魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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12章 魔法少女と学園生活

369話 魔法少女は居を移す

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「かくかくしかじかで、百合乃は先にパズールの私の家に帰っておいて。あと、みんなに冬まで帰れそうにないって伝えておいて。」
「はい?」
百合乃が私のベットに女の子座りをし、目を点にして首を傾げた。私の手には紙束。昨日の今日で早すぎると思いつつも、百合乃に説明を開始する。

「だから、何故か私は教師になる羽目になったから、百合乃はそれまで留守番ね。」
「なんでです?!そんなの、ほとんど3ヶ月……それだけあればどれだけ話数を稼げると思ってるんです?!」
「メタい!」
百合乃を古いテレビのようにチョップし仕切り直す。

「今日でこの宿ともさよならだね。」
「冗談だって言ってくださいよぉ……」
「これ、見て。こんな大量の文書送られてきて今更引き返すとか無理でしょ。私だって冗談って言って欲しいよ。」
紙束をバサバサと振って、そのまま机に放り捨てた。やってられない。

 いくらなんでも……私が転生してからもう半年行くか行かないか……あれ、私がトラックに轢かれたのっていつだっけ?

 確か、始業式の翌日……かな?

 4ヶ月くらいかな?
 ほとんど私が転生した時間と同じくらい働けって!?

「はぁ……」
これから先のことを思うと、億劫で仕方ない。

 神関連のことは来年になりそうだね。

『振り返ってみたらとても4ヶ月には思えないくらい濃い人生送ってるよ、私。そろそろ隠居の時期だよ』

 17歳の隠居ってバカじゃないの?私はまだまだ学び盛りの学生だよ。ぴちぴちのJK。

「わたし、帰り道知りません。」
「それは知らない。」
「剣術、得意です。剣姫で技術はバッチリです!」
「……だからどうしたの」
なんとなく予想がついた。けど、一応聞いてみた。

「わたしも教師にしてください。」
「私に言わないで?」
「じゃあ国王に直訴します!」
「殺されても知らないよ!?」
「わたし、この空のためなら首を差し出す覚悟です。」
少し前にした百合のモノマネがそう遠くないクオリティーで現実となった。サーベルを鞘のまま首に近づけ、その時は受け入れます、と言って笑った。

 怖い怖い怖い怖いっ!夜化けて出られそうだからやめて?

 どうにか百合乃の魔の手から抜け出そうと首を動かすと、そこには時計と紙束が。

〈準備の為、昼頃には学園の教員専用寮に移動をすること。鍵は同封されていたカード、部屋番号は605が空いている〉

「これ!ほら、私今から行かないといけないし。あと、馬車が出ると思うから!ツララとか1人にしてたらダメでしょ?お願い?」
「…………空のお願いなら、聞いてあげなくもないです。でも、1つ条件です。」
「ん?」
それと一緒に振り返ると、百合乃が胸元を掴み引き寄せてきた。そしてほっぺに柔らかい感触が。

「………………ん!?」
「安心してください、チークキスです。」
「なんだ……じゃないから。それ全く安心材料になってないんだけど。」
突き飛ばすように離し、不満げに唇を尖らせる百合乃。「今度はこれを突き出してもいいんですよ?」と自分の唇に指を差す。

 大丈夫、その時は死んでも避ける。ステータスをフルで使って。重力操作も時には考える。

 早く行くよ、と荷物をまとめさせて百合乃を引っ張る。特にまとめるものは無かったけど。

「今まで、何から何までお世話になりました。フィリオにめっちゃ宿のこと褒めておきますね。」
「またのご利用、お待ちしております。」
「また来ます!」
百合乃は女将さんに挨拶すると、私の右腕を掴んでくる。

「絶対、帰ってきてくださいよ?」
首を傾け、上目遣いになるようにしている。男を殺す才能を持っている。

「分かった、馬車までの迎えはいる?」
「さすがに馬鹿にしすぎじゃないです?そのくらい分かり、分かります……よ?5割くらいの確率で。」
「案内、しよっか?」
「いっ、いいいいいりませっ!」
哀れみを含んだ微笑みを湛えると、百合乃は一目散に逃げ出していった。向こうは馬車の停留所とは真逆なのに。

『百合乃、本当に大丈夫?帰ってきたら百合乃がいないってこと起きない?』
『百合乃には念の為に転移石を仕込んであるからセーフ。あの指輪、絶対外さないでしょ。』
私の右手の人差し指に嵌っている指輪を見て、なんか微妙な気持ちになる。ちなみに中指には瑠璃色の石がついてる指輪がある。

「学園って、確かあっちだったよね。」
背中を見届けた後、そう呟きながら私も歩を進めた。


 少し歩き、見えてきた。ネルの試験の時にも見に来たけど、改めて見るとすごい敷地だ。さすが、国営の学園。かけられてる金が違う。

 文書によると、貴族や有力な商人、能力を認められ補助金を得て通ってる人などなど、すごい人がたくさん通ってるらしい。つまり、全員プライドの塊だ。

「ここ、ナリアさんも通ってたんだっけ。醒華閃、私も習えないかな?」
どこからどう見ても不審者な私。でもどこにも視線がないのは、学園はまだ休暇中だからだ。

 数日後には再開されるらしいけどね。その時には私もティーチャーか……責任のない大人みせいねんに何やらせようとしてんだか。

 まず大門を通り、少し先を行けば巨大な庭がこんにちは。安らぎ広場的な役割だと思う。

 そこから左右に回り込むようにしてあるのが寮。門から見て右側が学生寮。上が専門部、真ん中が高等部、その下に中等部、初等部と、区切られている。左側が男子、右側が女子だそう。

 左側の方の寮は、教員用だ。

 表を通り過ぎるとようやく現れる校舎。デカい。ここで試験をしていた思うと、ネルに拍手を送りたくなる。

 建物が多く、そこに専門部の各教室やらなんやらが詰め込まれたり特別活動枠にあったりするという。
 校舎の手前にはまた庭。でも、今回は授業とかに使われてそうだ。色々ある。

「あっちはまだ関係ない関係ない。明日以降見てまわればいいよね。」
そう言って、寮内に入ろうと思ったら、気配を感じた。

 ま、寮なんだしいて普通か。

「待ってたぞ、ソラ。」
「……あ、はい。」
誰か待ってた。

「わたしはアーネール。あなたが国王様から命じられたクラスの、担任を受け持つことになっている。よろしく頼む。」
茶色の髪を後ろでひとつ結びにし、羽根のようなリボンで留めているかっこいい女性だ。腰に剣が挿さっており、目に止めた。

「あぁ、これは護身用で。刃は潰れているので、殴る用だ。潰れていても、当たれば相当痛いぞ?当たりどころによれば、1撃で昏倒だ。」
「気をつけます……」
「そう怯えるな」と豪快に笑って見せると、こんなところではなんなのでと奥に通される。

「一通りは分かっているだろうが、慣れないことにはどうにもならない。学園は、知識だけではどうにもならない場だ。わたしも思い知っている。」
「アーネールさんはいつからここに?」
「今が28だからな。8年前か。剣の指導をしている。剣術の指導では、まだ副担当だが。」
話しながら向かった先は。

 食堂?

「寮の食事は基本的にここだ。この階は他にも治療室や書斎、洗面所、風呂場、トイレがある。共同スペースというやつだ。寮には人1人が暮らすには十分な広さがあるから、安心しろ。」
「はぁ。」
私の頭にはあんまり入ってこない。分からなければ後で聞け理論を展開する。

「それに、その服装はいただけない。職員の制服をもらっているだろう?休日や部屋にならいいが、学園内では基本制服の着用以外認められていない。」
「制服ってどこにあるんですか?貰った記憶がなくて。」
「部屋に3着ある。ここで毎日定時に出せば洗って返してくれる。」
そう締めると、あとは自由にしてもらって構わない、と言い605号室に案内され放置された。

 とりあえず、中に入っていいのかな?

 お邪魔します、と心の中で言ってカードで解錠する。ガチャっと小気味良い音が鳴り、ノブを回すと部屋が露わになる。

 綺麗な部屋だね。
 定期的に手入れされてるのかな?結構近代風じゃん。んー、日当たりもいい!抜群にいい部屋だよ。

 校舎前の広場も見える。いい景色だ。

「で、制服ってのは……これ?」
机の上に重ねて置いてあった。その隣には、銀色のブローチとプレートが置かれていた。

 結構かっこいいブローチ。気に入った。

 白と黒を基調にしたシンプルな色合いのワンピースらしきものだ。生地はしっかりめで、スカートの丈もそこそこ、広がりの少ない動きやすい仕様だ。ベルトがあり、それで腰を締めるらしい。
 スカート部分が黒く、上半身は白。袖や襟は黒く……あれ?これワンピースじゃない?

 バリバリに上下が分かれてた。
 胸あたりについてた装飾は、ボタンの役割になってた。

 そして最後に、いかにも魔法使い感がある黒色のケープ?みたいなのがある。肩から羽織るやつだ。

「これをブローチで止めろと。で、プレートはどこに?」
よく見ると、この世界の文字で名前が書いてあるので名札だ。色とかで役職が分けられてるやつだ。

 ……まぁ着るかな。魔法少女服なんてペラペラなら、上から着れるよね?
 ステータス下げたくないし……手袋とブーツは別にいいよね?

 ステッキはベルトに挿し、ラノスとかの兵器群は収納しておく。

 これを見ると、私は教師になってしまったと改めて認識する。

「はぁ…………やだなぁ。」

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 そろそろ本題に入り始めてますね。

 ちなみにこの世界の授業数は1日3時限です。高等部にもなると学ぶことも減ってきて、授業後の活動に力を入れるようになります。
 ほとんど自習のようなものです。
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