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11章 魔法少女と精霊の森
352話 魔法少女と敗北
しおりを挟む痛い。寒い。………………いや、熱い?
もうわけが分からない。
目はさっきの閃光でやられて上手く働かない。元から無音の部屋に音を出す私が倒れてるのに音が鳴るわけもない。匂いはない。少し黴臭い?よく分からない。
…………………………これ、いつまで続くの?ほんとに痛い。身体中突き刺されたような痛み。
それでも、単純な痛みなだけ幾分マシに思えた。内臓を掻き回されるようなジワジワくる痛みはほんとに悪質だ。
『起きろ!私、さっさとしないと———』
私の声が聞こえて気がして、すぐにノイズのように変わる。
『起きろっ!』
「ぐふぁ……ッ!」
何かが体内を掻き回した。めちゃくちゃ痛い。殺す気かと怒鳴りたくなるけど、喉からは音ではなく血が出てきた。
何、何が起きたの?一体私の身になにが?
痛みで痛みが中和されたのか、少しはっきりしてくる思考。でも寒くて熱いこの状況には変わりない。
『ようやく起きたね~』
『ほんと。原素は動かすのも大変なのに』
『私も一応死にかけなんだし……許してあげない?』
私、やっぱ死にかけてる?……なら、それ相応の対応ってものを見せてほしい………私、めっちゃ痛いからね。
『それは分かる。私なんだから』
それを言われるとぐぅの音も出ない。
『私も痛い。みんな痛い。だからどうとかじゃないって私も分かる、私がそれで納得しないのも私だから分かる。でも、これだけは言うよ。———さっさと動け、私』
霞んでた目が一気に醒める気がした。目を開けると、HPバーはもうミリ残ってるのが見えるくらいで、床には血溜まりができていた。左腕を除いた四肢が全部残ってるのが不思議なくらいだ。
無理だって。この体とHP見えないの?
あとはベールに任せるべきだよ。
心の私は俯いた。
『何弱気なこと言ってんの。まさか、このまま素直にやられるつもり?』
目の先では、あれでもまだ動く私に驚きながらもいつの間にか修復されている大剣を振る精霊さん。
HPゲージ、2ゲージ目の赤も削れてんじゃん。どんな威力してんのほんと。
『無視するな、見て見ぬ振りをするな』
私、そんな口調じゃないよね。もっと私らしくしたら?
『逃げて楽しい?待っている人がいて、それを捨てて楽になるつもり?まるで、前世の両親と一緒だ』
『ねぇ……少し抑えた方が……』
『私のためにならん。口を慎め』
『みんな、しー!』
私の声が普段より小さい。よく聞き取れない。
それにしても、なにか聞き捨てならないセリフが、聞こえてきたんだけど……?気のせいかな?もう1回言ってもらえる?
『今の私はあのクズと一緒って言った。だってそうでしょ?守るべき相手を見捨てて、自分だけ楽になる。あーあ、結局はあいつらの娘なんだね、私って』
勝手に言ってればいい。私は無理だと思ったから、限界だと思ったから……
『へぇ、そんなんで約束を破るほどの根性無しってわけ。そんなんじゃ、私は負け犬だ』
その言葉を聞き、私の体に一瞬力が戻る。
『私は負け犬になりたいのか?あんなクズとは違うと知らしめたかったんじゃないのか?負け犬のままでいいのか!』
私が何度も叫ぶ。脳内に反芻し、ガンガンと負け犬というワードが響く。
私が動けないからって……随分と好き放題言っちゃって……
「ほんとに、私なの?私の心がないよ。」
ほとんど死に体な私は、根性だけで生に喰らい付いた。
「いつか死ぬまで、私は私を貫く!負け犬になんか……なってたまるか!」
私は駆け出した。ラノスは完全に8発装填されている。痛くとも寒くとも熱くとも、体を動かす。
『そう!それでこそ私!』
『ふっ、私達も負けていられないな!』
もっと優しく励まして欲しかったけどね。おかげで痛みも薄い。負ける言い訳ができなくなっちゃったよ。
薄ら笑う。戦闘中に微笑みを湛えた私に、精霊さんは困惑している様子だ。
「そんな空中にいると、魔法少女が叩き落としにくるよ。……こんな風にね!」
地面を蹴り、空をも蹴った。一直線に。精霊さんは空中で横に回転するように回り込もうとするけど、今の私はこれでは終わらない。
「舐めん、なっ!」
原素を無理矢理圧縮して蹴り飛ばした。勢いで急な方向転換。そしてすかさず重力操作で固定。上手くいかないこと尽くめで、焦りが少し見える。
「その隙が、ここでは命取りってね。私にはブーメランだけどっ!」
ラノスの銃口を突き刺すようにして腹部に押しつけた。そして3発、パァァンッ!と音が鳴る。
これでもミリしか削れてない。さっきの攻撃、ほんとにどれだけ威力あったのやら。
まぁ、悪運が強くて結構なことだ。
そのまま重力に沿って私達は落下していく。多少のダメージを覚悟……と思ったけど、そんな覚悟を決めるほどのHPは自分になかった。仕方なくエスカーを落として重さを追加した。
ガコンッ!強烈な金属の衝突音。辛そうな表情になる精霊さんのHPは、予想外に3ゲージ目の半分まで削れていた。再生が始まり、徐々に治り始めてはいるけど。
他に何か仕掛けられてないか、辺りを見回す。扉が開かれているだけで、なにもなかった。
「らぁぁぁぁぁぁあああああっ!」
力の限り、残り全てを振り絞るようにして走り、立ちあがろうとする精霊さんに向けて銃撃を浴びせる。
パァァンッ!パァァンッ!パァァンッ!
2発は避けられ、残りが胸部に的中。3ゲージ目ギリギリで、赤ゲージが耐えた。
パァァンッ!
左肩口を掠った。バランスが崩れ、一気に形勢を逆転させるため、さらに大きく踏み込んだ。
パァァンッ!
右膝を穿った。膝を折り、地につけた。HPゲージはとうに4ゲージ目の半分を超していた。
HPの減り、早すぎない?さすがに何か…………もしかして、精霊さんの弱点って……?
思い返してみる。なにかこの無理ゲーを突破するための突破口を探す。
思い当たったのは3回目の試練。
この勝負、勝てるっ!
そう確信した時には、私は精霊さんに銃を突きつけていた。精霊さんは、無表情だ。
「チェックメイ———え?」
引き金を引き、出たのは弾丸などではなく私の間抜けな声。最初に3発、後に5発。私は、8発を撃ち切っていた。精霊さんは、少し笑っていた気がする。大剣を重々しく振り上げ、一閃。
「やばい……逃げ……っ!」
1歩、いやそれ以上遅れた。胸を、ワンピースごと大きく切り裂かれた。血が、開いた肉からとめどなく噴射するように溢れ出た。
あ、終わった…………………
最後に見たのは、自分のHPゲージが真っ黒に染まっていたこと。
ゲームオーバーの合図だった。
—————————
観戦画面には凄惨な映像が映されていた。スプラッタだ。
神試戦。死にはしないが、心の痛みは残ると皆が知っている。神試戦で血が流れることなどまずない。そんな中、ほとんど初となる人間の参加者。
例外もあり得るだろうが、まさかその例外が初回で引き起こるとは。
今までの平和なムードはもうない。ざわざわとざわめきだち、大人しく席に座る者は少ない。
「ソラが……死んだ?」
「ナリア、神試戦では死なねぇんじゃなかったか?……あの出血量を見て生きてるとも思ねぇが。」
この3人はなんだかんだ言っても席に座り、表情を強張らせていた。
「いや、脱落するならそろそろ……」
「確かにな。なんでまだあそこに残ってんだ?」
「その言い方だとソラに脱落してほしいように聞こえる。ギリシス、言い方気をつけて。」
「へいへい。」
会話が途切れた。
映像の少女が、少し動いたように見えたのは気のせいだろうか。
———————————————————————
なんかもう少し続く気配がしますね。まぁ、ゆったり書いていきます。
後どのくらい続きますかね、この作品。
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