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13章 魔法少女と異世界紛争
395話 魔法少女は意志を貫く
しおりを挟むステッキの先端に魔物の死体を当て、収納した。核石の回収が面倒臭いけど、大事な銃弾だ。逃すわけにはいかない。
「これだけやればもういいよね。」
ステッキについた血を振り落とし、深い息を吐いてそう漏らす。
「恩を売っておいたんだから、下手に捕まえたりとかされないよね。よね?」
「そんなの知るわけないじゃん。」
恵理も鉄扇をしまいながら戻ってくる。いくら強くなってても、逃げてきた程度の魔物なら転生者チートには勝てないらしい。
魔力も最低限温存できたし……あとは王都を出るだけ。
「正面突破と行きますか。」
「少しくらい休憩したらどうなの?」
「人の命がかかってるんだから、時間は1分1秒でさえ無駄にできないんだよ。ほらほら、さっさと着いてくる。」
「これなら牢獄で大人しくしてた方がよかった。」
「はいはい冗談はそのくらいにして足動かして。」
言われるがままに後ろをついて歩く恵理。ここから門までとなるとなかなかの距離だ。走るよ、と言って目の前の住宅街に落ちる。
王都というだけあって広さはすごい。直線で歩き続けても1日くらいの距離だ。だから馬車の移動が多いわけだけど、そんな公共交通機関に今の私達が乗るのは……ちょっと不安要素が拭いきれない。
「人の家の屋根を飛び越える方がよっぽど目立つと思うけど、その辺りはどう考えてるの?」
「無回答で。」
私のローブを1着恵理に渡しているけど、姿は消えていない。多分、魔力供給ができないんだと思う。
「ちょっとくらい我慢してよ。王都って広いんだから、このくらいしないと。」
よっと、と屋根から屋根に着地する。まだまだ出口は遠い。
……少しぐらい魔力、使っていいよね?時間的に、ね?魔力高速回復で回復速度は上がってるし、いいよね。
『別にいいんじゃない?』
ということで私の許可も降りたのでレッツ神速!
私の後を走る恵理を待ち、その着物を引っ掴むと空中歩行で空の壁を蹴り、神速と共に加速する。
「もういっちょ、神速!」
「速いっ、速いって!破れる!」
着物の首の辺りを掴んで引っ張ってるので、相当な力が働いてるだろうけど、そこはなんとかしてもらって。後ろで叫ぶ恵理を見て見ぬふりをし、止まった後が怖くて止まりたくなくなる。
でも快適だ。魔法はやっぱり神だ、はっきりわかんだね。
『そのネタ前もやった気がするけど』
別にネタは1つにつき1回なんて決まりないし?
なんて私と喋っていると騎士の群れが見えて来る。普通に通してくれればいいんだけど。
逃げるようにして行ったら絶対私が犯人ってことで片付けられる。だからあくまでも真相を確かめに、だ。
「そろそろ、離して……くれない?」
苦しそうに首だけ回して訴えかける恵理。
「あ、ごめん。」
重力操作で静止し、その辺の地面に着地する。ついでにローブの魔力供給も切り、まるで最終決戦に挑む勇者のような面持ちで歩き出した。
「ねぇ、その演技はなに?人に散々女王がどうのって言ってたのに……」
「静かに。恵理もそれっぽく。」
「は、はぁ?」
ダブル主人公のような構図になった。恵理の顔は何かぎこちない。
『さっきまでのシリアスさはどこへ』
『さっきまでもシリアスじゃなかったんだよ』
『一体どうすれば私は真面目になるんだろうな』
聞こえなーい、聞こえない。私は生まれてこのかたずっと真面目でーす。
現実の私の顔とは裏腹に、心の私は耳を両手で押さえ、あーあー!と叫んでいた。
そんなことをしていても、しっかり歩は進む。もう目の前。騎士の人達ともすれ違い、その堂々たる様に何故か近づけないでいる。
ただの小娘2人なのにね。
片方はただの魔法少女。もう片方はただの暗殺者。なんて平和なんだろう。
ツッコミはなかった。
ちょっと悲しんでいると、目の前に細い剣が。顔を上げると、男性が1人立っていた。
「あー、そこから先は立ち入り禁止なんすよ。今は危険な状況なんで、国民は……」
「……エルゼナさん?」
「…………総騎士長様と戦った冒険者の……?」
「ソラです。」
エルゼナさんが剣を戻した。騎士長だった気がする。
「今確か、学園の寮にこもってるんじゃないんですか?そう聞いたんですけどね。」
「ちょっと、抜け出してきてね。真犯人をぶっ潰そうかと。」
「へぇー。ご自身に罪はないと。」
「えぇまぁ。私は何もしてませんから。認めたら負けかなと思ってる。」
ちょっと舌戦が始まりかけたところで、鉄扇が開く音が響いた。強制的に顔がそちらに向く。
「何もやっていないと、そう言ってるけど。それでも出してくれないの、ここの騎士は。明確な証拠もなく、事態を先送りにして。」
助け舟だ。恵理が軽めのジャブをふっかけて、先制攻撃を仕掛けられた。
よっし!ナイスだ恵理!
この私に口で勝てると思ってるのかー!
『『『『思ってる』けど』ぞ』ー』
声が重なって聞こえた。更に脳内だから響く。
「証拠もなしに不当に人を王都に監禁して……何もやってないのに勝手に殺人鬼扱いだし、罵倒の嵐。監禁罪と名誉毀損で訴えたい気分だよ。それを譲歩して、しかもわざわざ犯人を探してあげるって言ってるのに……」
「決まりは決まりですし。自分にそこまでの権限はないっすし。」
「のらりくらりで躱せると思ってるの?」
「そこまでだ。」
と、また更に闖入者が。
「いくら私の娘の友人とはいえ、規則に従わないというならば、総騎士長の名の下に断罪せねばいけない。」
「……レイアードさん。そこ、どいてくれます?」
その雰囲気に一瞬気圧されそうになり、チラッと恵理を一瞥すると女王モードに入ってる。それだけの相手か。
また厄介なのが揃ってるよ……というか来ちゃってるよ。揃いも揃って、城の警備は?
一抹の違和感を抱えながら、視線を移す。
「容疑はかかっている。不自然な行動をした自分を悔いてほしいな。」
「私は国のためにやったんだけど。部外者なのにね。」
「してくれと頼んだ覚えはない。」
「た、の、ま、れ、た、魔力活性化の研究の、その業務中の事件ですけど?」
頼まれただけ異様に強調する。我を貫き通す。
「いくら総騎士長とはいえ、譲れないですね。」
「そうか……」
諦めたかのように見えた。でも、そんな骨の弱い人ではないことを知ってる。
いきなり人と決闘しようとする人間が、まともなはずないんだよ。
気配が増えていく。こりゃまたゾロゾロと騎士の軍団がやって来る。こんなに用意して大丈夫かってくらい。
「力づくでも通すわけにはいかない。」
「なんで?メリットがないと思うけど。」
首を回しながら、囲まれてる状況を確認して言う。
「他に犯人がいるとして、わざわざ向かってやる必要もない。戦力は留めておく必要がある。」
「何それひっど。」
ジリジリとにじり寄って来る騎士達。女の子2人にそんなことするなんてとんだ変態集団だ。
「そっちが力づくならこっちも力づくでやっていいよね?」
「王都を敵に回す覚悟があるのか。娘の友人に対して失礼を承知で言わせてもらうが、力だけの者に負ける筋合いなどない。」
一瞬、総騎士長の体が動いた。何か来ると思って身構えた時に、何か違和感を感じた。
「残念、自分が本命でした。」
「騎士長……っ!」
回り込まれていた。手には鎖の伸びた手錠のようなもの。この体制から体を動かすには身体激化で無理矢理捻るか、重力で叩き潰すしかない。危険すぎて却下だ。
「油断したな。」
「それじゃあ、負けてもらいましょうか。」
カチャンといい音が鳴ると、私の右手首には手錠が。
「魔封の鎖だ。」
「……それが騎士のやること?」
大量の騎士に囲まれながら、魔法の使えない私がここに。
これ、どうしよう。
本気で困ってしまった。
———————————————————————
最近異常に眠いんですけど、これなんなんでしょうか。体調は特に悪くないのですがたまに気分が悪くなりますし。
もう冬も終わり、春ですね。季節の変わり目なので、皆さんも体調を悪くしませんよう。
そしてやってくる花粉。春夏秋冬、私の逃げ場は秋だけです。
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