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13章 魔法少女と異世界紛争
407話 魔法少女は荷物持ち
しおりを挟む「その髪、どうしたの?」
一旦安全地帯(そんなものはどこにもないけど)に移動し、そう聞いた。
「もっと聞くことはあるでしょう。」
「いや、それが普通にインパクトあるけど?状況とか何より髪色が突然変化した仲間とか怖すぎるんだけど。」
「仲間じゃない、協力関係よ。」
「そこはツッコむところじゃないよ!」
華麗なるツッコミを軽く避けられ、蹈鞴を踏む。
「万華唄。まだ上はあるのだけど、言わば切り札ね。魔力に染まると言った方がいいかもしれないけど、変わるのよ、髪色。」
「へぇ。」
「貴方が聞いてきたことじゃない。……まぁいいや。魔力の過剰生成、それによる身体強化。効果が切れると丸1日は動けないから覚悟して欲しい。」
「主、なぜそのようなものを今使ってしもうたのじゃ?」
ルーアは訝しげに聞く。攻めてるわけではなさそうだけど、少し雰囲気は険しい。恵理は、事前に答えを用意してたかのような速度で言葉を続けた。
「命の危機ってのもあったけど、1番はそこの娘が危なかったの。」
指差した先には、すやすやと眠るカラがいた。
「ちょっと、眠ってもらっただけよ。」
「ちょっと?」
「あいにく、私は手加減を知らないの。」
追求を交わすようにそう言い切り、あ、これ絶対何かしたやつだ、と悟る。
私もそこまで鈍感キャラになった記憶はないよ。この感じだと気絶させたってのが近いのかな。
まぁ、鈍感じゃないからといってそこまでの推理力はないけど。
「仕方ないの。焚き付けたのはもとより我。責任は我にあるかのぅ……」
すまなそうな顔をするのを見て、私は瞠目する。
「……何を驚いておるのじゃ?」
「…………そういうとこ、伸ばしていこう。他の神みたいにならないで。」
「それは善処するが、歳を重ねればああなる可能性もあるかもしれん。」
「じゃあその場合は私が斬りにいくよ。」
「しれっと神殺し宣言するでない!」
なんとなくコントな雰囲気になるのを察した恵理が、話を遮って「失態だったのは事実ね」と強引に戻す。
「少し驕っていたわ。もうちょっと自分は強い人間だと思っていたけど、ダメね。主観ほど身を滅ぼすものはない。」
「結局、恵理は誰と戦ったの?」
「セクステットよ。事前の情報を覆らない前提だと、勝手に判断してた。」
「魔法少女に殺されかけたのじゃろう?そこまでされて、他の手があるとは……」
ルーアはそんな恵理の味方をするように言葉をかけるも、恵理自身がそれを否定する。
「あるのよ。あんな風にピンピンした状態で復帰できると知っていれば、多少ブラフを噛ませられる。どうでもいい情報をわざと流して撹乱させる、情報屋の常套手段のはずなのに……」
「あー、なんか、ごめん。私が下手に情報流したせいで。」
「いや、役に立ったのも事実だから。これは情報精査能力が欠如していた私の落ち度よ。」
「そう悲観するでない。そんなことで状況が好転するわけでもないしのぅ。主の話は終わりじゃ。」
「だったら、情報提示しなさいよ。」
「情報提示て。私のは見てた通りの血を操作するセプテット。」
手をひらひらさせ、聞く必要ないでしょ?と鼻を鳴らす。
「もっと詳しく。可能性を広げたいわ。」
「はいはい……」
私は手振り身振りを使い、それはそれは名演技をした。一喜一憂をここまでし表現できる人間は少ないのではないk
「62点。まぁ、大体理解できたからいいわ。次、龍神さんね。」
「ここまできたよしみじゃ。特別に、我のことをルーアと呼んでも良い。」
「ではルーア、教えてくれる?」
もちろんじゃ、と頷くと簡易的かつ丁寧に話を始めた。
「そして出てきたのがデュエット。弱者の夢という、現状能力の逆転といったところか。本人の強さ的に言えば、言う通りに2人で1人。一人前。そう見受けられた。」
「自軍の戦力が強ければ強いほど厄介になると。それはそれは、また厄介な能力者を抱え込んで。」
恵理がふふっ、と笑う。目は笑ってないので怖い。
「さて、ここからは憶測の域じゃが、語って良いかの?」
「えぇ、是非。神として意見が欲しいわね。」
私抜きで行われる会議。62点の時点でお察しだ。
もういいや。私は言うべきことは言ったし、カラの護衛でもしておこう。
傷ついたとかは断じてない。断じて。
膝をつきながらカラににじり寄り、横に座る。
本当に、あの黒服が犯人なのかな。あの時、攻撃を受けたけどそこまでの威力は……
思考の沼にハマり、いかんいかんと抜け出す。その頃には話が終わっており、「行くわよ」と声をかけられる。
「カラは私が背負ってくよ。そもそも、遠距離職がなんで接近戦し続けてるのかわけわかんない。」
「そりゃあ貴方の物理攻撃が化け物じみてるからでしょ。」
「同感じゃ。」
そんなに私って化け物か?と、カラを背負う自分の体を見る。ローブがあるから全然分からない。
とは言っても、見ずに分かるよ。感覚で。自分の筋肉が乏しいことぐらい自分がよく分かってる。
筋力がないだけで運動神経がないってわけじゃないんだけどね。
まぁつまり体力もなくてその運動神経を振るえないんだけどね。
そんな私だから、カラを落とさないようにとしっかり背負う。片腕だから尚更だ。
と、正面を向くと恵理が止まっていた。ついでに、ルーアも。
「え、なに?」
隙間を縫って先を見ると、驚愕の人物がそこには立っていた。
「また会ったな、女。」
「ソロ……!」
眉根を寄せ、ギッと睨む。今はアルファーなんて適当なキャラじゃない。覇気を確かに纏っている。
「お前たちには来てもらう。拒否権があると思うなよ。」
鬼も金棒を放り捨てて逃げ出すほどの眼光を飛ばす。私の睨みが微笑みに見えるほどだ。
「どこへじゃ?別に、今ここで主を屠っても良いのじゃが、立場を弁えておるのかの?」
「お前こそ立場を弁えろ。今、俺を殺して不利になるのはお前たちだ。それとも、無駄を覚悟で1戦交えるか?」
「身の程を知れ、人間風情。」
龍の目がクワッと開き、痺れるような殺気が肌を触れる。
「ボスが察して逃げる程度の時間稼ぎはできるさ。それで十分。」
「……それで、我らはどこについて行けば良いのかの?」
「気にする必要はない。」
抑揚の乏しい、厳しい声で返すと懐から小刀を取り出す。
あれ?……前は曲がった鉈みたいなものを使ってたような……
「女。ここで思考することの意味は考えろ。」
すかさず言葉が投げかけられる。その瞬間に思考分離の思考を最小限にし、散らばる。
思考も読まれてるってわけね。まぁ、今はお手上げか。
反撃とかしてもしなくても不利なので、仕方なくカラを背に乗せたまま、いうことを聞くことにした。
と、ソロはその小刀を床に突き刺した。
「1歩も動くなよ。」
言葉と一緒に、視界が消えた。いや、移動した?
「ボス、連れて参りました。」
即座に跪き、床を見やる。放り出された私達は、何事かと首を動かすことしかできなかった。そして、気づいた。ここがとんでもない場所だと。
「……よくやった。褒美だ、受け取れ。」
すると、手の甲に刻まれた紋様が光る。ソロの手の甲にも、それが浮かび上がった。
「やはり貴様だったか、黒服ぅぅ!」
恵理が叫ぶ。どうやら、あれが黒服のようだった。
見た目、違くない?
咄嗟に出た感想はそれだった。
え、だってもっと気味悪い骨っぽいやつだった気が……
「あれはボスの変装だ。我々が力及ばぬばかりに、あのような下卑た姿を、御身に宿させることになるとは……不覚だ。」
何故か説明をくれた。ボスの話になると突然饒舌になる系配下ってどこにでもいるんだなって思った。
今は闇の雰囲気のある青年って感じ。うーん、スタイリッシュ。
どこかで暴漢をスレイしてないかな。ピッタリだと思う。
「ルーア、空。貴方たちは下がっていて。」
恵理は迷いなく立ち上がり、未だ床に尻付く私達にそう言った。そして宣言する。
「貴方は必ず、私の手で殺してみせる。」
———————————————————————
今話の最初に出てきた「蹈鞴を踏む」の意味は、調べたら出てくる通り、勢い余って数歩進んでしまう、といった意味ですが、今回のは少し違ってきます。本質は同じですけど。
ツッコミというのを勢い、無視されたことでそのツッコミが行き場をなくして彷徨ってしまう、というニュアンスで使いました。
以上、分かりにくい説明でした。
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