?よかろう、直々に燃やし尽くしてやろう。」
頭を、頭を……………なるべく龍を傷つけないよう、配慮はするようだ。

 翼を広げると、あたりを埋め尽くす大量の龍法陣が。

 龍法陣の利点はその展開スピードにある。それを極めた結果がこれか。

 ふっ、と一笑すると炎弾が撒き散らされていく。わざわざ柵を弄する必要もない。ただ圧倒的な暴力によりこの場は支配されていた。

「危険ダ!逃ゲロ!」
が、あちらもただの魔物ではない。知恵の働く魔物たちだ。愚直に突っ込むのを諦め、撤退し……

「あれだけ生意気な態度をとって、我から逃げられるとでも思うておるのかのぅ?我も舐められたものだの。」
呆れ返った声で深いため息を吐いた。そして、カッ!と眩い光が生まれたと思いきや、光壁が発生していた。

「まだまだ遊びたらぬ。」
鋭い眼光を飛ばすと、その龍歯を輝かせて手を開く。その手には禍々しい立体魔法陣が浮かび上がり、(魔神のものを模した物だ)それを魔物の大群に向かって放り投げた。

 さて、ここでこの技の説明をしよう。

 これは超高濃度の魔力を圧縮し、魔法陣自体を攻撃に転用するという荒技だ。本来なら、魔力タンクとして使用するそれは、タンクとして機能することなく、魔法少女のプローターように爆発四散した。

 魔物の腕や内臓が吹き飛び、烈火の如く勢いを増していった。

「我はストレスが溜まっている!どれだけ長い年数を《四神》となるために費やしてきたと思うておるのかの!?我は、我はあんなちっぽけな会議のために何百年と苦労してきたのか!?」
ただのストレス発散会と化した戦場に、もはや魔物の姿など残っていなかった。

 荒野となった光の壁の内側を眺め、ルーアは感じた。何をかと言えば難しいが……あえて言うなら虚無感か。

 まだ足りない、そう心から思ってしまうほど呆気なかった。

「仕方ないのぅ…………あとは龍を戻し、我も戻ればよいか。」
やる気なさげに呟くルーアは、その流れのまま「我が元へ来れ」と静かに宣告する。この一言に、逆らえる龍など存在しない。

 当然、それで洗脳や操作から抜けられるわけではない。呼び込み、1匹1匹丁寧に元に戻していく。

 この作業は初めてであり、更に面倒臭いことも知っている。

 つまり。

「やはり、あの少女に任せておれば……!」
押し切られてしまったかつての自分が情け無い。今ならば突っぱね返す自信があった。

 しかし役目は役目。引退の時もまだまだ見えてこない中で、いきなりの職務怠慢は良くない。

 ルーアは、割と常識的な考えを持っていた。

「もう少し、歯応えのある奴はいないのかの。」
龍が集まるまでの数分の時を、欠伸をしながら待つことにする。幸い、人神や魔神のように探し回る必要もなく、勝手にくるのを待つだけだった。

「…………そこ、隠れておるつもりか?バレバレじゃぞ。」
と、欠伸を終える前に敵がやってきていたことに気づいた。壁はまだ展開していたので、最初からいたということだ。

「我としたことが、今の今まで気づかなかったとは……」
と、不甲斐なさを露わにする。

「気づかなかったらしいよ、お姉ちゃん。」
「そうみたいね。」
空間が捻じ曲がり、そこから現れたのは紅髪と蒼髪の少女2人。互いの両手の平をつけ、顔だけこちらに向けている。頬が触れ合う距離だ。

「「デュエット、揃い繋いで弾き奏でん。」」
それぞれ左手と右手だけギュッと繋ぐと、バッと体を開いて臨戦体制をとった。

「本気で敵うと思うておるのか?」

「疑われてるよ、お姉ちゃん。」
「見せつけましょう、2人で1人の演奏を。」
2人、息のあった動きで空に登る。足の下には薄い膜があるので、それのおかげだろう。

「ねぇ、早くしないと龍さんたち来ちゃうよ?」
「殺されたくなければ、早く来なさい。」
「始末されに来なよ。ねぇ、お姉ちゃん。」
「そうね。始めましょうよ。」
煽るような口調で話す2人に気を止めることなく、自身も翼で空に浮く。

「私たちは弱い。でも。」
「私たちは2人で1人。一人前。でも、それでも足りない。」

「「弱者の夢。」」
2人の丁度中心に、人の胴体くらいの大きさの円形が浮かび上がった。

「「なら、あなたが半人前になればいい。」」
あはは、と軽快に笑うと2人が現れた時と同じように捻れた空間からいくつもの紅蒼の光球が飛び回る。

「戯け。その程度…………ッ!?」
痛くも痒くも、と口にしようとした瞬間、肩口に強烈な衝撃を受けた。

 紅く煌めく光球だった。

「あはは、弱いね。お姉ちゃん。」
「半人前だもの。」
宙をくるくると、踊るようにして舞い回る。笑顔なのがまた不気味さを助長させる。

「…………反転されたのか。これも、創滅神とやらの仕業なのか……」
この世の調律をやたらと乱そうとするその神の名を口にし、目を細める。

「抗ってやるかのぅ。久々に、一龍として戦おうではないか!」
その手には猛々しい炎が纏まりつき、グローブのような役割を担う。

「我の無双劇は、ここからじゃ!」
かつての龍神に恥じない強さを、ルーアはここで示さんと立ち向かった。

—————————

 王都にて。

「カラも、先生もいない?」
オスカーらは卓を囲み、鎮痛な面持ちで会議を行なっていた。

 今にも崩れ去りそうな校舎で、奇跡的にあまり影響を受けなかった一室を借りて話し合っていた。

「結局、放火犯は誰だったんだよ。」
「先生は、犯人じゃないんじゃん?わたしはそう思う。」
「状況的に、疑われても仕方ないですけどね……」
あまり話は進まない。

「……あの火の扱い方…………燃やすことよりも、もっと何か、目的が……何かがあった。」
制服に縫い付けられたマスクを摘み上げ、呟いた。

「なんにせよ、僕らじゃ何もできないよね……」
「私たち…………無力、なんですね。」
メガネをかけた少女が、悲しげにもらす。

 学園生だと、誇りを持っていた。
 しかし、こんな状況になってしまえばなにひとつ役に立たなかった。

 状況は好転などしなかった。

———————————————————————

 次回で別視点は終わりそうです。
 話は260度くらい変わるんですが、ラブコメを書いてみたいなと。

 そりゃあ青春の青の一画目すらない私ですが、読み切りみたいな感じで甘々なラブでコメなラブコメを書きたいわけです(?)
 しかし短編とはどう書けば良いのか。短編ってどんな感じで初めてどんな感じで終わればいいんでしょう。
 そんな大層な話なんて書けないので、とりあえずは短文の詰め合わせ的な感じでやりたいです。
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