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13章 魔法少女と異世界紛争
401話 魔法少女は救出する 2
しおりを挟む「どうだ?オレの血の味は。」
血槍をラノスで分散させながら、憎たらしい声を聞く。
「クソまずいよっ!」
「そうか、それは良かった。」
するとやってくる鞭。手に持つメスはいつ使うか見当もつかないので、警戒を外せない。
……私が動きにくいような技ばっか……ちょっと相性悪いよね、これ。
少し息が上がって来て、休みながらそう思う。
「さて、ここで明かしておこう。オレの死せる世界の領域にいる間に受けた全ての怪我欠損は、永久に治らない。全てが死してしまう。もちろん、オレもだがな。」
くくく、と何が面白いのか笑い出す。自滅覚悟なのか、それともただの狂人か。
「手の内を明かして、何の得が?」
「聞いていなかったのか?ヒトという種が最も美しい瞬間は、死の間際なのだ。死への恐怖だ。死を自覚しろ、恐怖に震えろ!」
顔を引き攣らせる。ほんとに気持ち悪すぎて、1歩下がった。生理的に受け付けない。
これ、心理的なやつだよね。
例えば、畳のへりの上歩けって言われれば簡単だけど、同じ幅の塀の上を歩くとバランスが保てなくなるあれ。
そんな感じで、動きを鈍くさせようとしてる?
『再生創々が効くかも分からないし、ここはできるだけ回避で』
『賛成』
『それでいこう』
『オッケー!』
「いい顔を見せてくれ。」
骨の矢を、数えるのも馬鹿らしいほどの量発射させ、私を確実に削ろうとしてくる。
「ファイボルト!アイスシールド!」
骨を溶かし、残りは防いで横にずれる。突っ込んでもやられるだけなので、ここは遠距離がマストだ。
このフィールドにいる限り私はどうやっても相性的にも勝てないし、逃げてもどうにもならない。
ならどうする?
『策があるぞ』
私Cが、私の頭の中で挙手をする。
なに?
『それは………』
ボソボソと、意味もなくそれっぽい演出をしながらも伝えてくる。
そんなん私にできるの?私が言うのもなんだけどさ。
『やってみないと分からないさ。でも、やってみる価値は十二分にある』
そこまで言うならと、その策を了承する。一縷の望みに賭けるのは癪だけど、賭けなきゃいけないタイミングだ。
ご都合主義、今が使うべき時だよね。
「万属剣!」
時間稼ぎとして何十本もの剣を浮かせ、骨に対抗する。
「人形よ、動き出せ。」
すると、私の意表を突くように骨達は一旦退き、人の形をすると血が覆い被さる。中には臓器も入っていく。
「死血人形。」
メスを振るうと、そこには15体ほどの人の形をした血の塊が。
「体そのものが凶器だ。悲鳴を上げる気になったか?」
「だが断る。」
万属剣を盾にしつつ、ほとんどゾンビのようなこいつらを仕留めようと前に進む。武器がない今がチャンスだ。
属性がついてるから、血にも十分効果的なんだよね。物理攻撃はほとんど効かないみたいだから、ラノスはあまり使えないかな……
トールとファイボルトの余りで効くには効くけど……ね。
ラノスをしまうと、今度は刀を取り出す。核石製なので、常時魔力を注ぎさえすれば魔法と同じだ。
「逆にありがたいよ、敵が少なくなったからね!」
「そうか、何か勘違いしているようだな。」
風の音がかすかに聞こえ、神速で屈む。地面を手の平で押し、ジャンプするようにして着地する。
「悶え苦しめ!」
「くっ……!」
メスが振るわれた。ここで出てくるのかと、忘れていた自分に怒りながらも刀を突き出して防ぐ。
「おっと、防がれてしまった。」
ケタケタと笑い、肩を揺らす。案外早くメスを引いてくれた。ありがたいと思ってしまう自分を殴りたい。
「あの人形全てがオレの支配下にある。意のままさ。」
男の先にいる血の塊に目を向ける。そして目を見開く。体の一部が延び、触手のようなものが全体からうねうねと蠢いている。それも全部。
これを全部自分で……?極めすぎでしょ。
こりゃ、この空間じゃ勝てないよね。
これをトールで再現してみる?いや、100パーできない。できても数個が限界。
「……でも、この空間なら、ね。」
「何が言いたい?」
『準備は完了した!行け、私!』
その声を聞くまでもなく叫ぶ。
「重力世界!」
アニメの効果音でいうなら、結界がパリンッと音を立てて割られたような状況だ。私の世界が広がり、一帯が制御下にあると意識的に感じる。
「な……に?オレの死せる世界が、死者の踊る狂夜が……!死の世界がぁ!」
その叫びの最中に大量の血は重力に抗えず床のシミとなり、部屋の床を汚す。筋繊維は解け、骨もカタカタと音を立て落下し、部屋は地獄絵図と化した。
……解除したら解除したで気持ち悪いね。これは地獄ですって言われても納得できるレベル。
自分でやったことながら、引いてしまう。
でもまぁ、成功したね。
『だからやる価値はあるって言っただろう。私の粘りが功を奏したのだ』
今回は素直に褒めるよ。すごい、心の底からありがとう。
『私が私に感謝する図って』
同じ体でも意識は少しずつ変わってくんだから、別人物といってもいいんじゃない?性格全員違うし。
「もうすぐ死ぬし、知ったところで意味ないだろうから言っておくけど……ここにいるうちは動けると思わないで?」
「どういう意味だ?例え、操る血肉がなくとも……『解剖』はできる。」
「そ、よかったね。」
視線を手のメスに移す。集中力、技術力の面で制限時間が厳しいのがネックだ。だから早く済ませたいと、前に出る。
「うーん、1トン増。」
「う゛っ……!」
メスを持つ腕が地面に吸い寄せられる。人間の力じゃ、どうあってもトンは動かせない。
「これでも、私の世界でまともに動けると思う?」
早々にメスから手を離し、まだ当惑した様子の目を見てため息を吐く。
「自分が怯える立場になるのは初めて?」
まずは服から。靴や首飾り、上着などに重力を加算する。
「重い……潰れる……やめ、ろ……」
必死に服を脱ぎ捨てようとするも、重くて持ち上がらないようだ。もがき、膝を折り、体は重さで地面に叩きつけられる。血を吸ってもっと動きずらいだよう。
「せめて、火葬くらいはしてあげるよ。」
重力世界にて、私はステッキをセプテットに向けて宣言する。
「ファイボルト。」
たっぷり魔力が込められたそれは、みるみるうちに大きく炎を渦巻かせ、生まれたての子鹿のようにプルプルと震えたセプテットに撃ち放たれる。
「ア゛アアアァァァァァァァ!」
断末魔が轟き、辺り一帯に広がる血や骨すらも溶かして……最後に音が消えた。残ったのは、そこに人がいたであろう跡のある焦げついた床だけ。
「ふー……終わった……!」
ステッキを腰に戻す。気が抜けると、重力世界も解除される。疲れがどっと押し寄せると、一瞬の立ちくらみが私を襲う。
もう2度と戦いたくない……ああいうゴリ押しも難しいタイプの敵は私にはキツいかも。
「あ、ルーア達追いかけない、と……」
うっと呻き、壁に手をつく。
『ちょっと休んでから行こう。今行ったって足手纏いになるだけでしょ』
『休むのも戦略~』
「そう、だね。」
虚空に返事をすると、ボロボロの床に腰をつけた。少しの間だけ、目を閉じることにした。
———————————————————————
シンプルに疑問なんですが、なぜこの作品はここまで投稿し続けられてるんでしょう。
作者のメンタルは塩水をかけられたナメクジ並み、文章力も拙く「……伸び代はありますね」という感じの私が、どうしてここまで蜘蛛の糸レベルの細い糸に掴まって残り続けてるんでしょう。
しかしまぁ、一応完結まで頑張りたいので笑ってでも見てやってください。
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