魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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10章 魔法少女と王都訪問

閑話 転入試験

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 王都に着いて1日が経った。朝食を大広間で摂っている皆は、旅行ムード全開で浮かれており、楽しげな雰囲気だ。
 しかし、1人だけ険悪なムードを漂わせている少女がいた。

「そう気を張るな。今まで何のために勉強をしてきたんだ?このためだろう。ならやれる。やれるように俺が勉強をさせた。」
「…………お父様。」
「落ちた時のことを考えて何になる?いつだって成功を考えないと足を引っ張られるだけだ。」
ネルだ。フィリオは、必死に言葉を並べていた。その必死さを外に出すことはないが、とにかく頑張って親らしく励ましている。

 今日はフィリオの娘、フェルネールことネルの転入試験の日だ。
 時間の問題もあってすぐ翌日ということになってしまっていたが、本来の実力が出せるなら簡単なはずだ。

「私も、もう12歳ですか……実感が、ありません……」
朝食のパンを小さく齧って呟く。

「……頑張れ、としか言いようがない。俺はできることをやった。ネルも、できることをやるだけだ。」
「そう、ですね……」
どこか上の空だ。

 実のところ、心の奥底では転入を諦めるという選択もある。ロアや空と別れたくない、という気持ちがあった。

 それが余計な思考を生み、体調不良を起こしていた。昨夜もほとんど寝れていない。それを口実に、落ちてもいいかもしれない。

 そう思っていた。

「ネル……?あ、今日試験だっけ?」
「ソラさん……はい、そうですね。今日が転入試験です。」
気分が落ち込んでいると気づいた空は、何を言おうかと悩み、何拍か不自然な間ができる。

「………ネルは、自分のために頑張ったらいいと思う。プレッシャーは感じなくていいよ。」
「自分のため、ですか?」

「そう。もしフィリオがなんか言うんなら、吹っ飛ばしてでも説得するし、ネルが何を選択しても私はネルと一緒にいる。頑張って。」
言うこと言ってやったぜ、というあからさまな雰囲気で朝食に手を伸ばし、舌鼓を打ち始める。

 そんな姿は視界に入らず、「何故俺は吹っ飛ばされるんだ?」というフィリオの怒りの声も聞こえない。
 ネルは言葉を噛み締める。

 空にとっては考えてパッと思いついたことを言ったんだろうが、ネルにはよく響いた。

 こう言ってくれるソラさんに誇れる自分でありたい。自分が失望しない自分でいたい。

 そう思えた。

 そうすると、凝り固まっていた思考が嫌でも動くようになる。さっきまでの自分の惨めさに、ようやく気づけた。

「……父親である俺の言葉より、ソラの適当な言葉のほうが響く、か。言う人間の、違いだろうか……?」
うっすらとフィリオの目から液体が見えた気がする。


 試験1時間前。
 アングランド国立学園本館前。第1試験会場であるこの地に、ネルは緊張の面持ちでやってきていた。

 第2試験会場、第3試験会場は別街にあり、王都に来たのは、ネルたっての希望だ。
 自身の通う学園を、いち早く見てみたい。そう言う思いだ。

 試験者数は合計で約400人(内王都の受験者は200人ほど)と少なめだが、内部進学があるので人数的にはちょうどいい。
 その分試験の難易度は跳ね上がるため、ほとんどの人数が篩にかけられる。

 その後は面接試験。対人能力や話術を見られ、そこでもまた面接官による篩掛けが始まる。

 それを突破したのち、学園長によるサイン書類を受け取ることでようやく転入完了。新年度から晴れて学園生だ。

「冷静、普段通りに。面接も、相手がソラさんだと思って……」
「それだけはやめてくれ。相手をソラと思うのだけは、やめたほうがいい。」
フィリオの目がマジになる。それはもう、真剣だ。

 どれだけ空に信用がないのかと感じられるが、それもまた信頼の一部。奴なら必ずやらかす、と言う信用がある。

 話してそれは信用なのか、という話は一旦置いておこう。

「では、行ってきます。」
空謹製のお守りを、しっかり筆記用具入れの中にあるかを確認し、まるで戦場に行く戦士のような風貌で会場に入るネルだった。

 受付を済ませ、予定通りの受験票が渡され、そこに書いてある番号を頼りに教室と席に着く。

 『4-129』と記された受験票を頼りに教室に入り、席を確認した。
 手前の黒板……というより、もっとハイテクな、近未来型のものに、席表が貼られていた。

 これぞ魔法、これぞ魔道具。一級品ともなれば、こんなこともできてしまう。

「2列目の3番目……」
指定の席に座る。周りにも緊張の面持ちの受験者が大勢いる。その雰囲気が直接ネルの心へ侵入し、不安を掻き立てさせようとしてくるのが分かる。

 しかし、ネルは挫けない。強い女の子なのだ!

(私は、私自身に誇れる、ソラさんに誇れる自分になりたいんです!この程度でへこたれていては、誰にだって、誇れません!)

 そんな強い意志で不安を弾き返す。自信に満ちた表情と、その白髪蒼眼は異様に目立つ。試験管すら目を引くほどのそのオーラを失うことはなく、試験が開始された。

 ペンが走る音、紙を捲る音。それ以外は何も聞こえず、自身の心臓の音すら聞こえそうなほどだ。

 問題を読む。簡単なものから、順に難しくなっていく。
 ネルは決めていた。簡単な問題は軽く目を通し、先に後ろの難しい問題に手をつけることにした。

 焦らなくていい。

 作戦が功を奏し、時間が進むにつれ焦りはなくなる。時間が経つごとに、問題が簡単になるのだ。見直しのモチベーションも残っている。
 細かなミスにも目を向ける。問題文を読み直し、回答が合っているかを確認する。

 教室備え付け魔道具が鳴る。ぎーん、ぎーん、という何とも言えない音だ。
 これが、試験終了の合図。

 あとこれが数科目。各分野において、どれだけ好成績を取れるか、もしくはどの分野が得意なのかを見極めるこの試験。なので、もちろん全科目ある。集中力は、続くだろうか。

 この作業があと何度か続く。全てが終わる頃には、昼過ぎになっていた。朝に来たはずなのに、もう太陽が真上にいる。

 ヘトヘトになり、ネルは試験会場から去る気力もなくなりかけていた。それは、皆同じなようだ。

「ねぇ、あなた……白髪の。名前は?」
「……フェルネール、と申します。」
「フェルネールちゃんね。私はセリアスよ。」
ネルに話しかけてきたのは、右斜め後ろの子。黒いストレートは、子供ながらにして美を感じる。

「凄く冷静だったけど、自信は?」
「ある……と言いたいですが、言えるなら苦労はしません。」
「いい回答ね。私もそうよ。」
えらく大人に見える。大人ぶってる子供であるはずが、まるで大人そのものだ。スタイルは12歳にしてはいい。魔法少女とは大違いだ。

 どこかの瑠璃色の髪の少女は、くしゅんとくしゃみをしているだろう。

「あとは面接よね。大丈夫かしら。」
「大丈夫だと思いますよ。ほら、こうして面識もない私と、お話しできているくらいですから。」
「そうだといいわ。あなたも頑張りなさい。……そういえば、あなた、どこの子かしら?」
そろそろ立ち上がり、帰るものが現れ始めた時、セリアスがそう聞いた。彼女は、城のお偉いさんの子供らしい。

 どうりで大人びているわけだ。城に訪れる機会もあっただろう。そのせいか。

「パズールという、少し離れた地にある街です。お父様が、少しばかり偉いもので。」
「……姓を聞いても?」
気づいたらしい。この白髪は、フェロールからの遺伝が大きい。フェロールは、外交が主な仕事だ。他の地域によく訪れる。

「ブリスレイ、です。あなたは?」
「アングランド、ですわ。」

 ネルに、王都で初めてのお友達ができた。

———————————————————————

 王都での初の友達、それは国王のむす……ごほん。お偉いさんの娘。閑話なので読み飛ばせる会にしたかったのですが、やはりネルなので。そこはしっかり触れとこうかと。

 これから空には行動範囲を広げてもらう必要があります。過去は行くのは横ではなく縦の広さなので除外するとして、国外に出たことがエンヴェル以降ありません!
 そもそもエンヴェルは独立国であり、王都を中心とするこの国の内部にあります。

 つまり、そういうことです。(?)
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