魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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11章 魔法少女と精霊の森

354話 魔法少女は反撃開始 2

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 流星のような業火の雫は星屑を吹き飛ばした。ベール自身も驚きだが、精霊も呆然と宙に浮いていた。

 そのせいか、精霊に業火が直撃した。
 しかし、ダメージはほとんどない。

 魔法少女の勘は正しかったという証明だった。1人ではまともにダメージも稼げないことに、ベールは苦虫を噛み締めたような顔になる。

「やっぱり、わたしじゃ……いや、何を考えてるのわたし!わたしは、勝ってミュール様に会うっ!」

 ダメージは望めない。でもそれでいい。ベールは今出せる全力をぶつけたかった。わたしでも立ち向かえるぞと、1人でも戦えるぞと、知らしめたかった。

 神試戦に挑むことになり、ここまで来るまでに魔法少女の凄さにはよく気づいていた。契約者として、見てきた。

 1人でなんでもできる強さがあって、それでもできないことはあって、それをどうにかしようと足掻く。かっこよかった。

 自分を肯定したくて天才などと宣い、研究職に就きずっと籠り切っていた自分とは違う。魔法少女は、ベールの目から見てとても輝いて見えた。

 ミュール様、霊神に会いたいのは、こんな自分を変えたかったからだ。神試戦に挑み、勝つことができたなら、自分を変えることができたのなら、堂々と胸を張って彼女に会える。肯定できる。認められる。

 でもこのままでは……

「押し流せ、焔流よ!」
嫌いな自分の劣等感すらも燃やし流すように、炎の波を放つ。なりふり構っていられない。

 強烈な熱風がベールを撫でる。軽く火傷になっている指先に力を込め、口をキッと結んで耐える。

「わたしも1人で、前に進めるんだから!」
ベールの気迫に何かを感じ取ったのか、重力のかけられているはずの重い体を、強く激しく動かす精霊。大剣を耳の横に構えた。

 まず動いたのは精霊。大剣を振るい、熱風を切り裂いた。羽に魔法陣が浮かび上がり、一気に加速した。左右に分散した炎は、それでもなお諦めず、動きを止めようと炎を追尾させる。

 次に動くのはベール。このままでは斬られると判断したのか、横に限界ギリギリの速度で移動する。その途中、「炎よ、燃えよ!」と何度も詠唱をする。足止めにもならないが、やらなければならないとベールの頭は警鐘を鳴らす。

(これはまだ、温存しておかないと……いざという時に、使わないと)
後ろの腰に下げられた、少し重くて大きな銃。その感触を感じながら、心で思う。

 残弾数7。まだまだあるとはいえ、7発。心許なくはある。

 と、注意散漫になっていたことに今更気づく。

「っ、こんな狭い部屋で見失っ———」
戦闘に不慣れなベールでも分かった。肌を撫でる痛いほどの殺気。そして死の予感。大剣が目の前に迫った。

 腰を抜かしそうになり、高度が下がった。首の皮一枚繋がった感覚だった。軌道からほんの少し外れ、頬を切られた。少し深かったが、動けない怪我ではない。HPゲージは少ししか減っていないことから、まだまだ戦えることを確信する。

 そして、また見失う。

「……どれだけ速いのよ。あいつは、こんなのが万全な状態の時に戦ってたの?……ほんとに、なんなのよあいつ……!」
醜く嫉妬する。なんで嫌々出場した魔法少女の方が活躍して、自分はこうも弱いのか。

「でも、やらなきゃいけないのよ!」
叫んだ。その瞬間だった。今度は真正面。視界には金髪で覆われ、動けない。金縛りにあったように。

 刹那。声が聞こえた。
 すると、突然力が湧き出るようで、体の内側が熱くて、何かが膨張しているような感覚を覚えた。そして、何もないところに、突然魔法陣のようなものが浮かび上がる。

 通常魔法陣は、自身の干渉できる範囲内にしか発生させられない。あれは完全にベールの範囲外。

「……なに、これ……?」
その陣からは、見慣れない精霊術のようなものが飛び出てくる。土の柱がベールを守るように形成され、彼女の体は以前より軽く速く動いた。

「ベール!お待たせっ!」
やって来たのは、所々血の滲む、ボロボロのワンピースを着た魔法少女だった。

—————————

「ベール!ベールっ!」
私は叫ぶ。後ろから「人の部屋で叫んじゃダメだよー?知らないのぉ?」などと聞こえるが、今は無視だ。

『やばい、さっき死にかけた。このままだと一方的にゴリ押されて負ける』
私は焦ったように状況報告をする。分離思考のスキルは、契約関係で感覚共有もできるらしい。便利だ。

『やっぱり、使うしかない』
『でも危ないよ!私には副作用はなかったけど、体内の魔力……今回の場合は原素を暴走させるなんて、危険だよ』
『でもやるしかない。死ぬよかマシさ』
『腹を括ろうよ、私?』
1番アホそうな私が、なんかかっこいい台詞を言ってる。肩にポンと手を置かれた気分だ。

『じゃあ私。———龍化を発動して』
反応はない。それだけ切羽詰まってるのか、単に距離の問題か。

 どっちにしろ早く向かわないと。

 開け放たれた扉の先に足を踏み込み、更に大声で叫ぶ。

「ベール!お待たせっ!」
ベールの視線が私に向く。困惑と安堵の織り交ぜたような感情が見て取れ、周囲には魔法陣……いや、龍法陣がずらりと並んでいた。

 そもそも魔法が使えないのに魔法陣ってなんだろうね。そこは精霊陣なのかな?まぁ細かいことはいいや。
 これは龍法陣なんだから。

 普通、手や武器など力の通しやすい場所にしから形成できないはずの魔法……精霊陣?ではあり得ない光景だ。
 でも、龍法陣ならできる。脈の通る、脈の感知できる範囲内ならどこにでも突然出現させられるという、とんでもない技だ。

 さすが龍神。今は亡き……あれ?新しい龍神がいるか。私が勝手にのし上げた。

 ———今もせっせこ働いて、なんとか四神の水準に近づいて来た現龍神が、今この瞬間くしゃみをした———

「ベール、話は後!一旦交代!」
私は跳躍する。龍法陣で足止めされた精霊さんに向かって、ラノスを向ける。中には1発、あのカケラが入っている。

 狙うとしたら精霊さんの体内だけど……おっ、さっき開けた穴がまだ塞がってない。あそこにぶち込もうか。

 ラノスの照準を合わせる。片目を閉じ、全神経を研ぎ澄ませる。この1発で決めなきゃいけない。

 でも、そんな逆境に打ち勝つのが私!魔法少女美水空、17歳っ!

『何その名乗り、スキルに頼らずなんとかして』
私の強烈で辛辣な一言。今日も今日とて変わらない。

 パァァンッ!

 狙いは寸分違わない。穴の空いた腹部、その肉の断面に突き刺さる。
 精霊さんは、案外感情豊かだ。目を見開いて、どうすればいいか分からない様子で視線を彷徨わせる。

 ここでやばいと気づいたのか、精霊さんは大剣で退路を確保すると、早々にそれを投げ捨てた。目標はもちろんベールだけど、そんなのは私が許さない。

 龍法陣から壁が出現し、深々と剣は突き刺さる。精霊さんはというと、急速に光を失い始めた羽を見て焦燥に駆られている。

「っと……さすがに働きすぎた、過労死する……」
着地した途端泣き言を吐き出し、すぐさまベールの下に駆けつける。

「ほんと、働きすぎよ……」
嬉しいような悲しいような、混じり合った絶妙な視線を向けてくる。無理して笑っているような、そんな気もする。

「それは龍化って言って、一時的に原素を暴走状態にするっていうやつなんだけど……ベールが私にやったみたいに私からも干渉できるって分かったから……」
「ちょっと待って。」
「ん?」
ベールに止められた。時間がないから、気づかぬうちに早口になってたらしい。それかな?

「これはわたしの戦いよ。手を、出さないでほしいの。元々わたしの我が儘だったの。だから、天才って自負に恥じないように、前を向くために、ここはわたしに…………お願い。」
少し涙を溜めて、真っ直ぐと私を見てくる。純粋な瞳をしている。

「わたしは、あんたほど強くもかっこよくもない。そんな風にはなれないけど、せめて、自分をかっこつけられるくらいにはなりたいから。」
「……勘違いしてるようだから言っとくけど、私はかっこよくもないし、思ってるほど強くない。」
ベールの真剣な眼差しを一蹴した。空気を読まないゴミと言われたって私は私だ。

「わたし、ベールの方が強くてかっこいいと思うよ。自信満々に自分を天才って言えるところとか、神試戦に挑もうと思える心気とかね。」
「それは……弱い自分を変えるために……」
「はいはい、そんなん自分を下げる方便みたいなものだって。もう時間もないんだから、早く。」
「だからわたしがっ……」
「分かってるってそんなの。だから早くっていってんるんでしょ。」
体をぐっと伸ばし、私は端にはけることにした。

 私はもうお役御免ってことかな。ねぇ私、龍化解除お願い。もう、ベールの好きにさせよう。

『オッケー。私、退散』
『ふっ、了解だ』

「ベール、最後に一言。敵は間違えないようにね。ここはただの通過点だよ。」
首だけ捻り、笑って見せる。とてつもなく痛いけど、こういう含みのあること言う奴を演じるのは楽しいからいいや。

「う、うん……分かったわよ……」
そういうとベールは、地に足をつけた精霊さんと向かい合った。

———————————————————————

 なんかよく分からないこと口走りましたね。なんか敵は間違えるなよみたいなそれっぽい台詞、空が言うような台詞じゃないですね。
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