魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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11章 魔法少女と精霊の森

349話 魔法少女はぶん殴る

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「やぁやぁ、凄いね!ここまで来れちゃうなんて、予想外だねっ!」
部屋に入った途端、そんな声が真正面聞こえてきた。そこには、どこからどう見ても人ではない関節から機械(?)がはみ出る精霊ロボットだった。

「は?…………まさか、さっきの文字送ってきてた奴って……」
「そう、わったしでぇ~す!怒った?ねぇ、ねぇ?ねぇってばぁ?怒ったぁ?」
ねっとりと絡みつくようなウザさだ。しかも見てくれだけは地味にいいのがムカつく。

 いや、見てくれ……あんまりよくないね。顔のパーツがアニメのミニキャラタッチだ。これでウインクでもされたら手が出r

「よく頑張ったネ!」
「よし壊そう。」
「ダメよ!試練よ、これ試練よ!耐えて!」
私の思考を読んだのか、ほんとにウインクをしてきやがったあのクソロボ。スクラップに変えてコンクリで固めた後に東京湾に沈めたいくらいのウザさだ。

 その後に凍らせとこう。2度と破片すら蘇らないように。

 ギリギリとした視線を向け、ベールがワンピースを引っ張る事でなんとか足が踏みとどまった。

「正直、ここまで進めるとは思ってなかったんだよ。最初のところで死んじゃうかと思っちゃった!凄い!」
「いちいち腹立つ言動をどうもありがとう。ところで質問なんだけど、スクラップかスクラップ、どっちがいい?」
にこやかに向けるはケアー。

『そんなん使ったらスクラップ超えて消滅でしょ』
『1周回って新製品になったり?』
『製品ってなんやねん』
『突然のエセ関西』
安っぽい漫才でも見てるようだった。

「ん、ん゛んっ。で、ここはどうすればクリアなの?先進めさせてくれたりする?」
「んー、もうちょっとお話しなぁ~い?」
「え、嫌。」
こういう勧誘はしっかり断るのがミソだ。ベールは見たくもないのかその辺を飛び回っていた。

 ベール……なんか、自由だね。自分が挑みたがった神試戦なのに。

「あっ、わたしのプレゼント、楽しんでくれたぁ?ねぇ、ねぇねぇどう?おいしいおいしいハイポーションっ!」
「やっぱり、あれ故意だったんだ。よーしよし、理解した。じゃあ、殴っていい?」
「えぇ、ダメだよ。この試練は、わたしを壊さずここを出る事だよ!」
キラリンっと星を振りまいた。これはほんとだ。演出で星がキラッとした。どういう原理だろう。

「ベール、これ壊しちゃダメなんだってー。」
「大丈夫よ。ダメなのはことであって殴ることじゃないの!だから壊さない分にはセーフ!わたしは研究者。つまり、直せるのよ。」
「おぉ!天才!ベールが初めて活躍する!」
「……なによ。わたしが活躍してないみたいに言わないでほしいんだけど。」
ベールがジト目を向けてくる。このクソロボは完全無視だ。

「あれれ?無視かなぁ?」
誰も何も言ってなくてもウザさを遺憾なく発揮する姿は、もはや感嘆に値すると私は思う。ウザいけど。

「よーし、じゃあ何発殴ろうかな?」
腕を回す。

「最低でも土下座分は取り返しなさいよ!」
「分かってるって。10発くらいなら加減して殴れば壊れないよね。」

「そ、そういう競技じゃないんだけどなぁ~?本気で怒っちゃったの?怒っちゃったのかな?かな?偽物相手に?ぷぷっ。」
まだまだイラつきを加速させてくれるクソロボ。でもいい。もっとやってほしいと今では思う。

 何せ、殴り甲斐があるからね!

「て、テヘペロッ☆」
舌を出すクソロボ。それを両側から殴りつける私達。ベールは足蹴りし始めた。

「おらおら!日頃の恨み!」
「今だけっ、今だけだよぉ~……!」

「最初から気に食わなかったのよ!」
「それは知~ら~な~い~!」
頭を抱えてビービー泣き出す。絶対泣き真似だ。涙の噴水を出す人がこの世にいるわけがない。というか機械だし。

『これ今生放送中だよね。外の空気死んでそう』
『お通夜お通夜~』

 た、確かに……
 帰った後ギリシス辺りから何か言われそう。

「今日はこのくらいにしといてやろう。私の寛大さに感謝するといい!」
日和った結果、腕を組んで決め台詞を吐くに留まった。着地地点が微妙だ。足首捻ってる。

「なんか微妙に疲れたんだけど……これが目的なの?」
ベールが呟きながら蹴りをやめ、ふよふよと私の肩に乗ってくる。

 それあるかも。ストレス溜めさせて少しだけ発散させて平静を取り戻させた挙句、理性くんのせいでこのストレスを吐き出しきれないっていう人間の深層心理を読み解いた複雑怪奇な罠っ!?

『なわけないない』
『ただのウザだる絡みのクソロボってだけでしょ』
『ふっ。バラして兵器に変えたかったのだがな。今は見逃してや痛っ』
『そんなことめっ!』
私は私で楽しそうだ。同じ私なのに私だけ輪に入れないのはなんでだろう。分離か本体かだからだ。

『自己解決できるならいいよね』
とりあえず、私は私に緩くあろうと思った。

「気疲れゾーンみたいに言わないでよぉ~!ここは休憩部屋、次はラスボス。ここでゆっくり休んでねっていう簡単な試練だよ!」
「それ言っちゃっていいの?」
「お馬鹿な挑戦者さんにはこのくらいのハンデはねぇ~?」
「ベール、やっちゃっていいよ。」

「ごめんごめんっ、怒ると思わな……っ!?ごめんってぇ~!」
それから10分ほど、あのクソロボを追いかけたシーンが続いた。視聴者さん達には頭が上がらない。

—————————

 一方王都では。

「空、まだかなぁ……」
宿のだだっ広い客間にて、1人で頬杖をついて項垂れる黒髪ボブ美少女が。

 こんな状況が、ネルが出て行ってからずっと続いている。見かねた女将さんがスイーツを用意したり、気分転換に外に出ようと提案したりするが、しっかり楽しむだけ楽しんで帰ってきてからこれだ。

 なんという切り替え速度。

 これだけ宿にいても、フィリオがお金を払っているのでセーフだ。多分。きっと大丈夫だろう。領主だもの。

 働かず飯を食い養われる。これぞニート。職はあるにはあるが、冒険者なんてこんな状態でできるはずが……

「そうだ、依頼を受けよう。」
決断した。善は急げ、冒険者ギルドに行こうと支度をし、宿を出た軍服の少女、百合乃。女将さんは心配だ。

 ギルドの位置は馬鹿でも分かる。この王都で城に次いで3番目に高い建物だ。とんでもなく規模が大きく、買取所、解体所、倉庫だけでもそれぞれ建物があり、ギルド自体も5階建となっている。

 1階はホームだ。依頼がびっしりと張り出されている。依頼を受けるためだけの階と言っても過言ではない。

 百合乃は、ボーッと冒険者ギルドに入り、ボーッと1つ上のランクの依頼を探し、適当に引っ剥がした。

「薬草の採取、ですね。承りました。種類は5種類、それぞれ3束1セットを5セットずつです。依頼、頑張ってくださいね。」
受付嬢にギルドカードを渡し、チェックを。確認をされ、なるがままに依頼へ。詳細はギルドカードにあるとのことなので、ぶっちゃけ何も聞いてない百合乃だ。

 ほとんど意識せずどデカい門を通り抜け、少し奥に進み森に入る。手前の、日に当たらないあたりに生えるらしい。

「空、早く帰ってこないかなぁ……」

 こんな百合乃は、この依頼を機に『無意識の斬姫』と呼ばれることになる。何があったかは、詳しくは語らないでおこう。

 決して魔力を蓄えた魔物の群れをボーッと切り伏せたわけでもなく、決してサーベル捌きを無駄に高い魅せ技術で華やかに見せたわけでもない。

 そう、決してないったらないのだ。

———————————————————————

 次回、とうとう神試戦ラスボスです。特に見栄えはありませんが普通に戦って普通に終わります。いつも通りのアレです。
 最近、疲れてきてますねぇ。それもこれも気圧と胃腸炎のせいです。
 皆さん、気をつけてくださいね。
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