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10章 魔法少女と王都訪問
閑話 テレスとネトラー
しおりを挟む魔法少女が忙しく王都を駆け回っていた(主に空を中心に)時、こちらもこちらで大変なことが起こっていた。
「ネトラーさん、従業員同士でこんなこと……と思うかもしれませんが、俺は本気です。」
「店ちょ……テレスさん……」
並々ならぬ雰囲気。時間は夕方、食事を済ませ、夕焼けの綺麗な場所までは足を運んでいた。宿が、人気の高い地区に建っていて良かったと心底思ったはずだ。
ただいま、テレスはネトラーに告白、否。プロポーズをしているのだ!
「妻がいた身でありながら、不誠実かもしれませんが、俺の思いに違いはありません。———真剣に、お付き合いをしませんか?」
少し前に遡る。
決行は、王都旅行が知らされた後から考えていた。
確かに好意はあっただろう。向こうも嫌ってはいないはずだ。よくよく思い返してみると、両思いである可能性が高いと考えられた。
しかしどうしようか。王都の観光地なんてものは知らない。そんなところ、魔法少女がいなければ行く機会など一生なかったことだろう。
行けるとしたら、死んで転生してから。
そんな話は今はいい。
さて、何日目にプロポーズするのがいいだろうか。
移動中?
それではムードも何もあったものではない。
却下。
初日?
いや、それは距離の問題で時間が足りない。
却下。
2日目。それはもし失敗した場合残り全てが気まずくなる。仕事となれば別だが、プライベートだと意識せざる得ない。
却下。
ならば3日目はどうだろうと考えた。
3日目ならば、その日が帰宅の日だ。少し時間もあるため、成功した場合は時間も作りやすい。子供達は魔法少女たちと遊ぶだろう。問題はない。
これを逃せばあとは帰宅中の馬車となる。馬車の騒音や大人数での賑わい、なにより身近に領主までいるというのだ。やらないわけにはいかなくなる。
勇気を出すため、決行は3日目に決定した。
かくして出発の日となり、一悶着あったもののなんとか馬車に乗ることができた。
馬車内はそれはもう不安でいっぱいだった。飲食という人の体と心を満たすという職業柄、相手を嫌な気持ちにさせないための表情は、緊急時以外働く。
「空と一緒がよかったです~、あの領主さん、絶対悪い人です!悪い人です!」
「なにうちの領主の悪口言ってるんですか、ユリノさん。目の前にいるんですよ?」
「そんなのなんぼのもんです!この、軍服パンチを食らわせてやりますよ!」
そんなテレスの心の中とは違い、馬車は喧騒に満ちていた。若干、不安がひいていたのは事実だ。
その中でネトラーは「ユリノちゃんったら、オーナーのことそんなに好きなの?」と微笑みながら問いかけたり、レインが無言でその姿を見つめていたり、そのレインをまたサキが見つめていたりと、色々あった。
サキが見つめていた理由を挙げるなら、将来の兄の姿を見ておきたかった、というものが強いだろう。単なる気まぐれの可能性もあるが……
王都に着く。
圧巻、その一言に尽きる。
自分が持っている言葉では汚しにしかならないのではないかと思えるほど壮大であり荘厳であり、とても感情を揺さぶられた。
街並み1つとっても違う。
景観が維持されている。建物の統一感があり、境目も分かりやすい。人数もとてつもなく多く、場所によっては馬車が通る道のあるパズールとは違い、ここは馬車専用路というものがあった。
不安など、簡単に押しつぶしそうな景色だった。
魔法少女の計らいか、着いた宿では何故か同室となった。その後も、成り行きで一緒に回ることになった。
翌日。よし、気合いをつけよう。まずご飯を食べて、ウォーキングをして頭から雑念を振り落とそう。
しかし、その日1日煩悩が離れることはなかった。明日に迫ったプロポーズ。一緒に歩くたびに耐性が崩れていく。
心なしかレインの目が優しくなっていた気がしたテレス。
そして駆け足気味にやってきた当日。
魔法少女はもういなかった。頭を抱えて、唸って出ていくのを見た。俺たちは行こうか、そう言ってレインやティリーを連れて出掛けに行った。ロア、サキ、ツララ、百合乃、ネルは宿に残り、何か遊びをしているようだった。
魔法少女が懸念するであろう不安は、恐らく不安だろう。したのは地味に器用な百合乃作のトランプやらオセロやらUN○やらなんやらだ。
そもそも5人でいることを知らないのだから気にしようもないのだが。
結果、4つに分かれて行動となった。
1つ、魔法少女と領主。
2つ、宿の5人。
3つ、レインとティリー。
4つ、テレネト。
レインは途中、ティリーの腕を引っ張って離脱した。
「まさかっ、私のことを襲いに?」
なんて戯言を吐く19歳夢みがち少女は、まだ若い少年に勘違いをしたのはまた別のお話。
ティリーは、喋らなければ美少女なのだが……ギルマスの娘のはずが、残念少女に成り下がっている。
閑話休題。
閑話の中の閑話休題というのもなんだが、休題なものは休題だ。
あとは気の向くままに歩き回り、珍しい食材を見て感嘆したり、美味しい料理に舌鼓を打つなど、職業病とは恐ろしいなと感じざる得ない観光をしていた。
が、気は合ったようだ。
ネトラーは許容量の限界量がないブラックホールのような人間だ。その程度のこと気にもせず、ただ普通に楽しんでいた。
珍しいものは珍しいし、美味しいものは美味しいのだ。割と普通に楽しんでいた。
時は進み夕方。テレスがプロポーズを行った直後のことだ。
テレスは、一連のことを走馬灯のごとく思い返した。その時間は僅か3秒と、とても短いものだったが、確かに回想した。
「テレスさん。私はあなたが羨ましいの。誠実で何にでも真剣に取り組むことのできるあなたが。でも、そんなあなたを、私は好きよ。」
「っ!」
「よろしくお願いします。私が言うのもなんだけれど、あなたは新しい人生を始めていいと思うの。私も、あなたとなら新しい人生を歩みたいと、そう思ったの。」
ネトラーが慈悲を込めた微笑みで、テラスを見つめる。テレスは、ポケットにしまっていた指輪を取り出した。
悩みに悩み、結局少し安いものになってしまった。しかし、その気持ちのこもったペアリングが受け入れられないはずがない。
「俺からも、よろしく。不甲斐ないところもあるけど、幸せにしたい……いや、する。」
いつもの物腰柔らかなテレスはどこへ。さながら、主人公のような力強さを持って宣誓した。
そして指輪を左手の薬指へと。この世界でも、その意味は変わらないらしい。
ここに新たな幸せが生まれた。
魔法少女が繋いだ、本来なら生まれるはずのなかった幸運、絶望と不幸になるはずだったそれを、2人は幸運として強く噛み締めた。
当の魔法少女はというと、嬉々として城を探っている最中だった。
なんとも締まらない。これが、果たして主人公だと言えるのか。
———————————————————————
閑話なので短めです。
適当なのはまたご愛嬌ということで、とりあえず次回はまたお別れ会です。
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