上 下
396 / 681
12章 魔法少女と学園生活

371話 魔法少女と着任式

しおりを挟む

 私は今、学長室にいる。
 何故かって?それは……

「みなさん、長期休暇の熱に浮かされてはいませんか?今日からも、今まで通りに厳しい授業となるでしょうが、より一層励むよう。」
サファイアのように輝く髪を持ち、それに似合った透き通る声を放つのはこの学園の長、学長だ。私達教師より少し良い格好をしている。

 今は日本で言う始業式、その学長のお言葉の最中。これだけはどの部でも同じらしい。今、ネルも聞いてると思う。

 それは関係ない!いやある!

 心で葛藤が起こる。逃げたい。

 まずこの学園、設備が整ってるのはもちろん。その中でも魔道具はすごい量だ。これのおかげで不自由なく学園生活を送れる。近代化も夢じゃない!
 そのお陰で、リモート挨拶ができる。

 魔導具を繋げることにより、ペア同士の魔道具に景色を投影し音を流すという現代的な発明品だ。なんと便利なことだろう。
 つまり、私の着任式もどきがネルに見られるということ。

 身内に恥を晒す行為を今からしろと?

 黒色のスカートの端を掴み、今すぐブローチを外して床に投げつけたい気持ちを抑え、深呼吸をする。

「———では、次のお知らせを。特別講師として、アングランド国王陛下から推薦。現役冒険者にして魔術師であるソラ講師だ。今日から高等部2年B室にて特別授業を今期一杯担当してもらう。以上。では、前へ出て自己紹介を。」
呼ばれ、学長が一瞥をくれた。肩がビクッと跳ね、緊張した様子を見て肩を竦めた。そして静かに、「肩の力を抜いてください。こういうのは、下に見る程度でちょうどいい」と耳打ちをされた。

 ここまでお膳立てされたんなら、行かなきゃ私じゃないよね。乗りかかった船だし、最後まで揺られてやりますよ。

『お、私らしからぬ発言』
ネルを前にカッコつけようとした私に、追い打ちをかけた私を恨めしく思った。

—————————

 前提だが、アングランド学園の生徒数はこの世界の中でもトップクラスだ。その分とてつもない数の中退者が現れるが、それでも多い。
 何故ならば途中入学が厳しいだけで、初めから入るのは簡単だからだ。

 金とある程度の地位や能力があれば良い。
 それだけで人生に箔をつけられるのだから、入学者は多い。

 そのために学園の卒業時までの在学数は卒業に近づくにつれ狭くなり、見事に三角形が形成される。

 中等部の人数は合計413名。1教室あたり50名程度、8教室。学園全体の人数は2369名。

 内、初等部までに1300強、残りが高等部以上。

 勉学に励む余裕のないはずの異世界でこの数字は、なかなかのものだろう。

 そして。
 中等部1年、D室にて。

 教室内にはざわめきが走った。その中でも毅然に振る舞っている少女が際立つ。

 白髪スカイブルーの瞳の少女と、燃えるような赤と橙色のメッシュの入った少女。
 フェルネールとセリアスだった。

 投影用魔導具の画面に映っているのは、まだ少女とも言える年齢の女性だった。
 しかし2人は知っている。彼女の名もその能力も。

『えー……ご紹介に預かった通り、現役冒険者をしているソラです。見た目が非力そうだからって舐めてかかると、骨の1、2本は覚悟してもらうことになるから、そこのところはよろしく。えぇ……っと、それとB室の担当になったわけだけど、他の部の人も声かけてもらえれば嬉しいかな』
なんとも気の抜けた声だった。学長の挨拶の緊張感がまるで嘘のように消え去り、「なんだこの人は?」「先生?そんなわけないでしょ?」など嘲笑の声もちらほらと。

 ネルも、彼女の正体を知っているが……

(何故ソラさんがあそこにっ!?)

 もちろんここにいることなど、この瞬間まで終ぞ知らなかった。驚きはあった、が。この程度で驚いていては身が持たないことは自身が証明してくれる。

 ここまで飛躍的にネルが成長したのは、魔法少女の活躍なしにはあり得なかった。

 街にすら出歩くことが少なかった少女が、自身の足で街に向かい、領民をその目に収めることがどれほど刺激を与えたか。
 自身より弱い人間を常に置くことにより、守らなければならないという庇護欲を掻き立てたことが、どれだけ促進を与えたか。
 魔物を目にすることが、討伐する瞬間を見届けることが、どれほど精神を鍛えたか。

 内面に押し留め、ネルは瑠璃色の少女を見つめた。

「ネル様?あんな方ご存知ですか?わたくしはあのような方ご存知ありませんの。まったく、誰があんな子供を……ふふっ。」
隣の席の少女が笑った。初等部から通う、領主の娘か。あって子爵。取り入ろうと必死なことだ。

 藪蛇であることにも気づかず、お上品に笑いをこぼす姿を見て、ため息をひとつ。

「人は見かけで判断するものではないですよ。」
「えぇ、まったくもってその通り。貴方は、お父様。いえ、国王陛下のご決断を愚行と罵るおつもりですか?」

「いっ、いえ!申し訳ありません……」
途中参戦でありながら、有効打を打ち黙らせた。少女は見計らったかのように言葉を続けた。

『とりあえず。どう思うかは自由ですけど、それをさも事実のように振りかざすのはやめた方がいい。間違った情報ほど危ないものはないからね。まぁ……以上かな』
小さな声で学長に助けを乞うていた。それが更に陰口の助長となったが、逆にネルは安心感を抱いた。

(あぁ、ソラさんはいつも通りのソラさんです。私の知ってる、いつもは面倒がるくせに、物怖じしないかっこいい姿)

 笑みが溢れる。隣のセリアスも、彼女に期待の目を向けていた。

—————————

 一方魔法少女は、この裏でそんな話があるなど露知らず、ようやく終わった挨拶を全て吹き飛ばすように深い息を吐いた。

「ソラ、中々尖った挨拶でしたね。とてもユニークだ。」
「……それ、褒めてるんでしょうか?」
「あら、そう聞こえた?」
魔導具の魔力供給を切断したらしき学長は、薄く微笑んだ。童顔なはずなのに、どこか妖艶さが醸し出される。

「舐められないように、って言われたのでできるだけ好戦的にしたんですけど、悪かったですか?」
「えぇ。とても。」
「酷いっ!?」
言葉のナイフは避けられない。つまり深々と刺さった。

「舐められるな、とは言いましたがね。この学園に相応しい態度で、ということ。貴方のそれは、プライドの高い我が学園の生徒らには十分な宣戦布告といえましょう。」
「……つまり?」
「———ということ。」
「終わった……」
頭を抱え込んだ。舐められないつもりが、逆に反抗させる理由を作ってしまった事実に項垂れる。

 やばい……冒険者が板についてきてる。
 冒険者の『力こそパワー!』な思考に私が引っ張られてる……!

 新しいギルドに行くごとに舐められて吹き飛ばした記憶が脳裏に巡る。
 私の行為は、もう世紀末冒険者とそう変わらない。売られた喧嘩を買ってるだけなのに、その感覚が染み付いてきてる。

「では、改めて紹介に行きましょう?ソラ。2年B室では、すでにアーネールさんが朝礼を始めているはずでしょう。さぁソラ、先日紹介された教室へ。分からなければ、案内しますよ?」
童顔の圧がすごい。有無を言わさぬ迫力を感じ、「はぃ……」と薄い返事をして学長室を出た。

 舐められないって、こういうことかぁ……

『空は、学長から威嚇を教わった!』

 うるさい。

 仕方なく、仕方なーく、2年B室へと足を運んだ。いつもの冒険者ギルドのような反発が目に見えている。
 なので即室内全員の人間が襲ってきても良いように構えておく。

 何かいいスキル募集~!

『重力操作が無難じゃない?まぁ緻密な操作と言われたら私達フル活用と魔力が必要だけど』

 確かに。

『身体激化で無理矢理?』

 殺す気?

『ラノスを持って強盗の真似事』

 え?いきなり私を犯罪者にする気?

『教室炎上』

 なに?みんなして私を牢屋にぶち込ませたいの?

 いい案が浮かばないのに反し、教室は近づいてくる。あとこの廊下を渡ったら教室がある事実に、ため息を吐いた。

———————————————————————

 そりゃそうですよね。豪商の子供や貴族を中心とした金持ち&天才が集まってる学園に冒険者を名乗る小娘が高圧的な態度で自己紹介してるんですもん。

 舐める舐めない以前に反感を買うのは当然。
 つまりそういうことです。

 貴族といえば、お嬢様。お嬢様口調といえば「ですわ!」。「ですわ!」と言うようなお嬢様は高慢そう。そんなお嬢様といえば、金髪。金髪お嬢様といえば縦ロール。そうツインドリル。

 つまり。
 お嬢様+「ですわ!」+金髪=ツインドリル
 ということです!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎
ファンタジー
 前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。  これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。 ※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します ※本作品は他サイト様でも同時掲載しております ※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ) ※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...