魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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11章 魔法少女と精霊の森

353話 魔法少女は反撃開始 1

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 目の前に血が溢れた。少しの間固まり、重力のままに後ろに倒れた。

 後ろに、倒れた?

 ふと、疑問に思った。
 体を縦に大きく切り裂かれたはず。ここは神試戦で、HP制で、確かにHPは無くなっている。どんな風に消えるかは事前の観戦で確認していた。HPがなくなると、すぐに体がバグった風になって欠けるように消えていく。

 なんで倒れてるの?私。

『喜べ、私よ。スキルが、適応が働いてくれた。私は死に適応したっ!ふっ、深淵を掌握するとは……私も、やるな』
目に手を当て、仰反る姿を幻視した。

 適応?……って、あれだよね。私に原素を付与してくれたスキルだよね。

『これで叛逆境でも動いてくれたら完璧なんだけど。まぁ、私。立って殴れ』
体が勝手に動いた。いや、私が勝手に動かした。ラノスを鈍器のように突きつけ、完全に私に釘付けとなった精霊さんは、今度こそトドメを刺すと大剣を振り上げ……

「今だっ!ベール!!」
叫んだ時にはもう遅い。

 どっちがって?そりゃあ———精霊さんの方に決まってるじゃん。

 一拍遅れて聞こえてくるパァァンッ!という音。呆然とこちらを見る精霊さん。もちろん足は地についている。

「銃を撃てるのは私だけじゃないんだよ!……頼んだよ私っ!来い、エスカー!」

『重力操作フルだ!』
『『『了解っ』』』
さっき地面に落としたエスカーを重力で引っ張ってこの右手で確かに掴む。HPがゼロの状態での、起死回生の一手。

「放てっ!」
原素をありったけ流す。故障するのかと思うほど早く回転するエスカーから、爆弾が発射される。当たるだけでも弾丸並みの威力なのに、触れた瞬間爆発するという悪魔的な兵器だ。

 いつの間にか原素もある程度使えるようになってる……なんて言うご都合主義!

 1分間で約6000発の弾丸が、今は8000発ぐらいだ。多分。
 1分が一瞬に感じた。HPゲージを見ると、緑ゲージの3ゲージ辺りまで削り切ることができた。

 精霊さんのお腹に風穴が空いた。流石の連撃に、耐えられなかったみたいだ。

「これでも倒せない……もう、あれを取りに行くしかないか……」
一歩後退した。さすがの私もあの威力を右腕1つで抑えるのは難しかった。私の右腕は今痺れてる。

 ねぇ。ベールの力を引き出して私が使えるなら、私の力をベールで使うこともできる?

『こっちができるなら向こうもできるんじゃない?それを使いこなせるかだけど』
『なら、私達の誰かが代わりに発動すればいいでしょ』
『よし、私がやってやろう』

 オッケー。なら、少しの間でいい……私が帰ってくるまで、重力操作で抑えてて。私はもう、原素がすっからかんだよ。

『まだラノス数発分は残ってるでしょ。私がそんなヘマをするわけない。というか、さっきのも残弾数の数えミスじゃなくて隙を生む作戦の内だったよね』

 あれ避けるつもりだったんだけどね。予想以上に、体が動いてくれなかった。

 まぁ、奇跡が起こって成功したけど。

『銃を撃てるのは私だけじゃない。ずっとわたしがラノスを撃ち続けてたのは、あの精霊に勘違いさせるためってことだね』

 そのために修行をさせたんだから。血反吐を吐く勢いで。

 頭で冗談を交えつつ、戦線離脱を図る。

「ベール、ナイスショット。」
遅れながらも、開け放たれていた扉に背を預けるベールにサムズアップをする。

「まったく、死んだかと思ったのよ!心配したじゃないの。」
「この通り。HPはないけどなぜか生きてるよ。」
「ハイポーション、1つ残してきたわよ。感謝してよね!」
「はいはい。」
少し会話をする。そんな中でもラスボスは待ってくれない。精霊さんがゆっくりと体を持ち上げ、羽を開いた。

「私はできる所まではやった。原素は、ベールに全部あげるから、後はベールが決めて。」
「……分かった。そもそも、これはわたしの戦いだったもの。巻き込んだんだから、最後はしっかり働かなきゃ。……あんたは?」
見上げる。少しあざといと思うけど、可愛いから許す。

「…………私は、最後にできることをやってくる。なんとか持ち堪えてね。」
「やってみせる。なんてったって、わたしは天才よ?」
小さな手と、傷だらけの大きな手。強くハイタッチを交わし、私は部屋の奥に入っていく。

「もう~、わたしのお部屋で何青春してるn」
「うるさい。スクラップにされたくなかったらどいて。」
まだ待機していたクソロボを跳ね除け、更に前の部屋に戻る。

 これはそもそも、正規ルートで倒せる相手じゃなかった。

 だって考えてみて?二重HPが多重。更には攻撃がほとんど通らず、向こうは遠距離で攻撃できる。痛みもマシマシだ。

 でも、試練と言うくらいなら突破できなきゃおかしい。抜け道があるはず。

『それが、地面に立ってる時だけはダメージが通るっていう可能性』
言おうとしてたことが取られた。私ったら酷い。

 でも、そうとしか考えられたないよね?
 まぁもう落とすとか無理そうだけど。限界だよ限界。

 机の上に置いてあるハイポーションを掴み、喉に流し込みながらそう思う。痛みは和らがないけど、傷は無くなっていく。原素ももちろん戻ってる。精神力は戻らない。

「これは、ベールのだね。」
今も強大な敵に立ち向かっている契約相手に思いを馳せる。そして、飲み干した瓶をその場に投げ捨て、爆破して壁の一部が無くなった螺旋階段から飛び降りた。

 この先にあるアイテム。羽の機能を停止させる、天井に付いた宝石のような物。これを使えば、勝機がある。

『その場合、ベールもダメになると思うけど?』

「完璧な質問どうもありがとうっ!」
扉を蹴破るようにして開け、一斉に向かってくる攻撃を最大限躱しながら中央の真上を目指す。

 その時は、私の力をベールに使うよ。ベールがやってくれてたことの逆をする。羽に似たものを作ればいい。
 脈ならどこにでもある。魔力吸着率の高いらしいローブもあるし、龍化で暴走させるのもいい。とにかく、無理矢理でも力を引き出させる。

 そうこうしている間に、部屋の中心に着いていた。

「っ、痛いのは変わらないよね……」
空間機動を死ぬ気で繰り返し、なんとか跳べていた。なかなかに高い位置にあるそれまで辿り着くのに、HPが3分の1減った。

 うわっ……でかっ!

『これ、破壊して一部だけ持っていけばいいんじゃないの?それをラノスで発射する』

 それ、いい考えかも。

 その時にはもう行動に出ていた。魔法少女の拳が天井に突き刺さり、その宝石はバラバラに崩れ落ちた。そのうちの1つをキャッチし、出口へ向かう。

———こうして、2人の別行動が始まった———

—————————

「弾けよ!」
空気が破裂する音が響く。精霊術を最大に駆使し、戦っていた。

「……さっきより鈍い?悔しいけど、あいつのおかげね。」
ならば、自分も活躍しなければと思った。そう思うと、自然と力が入る。詠唱を始める。

 と、空中に浮かび始めた精霊は手を伸ばし、こちらも対抗せんとばかりに口を動かした。

「———流れ華やげ!業火の雫!」
幾重にも炎が折り重なったそれは、やがて巨大な雫となり、彗星の如く精霊へと放たれた。

 その頃にはこちらの詠唱も完了していた。星屑が濁流のように押し寄せ、燃ゆる雫と拮抗する。
 魔法少女のおかげか、今の精霊はとても弱っていた。

「わたしは、この神試戦をっ!勝ち抜かなきゃいけないのよ!わたしが先に進むには、それしかないのよ!」
今まで発明品に捧げてきた力を、今は目の前の敵を排除することにだけ力を使う。

 一瞬、炎の雫が濁流を押し込んだ。

———————————————————————

 今回の神試戦はベールが主役なはずなので、決めるのはベールとなります。空はもう疲労困憊で死にかけ、いやほとんど死んでいるので、あとはベールにお任せってわけです。
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