魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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13章 魔法少女と異世界紛争

403話 暗殺少女は護り切る 2

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 カラの精神安定を名目に、休息を5分とった。ぶっ通しで働いているので、休息は必須だった。

 過去に身につけた、ステータスに関係のない彼女自身のスキルにより、どんな環境でどんな時間であろうと休息を取る力が役に立った。

「そろそろね。」
左手で鉄扇を握り直すと、その場で立ち上がる。カラを右手で立たせると、しゃんとしなさい、と声をかけてみるが反応はない。

 相当なショックだったようだ。何しろ、学園の悲劇も目の当たりにしているわけだ。加えて、自然の声も聞こえてくる。悲鳴に耐えきれなかったのだろう。

「足元に気をつけて。何があるか分からない。」
意味はないと知っていても口にする。自分自身に喝を入れるという意味でもそれは機能していた。

 龍神ルーアは敵の殲滅に出てはいけないなど一言も言っていなかった。護れるならいいと言っていた。なら、護りながら進むだけだ。
 恵理もまた、殺意に変わりはない。

 まっすぐな道を歩き、程なくして角を曲がった。迷路のような構造で、戦いにくい。

「魔力眼は見えにくくなっているのね……せめて、配下の1人でも斬り倒したいところね。」
そう都合よくはいかないか、とため息と一緒に押し流す。

 しかしこのまま無作為に探索したところで、危険が高くなるだけだ。集中力も保たない。

「……私も、人のこと言えないのね。」
左手に握った鉄扇を広げ、春風。と一言呟く。そのまま流れに乗り、詠唱を開始した。

「酔いに酔いしれ、呑み呑まれ。泡沫の月に願うなら、眠りて夢の我を滅さん。神楽歌2節『酔月』」
千鳥足のような不調律なステップを刻むと、四方八方に鉄扇を叩き続ける。風に舞う蝶のように開かれた鉄扇を翻し、何度も何度も壁を穿つ。

 もちろん、振動はとてつもない。騒ぎを聞きつけ、その振動に負けない足音と怒号を耳で捉える。

「今度こそ、やるのです。」
その中心に、明らかに格の違う人間……天使がいた。

「汚名を返上するのです。ボスに捨てられないために、わたしは結果を出すのです……!」
両手には3枚ずつの光るお札が。恵理は瞬時に思考を巡らせ、最速で答えに辿り着く。

 セクステット。
 魔法少女からの事前情報によれば、物理に対する防御が低く、近距離戦に持ち込めば勝ちとのこと。この狭い通路で、これ以上の好条件はないだろう。

 そして手に持つお札、合計6枚。これはこのスキルの必殺技。1日1度と制約付きのスキルであるらしく、1枚1枚効果が異なるらしい。

「セクステット、魅惑の限り弾き奏でん。」
予想通りの宣言、そして取り巻きが迫る。事前情報の通りに後衛らしい。

「流れ巻かれて夢に落つ。」
風を払うと、竜巻に吸い込まれるようにして恵理の元までやってくる敵を破壊していく。

 実際にはそう錯覚させるほどの足捌きをしているだけだが、それを知る者はいない。

 通常の神楽歌とは違う、瞬節歌。
 簡単に言えば、詠唱短縮のようなものだ。

「極惑の領域。」
取り巻き連中を全て崩し切った頃、札がひらひらと舞い落ちた。ペタリと床につくと、淡いピンクの煙が広がったと思いきや空間が拡張された。そしてまた、もう1枚を自身の胸元に貼る。

「極惑の壁。」
これが札の力なのか。片手に2枚ずつ、4枚の札を残してセクステットは空に浮かび見下した。

「下がってちょうだい。」
カラを後ろにやると、少し突き飛ばすようにして距離を離した。

「誘惑の剣。わたしに魅了されるといいのです。」
「あいにく、私は同性を好きになる趣味はないのよね。」
空いた手に鉄扇を収めると、光の大地を蹴って空に飛び込む。

 無謀なつもりはない。実際空中戦は何度か経験しているが、スキル浮遊にて空中の滞在時間が長くなり、瞬節歌には空間に足場を生むものもある。
 しっかり相性が合っているスキル達だと、褒めたくなるようなものばかりだ。

「誘惑の雨。」
「その情報は、もう知ってる。」
情報屋の頃の記憶定着能力もしっかり働いている。羽の雨を、神楽歌を唄い弾き飛ばす。その反動でさらに上昇すると、壁を作り一気に下降。

「神楽歌3節『衝月』」
強い衝撃を生みながら振るわれる鉄の塊。淡い色をした剣で受け止められるも、粉々に粉砕させる。そしてもう一閃。

「極惑の封!」
セクステットに触れる寸前に、札が全ての衝撃を受け止めた。

「弱点を晒しているようなものね。」
春風を真下に起こし、勢いで空中に止まる。回し蹴りを喰らわすものの、受け止められる。それくらいの防御力はあるらしい。

 これなら精々素の鉄扇を受け止められるくらいか、と予測を立てながら地面に着地し、春風を鉄扇に纏わせる。

 魔法に対する耐性は強くとも、強いと言うだけ。妨害という意味では効果的だ。

「舞風。」
操作可能な小規模なトルネードを発生させる。それをセクステットに向けて放つと、先に発動された極惑の壁にて弾かれる。まるで進行方向をねじ曲げられたように。

「流れ流され、吹き吹かれ。満点の月を臨むなら、仄かな光は我が身照らさん。神楽歌7節『瞬月』」
早口で唄うと、一瞬にして接近を終わらせる。一瞬なら神速にも匹敵する速度だ。

「穿てっ!」
勢いのままに振り抜いた鉄扇が、ガンッ!と甲高い音を鳴らした。

 正確にどこからと言えば、セクステットの体からだった。

 恵理は冷静さを欠いていた。情報を持っているからと少し舐めていたようだった。札という、情報のないものがあったのにも関わらず。

 さっき使われた極惑の封とは、ブラフだった。

「極惑の荊棘。」
残り2枚。札を舞わせると燃え尽きるように消滅する。その瞬間、拷問道具もびっくりな可愛らしい色をした茨が噴水から飛び出すように現れた。

「っ、見誤った……」
それらに絡め取られた恵理は呻く。

「わたしは誰にも止められないのです。わたしは覚醒した、この力を手に入れたのです!」
「ぐ、ぅぅぅぅ……」
棘が食い込み、血が流れる。全身から少しずつ血が抜けていう感覚があり、このままなら失血死してしまうと脳が判断する。

 ここは極惑の領域。誰も入っては来れない。このままでは確実に……

「こんなところで、足踏みしてられない……」
恵理は自身の歯をギリッと噛み締める。

 1度は、死んだ方がいいかとも考えた。
 しかし。

 こいつに殺されるのだけは絶対に御免だ!

「誘惑の風。」
生ぬるい風が頬を撫でた。しかし、対象は恵理ではなかった。その先にいる、カラ。

 精神が不安定な今、精神操作系にはめっぽう弱い。

 操られるようにしてテクテクと力無く歩いてくるカラに、「駄目!」と叫ぶが聞こえていない。

 無力感に苛まれる。牢屋生活で勘が鈍っているのか、と言い訳をするのも馬鹿馬鹿しいほどの失態だった。
 他人の情報を安易に信じる?情報屋であっても《黒蜂》であってもそんなことは1度たりともなかった。全て精査した上で飲み込み、確定ではないと釘を打った。

 もしわざと情報を流していた場合にも対処できるよう。

 恵理は抵抗をやめた。

「それでいい、静かに死んでいくのです。」
そんな言葉は無視する。

 高位の転生者に与えられるスキル。それは形や効果は違えど、似たようなもの。
 魔法少女の覚醒しかり、軍服少女の狂天下しかり。

 神楽歌に付属したスキル。万華唄ばんかうた
 全ステータスを一時3倍にし、神楽歌の代わりに万華唄を使えるようになる。
 トリガーとなる唄は。

「狂い狂わせ引き引かれ。奈落の底へ沈んでも、我が咲き誇る、道を歩まん。桜並木に火を灯し、我楽多を埋め臨みたまう。身に宿すは、万華の唄!」
1度使うと1日は動けなくなるほどの激痛に襲われるそれを、迷いなく発動した。

———————————————————————

 恵理さん、最初の紹介では19歳と表記してありますが、牢屋の中で誕生日迎えておりますので二十歳でございます。
 牢屋の中に酒もタバコもないので何の関係もありませんが。
 成人年齢が引き下げられましたが、お酒とタバコは二十歳からですのでお気をつけを。そしてほどほどに!本当にほどほどに。でないとあなたの胆のうは無くなるかもしれませんよ。
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