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12章 魔法少女と学園生活
361話 魔法少女は斬られる
しおりを挟む1歩を踏み出すと、そこはなんの変哲もない森だった。今回は意識を失うこともなく、私は地面を踏み締めた。
そして違和感……いや、慣れた感覚が。
魔力が……戻ってる?戻ってる!
力が溢れるような感じが戻ってきて、私は立ち止まった。
「あ?どうした?」
「あ、いや……魔力が戻ってるから……ん?」
不審げに見てくるギリシスに答え、ふと自分の体がおかしいことに気づいた。
……というより装備が。
精霊服、なんでキラキラしてんの?
『魔力が戻ったから、魔法少女服のほうが装備の能力が高まった。だから装備変更が起こっt』
それやばくない!?魔法少女服が、見られるってこと?嫌だよ、それだけは嫌。
『腹括ったら?』
却下。
光の粒子となり、今すぐ消えてしまいそうなワンピースを前に、思考はあたふたと考えを巡らせる。
「ソラ、どうしたのですか。」
視線が痛い。ということで、ちょっと誤魔化すことにした。
「みんなっ、危ないから離れて!」
「えっ、なんか始まるの?」
「なんか面白ぇことでもすんのか?」
「いや、しないから。じゃなくて離れて!?」
私の叫びに仕方ないというように後方に下がる3人を見て、小さく口角を上げた。
よし来た!1週間ぶりの魔法!
「サンダーサークル。」
そう一言。聞き取れないほどの小音を放った。そうして、私の周囲……いや、私ごと巻き込んで電撃が発生した。そして続けて万属剣を大量に生成した。
あれ?なんか魔法が使いやすいような……原素の操作のおかげ?
まぁあれめちゃくちゃむずかったからね。
『それもあるけど、背中。羽あるでしょ、それのおかげでしょ。装備の格は変わってもステータスは変わらないし』
話半分に、大事なとこだけ切り取って聞き、万属剣の剣と剣を交わらせるようにして盾を作った。
「お、おぉ……?んだよこれ。」
「僕に聞かないで。」
「まぁ、見ておきましょう。」
声がかすかに聞こえてくるけど、見えてないから気にしない。
『装備、入れ替わった』
分かってる。私、ローブ出して。
『ほいほいさ~』
取り出されてローブを右手で掴み、早着替えをする。いつもの温もりを感じ、フードを被って完成。実家のような安心感だ。
『私は天性の引きこもりみたいだね』
暗くて狭いのが好きな人なんて世の中ごまんといるよ。悪かったね、捻くれてて。
そして魔力喰らいで魔法全てを喰らう。わざわざ吸収させるのは面倒なので、仕方なく魔法で代用だ。
魔法は一瞬で消え、紫紺が一体を支配する。ローブがその風圧で靡き、空中から重力操作を使用しゆっくり降りる。
「ふぅ……魔法少女、完全復活。ってね。」
フードを少し上げ、顔を見せる。キリッとかっこよく見せる。
どうよ、完璧な登場じゃない?
『知らん』
『ふっ、89点だ。魔力喰らいの残留魔力を周囲にばら撒き、夜空の如き煌めきを……』
『どうでもい~!』
頭の中は楽しそうだ。ともあれ、魔法が元に戻ったのでよしとする。
私ー、万能感知と気配察知を軽くやっといて。
『分かった、その辺りのスキルはわたしがやっておくね』
ありがと。私の中で1番役に立つよね、私。
そう一言二言私へ声をかけ、すぐに3人の元に足を運んだ。久しぶりの魔法はちょっと楽しくて、らんらんの足取りで、少しステップを踏んだ。
「なんか、気分良さそうだな。お前。」
「1週間も魔法が使えなかったんだよ?私の本職を奪われて、気分がいいわけないでしょ。」
眉を曲げ、明瞭な事実だというのに察しの悪いギリシスを無視して前を歩く。
「ナリアも、剣が使えなくなったら困るでしょ?」
「確かに……そうね。」
「おいナリア、お前理解できたのか?」
「剣に魂をかけられないのなら、醒華閃は使えないでしょうね。」
抑揚の少ない声で、私の隣に来たナリア。
「これが終わったら僕らは国王様に報告しなきゃいけないよね。することが山のようにあって面倒だよね。」
「悪魔という話は嘘ということさえ伝わればいいんじゃない?精霊の森とかパスでいいでsy」
「死者は出ています。精霊の森に対する対策は必要では?」
王都の巨大門に向かって、話し合いながらゆっくり歩いて行った。
もしこのまま王都にでも行ったりしたら、即刻捕まって城にドナドナされるのは目に見えてるので、先に対策と報告内容を考えるという作戦だ。
『私私~、なんかものすごい勢いで何か迫ってるよ?大丈夫?』
ん?どれどれ……ほんとだ、ってこれ私のバイク並みの速度……っ!気配は人間のはず、え?じゃあこの速度ってどういう……
すると、ナリアが待ったをかけた。ナリアも気づいたらしい。陣形を組み、ギリシスとアズベルがナリアの背後に回り、警戒を強める。
そして何か声が耳に届く。
「———ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「え、まさか……」
警戒がより一層強まる3人をよそに、私は冷や汗をかいて少し青ざめる。
私は1人知ってる。とあることのためなら、なんかすごいことも覆せそうな少女を。
「空ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして、軍服と黒髪が見えた。それは宙を跳ね、ナリアを飛び越えて私の元へやってくる。衝波で空でも蹴ったのか、猛スピードで落下してくるため、当たれば相当なダメージを……
ってそんな解析してる暇ない!
これは、全力でかからないとダメなやつ……っ!
私、さすがに3人守りながらはきついっ!本物のチーター相手に、分が悪い。
咄嗟の判断だった。
空間伸縮で3人の背中に手を伸ばし、遠くへ飛ばす。それと一緒に石を落とす。「「「えっ?」」」と驚きの声を聞く暇もなく、私は後退し地面から聞こえる轟音にビビる。
『確実にレベル上がってるね、これ。私とは違って元がチートだから、案外いい勝負になるかも』
無駄に冷静な私に突っ込む暇もなく、サーベルが顔の横の空気を斬った。
「百合乃……」
軽く理性が飛んでる様子の百合乃。どれだけ私のことを好き……いやこれはもう殺人レベルの愛だ。
問題はどのくらい強くなってるのか、だよね。
『鑑定眼で軽く見た感じ、現段階では私以上の攻撃力かな』
はぁ!?それはあり得ないんじゃ……
『多分スキルの影響。この意識混濁と関係あると思うけど、詳しい効果は分からない』
その話を聞き、少し顔を歪める。効果時間も分からないとなると動きづらい。
百合乃は喋らず、ただサーベルを向けてきてる。
「向ける相手間違ってるよ!」
時折タックルみたいなのも挟んでくる。それを龍化によってスペック上げをし、どうにかして回避。パクトを使いたいのは山々だけど、そんな暇がない。剣戟を躱すのが精一杯。
重力操作っ!空にっ!
重力を空に向け、自分を引き寄せる。百合乃の突きをそれを交わし、万属剣を防御代わりに放つ。
「……木葉舞。」
カキンッ、と何度か重なって聞こえる。万属剣が全て弾かれていた。そのまま空を衝波で蹴って、百合乃は私の元までやってくる。
重力反転!
無理矢理地面に降り、トールで牽制。それを苦もなくサーベルを薙ぎ、トールの軌道を捻じ曲げた。 同じく百合乃は地に降りた。
「流天星華。」
ものすごいエネルギーを感じ、咄嗟に防御……などはしない。受け止めるように視線を向け、手に握られた石のようなものに魔力を流した。
「……っ!?」
百合乃のサーベルが空を斬った。そして戦闘の範囲外に逃がされた3人は、目を見開いた。
「つーかまーえたー。なんてね。」
百合乃の肩に、私は右手を置いた。重力操作で動きを止め、ようやく隙が出来たとステッキを手に握る。
「それじゃあ……正気に戻れっ!」
「へびすぃっ!」
奇怪な声を上げると、百合乃の体は地面に落ちる。お尻を突き出す形で意識を手放し……
私~、再生して。
『はいよー』
3人の目には変人に映るであろう、いや確実に変人である百合乃にほのかな光を与え、この謎の状況はなんとか終わりを迎えたのであった。
めでたしめでたし。
『めでたくないけど?』
———————————————————————
これ、絶対明かしちゃいけないやつな気もするんですけど、この作品って叙述トリックってやつ、超頑張ればできると思うんですよね。
まぁそれを叙述トリックと言っていいのか分かりませんが。
空を斬る。
これ「くう」とも「そら」とも読めますね。主人公の名前は空ですよね。つまりそういうことです。
人の方の空が斬られたと思わせて、描写しないことで空は退場したと思わせ、実は空中の方の空を斬っていた、みたいな?知りませんけど。
やるとしても3人称視点じゃないと無理ですがね。
……本物の叙述トリックに謝った方がいいですね、私。
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