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12章 魔法少女と学園生活

386話 魔法少女は面会する

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「見つかったはいいものの、どうするんですか?」
「僕らではどうともならないね。」
オスターが顎に指を添え、考え込んでいた。久々の14人全員集合なのに対し、空気は少し重い。

「こんなものが森に隠されてたなんて……」
「どう見ても危ない奴じゃん?」
「放っておくことはできませんね。」
口々に感想を述べる中、私は黙りこくっていた。仮説が事実になり、あんまり取りたくない手段を取らざる得なくなってしまったからだ。

 これはパズールのほうで仕掛けられてたやつと一緒、だよね。

 物事、全て始めた人が1番詳しいに決まってる。始めた人が全てを知り決めた人なんだから。だから、これを1番知ってる人は、恵理。

「今から行きたいところがあるんだけど。」
会話の中、私はズバッとそう言った。

「2人か3人か、適当についてくる人決めて。」

「行きたいところって……先生、どこ行くんですか?行き先がわからないんじゃ……」
「まぁ、知られたい内容じゃないし。」
カラが納得してなさげに口を閉じると、チサリーが小さく手を挙げた。

「ここは両チームの代表、カラとオスターの2人が行くのはどうでしょう?人数もちょうどいいですし。」
「んー、それでいいかな。カラとオスターは異論ある?」

「いえ、それでいいのなら是非。」
「先生がいいなら私もいっかな。」
同行者も決まり、目的地へと行くために廊下に出て……踵を返した。

「先生?」
「今から行く先はパズール。到着先は多分きっと私の家。帰る時は学校の寮。オーケー?」
「いいえ全く。」
「オーケー理解したねじゃあレッツゴー。」
やる気なさげな腕を天井に伸ばすと、見手にはめられた内の1つの指輪が光る。転移石だ。私はカラとオスターに肩を掴ませると、早速転移を開始した。

「ツララちゃーん、今日のお昼どうします?久しぶりにカフェででも食べまs」
「よっと、お邪魔するね。」
「あ、空。お疲れですー……?ん?んん?」
百合乃がエプロン姿で家事をしていた。流れで返事しそうになってたけど、思考を取り戻し目を開いた。

「主、久しぶり。帰った?」
「いいや、まだまだ。……でも、たまになら帰ってきてもいいかな。」
「ん、うれしい。」

「先生……ここは……?」
「我が家?」
「ご立派ですね……」
内装をぐるりと見回し、魔導具が揃ってることに驚愕を隠せないようで表情に出る。

「その子は?」
「ツララ。」
「主の奴隷。」
「奴隷!?」
「別に奴隷扱いなんてしてないよ。見れば分かるでしょ。実際ツララを見て奴隷と思わなかったから驚いてるわけだし。」
驚きの連続、突然の展開に精神的に疲労が溜まってる様子だ。早く用事を済ませようと、じゃあまたと2人に手を振った。

「オスター、やっぱり先生は規格外……だね。」
「いちいち気にしていたら、身が持たないよ。」
私の後ろを数歩離れて歩く2人は、そう呟きあっていた。

 まだパズールに着いたばっかなのに、恵理と話せるの?この状況で。

 それでも目的は目的。フィリオの屋敷より更に奥、丘以上山未満といったような道を渡り頂上までくる。と、そこにはガチガチな警備が。それと一緒に憎たらしいパズールの像。

「もっと苦渋を舐めさせてやりたかった…….」
「せ、先生?」
「なんでもない。先行くよ。ゴールはあの牢屋の独房だから。」
あ、もういいや。そんな感じの顔をした2人を連れて、顔パス……とはいかなかったけどフィリオの名前を出し、なんとか通してもらった。

 こう言うの顔パスで通れる人ってすごいよね。そもそも服が制服なのが悪かったのかな?

 考えても仕方ない。通れたんだからよしとしよう。

 進むに連れて、牢の間隔が広くなっていく。X型の4つの端には凶悪犯が多くいて、恵理はそのうちの1つにいれられている。もっと凶悪な奴は、地下の方にぶっ込まれてるそう。
 進むにつれ、何かが腐ったような臭いや人の排泄物の臭い、独特な黴臭さに鼻をつまみたくなる。流石のオスターもいつもの清々しい顔は保てず、苦虫を噛んだように顔を顰めていた。

「ここかな。」
「やっと到着……」
「牢獄とはこのようになっているのですか。知識でしか知らなかったもので……」
2人とも臭いにやられたみたいだ。もちろん私もめっちゃ臭い。意地で耐えてる。

 逆に1人だったら文句垂れ流し状態だよ。排泄物も垂れ流されてるから、それに比べたら清潔だ。

 コンコンと硬い鉄の扉をノックする。返事はないけど、勝手に入ることにした。

「特別面会室って、私の部屋からだいぶ距離あるのだけど。」
「久しぶり会った友達に対する第一声が文句ですかそうですか。」
「私たちいつ友人になったの?」
軽口を初っ端から吐きつつ、椅子に座る。というかここ部屋じゃなかったのか。フィリオの話聞いとけばよかった。

「なに、随分と大所帯で。見世物小屋じゃないんだけど、牢屋って。」
「まぁまぁそう言わず。」
恵理の纏う雰囲気が何か厳しいものに変わる。オスターとカラら緊張した面持ちで私の後ろに直立する。

「随分と肝が据わってるじゃない。」
「プレッシャーに耐える授業は受けていますから。」
オスターが答えた。授業という言葉に恵理は歯噛みし、「そう、学生なの」と呟く。

「で、空はなに?」
「何と言われても。」
「何してるのって聞いてるの。こんな学生連れ回して。社会科見学なら他所でやってくれない。」
椅子に縛られてもなお口が達者な恵理。手の代わりに口がよく動くと。なるほどなるほど。

「随分な皮肉をありがとう。私は先生をやらされてるんだよ。」
「どういたしまして。私もおかげさまで黴臭い床に嫁入りする羽目になったところなの。」
「刑が決まったってことね。」
「要するに便利な駒よ。」
ため息を吐いて、背中を背もたれに預けていた。有事の際、働かされるみたいだ。

 私のせいと言われても、ぶっちゃけこれ恵理の自業自得なんだけど。
 今から聞くことも。

「要件に入っていい?」
「空と話すと毎回脱線するんだけど、これはわざと?」
「さぁね。」
このなんとも言えない静かな会話に、口を出すことができずにいる2人。軽く一瞥し、私が代表して聞くことにした。

「これ、見覚えは?ないって言ったら、分かるよね?」
「……脅さなくても、私に空を害する意思はもうない。安心して。」
私はガラスの前の机にそれを置くと、恵理の眉がぴくりと動いた。

「これ、魔結晶?それも超高濃度。こんなもの現役時代でもそう使うことなんて出来なかったのに。」
「やっぱり知ってるよね。」
「まぁ。生成方法は私と黒服しか知らない。」
「つまり黒服が作ったって?」
「私よりも高品質?ありえないでしょ。これは単純な魔力量じゃなく、魔力の制御力で品質が大きく左右する。」
目が鋭く細められ、一体どういうことだと品定めするように魔結晶と呼ばれたその石を見つめた。

 あの黒服、どうしようと私に勝てるとは思えない感じだったけど……ほんとなにがあったの?恵理よりすごい魔結晶?作れるなんて……
 そのすごさを知らないからどうとも言えないけど。

「こんなことできる確率とか分かる?」
「ゼロ、あのままだったら何をどうやったってこんなものは作りようがなかった。」
「もしこれが設置されていたら?」
「こんなものがあれば災害もの。魔物は変異するでしょうね。」
肩を竦め、飼い犬に手を噛まれた、それも盛大に。とよく分からない笑みを浮かべた。

「ちょうど、私も気に食わなかった。主を置いて1人だけ逃げ仰て、それで次にやるのがそんな戦争紛いなこと?私はただ平穏に《女王》の座に座ってたかっただけなのに、黒服が全ての元凶ってわけ。」
段々とくつくつと笑いが込み上げてきたように恵理は笑い、なんか怖くなってきた。

「先生、この人大丈夫ですか?」
「聞こえてるけど。」
「ひぃっ!」
恫喝でもされたように小さく悲鳴を上げ、私に擦り寄る。地味に鬱陶しくて払いのけ、対処法か何かを聞き出そうとしたところで、恵理の笑いが止まった。

「ねぇ、私をここから出して?」
元《女王》としての覇気が、全てこちらに向いたような気がした。

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 随分な皮肉を~とか嫁入り~とかその辺の会話私的に好きですね。
 エンヴェルの話って何章でしたっけ?まぁ6章か7章かそんくらいでしょう。久しぶりに登場です。
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