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12章 魔法少女と学園生活
392話 魔法少女と地獄の開幕 2
しおりを挟む巨炎と風圧がぶつかり合う。
夜空、互いに何も見えない。気配だけを頼りにして魔法を撃ち放ち、軌道から予測され大剣が振るわれる。
「敵討って言ってたけど、その程度?」
「はははっ、そっちこそセクステットの相手で体力削れてるんじゃないかな?」
相変わらずあっちこっち行き来するオクテットの気配を探りながら、声を投げかける。
流星光槍を3発、その後魔力をたっぷり込めてファイボルト。オッケー?
『私はどうする?』
私は……あれ使う。初めてのご登場じゃない?
そう言うと、6枚の板を取り出した。夜空に浮かぶ星々や月を反射し、煌めく。
「レフ!」
それをばら撒くと、ステッキからは目隠しするように槍と炎が。その光すら反射し合い、力を高めていく。
「さっきから芸がないんだよ、オクテット。確かに剣の腕は確かだし、障害物の多いこの場所では独壇場かも知らない。けど。」
もう予想がついた移動先に暗黒弓を放ちつつ、ラノスの銃弾を数え、装填し直す。
「一辺倒だとすぐ飽きる。」
兵器を取り出した私に勝てる相手なんてもはや神レベルだ。懸念があるとすれば、セクステット。けど、確か使用時のデスペナルティは12時間使用不能だった気がする。そもそも死んでたら使えないんだけど。
まぁでも、生きてても死んでても変わらない。追撃がないとは言い切れないけど、とりあえずは無視してもいいと思う。
軽く下に意識を向けてみると、斜め横から大きなものが横切った。
「おーおーおーっ!中々言ってくれるじゃん。ムカつくなぁ!」
声が上から降ってきた。と言うことは、無論大剣もそちらから降ってくると言うわけで。月明かりの逆光が差して、姿が見ずらい。
普通ならこれ、負けたって思うんだけどね。
私の目の前に、板が横切る。
それだけだった。たったそれだけ。
「っがぁぁぁっ!あー!あぁぁぁ!」
オクテットの右目付近が焼け爛れた。
「どう?体の一部が欠損する気分は。」
「ぁ……何、をっ!」
歯茎から血を滲ませながら、精一杯の叫びを浴びせてくる。
「こっちは暗闇で見えなくて、そっちは気配で正確な位置が分かるとか。チートもいいところだけどさ……ここまで来てくれれば、逆光でも正確な位置は分かるんだよ。」
ラノスの銃口を突きつけた。この位置なら、空間伸縮なしでも当たる距離だけど、まぁ念には念を。
「違う違う違う!………聞いてるのは、何をしたって……!っ゛!」
「は?言うわけないじゃん。」
敵に塩を送る真似をすると本気で思ってそうな頭に銃弾をお見舞いしたくなる。
まぁタネは簡単だけどね。上には星光。そしてレフ。弱い光でも反射し続けて強力になって最後に向こうから光を反射させてって具合。
結構威力ギリギリだったけどね。
「ねぇ、情報を吐いてくれたら助けてあげるけど。どうする?」
オクテットの体には龍法陣から何個も鎖が伸びていた。罠とは言ったけど、どこで使う用かなんて言ってない。
「っ、吐くわけ、ないだろうが。」
最初の変な喋り方と飄々とした感じは消え失せ、目には悔しさと怒りが見てとれた。
「そう。まぁ下にいるセクステットに聞けばいいか。親玉とそっちのチームの詳細。」
ラノスをくいくいしながら、吐け吐けと促す。
セクステットとか言われたって分からないけど、ソロって聞いたらなんとなく分かった。重奏の名前だよね。
つまりその分だけ人がいる。
私が見た悪魔もどき、あれは……名前なさそう。その下に暴走した魔物、上がこいつらってことかな。
「さーん、にー、いーち。」
ゼロ。それと共になる破裂音。次いで肉を割き脳みそを撒き散らすオクテット。さすがの私も目を瞑らざる得なかった。
「ゔっ……ぅぇぇぇぇぇ……っ……」
吐き気が込み上げてきた。この距離だ、見えなくてもぐちゃぐちゃの血肉がつく。魔力供給すら億劫になり、血濡れとなった私の姿は露わとなった。
『人は、殺したことはあってもここまでの「殺人」という行為は、初めてだからね』
『きもちわるーい!』
この気持ちはどうやら私1人が抱えているらしい。せめて5等分してほしかった。
殺すなら、胸糞悪い盗賊くらいが精一杯だよ。
人を殺しかけたことはあれど、進んで人を殺した今の私は殺人鬼と変わらない。恵理と同じだ。
話によれば、必要のある人物以外は殺してないようだし、私も同罪だ。
「気分が悪い……」
空中歩行を中断し、重力操作で地に降りる。膝をつき、そういえばと首を回す。
逃げられた……っ
でも、そんなの今は気にしてられない……
数分し、なんとか吐き気は消え失せた。銃を撃つ抵抗も人を撃つ抵抗も無いため、その辺の立ち直りは早かった。
「1人は逃したけど、まぁ1人は殺せたからいいや。で、今の状況、は……?」
私は振り返る。それと同時に目に飛び込んできたのはまさしく地獄。
燃えて、え?燃えてる……?
学園が?
呆然と立ちすくむ。
口は半開き。目は開き切って、前世の知人が見たら仰天するような顔をしているだろう。私はそこまで表情豊かではない。
「なんで、なんで?」
私は森から学園を見つめて呟いた。
私は何か間違えた?最善を尽くそうと、未然に防ごうとしていただけなのに。これを、この状況を防ごうとしただけなのに。
学園は燃えている。燃え盛っている。
何が起きているのか、誰のせいかは予想はつくけど、うまく考えがまとまらない。
この感情に1番近いものは何か、学が乏しい私には上手く言語化することはできなかった。
ちゃんと勉強しておいた方がいいと、改めて思わされた。
「………………………………ちくしょう。」
身に合わない毒付きで気を晴らすしか、できなかった。
ちくしょう、ちくしょう……!
そうして地獄は訪れた。
私は学園に向けて走った。神速全開で、秒で王都まで辿り着き塀を飛び越える。なりふり構ってられない。
「ネル!カラ!リーディ!」
燃え盛る寮、学園、中庭。全てが炎に包まれていた。怒号が響き渡り、消火活動が行われている。
「ソラ、そこで何をしている?」
「……アーネールさん……?」
今は剣ではなく魔導具を手にするアーネールさんが、進行方向にいた。
「…‥ごめん、今は。」
「待て!今は1人でも動ける人材が……死傷者も山ほどいる!行方不明者も、1名いる!」
「……っ!」
通り過ぎようとした瞬間に踏みとどまり、踵を返した。
「高等部3年の、カラという女生徒だ。」
「は……?」
体の熱が抜け、非現実のようなふわっとした感覚が消え去った。無理やり現実に引き戻されたように。
いいよ、そっちがその気なら構わない。私は、絶対にあいつらを殺す。
恵理には悪いけど、ここを譲るわけにはいかない。私に宣戦布告しておきながら、逃げ切れるとは思わないでほしい。
「……他に死者や重症者は?」
「死者は数名。初等部の生徒だ。運悪く、崩れた木材に潰されたらしい。」
「他は?」
今は一刻も早くネルとリーディの安否を確かめたかった。後顧の憂いはなくしておきたい。
「中等部の生徒はそこに居合わせたセリアス王女、ブリスレイ侯爵令嬢に、高等部はグリフィン公爵令嬢による先導でまとまっている。」
その言葉に安堵する。逆に生き生きとしていそうだ。ネルに関しては、この短い期間でよく成長したなとも思う。
「そろそろこちらの質問にも答えてもらおうか。その血は……」
「ごめん、説明はまた後で。応急処置くらいはしておくよ。」
そう言いながら教師寮に向かって走り出した。声は極力聴かないようにした。まずは、恵理と合流が先だ。
強行理論、仕事してもらうよ?
重力操作ではるか上空にとどまっているであろう水蒸気を地上に押し付ける。足りなければ、別のところから借りてくる。
水蒸気って言っても、質量はあるでしょ。
穴はある理論でも、強行理論なら私の好きなように働いてくれる。
空からは、雨がが殴るように降り始めた。
雨に濡れるのも気にせず、私は走った。
———————————————————————
絶望はまだまだ続きます。あの男をエンヴェルで逃した時点で地獄は刻一刻と迫ってきていたわけです。もしも過去に行かされてなかったら、精霊の森に止まっていなければ、もっと楽だったかもしれません。
魔力活性化に精霊問題、死者ももちろん出て混乱している中の学園銃撃。そこに不審にも空はいなかった。
つまりそういうことです。
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