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13章 魔法少女と異世界紛争
400話 魔法少女は救出する 1
しおりを挟む転移したのは、見るからに地下室のような場所だった。温度が違った。肌寒さがあったし、窓も1つも見当たらなかった。ザ地下って感じの印象だ。
「空間が途切れておるの……直接転移は出来なかった。なかなかに腕が立つようじゃの。」
「緊張感出てきたね。」
「敵の本拠地だもの。気を引き締めましょう。」
私はラノスを握り直し、ルーアは手ぶら。恵理は鉄扇を両手に持って戦闘準備を整えた。
ルーアは龍法陣があるからなんとかなるのかな?そもそも神の武器ってなんだろう。
武器とかあるの?そもそも。
神はやっばり謎だらけだ。
3人……改め2人と1柱で進む地下室の廊下。誰も人はいないようで、気配は不自然にない。そこにきっと、いるはずだ。
1歩1歩踏み締め、私達は目的の部屋を目指す。
「1番不自然なのはこの角を曲がった先の部屋、の隠し部屋といったところかの。構造的にそうであろう。」
「じゃあここからは私語厳禁ということで。」
全員が押し黙る。硬い床を進み、監視がいないことを確認すると今度は足早に。
敵地って感じでドキドキするなぁ……丁度銃持ってるし、なんかスパイみたい。
こんなスパイ秒でクビだろうけど。暗殺者ならまだいける?
……まさか恵理もこう思って始めたんじゃなかろうな……?
っと、いけないいけない。目の前のことに集中しないと。
角を曲がり、部屋に入る。極力音は無くして来たので、バレてないだろう。多分。
「我の思い違いでなければ、ここに主の探し人がいるだろう。我がサクッとやってこようかの。」
「いや、待って。ここは私がやりたい。これは、私の問題でもあるから。」
そうか、とルーアが言うと、私の静止を振り解くことはなく譲ってくれた。耳をそばだてると、微か声が聞こえる。
「3、2、1で行くよ。」
「えぇ。」
「3、2………………突撃じゃあ!」
「1は!?」
遅れる恵理を他所に私は壁をぶち破って中に入る。中は真っ暗で、私の開けた穴から辛うじて見える程度だ。
「暗いのう。灯火。」
ボッと炎が浮かんだ。
「ナイス!」
目を凝らさずとも見えるようになった部屋を見渡すと、色々と縛られているカラと、白衣を着た初老の男がどでかいメスを舐めている光景が目に入る。
…………これどんな状況よ。
ラノスを構え、戸惑いつつも男を睨む。
「んんんーんー!」
「カラ、助けに来たよ。……で、とりあえずあなたは誰?始めましてだけど、さようならだ。殺される覚悟はあるよね?」
「ここに、助け?本拠地に乗り込んでくる馬鹿がいるものだな。殺されに来たの間違いか?オレのコレクションにでも入れてやろうか。」
哀れみの目すら向けてくる男。そのメスをナイフでも持つかのように握り、沈黙が続いた。
「その程度の男に苦戦するでないぞ?我は見守ってやる。存分にやれ。主は奴を助けてやってくれ。」
「はいはい、雑用ね。」
誰も動かない中、恵理だけが動く。鉄扇を振るうと縄を全て切り刻み、猿轡を引きちぎった。
「全員、一滴の血すら残さず飾ってやろう!」
すると、壁が揺れた。いや、壁一面に作られた棚に置かれた瓶が、揺れていた。
「死者の踊る狂夜。」
瓶が、パリンと全て砕け散る。その中身は全て人間の血肉。内臓すらあり、心臓とか拍動している。
「このエリア内にいる限り、人の支配を抜けた全ての血肉はオレのものだ!」
大量の血液が唸り、槍のような形状になる。それが3本、人何人分の血だろう。
鉄臭い……本物の血だ。狂気が過ぎる……
「セプテット、切り開きて弾き奏でん。」
「やっぱり、お前らかぁ!」
迫る3本の血槍を走りながら身を捩り避けていく。壁を貫通する血は、そのまま角度を変えて私を刺そうとするも、アイスシールドで防ぎ残りはトールで分散、そして避け。
ラノベでよく見る吸血鬼の戦い方っ!血流操作の基本は避けだ。攻撃しても散らしても、結局のところ元に戻るだけだしね。
セプテットの懐に飛び込んだその瞬間、頭上に何か感じた。殺気というのか、何かそんなものを。
「神速っ!」
滑り込むように地面を転がり、すぐさま確認する。そこにはいくつもの骨が宙に浮かんでいた。それも、尖っているものだ。
「飛べ、散れ、砕け!全てはオレの元へ収束する!」
「っ、遠距離でちまちまと!」
幸い、カラと恵理はルーアに守られている。全力は出せそうだ。
まずはその辺にある血槍と骨が邪魔。プローターで一旦どかして、無理矢理ラノスを捩じ込む。
内臓あたりの攻撃方法ってなんだろう。
ま、考えたって仕方ない。実行だ。
トライアンドエラーを繰り返そう。エラーの時点で死かも知れないけど。
私はステッキからプローターを取り出すと、3つほど投げ捨てる。身を屈め、爆発の衝撃と共に駆け出した。
ラノスのトリガーを引き絞る。
「筋肉……?筋繊維!」
筋繊維を束ねて作られたであろうその太い鞭のようなものが、放たれた弾丸をその中で受け止めた。
「面白いな。解剖したくなってきたぞ。」
それを振るうと床がバキッと音を立てて割れる。ひぃぇ、と後ろから声が漏れる。カラだろう。
……何これやっば。どうしよう、手数はなくとも、1つひとつの完成度も明らかに向こうが上。これはゴリ押しかな。また。
「趣味悪いよ!ほんとに趣味悪い!」
「好みは勝手だろう?恐怖、断末魔、死の間際こそが人の最高の瞬間!」
うわぁ……とつい声が出てしまう。引くくらいキモい奴って、実際にいるもんだなと思った。
「障害物多い……なら、殲滅すればいい!エスカー!」
ステッキから黒い塊が落ちる。ガ、ゴン、と落下音を立て、それをすぐに手に収めると魔力を流して高速回転を始める。
爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ!
骨も血も筋肉も等しく無に帰せ!
『なんかヤバいやついるね』
『ねー』
「守れ。」
手を指揮者のように動かし、骨を盾、筋肉を衝撃緩和の膜として配置した。エスカーは、それをもろともせずに爆発四散する。
「喰らえ、私の努力の結晶ぉ!」
汗と涙の滲む努力をし作り上げた弾丸は爆発しながら星の彼方へ消えていく。20秒ほどそうすると、早々に収納しラノスに持ち変える。
「神速っ。」
タッと床を踏み込み、3発。パァァンッ!と銃声を轟かせ、煙を晴らす。あちこち欠けた防壁を突破し、2発、両肩を穿つ。
「っ……………!」
歯を食いしばるセプテット。顔を俯かせると、肩を上下に揺らした。
「っ、ふっふっ、はっはっはっはっ!かかったなぁ。オレの策に見事になぁ。」
返事はしない。肩からドクドクと流れ出る血を止めようともせず……止める必要がない?
そうだ、あいつは人から離れた血や肉を操れる。今プローターとエスカーで制御を失った血がなくても、自分の血があれば!
「サンダーサークル!」
咄嗟に放った。範囲内に雷の世界が生まれる。私は耐性によりダメージはない。それに覆い被せるように放たれるは血の雨。1滴1滴がナイフのような切れ味を持つ血が、散弾銃のように振りまかれる。
「ルーア!こっちは私がなんとかしとくから、3人は先に拠点潰しといて!」
「いいのか?もし親玉がいても、主のために残しておくなぞできんぞ?」
「いい!逃げられたら元も子もない!」
「分かった。主も死ぬでないぞ!龍神様に恥をかかせおったら、タダではおかん!」
行くぞ、と恵理にカラの護衛を任せると、消えていった。
「1人でなんとかなると?傲慢だなぁ。」
「なんとかならなきゃ、これから先どうにもならないでしょ。」
そう言うと、おかしなものを見たかのように笑い出す。そして。
「死せる世界。」
部屋がほの赤く染まった。
「オレの世界から抜け出せると思っているのか?」
———————————————————————
出ました、血を操作する系のキャラ。それだけに止まらず、筋肉やら内臓やらまで操って……
筋繊維鞭、書いていてなんだこれと思いました。
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