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11章 魔法少女と精霊の森
閑話 後継者の心労
しおりを挟む「ようやく、この席が設けられた……」
光の道を通り抜け、その先にある樹海をくり抜いたような場所に、机と椅子が。そこに座るのは、少女のような人物。
現龍神、ルーア。
もう少女とは言えぬ背格好だ。立派な神となっている。しかしまだ幼さは抜けぬ様子で、肩まで短く切り整えられた薄い紅髪から涙目のオッドアイが覗いていた。翼がそれを覆っていた。
服装は、霊神により無理矢理変えさせられた魔力循環の良い、体のラインがはっきり出る服だ。
白っぽいボディースーツが、スカートのように少しふんわりとなっている。似ているものをあげるとすると、チャイナドレスだ。そこに、魔力追尾型の布が巻き付いたり、他にも服には装飾が見られる。
乙姫のリボンを思い浮かべるのが近いだろうか。「美人」と検索すれば、そこに出てきそうなほどの目を奪われる美しい姿。しかし疲労が見て取れる。
好まない服装だが、背に腹は変えられない。効果はいいのだ、効果は。
こういうものは、見た目が悪い方がいいものだ。
魚だって、顔のキモい魚の方が美味しいと聞く。
閑話休題。
ルーア、彼女はとうとう開いたのだ。定期神集会を!
まともに話がつけられたのは霊神のみ。放浪の人神を見つけるのにはとてつもない時間を要した。そして彼らを連れ再度魔神の城へ踏み込み、なんとか連れてきたと言う具合だ。
魔法少女が転生する200年前のことだ。魔神の説得、いや起床にそれだけの時間を要したのだ。
「あらぁ?どうしたのぉ、そんな疲れた顔して。可愛い~顔が台無しよぉ?」
間延びした声が、遠くから聞こえて来る。この声は霊神だ。
「ここまで来るのに、ちと時間がかかってしもうて。しかし、これも霊神様のおかげでもあるのだ……感謝してもしきれない。」
「いいのよぉ、別に。同じ神の誼みなんだからぁ。」
そうしてやって来る人神と魔神。魔神に至っては、シワだらけの魔神Tシャツを着用し、やる気のなさが見て取れる。
しかし、しかしだ。こうして招集できたことだけでも幸運なのだ。
この統一感のかけらもない4人が。
この時には、ルーアの実力もそれなりに上がっていた。それでも、生きた年数が違いすぎるため、差は大きい。
「はぁ……眠い。ボクはこんな会議には出席したくないんだ、やるなら勝手にやれよ。」
「できないから呼んだんだ。ヴァルを起こすのにどれだけ苦労したか。」
「暇人さんとレンちゃ~ん!早くぅ!」
「誰が暇人だ、殺すぞ?」
「やぁん。血気盛んねぇ。肩の力を抜きましょうよぉ?」
集合してから席に着くまでの時間も長い。机に突っ伏していた際にできた痕を治しつつ、髪のはねを直して姿勢良く座り直す。
「いや、本当に。早く席に着いてくれないか?我、これのために何百年ついやしたと思っておるのだ?」
そんな切実な眼と声音を見た3人は、さすがにやばいと感じ取り、着席する。
ここまで来ると、もう定期神集会を開いた理由すらも忘れてしまいそうだが、神の代替えの許可が中心だ。
まず、ルーが死に、後継者候補であったルーアが魔法少女の推薦により第1候補に繰り上がり、仮ではあるが龍神の名を得た。しかし、仮だ。
本当に神と認められるのは、この会議にて他神の過半数、2人以上の賛成が不可欠だった。
「題材は、我の四神入り。霊神様、魔神様、人神様。あなた方三神の許可を、いただきたい。」
そうして空中に現れた魔法陣は、三等分され、それぞれの元に近寄る。
「これに、魔力を流していただければよい。」
険しい面持ちで、不安を握りしめるように拳に力を入れる。
そして、一言声が聞こえた。
「え、君四神じゃなかったっけ?」
人神の声だ。
「え?」
「ん?」
「え?」
少しの間、沈黙が続く。
「確かに、もうとっくに四神だと思ってたからぁ……今更って感じねぇ。」
「同じく。こんなんなら寝てた方が良かった。」
口々に告げられるそんな言葉。困ったように首を傾げる霊神と、イラついたように頬杖をつく魔神。
つまりこれは、何百年と奮闘してきたとルーアの努力がほとんど無駄だったと言うことか?
「我の努力ぅぅぅぅぅぅ!」
腹の底から絞りでた声は、この樹海を驚かせた。
そして俯いた。
その間、3人は魔力及び原素を流し、調印していた。これで神へと至った。
だがそんなことなど今はどうだってよかった。この内に収まらぬ怒りを、やるせない気持ちを、どう発散するべきかと手をワナワナと震わせていた。
「はぁい、これで正式に……って、ルーアちゃん?どうしたのぉ?」
ルーアは言われて初めて気づく、己の右腕に炎が滾っていることに。
そこで気づく。
例えどれだけ届かぬ高みにいる相手であろうと、殺気というものは抑えられぬものだなと思う。
「承ったよ、皆。これで今日から我も、四神の1人として、龍神……元龍神様の代わりを務められる。」
ところで1つ、そう続ける。敵意というのは、寸前まで隠し通す必要がある。
「指導を頼みたいのだが、いいかの?」
紅蓮が自身全員を囲むように燃え盛り、手には籠手が嵌められていた。それも龍の姿に合わせたタイプの、凶暴そうな見た目の。それを両手にはめ、がちゃんと金属音を鳴らし、翼で上昇する。
「……腐っても神、ね。まぁ……眠気覚ましと新人教育、両立できるならいいな。」
魔神が立ち上がる。手には立体魔法陣。複雑な機構をしており、素人目に見てもそれはとてつもないものだと分かる。
しかし、こちらも魔法なら遅れは取らない。
「起動、龍法陣結界。」
「……っ。」
龍法陣が、まるで結界のように至る所に設置されていた。速射可能、そしてその間もルーアは動ける。龍神ならではの絶対暴力!
「解除。」
「なっ、我の陣が……っ!」
指の音が鳴るとともに崩れ去ったのを見て、それを行った人物、人神を睨む。
「なんでこうなっちゃうのぉ……」
間延びした声で困ったように戦闘を見届ける。
「作れるなら壊せる。そんな大量の龍法陣を生み出すのならどこか確実に隙が生じる。そこを突けば瓦解する。ハリボテだ。」
「……とてつもない技術だのぅ…………」
言葉の最後に感嘆ともつかない息を吐く。
「でも、でも!我がこの数百年間、どれだけの心労を重ねてきたと思うておるんだ!やれめんどくさいだの、眠いだのと、どれだけの間龍神の席を空けて居ればいいのだ!その間、龍達は代表なきまま……平穏が崩れ始めておる!」
「…………余は龍には関係ない。」
「ボクはどうでもいい。はい、プレゼント。」
「やめろヴァル。」
投げられた立体魔法陣を、一瞬にして崩壊させる。
そのあっけらかんとした姿を見たルーアは、せめて1発と力を湧き上がらせ、本気の1撃を叩き込む。
感情ごと放出させるように、渦巻く火炎を1本の槍のように。
「我の怒りを、受け取らんかぁぁぁぁぁ!」
「え、ちょ……其方のそれどこにも隙がないんだけど?それ通常魔法……?」
「いい魔法だ。眠気覚ましにはちょうどいい。」
「何言ってるのぉ、暇人さんは暇人さんらしく……」
「黙れ。」
人神と霊神を押し除け、魔神は手を伸ばした。巨大な魔法陣を盾のようにして、魔力を吸収させた。
「ボクに勝とうなんざ、1000年早い。1000年後には、ボクはもっと強くなってるだろうけど。」
ただの青年のような見た目の魔神の目に、何か言いようもない恐ろしいものが見えた気がする。
「これにて終わりだ。解散。」
呆然と立ち竦む3人を無視し、光の道へ向かう。欠伸をして、眠そうにして立ち去る。
「我、どうすればよい?」
「神にはなったんだから、終わりでいいんじゃないの。其方は其方の思うようにしたらいいだろう。」
「ならワタクシも帰ることにするわぁ。じゃあねぇ、ルーアちゃん、レンちゃん。」
後を追うように霊神は光の道を進んだ。
ルーアは、「我の努力は一体」と悲しげに翼を閉じ、とりあえず椅子に座った。人神は、ルーアを一瞥して踵を返した。
———————————————————————
これにて今章は終わりです。この閑話は適当に執筆したものなので、適当に読み流していただいて結構です。
何も考えず好きなように書いているので中身が薄い。それはもうペラペラ。
では、次章もお楽しみに。
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