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10章 魔法少女と王都訪問
320話 魔法少女は緊張する
しおりを挟む「手がかり、全くなくない?」
私は、王都外の森の中で、小さく肩を落とす。これは、王都旅行が終了してから約1週間後のことだった。あれからもうそれだけの時が経ってるのに、全くとして進展がない。
悪魔、ねぇ。噂はあるし実害もここのところ出てるには出てるけど、一才手がかりがない。
さすが人外、完全犯罪はわけないって?
尻尾くらい出してくれてもいいよね!
若干キレ気味だ。
「と言っても、悪魔の噂は強くなる一方なんだよね。意味分からない。」
ため息を吐かざる得ず、ふっかい息が漏れた。
ここで悪魔の噂について、確認しておこう。
それは、王都のすぐそこ。目の前に広がるに森を、少し進んだところで起こるという。
それは、どうやら全てが変死体らしい。体に外傷はなく、ただただ息絶えていた。解剖の結果も出たが、何もない。
その姿を見た者も、またいない。
凶暴化した魔物の死体の解剖結果から似ていることから、魔力活性化との関わりもあるとされている。
「ここまで話が通ってるなら誰か見ててもおかしくないはずなんだよね……2人組とか複数人で行けば、片方乗っ取られてもう片方が……あー、悪魔って肉眼で捉えられるのかな?まず。」
ベラベラと、森の中で独り言が止まらなくなるくらいは疲れていた。百合乃は、ネルの方に行っていて別行動中だ。
そういう意味では案外役に立ってくれてるね。
……まぁ、単なる心配なんだけど。ネルに……王都に、悪魔の力が及ばないとも限らないし。
あのチートスキルのオンパレードの百合乃ならなんとかなる。
それでもやっぱり心配になる。小休憩ついでに苦言を漏らしたら、もっとやる気が減ってくる事態に陥った。
「ここ1週間の死亡者数、確認できた限りだと7人らしいし……確実に何かあるんだろうけど……」
考えればが考えるほど思考の渦にハマり、抜け出せなくなる。頭を1度大きく振って、全部忘れて一旦戻ることにする。
こんな調子で探索するなんて、死亡フラグばちばちだよ。体調悪ければちゃんと休む、これ基本。
そのままなんの変化もない森の中を歩き、王都に戻る。いつ見てもクソでかいとしか思えない門を潜り、いつも通り王に報告して帰る。
仕事はきっちり終わらせる女。子供でもやるべきことはやるのだよ。
分離思考の私が、代わりにトントンとラノスを肩に当てながら笑った。
「あ、空~おかえり!」
「ソラさん、お疲れ様でした。」
ネルがそう言いながら、お茶を運んでくれる。令嬢のするそれじゃない気もするけど、まぁ気にしないようにしてる。
「こう見ると、家族みたいですねぇ。」
「ネルが嫁で百合乃が子供ってこと?」
「なんでそうなるんです。」
「いや……女子力を粉砕する有り余る残念さ……かな。」
百合乃はいつも通り「酷い!」と言いながらよよよと泣き真似をする。
「なんでユリノさんは、いつもそんなオーバーリアクションをとってるんでしょうね。」
「バカだからじゃない。」
「人のノリを悪くいうのやめてくださいよ。」
私が席に着いて、お茶を啜ると会話が開始された。取り止めのない会話だ。その中で、突如として爆弾が投下された。
「あっ。伝え忘れていましたが、明日は私の合格発表です。」
「え?」
ネルだった。
えっ?合格発表ってそんな早く?いや……でも1週間以上経って……ん?
混乱が終わらない中、次の爆弾準備オッケー。投下された。
「転入試験は、ほとんど数合わせのものなので年によって変わりますが……50人ほど受かれば関の山ですね。」
「どんな難関校ですか。」
「受験者数ってどのくらい?」
「400人程度、と聞いています。」
「倍率10倍って……」
頭を抱えた。ネルは、とんでもない魔境に足を踏み入れていた。
気づいた時にはもう遅いって?心の準備くらいさせてくれよ!あと1日早く知りたかったよ!
「ごめん。多分、私の方が緊張してる。」
悪魔がどうとかそんな話よりも、よっぽど現実離れした出来事に唖然とし、お茶を啜った。美味しい。
……明日、叛逆境でも使いながら祈ろうかな。
お茶を飲む裏では、超反則技を使おうとしていた。学問への冒涜だと誰かに怒られそうだ。
「私の学校でも高い年でも3倍くらいでしたけど……」
「それでも十分じゃない?」
ここにも頭いい人がいた。百合乃は普通に頭いいこと、忘れてた。頭悪いのは、私だけだった。
いいよ、私はもうこっちの世界でやって組んだから。魔法が使えればそれでいいよ!
この前の考えとは、真逆だった。
そして、合格発表の日。
百合乃は、私がいるからと軍服から薄手の服に着替えて、音波発生機をつけたサーベルを1本持って会場まで来ていた。私は、いつも通りの格好だ。
「ドキドキしますね。何せ、10分の1。これでネルちゃんが合格していたら、とっても凄いことじゃないです?」
「そうだね……」
「気が気じゃない感じですねぇ。」
百合乃が、もっと軽くいきましょうよ、と背中を叩いてくる。
心では分かってるんだけどね。さすがに、あそこまで頑張ってるの見てたら、落ちた後が怖くてね……私、励ませるか心配。
「空、まさか落ちた後のこと考えてません?」
「心読むのやめてもらっていい?」
「落ちた後のことは落ちた時に考えればいいって、空自身のことなら言うんじゃないです?なら、その気持ちで見ていてあげましょうよ。」
「百合乃に……励まされたっ?」
「そこ驚くポイントじゃないです!」
「百合乃が、ツッコんだ……?」
「どこまでわたしのこと下に見てるんです?」
驚きが絶えない、私の日常だ。
—————————
フェルネール・ブリスレイ、12歳。彼女にとって、人生最大と言っても過言ではないイベント(?)が行われようとしていた。
「それでは、行ってきます。」
「じゃ、私達はこっちで待ってるから……」
「しっかり見てくるんですよ~。」
魔法少女と、今はおしゃれで普通のお姉さんな軍服少女から、見送りを受ける。
ネルは深呼吸をしながら、受験生の集団をかき分けて掲示板の前に向かう。見る限り、1つの掲示板に10ずつだったので、それが5つあるということは最大で50人。40~50人の間の数が、転入の鍵を手に入れたということになる。
少し突然だが、この学園の制度はこうだ。
1人1人、同じだけの得点を持っている。しけし、進級試験、または転入試験にて好成績を収めたもは加点される。
そこからは加点減点方式だ。
授業の出席日数やそこでの態度、定期試験、実技試験等で得点は増減し、一定以上の得点がなければ進級できず、一定以下になると退学の恐れがある。
定期試験が悪くとも、それ以前に得点がありさえすれば、来年を気にしなければ進級できる。
つまり、試験結果がいいだけでは退学もありうる。
それだけ厳しい学園であり、狭き門をくぐったとしても、その先も危ない。
恐ろしい学園だ。
一体どれだけの人数の転入生が、卒業までたどり着けるのやら。
ネルは、そんな事も考えながら自身の番号、129番を小声で連呼する。
心配はない。きっと受かっている。そう信じた。
1番最初の板は……
「18番……」
まだまだ先なようだ。王都の試験には参加しなかっだ者も、発表はここでしかやらないので人数は多い。埋もれながら、もっと先の掲示板を目指すを
「51番………79番……」
もっと、もっと先の掲示板を。人の波に当てられ、進めない。とっくに5つ目の掲示板に辿り着いていたかと思えば、まだ3つ目だ。
「101番、114番……」
焦る。後ろから見たらどうだろうかと、遊び心のようなものも芽生えるが、次に早く視線を移す。20番台は2つ見えた。ネルは後半だ。少し視線を飛ばした。
「1、29番……?っ!」
あった。嬉しい、嬉しい。ネルの心はそれで埋まり、飛び跳ねたい気持ちを抑えて拳を握りしめた。ついでに先日友人となったセリアスの番号も目で追った。
「123……受かって、ます……!」
ネルは、喜びや誇りが織り混ざった感情の下、魔法少女らの元へ向かうため、踵を返した。
———————————————————————
はい、今章はこれにて終了です。ネルは無事受かり、そろそろ学園編も始まるかというところで、悪魔退治が始まります。
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