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11章 魔法少女と精霊の森
329話 魔法少女は瀕死になる
しおりを挟む何も視えない。何も聴こえない。
そんな中で、微かに音が響く。
ゴーン、ゴーンと。鐘が鳴る。否、鐘などこの場にない。正確には鐘のような音だった。
———神の雫にて、生命維持に必要な魔力が消失しました。残り生存時間、およそ3分16秒———
それと同時に、誰にも聞こえない音声が魔法少女にのみ向けられた。
しかし、本人の意識はない。この言葉は、聞こえていな……
『運命発動できた?叛逆境も並行で』
『完了してるよ~』
『というかこれ、どういう状況なの?』
『ふっ。深淵に呑まれ、黒き漆黒に閉ざされた私は、現在、死の危機に瀕しているのだ。我が力も消失し……クックック、面白い』
『漆黒は黒だ。誰か、翻訳頼む』
『意識がなくなって、もう直ぐ死んじゃうよーって。魔力もないから魔法とほとんどのスキルも封じられてるよって言ってるー』
4つほどの声が聞こえてきて、一気にシリアスな空気がぶち壊される。この声は紛れもない魔法少女の声。しかし、本人はそこで倒れているはずで……ということは、分離思考だと予想がつく。これは、魔力の使わないスキルだ。
『使えるスキル、分けといた』
『ん、助かる』
『どうすれば死なないー?』
『ふっ、私に任せ……』
『それを今解明しようとしてんの。ちょっとそこのアホ2人、黙らせといて』
『了解』
残り時間は、とうとう2分に入った。焦った様子もなく、呆れ返るような会話をする。
『私の蹴り、とくと味わえ!私は私の、道をゆくっ!』
『死に間際に何してるの!』
『魔力ない~、体重い~』
『ならフラフラしないで!?』
非常に大変そうだ。同じ体を持つ思考のはずなのに、この違いは一体……
魔法少女とは、謎多き生命体だ。
『新しいスキル入った!さっさと稼働!』
『ナイス運命!いい仕事だね!』
『適応?だって!私やっとく~』
『ふっ、私は鑑定眼にて……鑑定眼、にて……』
『魔力使えないって言ってるでしょ』
『私の、役目がっ』
厨二の魔法少女が、膝から崩れ落ちた。そんな暇はないというのに、呑気なことだ。誰も気にしていないので、次第に空気に耐えられず膝のほこり(そんなものは無い)を払って仕事に戻る。
『私も何かしよう』
意外と、ツンデレなのである。
『よし、完了!ステータスチェックだ!』
『任せて』
ステータス、その能力値のみだけを表示する。通常、状態異常等はそれ以上にしか表記されないためだ。
ステータス
名前 美水 空
年齢 17歳
職業 魔法少女
レベル 235
攻撃6860+1 防御6650+1 素早さ7420+1
魔法力8510+2 魔力0(+2(+神影))
原素 1000(『適応』により上昇中)
『異常なし。魔力は知っての通り、新項目も増えてるけど、多分これが生命維持に必要な力』
『新たなる力。ふっ、心踊r』
『生存確定、ナイスファイト』
『やった~!川の向こうで男の子が輝く剣を振り回してたけど、バイバイしてきた!』
『それ三途の川っ!』
それほどまでに瀕死に陥っていたのであろう。ここまで気が緩みきっていると、忘れてしまう事実だろう。
『そろそろ起きる、事情説明はめんどくさいだろうから、直接脳に』
『『『ラジャー』』』
—————————
木漏れ日が目を突き刺していたのに気付いたのはいつ頃か。
意識が無くなって、ある程度してからだろうけど、今まで深海にでも沈められていたのかってくらい重かった体が、スッと動くような気がしてからだ。
……ここ、どこ?
すっかり癖のようになった言葉を頭で呟くと、何やら自分の状況について知っている気がした。
ヘイ私、私が寝てた理由は?
脳を巡らせると、なんとなくの答えが見当たった。魔力の消失らしい。ステータスの記憶もあるし、多分そうなんだろう。
……ってことは、分離思考?分離思考って思考働いてなくても働くんだ……
有能だね、普通に。
誰に何を聞くでもなく、元から情報は脳にあったので、仕方なく目を開け、周りを見る。……と、そこには予想通りと言えば予想通りの光景が広がっていた。
「……美味しい空気、綺麗な自然、そして倒れる3人。」
ギリシス、ナリア、アズベルの3人が、私と同じようにその辺に倒れていた。立ってる状態から、よろめいて倒れたって感じがする倒れ方だ。
「推定生存時間残り1分10秒……」
頭にタイマーがセットオン。1秒ずつ少なくなっていき、ピッ、ピッ、と小気味いい音が鳴り続ける。
そんな場合じゃない!これ、あと1分もしないうちに死ぬやつじゃん!死ぬやつじゃん!
大事なことなので2回言った。
いきなりの瀕死から、目の前の3つの死。そして私は職業を全うできない。
魔力はない、ということは他より高い魔法力の数値は意味をなさない。魔法が何も使えないんだからね!
スキルも魔力を使わないものに限定される。
幸いなのは、原素ってやつの変換効率が異常に高いこと。私によると、10倍効率がいいとか。1の原素で10の魔力、そんな感じだ。
「これ、どうしよう。」
何かしたいけど何もできない。ソワソワが止まない。
原素なんて使い方分からないし、分かったところで使っていいのかだし、あぁもう分からん!
『とりあえず、脈で繋いでみたら?私。空力があれば、探知はなくても掴めるよね』
「さすが私、神を殺してるだけあるね。」
虚空に向かって拍手。私は、私の存在意義が薄くなっていることに抗議したい。
ま、まぁ?本体は私ですし?今から脈探して掴んで繋げますし?するの私ですし?
頼りになる魔法少女だよ!
カメラがあったらピースしていた。なので、どこからカメラが来てもいいよう身構えていた。ついでにピースもしたよ。ピース、ピース。
すると私から『命の危機に何してるの』とツッコミが入れられたので、仕方なく脈をあさって全員に繋いだ。
私の適応によって、元素は上昇を続けて今では1050……1050!?増えてないっ、全然増えてないっ!
とりあえず脈の始まりを私に刺して、生存は可能にしておいた。
感謝してほしい。
やってたら眠くなってきた。というか、怠い。魔力がごっそり消えて別のに置き換わったんだから、普通と言えば普通だけど、こんなわけも分からない場所で欠伸をしてしまうほどではあった。
「そろそろ起きてよ、どっか安全なところ……じゃなくてもいいかけど、寝させて。」
ナリアの体を揺すった。1番根性と忍耐があると思ってたけど、ダメだった。
やばい、これ結構……ピンチ……
覚醒フル使い後の感じが襲ってくる。抗えない感がより一層それを引き立てる。
「………った。」
尻もちをつく。それの痛みが、飛びそうになった意識を戻してくれた。慣れればなんとかなる気もするけど、その慣れるまでがきつい。尻もちついたまま、何も考えられずボーッとしていたその時。
「ちょっと~!どこ行ってたのよ!」
不満の混じった声が、あっちへちょろちょろこっちへちょろちょろ。その甲高い声が身に染み、閉じかけていた意識が戻ってくる。
「どうしたっていうのよ!せっかく精霊の森に招待したっていうのに、なんでこんなところで寝てんのよ!」
「うっさいなぁ……私達死にそうだったんだけど!?」
「知らないわよ!」
「「「知れ!」」」
「うわ起きたっ!」
意味不明のコントじみた一連の流れ。この数秒で感情がぐるぐる回っていた。
「どういう状況なのよ……」
「「「「あんたが言うな。」」」」
頭に手を当てるフランベール、全否定する私達。状況把握にはまだまだ時間がかかりそうだった。
———————————————————————
最近、何故か睡魔が強大なんですよね。要するに最近めちゃくちゃ眠いんですよ。
執筆は大抵夜に行うんですが、めっちゃ眠いです。寝落ちしそうです。
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