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12章 魔法少女と学園生活
364話 魔法少女は報告する
しおりを挟む「強いな。模擬戦では私の負けだ。」
そう言う総騎士長に手を差し伸べ、すごい握力でギリギリと締め付けられる感覚に頬を引き攣りながら腕を引いた。
「どうした?元気がないようだけど。」
「いえいえお構いなく。娘さんの前で無様にも完敗した父親相手に少し同情の念が抑えきれなかっただけですよ。」
「そうかそうか、心配痛みいるよ。」
視線をぶつけ合った。罵り合いだ。しかしそれもすぐ終わり、顔を緩ませて聞いてくる。
「……ナリアは、上手くやっていそうか?」
「そうですね……信頼はできなさそうだけど信用できる仲間がいると思いますよ。」
「ならいい。ナリアがナリアの思うように、信念を貫いたのならばそれを否定する気もない。上手くやれているなら、父として言うこともない。」
最後にナリアと話させてくれ、そう言った総騎士長は私を通り抜けて奥にいるナリアに目線を合わせた。
「周りがうるさいだろうが、そこは私がどうにかしてやろう。お前の信念がここにあると言うなら、戻ってくることは許さない。いいな?」
「……お父様は、悪手を選んだ私を糾弾したかったのでは……」
「私も、できればナリアを育て上げたいとは思っていた。が、それが娘を責め立てる理由にはならない。」
何か勘違いを悟った総騎士長が、ナリアをそっと抱きしめる。このムードを壊すほど落ちぶれてはいないので、端に避けて見届ける。
私は空気の読める魔法少女だからね。無駄に出しゃばって、「また私何かやっちゃいました?」ってなるつもりはない。
「お父様……っ、私は、私は……できの悪い娘です。」
感情の居どころが分からなくなった様子で、すすり泣きを始める。総騎士長の胸の中で何筋も涙が流れ、それを慈しむように抱擁で答えた。この時間は、長く続いた。
少し赤く腫れた目元を拭ったナリアが、どこか吹っ切れたように肩の力が抜けていた。私に視線を向けると、「無茶なお願いを聞いてもらって、ありがとう」とお礼を頂戴する。
帰っても帰らなくても何か起こる。こういうのを主人公体質って言うのかな。
『この世界の場合、ただそこらじゅうに転がってるだけだと思うけど』
『ふっふっふっ……ここまで心踊る戦いなどいつぶりか。力でなく技で圧倒されかけるとはっ』
『いつまで引きずるの?その話』
頭の中はいつも通り。特に聞く必要はないので気にしないようにしておく。
中位騎士に護衛をつけられながら王都の巨門をくぐり、先に待機させられていた馬車に乗った。馬車路を走りながら、城への道を揺られながら待っていた。何故か百合乃も同伴。
馬車内は不思議なくらい静かだった。さっきのことで雰囲気が作られたのか、言葉を出しづらいそうにしている。
そこで空気ブレイカーの登場、というわけかな。
『そんな度胸があればの問題だけど』
『私はこういうときはヘタレだからないもんねー』
うるさい、と心でツッコみ黙らせる。
よし……よし、よし。覚悟を決めよう、覚悟を決めた。うん、決められたはずだ。
「み、みんな?報告、終わったら何したいとか、ある?」
「はいはいっ!空とデートです!」
「百合乃に聞いてない。あとしない。」
「ちぇ……皆さん今の聴きました?酷くないです?空っていつもこんなんなんです。strict Sora!」
あってるかどうか私には判別つけられない英語を挟む百合乃。無駄に発音がいいので合ってるように聞こえる。
ほら、見てみなさい百合乃。あのナリアが困り笑いで誤魔化してるよ。こんな芸当、百合乃にしかできない。すごい!
皮肉たっぷりに、心でそう笑った。
「そ、そうですね……少し、王都を離れて旅に出ようかと。今回のことで依頼料は多くいただけるのだし。」
「そうだなぁ。今度はオレがあのおっさんを切り倒してやろうか?」
「ギリシスに相手できる強さじゃない。」「お父様に勝てるとでも?」
私とナリアの声が重なる。目の前で見てきた娘と、短時間でも切り結んだ私。確証があった。
「ちっ。オレも醒華閃を手に入れられれば……」
「ギリシスの剣は粗暴。ついでに言葉遣いは粗野。さらに言えば思いがない。」
「僕の素人目で見ても、ギリシスの剣は生存に特化した剣だと思うね。」
「テメェら……はぁ。食いつくのもエネルギー使うんだよ。」
「この中で1番可能性があると言えば、そこのユリノさんかもしれない。」
異様な圧を瞳から感じた。百合乃は気にした様子もなく、「わたしです?」と首を傾げた。
まぁそうだろうね。上級剣技全取得できる人間が醒華閃できないとか嘘でしょ。
いつか勝手に覚えてきそうで怖い。というか、スキルの充実感が半端ない。スキルありだとしても私にステータスで勝る部分があるとか……百合乃主人公の物語作れそう。
となると私は主人公を導く先輩的な立場になるのかな、なんて考えて膝に乗っかる黒髪に連撃チョップを浴びせる。
「痛っ……暴力反対ー!」
「仲がよろしいんですね。」
「厄介なことにね。」
玄関の前に居座るカラスでも見るかのように百合乃に視線をやると、「酷ぇなお前」と真面目にツッコむ奴が現れ、雰囲気は元に戻る。と、その瞬間を見計らったかのように馬車が停車した。馬車は指定の位置に停められ、私達は案内の下いつもの部屋に通された。
よくアニメで見る赤絨毯の謁見の間とか見てみたいんだけど……なかなか見せてくれないよね。
みんなソファに座らないので、私も空気を読んで座らなかった。百合乃は私にピッタリとついてきてる。
そしていつもの如く遅れてやってくる国王。
「ふむ……空気が緩くなっているな。無駄な緊張が抜けている。何か仲の進展のきっかけでもあったか?」
開口一番そう放ちあからさまに高級そうな椅子に座り、メイドが紅茶を注ぐ。そのメイドは、国王に視線を送られた。
「皆様も、おかけになってもらっても良いですよ。お紅茶を注ぎいたしますので。」
「はい。ご報告は、少々長くなると予想されますので。そうさせてもらいます。」
ナリアは国王に1度お辞儀をし、「失礼致します」とソファに腰掛けた。
おぉ、さすが総騎士長の娘。それっぽい礼儀は完璧だ。
私もそれを真似れば……
と、頭を下げようとした時。小声で「礼は代表者1名で十分なので」と聞こえ、「失礼します」とだけ口にして座る。ふっかふかだった。
「では、聞かせてもらおう。この2週間の空白と、悪魔の真実を。」
国王が威厳たっぷりに言い放った。しかし、私は疑問に思った。
「2週間?1週間じゃなくて?」
それはみんなも一緒だった。
「そこも含めて……仮定に過ぎませんがお話ししましょう。」
そうして語ったのは今回の事の顛末。
精霊の森に入り、そこは魔力が存在しない場所だったこと。私がたまたま適合して3人を救ったこと、普通ならそこで傷もなく不可解に死に、移動する精霊の森の外へ捨てられる話も。
その中で起こったことは伏せた。神試戦などと言っても信じてもらえない可能性は高いし、何しろ追求されたりとかは怖い。
死因が一致した。悪霊に取り憑かれて、というよりかは幾分か現実味を帯び始め、それを証明しろとのことで私が羽をはやしてみせる。国王は驚いた様子で見つめ、「信じよう」と一言。
悪霊なんてでっちあげ。噂が噂を呼び、悪霊と話が飛躍しただけであり、魔物の凶暴化は未だ解決されぬ魔力の活性化だと決定づけた。
ここまでがナリアの話。上手くまとめてくれたと思う。私だったもっと雑になると思う。うん確実にそうだ。
「そちらの推論は了解した。が、疑問も残るな。質問をさせてもらう。」
「じゃ、そこからは私の出番ということでいいですか?」
「構わん。」
では、と切られた報告の第二幕。面倒な悪霊事件をうまくまとめられるよう、ここからは5つの考えで臨む。
「何故その精霊の森とやらが移動していることについて知っている?そして、その羽は適合と関係はあるのか?」
「その問いに対する答えは1つ。現地の街の長と直々に話をして、友好の証として羽を受け取った。その時に、話を聞いて。」
「いきなり長に話を通せるものか?」
「まず前提として、他国との繋がりのある王都とは違ってそこは閉鎖的な精霊の街。人間界から決してやってくることはないはずの人間が現れたんだから、当然だと思うけど。」
もちろん嘘だ。平然とポーカーフェイスをやってのけるもう何人かの私に称賛を送る。
『ふっ、当然だ』
今回、私達にこの依頼を頼んだのは国民の不安を拭い去るため。危険のある可能性のあるまま放置して、目に見えないものに怯え内側から崩壊しないため。
つまり、民衆を納得させれば私の勝ち!
そもそも私がこの役についたのは私の都合のいいように話を進めるためなんだけどね。
「納得してもらえた?まぁこの問題は事実であろうがなんだろうが、納得させられれば勝ちだけど。」
「まだ話さなければならないことがあるが、また後でいいだろう。」
心でガッツポーズを作る。このまま帰って寝られる!
「ではソラ。お前には精霊の森でも生存ができる魔導具を至急用意してくれ。最低10は欲しい。」
———————————————————————
毎度のことながら書くことがありません。
あー、百合乃の話でもしますか。
また後々出てくると思いますが、百合乃の新スキル、愛念の影響でステータスに関わらずその時の空への愛の大きさで能力が上昇します。
避けろピカチ○ウ!ができるってことです(?)
他に意識を失うと攻撃と素早さが倍になったりします。ソラの攻撃力を上回るわけです。
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