魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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12章 魔法少女と学園生活

390話 魔法少女は張り込む

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 あれから、アルファー……ソロと名乗った男は姿を現すことはなかった。去り際に放った言葉に少し、ほんの少し不安を覚え、恵理が帰ってくるのを待った。

 今は、誰でもいい、犯罪者だっていいから人の温かみが欲しかった。
 あれは、人の皮を被った化け物。熱を帯びていなかった。

『……相当臭う。きな臭い。絶対また何かやってくる、あれが黒服の部下だ。ボスって言ってたし、可能性としては高い』
私Aは冷静に推測を立てる。いつもの図太さが今はありがたい。

『えっ、これどういう状況?さっきの男は?』
『落ち着け、私よ。不意打ちでなければ負けはないだろうが、落ち着きがない今ならば本当にやられかねん』
『やばいー?』
私Cも達観してる。客観的に物を見てると言った方がいいか。

 じゃあ、私は?

 胸に手を当ててみる。心臓が拍動する。いつもより早い。息は、正常。でも、何も考えてない?

「ダメだ、一旦頭を冷やさないと。」
右手の手袋を歯で外すと、ステッキの先端部分に手を触れ、トールと呟く。電撃が流れ、ダメージはないけど体がしゃんとなる。

「よし、ちょっとリセットできたかな?」
手袋をはめ直しつつ、今後の動きを練り直すことにした。

 早めの接触。多分もうすぐ襲ってくるはず。下見に来たけど私達の存在に気づいて、ってことかな。
 なら、私も隠れて不意打ちを狙おうか。

 この王都、意外と攻めにくい位置にある。

 戦争、まぁ何かしら襲ってきた時、まず正面から来れば確実に発見アンド迎撃ができる。横から来た場合、方やギルド本部、方や学園。学園生だって弱くはない。剣の腕はそこそこある。耐え切るくらいはできると思う。後方を狙おうと思えば、あるのは巨大な敷地の森。その頃には騎士にでも見つかって蜂の巣にされるんじゃない?

 攻め口は多い。けどどこも対処可能であり逃走も可能。
 となれば、強者からして1番攻めやすい、混乱させやすいのは学園。国の重要機構であり、人も多い。どこからでも問題なく攻められるならここ。

 なら私もそこで張り込むってことでいいのかな。

 ちょっと気張り始めた心をなんとか制御していると、足音がした。

「誰っ!」
ステッキを向けた先にいたのは。

「……なに?」
「い、や…………別に……」
恵理だった。ステッキを力無く下ろし、魔力球3個を片手でお手玉のようにして遊んでいたのを見て、なんとなく安心した。

「絶対何もなくないでしょうよ、その反応は。で、私がいない間に何があったの?」
「はぁ……じゃあ信じてね?」
魔力球を回収しつつ、さっきの出来事を語ることにした。

「へぇ、何その笑えない冗談。アルファーとかバレバレな偽名誰が使いたがるの。」
「事実を言っただけなんだよなぁ、それが。」
有限不実行を実行するというよく分からない状況に気だるげに返す私。なんか緊張したのが損だと思えてきた。

「嘘嘘、女王ジョーク。信じてる。」
「信じてくれないと牢屋に戻してやろうかと思ってた。」
非常時のくせに、軽口を叩き合う。こういう時こそ、っていうでしょ。

 私の場合特にね。さっき私やばかったから、こういう風に、人とは話してみるのもなんだよ。

 私達と話すのもあんま良くないかもね。

「空、今日から張り込むと言っていたけど。私はどうなるわけ、その場合。」
「さぁ。私の部屋でも使ったら?ほら鍵。」
「どこの鍵よ。」
「教員寮のどっか。鍵に番号書いてるでしょ。ついでに王都観光でもしてきたら?したくなかったら私を手伝うか。」
つい1時間前に渡された水筒の水の残量が心許なく、魔法で水を追加する。それをごくごくと音を鳴らし飲んでいると「よくそんな得体もしれないもの飲めるわね」と水筒を見つめる恵理がいた。

「別に、魔力を飲んでるわけじゃなくて、イメージ的には魔力で原子を作って水ができてるって感じだから。」
「中学生でも分かる理論ね。魔法って案外簡単なの?」
「え、恵理って魔法使えないの?」
「全部この紋様よ。」
などと無駄話を続けていると、夕陽が沈みかけ夜空がのぞいていた。もうそろそろ帰っていいよと恵理に声をかけ、お言葉に甘えさせてもらうわ、と言って学園に向かっていく。

 明日は授業の予定もないし、少しくらいすっぽかしても許されるよね。
 私はまだ未成年、成人前の可憐な女の子に労働させるのが間違ってるんだよ。

 私は学園のケープを収納し、ステッキから自前のローブを取り出してそれを着た。魔力を流すと、姿が消える。

「あんぱんと牛乳があればいいんだけど、あいにくただのパンしかないんだよね。」
いつの間にかパンを咥えながら、私は牛乳を右手に持って木陰に隠れた。気分的に。

—————————

 牢屋の中、刑務所での生活は思っていた以上に最悪であった。そう恵理は感じていた。

 囚人服はボロ布同然、洗濯など周りを見る限り月に一度といったレベル。水浴びは週に1度あるかないか。食事は2回、質素な最低限のもの。しかし異世界の体とは丈夫なもので、腹は空くが自然と筋肉は衰えなかった。

 部屋は地下。極悪人の入れられる場所。自身がそんな立場になるなど、全くもって思わなかった。
 首飾りが残された理由は、彼女のスキルで外せないように固定装備となっていたからである。装備解除や強制解除は不可能なため、諦めたらしい。

 飢餓からの呻き声や幻覚でも見ているのか発狂している人間もいる。まともに眠れるはずもない。
 黴臭い、さらには両腕は軽く縛られている。交渉も終わり、最近は外されるようになったが自由とは程遠い。
 もちろん、鉄扇も固定武器だ。これさえあれば、いつであろうと装備を元に戻すことができる。が、そんなことをしてしまえば処刑は免れないであろう。

 しかし、ただでさえ終身刑を受けているのだ。永遠にこの黴臭い床と共に長い余生を過ごしていくと考えると、どこかで死んだ方がマシだ、と考えてしまう。

 届きそうで届かない胸のペンダントを見つめることしかできず、ただただ見つめた。

「おい、0112。出てこい、面会だ。」
全くこんな時に誰だと、空気の読めないその相手に心で毒づく。

 堅牢な檻の錠が解き放たれ、外へ繋がる道が生まれる。このまま逃げてしまおうか、そう思うことももうなくなった。

 これだから嫌なのだ。面会と言われ外に出る際のこの圧迫感。外に出ても変わり映えのない景色。

 それでも恵理は女性だ。体臭は酷くないかと鼻を動かすも、黴臭さとアンモニアの匂いにひどく慣れてしまった今の嗅覚は頼りにはならなかった。

 面会先にいたのは、予想外、ではなかったが違和感があった。出会った頃のような奇抜な格好ではなく、割とまともな服をしていた。更には後ろには男女、あからさまに学生と見られる。

 簡単にまとめると、仮釈放の身となったらしい。自分の提案だが。
 そして、ここで死のうと決めた。本当の意味で解放される時が来た。


 久しぶりの外気は気持ちが良かった。地下の仄暗さと冷たさ、無機質さに慣れた視界に青々とした草木が映る。目の保養になる。
 空気も、薄汚れていない美味しい空気だった。

 普段吸うのは腐敗臭や排泄物などのアンモニアやらの臭いに満ちたものだったので、新鮮さにがらにもなく深呼吸をしていた。
 そして触れた、久しぶりのそのロケットペンダントを握り、翡翠に美しさに微笑む。まだ、この中身は開けられない。

 《女王》ではなく、稲神恵理として会いたい。あの世界で、日本で。

 すぐ、そこに行くよ。
 唯一残された、一抹の可能性。

 転生でここに来たのなら、転生で戻ればいい。

———————————————————————

 もうそろそろ13章、最後はまた《女王》の話になると思います、多分。予定ではそうなっているはずです。
 予定が正しく働けば、ですけどね。


 追記
最後の恵理視点のところを変更しました。結構重大なミスでしたね……本当、すみません。
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